芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第十二話 決戦ジュニアクラウン 後編

ガシャン!!

 

 

『スタートしました!出走する9人の先行争い!良いスタートを切ったのは大外「フジマサマーチ」!』

 

 

ゲートが開き、ジュニアクラウンのレースが開始した

 

 

「そういえば何でこの距離だと外枠の先行が有利なんですか?」

 

「ん、コーナーってのは内側の方がカーブがきついだろ?そうするとかかる遠心力も大きくなるから減速しないと外に膨れちまうからな。だがそれに対して、外枠はほぼ直線でコーナーに切り込めるんだ」

 

「っ!フジマサマーチさんがインに…!」

 

 

大外からのコーナー攻め

外枠は角度が緩めで入ることが出来るために、ほぼ減速せずに走る事が出来る

 

総合的な走る距離で言えば外側から回るより内側から攻める方が短いだろうが、走るスピードを抑えなければならない事を考えればフジマサマーチの攻め方は減速せずにスピードを一定に維持したまま走る事が出来る

 

 

「そしてカーブは追い抜きが難しい。緩やかなカーブが多いこのレースで勝負を仕掛けるなら最後の200m、その時に良いポジションを得る為に先行していなければならないんだ…ですよねろっぺいさん?」

 

「……お前の担当してるあのウマ娘、オグリ…キャップと言ったか?」

 

「え…?あぁはい、今は3番手ですね」

 

「…」チラッ

 

 

現在3番手にいるオグリキャップを見ながら隣の彼に視線を向ける六平

 

隣に座る彼は六平からの視線に気づいているが、気にも留めずただオグリキャップの走りを見ているだけだった

 

 

『さぁ、現在第2コーナー曲がってからの直線!先頭は「オーカンメーカー」今回は逃げに徹するようです』

 

「あいつ…ダートなのに随分軽く走りやがる…オメェが教えたのか?」

 

「!…はい!これまでより距離が長くなるのでペース配分とトレーニングに関しては俺たちで。今はアイツと一緒に東海ダービー目指してます!」

 

「はぁ!?…オメェ、まだ諦めて無かったのかよ…」

 

「い、いいでしょ別に!」

 

 

六平とキタハラの話を聴き流している間に、第3コーナー600m近くまで来ていた

 

フジマサマーチは2番手、オグリキャップはフジマサマーチから1半身後方の3番手

 

フジマサマーチ、オグリキャップ、どちらの顔色からも体力には余裕がある

だがオグリキャップが仕掛けるには600mはまだ早い。今まで見てきたレースで基本オグリキャップがスパートを仕掛けるのは200m

 

今日のオグリキャップのコンデションは好調だ、脚もいい具合に仕上がっている

だが…だからこそ、彼は一つだけ懸念する事があった

 

 

(第3コーナー残り600m...かなり体力も温存出来たし、今日は凄く調子がいい…いつもより早いけど……よし、行こう!)

 

 

ダッ!

ダッ!

 

 

「「!!!」」

 

 

『「フジマサマーチ」「オグリキャップ」ほぼ同時に仕掛けたァ!第4コーナーの手前で2人が先頭へ躍り出る!』

 

 

やはりか

 

理想な位置取りに以前よりも鍛練で強くなった少しの高揚感

それらは時に戦場で敵陣営を切り込む際には力をくれるが、同時に冷静さを失う事がある

 

だが、フジマサマーチの仕掛けも彼にとっては予想外ではあった

600mからの仕掛けならば200mから仕掛けるのでは遅すぎる。よほどの強者か奇跡がなければそんな逆転劇など起こせないだろう

 

だがどちらにしても今のオグリキャップにとってこのタイミングは最悪だ

 

 

『残り100!オグリキャップ並ぶか…!いや、並ばない!オグリキャップ届かない!』

 

 

(な、何故だ?!スパートをかけているのに追いつけない…!)

 

「くそっ!タイミングが最悪だ!こうなっちまったらあとは純粋な実力勝負!余程の実力差がなければその順位は変わらない!今先行してるのはマーチ、もうオグリが前に出られるチャンスは無い!」

 

 

オグリキャップとフジマサマーチ

 

実力、鍛練、技術、どれを見てもこの2人はいいレース勝負が出来る

 

 

だが、悲しいことに闘争において勝利者という栄光を手にするのはただ1人

そしてそれは時に血のにじむ努力も天性の才能をも踏みにじる"運"が絡むことがある

 

 

(息が苦しい…肺が張り裂けそうだ…だが驚くほど調子が良い、自分のスピードに足の回転が追いつかないくらいに…感謝するぞオグリキャップ…貴様のおかげで、私は……ッ!)

 

 

「お…まえ…には…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

負けん!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「!!?」」」」」

 

「…」

 

 

『オグリキャップ前へ出た!先頭はオグリキャップ!オグリキャップだ!!オグリキャップ…1着でゴーーーーール!!!』

 

 

最初は誰もがフジマサマーチが勝つと、オグリキャップが負けてしまうかもと思ってしまった現状をオグリキャップは出来るはずがないと思っていた二度目のスパートで1着という栄光を手に入れた

 

 

「ハッ…ハァ…ハァ…(負けた…?私が…?)何故……何故だオグリキャップ!!1度目のスパートで貴様は既に限界だった筈…!何故二度もスパートをかけることが出来た!?」

 

「……よく分からないけど、多分マーチのおかげだ」

 

「…?」

 

「"負けたくない"って思ったら自分でも知らない力が出せた…"頂上を決めなければ山は登れない"…前にマーチが言っていた言葉、今ならなんとなくわかる気がする」

 

 

そう言いながらフジマサマーチに近づいてオグリキャップは彼女に手を差し伸べた

 

 

「一緒に東海ダービーで走ろうマーチ」

 

「("一緒に"か)……ハッ、次は負けん」

 

 

オグリキャップの手を握り、握手を交わしたオグリキャップとフジマサマーチ

 

そんな二人の姿は互いを認めあう良き宿敵(ライバル)のようだった

 

 

「オグリキャップ…か。おもろいやん、その顔覚えとくで」

 

 

 

 

 

 

 

レース後

何時もの様に1着となったオグリキャップのライブが始まる

 

笠松音頭を踊ってた頃とは違い、ノルンエースの親がやっているダンス教室、並びにノルンエース本人から学んでからだいぶ様になってきていた

 

 

「……」

 

 

前々から思っていたがいくらファンへの感謝の為とレース後にライブに向けて休憩時間が多少あるとはいえ、その日にライブを行うのはどうかしていると思う彼

 

しかし、彼女たちは彼と同じ、人間では無い人外の存在

 

普通よりも違う彼女たちだからこそ出来ることなのだろうと、内心納得する

 

 

「…おいジョー、あいつの次のレースは?」

 

「!…一応中京盃を考えてます。中京レース場は地方では珍しく芝が経験出来る場所ですし今後のためにも遠征には慣れておきたいので」

 

 

隣でオグリキャップのレース予定を話すキタハラ

中京盃に出ると聞くと六平は帽子を被り直してから口にする

 

 

「…東海ダービーが目標っつってたな?なら中京盃はやめとけ」

 

「ちょ…ろっぺいさん?!…ンだよ偉そうに」

 

 

それだけを言い残してライブ途中からレース場を後にした六平

 

その言葉の真意が分からないまま、キタハラは六平に悪態をつける

 

 

 

 

 

 

 

ライブ後

 

 

「…」ゴクッゴクッ

 

 

レース場の外に備わっている水飲み場で水を飲む彼

 

戦争では綺麗な飲める水を確保する事はとても難しい

井戸水などは大抵敵軍に使われない様、意図的に汚したりして飲めないように細工されたりするのはよくある事だった

 

乾きは肉体的にも精神的にも蝕む要素、時には水溜まりのような泥水を啜って乾きを解消する者もいたがそれらは大抵病を発症させる原因になり、それで死ぬ者も少なくない

 

それが戦争の無い平和が技術を兵器の為でなく、私生活を豊かにする為に発展していき、今では飲める水程度ならその辺の施設で幾らでも口に出来る

 

 

「おい」

 

「…」スッ

 

 

声を掛けられ、後を振り向く

 

そこに居たのは彼が見知っているキタハラ、オグリ、ベルノのどれでもない

今日レース場で会ったばかりのキタハラの叔父である六平であった

 

 

「悪ぃないきなりで。オメェとは誰にも聞かれずに話をしたくてよ」

 

「…」

 

 

どうやら六平は自分に話があるようだ

特に断る理由もないため、彼はただ黙って六平の言葉に耳を傾けた

 

 

「単刀直入に言わせてもらうぞ…オメェは"一体どこの誰だ?"」

 

「…」

 

「ジョーはオメェはただのオグリキャップのファンだって見え透いた嘘抜かしてたがな。俺はこれでも中央、レースなんかで色んなウマ娘や人間を見てきたが…テメェは見てくれは人間だが、その身に纏ってるものはレースで走るウマ娘に似たなんかだ」

 

 

…大した老人だ

 

彼の評価はそんな感じだった

耳や尾を見せていないのにも関わらず、自分の正体に不信感を見抜くとは

 

 

「…」

 

「黙りを決め込む気か?…まぁ言いたくねぇなら好きにしな、だがジョーになにかしでかすようならこっちも黙ってるつもりはねぇぞ、あんな奴でも俺の甥だからな」クルッ

 

 

背を向けてその場から立ち去る六平の後ろ姿が消えるまで彼は見送った

 

 

「…」スッ

 

 

なにかをしでかす…やろうと思えば、今この場にいる人間、もしくはウマ娘を何十人も殺せる。そうすればこの日本全土からあらゆる組織が自分を殺しにやって来るだろうか?

 

そうすれば、またあの時のロンドンのような心踊る戦争が出来るだろうか?

 

 

「…」グッ

 

 

…無理だ

 

ただ偶然生き延び、拾われた最後の『ヴェアヴォルフ』

 

生きる理由も死ぬ理由も無かった自分

 

 

少佐を守護する番犬である生きる理由

 

戦争で名誉ある死を遂げる死ぬ理由

 

 

この2つの理由を全てくれた少佐の下だからこその戦争だった

 

過去の記憶を持ったままのまたひとりぼっちのヴェアヴォルフ

 

 

結局また生きる理由も死ぬ理由も見いだせぬまま、ただ流れに任せて息を吸って吐くだけのただの犬

 

 

世界は、運命は、神は、あまりに残酷だ

 

 

せっかく満足して死ねたのに、少佐たちとヴァルハラへ行ける筈だったのに…落とされたのは何もかもが自分には無い平和な世界

 

 

「此処にいたか」

 

「…」

 

 

不意に右隣から声を掛けられ向くとオグリキャップが居た

 

 

「もうすぐ戻るから呼んで来て欲しいと北原に言われた。学校に帰ったらまた皆で次のレースに向けての話し合いだ」ワクワク

 

「…」

 

 

彼女には帰る場所がある、友がいる、家族がいる、生きる理由がある

 

なにも無い自分にとって今の彼女はとても…羨ましい

 

 

「…なにか悲しい事があったのか?」

 

「…」

 

 

彼の両目からは涙は流れていない、顔もいつもの様に無表情でいる

 

 

「な、なにか嫌な事があったのか?それとも、お腹が減っているのか?ま、まずい、今はなにも持っていない」アセアセ

 

 

だがオグリキャップは何故か彼が悲しんでいるように見えて何とか元気付けようと焦り出す

 

 

「…」スッ

 

「おっ…?」ポフ

 

 

焦るオグリキャップの頭を抑えるように手を乗っけた彼

 

数秒してから手を退けて、首を左右に振り否定する

 

 

「そ、そうか。なら良かった」パー

 

「…」

 

 

なにも無い事を知り、いつものオグリキャップに戻ってから二人はキタハラとベルノライトの下へ向かった

 

 

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