芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第十一話 決戦ジュニアクラウン 前編

数日後

 

 

カサマツレース場

 

 

今日はオグリキャップのチームメイトであるベルノライトのデビュー戦である

 

体調は万全、天候も晴れ、バ場も良、走るには絶好の状態だった

実際彼も彼女の体調の変化などにはぬかりなくチェックをしておりレースには問題無しとキタハラに報告している

 

 

パドックから元気に登場したベルノライト、ゲートに入りレースが開始した

 

決して油断もせず自分のできる全力を出したつもりだった

しかし、無情にもベルノライトに負けという結果を残して初のレースは終わってしまった

 

 

「負けましたぁ……」

 

「まぁその…なんだ……」

 

「どんまいベルノ」ナデナデ

 

「そ…そう、落ち込むなって!初めてなんだしそんなモンだろ!」

 

「オグリちゃんは初めてでも二着でした……」

 

「そ、そりゃ…おまえ…」

 

「速くてgムグッ」

 

 

空気を読んだ様に彼はオグリキャップの口を塞ぐ

 

オグリキャップの言葉はたまに相手を逆撫ですることがある

しかも本人はそのつもりは1ミリも思っておらず、悪意が無いからこそ更にタチが悪いのだ

 

 

しかし、今回のレースを観察してベルノライトに足りないものが分かった

 

「タイミング」「位置取り」「ペース配分」

 

そしてそれらの判断を一瞬で決める「駆け引き」と「勝負の勘」

 

それらを全力で走りながら考えて決めなければならない

 

 

今回の敗北でベルノライトは自分にそれらが足りない事を知ることになった

 

敗北は決して悪い事ではない

経験し、自分に足りないものを補う為にまた学び、実践して行けばいい

 

彼女が挫けさえしない限りは彼もベルノライトの為に補助はし続けるつもりだ

 

 

「…とりあえず今は切り替えていこう。今日はベルノのデビュー戦だけじゃない」

 

 

キタハラはホワイトボードを引っ張ってきて真っ白なボードにこの後オグリキャップが出バするレース名を書きながら喋る

 

 

「『ジュニアクラウン』準重賞レースだ。距離は1400M今までより600Mも長い、よってこれまで以上にペース配分が重要になってくる」

 

「作戦としてはまずストライド(歩幅)を…「広く取りゆったり楽に走る」を?」

 

「でしょ?耳にイカができるくらい聞いた」

 

(タコだよオグリちゃん…)

 

 

そう言いながらオグリキャップはとある蹄鉄を取り出す

 

 

「だから彼から筋力を鍛えるようにと最近はずっとこれを着けてトレーニングしてた」ポイ

 

「へ?…って重っ!!なんだコレ!?バトル漫画の修行かよ!!」

 

 

キタハラの様な成人男性でさえ両手でも持つのが辛いほどの重い蹄鉄

 

ウマ娘の鋼製で作られた最重量の蹄鉄を常に付けさせてのトレーニングはいつも以上の負荷となり、同時にその負荷にも耐えられる程の力を得られた

 

しかし、その蹄鉄を片手で持って投げ渡せるとは個人差はあるものの、ウマ娘の純粋な力には興味が惹かれる

 

鋼製の蹄鉄からレース用の蹄鉄にはめ替えてからオグリキャップは靴を履いて軽くジャンプしてみる

 

 

「軽すぎて飛べそう…」ジーン

 

「これなら大丈夫そうですね」

 

「…いや、まだ油断はできねぇ。不安材料は2つ、この1400Mは外枠の…それも先行するタイプが有利だ……今回のレースでその2つを満たしているのがフジマサマーチだ」

 

「「……」」

 

「前回は靴の不調やらがあったにしても1度はオグリが敗けた相手だ。レース中は何が起こったっておかしくないからな、油断だけはするなよオグリ」

 

「…わかった」

 

「よし、まだレースまで時間はある。俺はオグリともう1度レース場を見ながら作戦の再確認する、ベルノはレース後だからとりあえず休んでてくれ、なにかあれば俺に電話か彼に頼ってくれ」

 

「分かりました」

 

 

控え室を後にしたキタハラとオグリキャップ

 

ベルノライトはふぅっと一息つける

そんなベルノライトに彼は絞られたタオルと畳まれたタオル、スポーツドリンクが入った水筒を彼女の目の前に置く

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

頷いた後に絞られたタオルを手に持ち、それを広げてベルノライトに手渡す

 

手に持ったベルノライトはタオルからの湿り気を感じとった

先程水で濡らしてから絞って水分をとった物だと分かる

 

 

(…これで汚れと汗を拭いてからもう1枚で拭く、でいいのかな)

 

 

言葉での説明がない故に彼がどういう意図で2つのタオルを用意したのか自身で考えねばならないが今の自分の置かれた状況を考えるにそれが答えだと自身を納得するように頷くベルノライト

 

まずは顔にその濡れたタオルを押し当てる

レース後の熱を濡れたタオルからのほのかな冷気がゆっくり冷やしてくれる

 

顔を拭いてから腕、脚と拭いたあとに乾いた方で水気を拭き取る

 

 

「んッ・・・ふぅ」

 

 

スポーツドリンクを口にしてまた一息つけてから彼の方を向く

 

ベルノライトに背を向ける様にしながら椅子に座り、1冊の本を片手に読書に勤しんでいた

 

 

(そういえば最近トレーナーさんから本借りてるらしいけど…どんなの見てるんだろう)

 

「あの…何を見てるんですか?」

 

 

声をかけると彼はこちらに振り返り、本を閉じてベルノライトに手渡した

 

それは一種の教本

競走ウマ娘たちを支える人間側「トレーナー」という役職の資格を得るための知識的教本である

 

 

「こ、これって…も、もしかしてトレーナーになりたい…とかですか?」

 

 

ベルノライトの質問に彼は答えた

 

しかしそれは肯定ではなく、否定である

 

 

「え、えぇ?じゃあどうして…あ、トレーナーさんから私たちのトレーニングの補助を頼まれてるからその参考に、かな」

 

 

一度否定された答えに戸惑ったが今現状の彼を考えて別の答えを即座に出したベルノライト

 

半分は正解だ

はっきり言って彼には誰かを鍛えるなどという教官じみた事など出来はしないし経験がない

 

あくまで今まで自分が行ってきた鍛錬をベースにオグリキャップとベルノライトのトレーニングに組み込んでみているだけだ

 

ウマ娘相手に対する鍛錬知識の基本を知らない故にキタハラから参考になるものを幾つか借りてそれを読み漁っていた

 

もう半分は純粋な知識欲である

 

自分が居た世界には無い存在、歴史、構造、それらをただ純粋に知りたいだけ

 

 

もっとも知った所であの頃のような血肉沸き踊るような戦いと無縁なこの世界において自分が活用できる事などないだろうが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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数時間後

 

 

『さぁ登場しました!今話題の大型ルーキー!このレース一番人気!5枠5番オグリキャップです!』

 

『デビュー戦ではフジマサマーチに惜しくも敗れましたが果たして今回リベンジなるか!?』

 

 

パドックからオグリキャップが登場し、アナウンスがレース場に響く

 

 

キタハラ、ベルノライト、そして彼は観客側でオグリキャップの姿を眺めていた

 

 

「…」

 

 

キタハラはベルノライトのレース後にオグリキャップとレース場を見ながら作戦の再確認をしていた時に彼女からの言葉を思い出していた

 

 

『…キタハラ』

 

『うん?』

 

『東海ダービーって…そんなにすごいの?』

 

『っ!(こいつの口から初めて聞いたな…)あぁすごいぞ俺の目標だ』

 

『…そうか。なら私もそこを目指すよ』

 

 

今まで一度も目標などを語らなかったオグリキャップから出たその言葉にキタハラは驚くばかりで『そうか…』としかその時は返せなかった

 

 

「まさかオグリからあんな事を言うなんてな…」

 

「オグリちゃん言ってました。ライバルと目標を得た私がどう強くなるのか楽しみだって」

 

「この間の収穫は思った以上だったようだな『切磋琢磨』よく言ったモンだ、トレーナーの立場ねぇな」

 

 

そうボヤきながら三人は観客席に向かった

 

 

「バカ野郎、それを焚き付けんのもトレーナーの仕事だろう」

 

 

突然、観客席に座っている杖をついた老人がキタハラに向かって話しかけた

 

キタハラも老人の姿を見て驚いた表情で老人の名を叫んだ

 

 

「ろ、ろっぺいさん!?」

 

「六平(ムサカ)だバカ野郎」ズゴンッ

 

「痛っ!!」

 

 

ろっぺい(六平)と呼ばれた老人がキタハラの足に向かって杖で突いた

老いているにしては速い

 

 

「と、トレーナーさん、こちらは…?」

 

「あ、あぁ…俺の叔父さん。"中央"(トゥインクル)でトレーナーやってんだ」

 

「ちゅ、ちゅ、ちゅ、中央!!?」

 

 

中央という言葉にベルノライトは酷く驚いていた

 

確か何かの資料で中央のトレーニングセンター学園に関しての情報があったような気が…

 

 

「つーかなんでこんな所にいるんだよ!?」

 

「あ?居ちゃ悪いかよ。久々に長い休暇を取れたんでな、実家帰りがてらふらっと寄ったんだ」

 

「あーそうかよ…」

 

「ハッ。しっかしオメェがトレーナーねぇ…あのどうしようもなかったクソガキが生意気に」

 

 

ろっぺいの言葉にキタハラはギリッと歯軋りを立て、怒りを抑えながらろっぺいに反抗した

 

 

「…お、俺だって頑張ってんスよ…今日だってほら!あの一番人気のオグリキャップ!今年ウチに入った新入生なんスから!」

 

「ほぉ〜一番人気…人気通り走ってくれんのか?」

 

 

なにやら険悪そうな空気にどうしたらいいか慌てるベルノライト

その空気を壊す様に彼が前に出た

 

 

「…あ?」

 

 

一際大きな影を見上げるろっぺい

浅黒い肌にそれに反するような淡い銀髪を揺らしながら赤い双眸がろっぺいを捉える

 

 

……ペコッ

 

 

ろっぺいに対して軽いお辞儀をしながら彼の前を通り、ろっぺいの右隣の席に腰を降ろした

 

 

「…」唖然

 

「…」唖然

 

「…おいジョー、一緒に居たみたいだがこの外人の兄ちゃんは知り合いか?」

 

「え?…あ、あぁ。最近こっちに来たお、オグリのファンなんスよ。いつもあいつのレースを見に来て、おれがそのトレーナーって知ってから交流もって、え、えーと…」

 

「ふーん…(こいつ…)」

 

 

キタハラの苦しそうなその場逃れの嘘を聞き流しながらろっぺいはレース場を真っ直ぐ見る彼の横顔をただ見ていた

 

 

『第15回ジュニアクラウン 間もなくスタートします』

 

 

レースが間もなく始まるアナウンスが流れ、キタハラとベルノライトも席に着いてレース場に向く

 

そんな彼らとは別の所で小さい影がレース場を眺めていた

 

 

「ふぃ〜なんとか間に合うたぽいな…ん?なんや芦毛の娘ぉが二人もおるやん。うちも芦毛やしキャラ被るからやめて欲しいねんけどなぁ」

 

 

学生のような姿をした少女、しかし服装のデザインはカサマツトレセン学園のは全く異なっていた

 

 

 

「ま、兎にも角にもお手並み拝見や」

 

 

 

 

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