ジュニアクラウンから10日後
中京レース場
「「ほぁああ…」」
「…」
オグリキャップのジュニアクラウンが終わり、次のレースである中京盃の舞台である中京レース場に来ている4人
今回のレースはオグリキャップにとって初めて笠松とは別のレース場での参加になる
さらに今回は砂だけしかないダート場ではなく、芝一面のターフである
「カサマツより大きい…」
「土日には中央のレースもやってるくらいだしね!今日は平日だけど…」
「…」
笠松以外のレース場を見てはしゃぐ二人とただ中京レース場の建物を眺める彼
そんな彼らとは別にキタハラは険しい顔をしながら悩んでいた
「…」
『東海ダービーが目標つってたな?なら中京盃はやめとけ』
(何でろっぺいさんはあんな事を…それに)
『あとなジョー…あの黒人、これ以上関わるのはやめろ』
(結局その意味も教えてくれなかったし…)
「…ワケ分かんねぇ」
叔父である六平から言われた言葉の真意を全く読めないキタハラ
ジュニアクラウンからこの10日間悩みに悩んでその意味を理解しようとしたが結局レース当日になっても答えは得られなかった
「あ、そうだオグリちゃん。はい、新しい蹄鉄!」
「!新しい蹄鉄…いいのか?」
「もちろん!今回芝だから専用の蹄鉄をトレーナーさんとこの人と皆で作ってみたんだ!上手く合えばいいけど…」
「私の為に…ありがとう」ぎゅ〜〜〜〜…
「痛い痛い」
「…」
今回のレースの為に専用の蹄鉄を作るのを手伝って欲しいとベルノライトに頼まれ、彼女が買ってきたアルミ合金の板から制作を開始した
その時のキタハラは「え?鉄桿から作るの?」と真顔で驚いていた
「オグリ、浮かれてるとこ悪ぃけど、あんま気ぃ抜くなよ?一応お前初めての…」
「大丈夫、観ててくれキタハラ」
「折れる!折れる!」ミシミシ
「…おう(そうだ…何も心配いらない筈だ)」
「…」ゴッ
「うっ」
とりあえず痛がっているベルノライトを助ける為にオグリキャップの脳天に軽いゲンコツをする彼だった
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レース場の観客席に着き、席につく
キタハラとベルノライトはオグリキャップと作戦の最終確認で話し合っている
「最悪だな。お前が居るって事は結局中京盃に出しちまったのかあのバカ野郎は」
「…」
後から悪態をつける老人
その声は最近聞いたばかりの六平のものだった
「オメェもオメェでこっちの話を聞かねぇバカ野郎だったか。これ以上ジョーに関わるなっていったろうが」
「…」
「たくっ、結局黙りか」
「おーい!席取っといてくれてありがとな」
オグリキャップとの話し合いが終わったのかキタハラがようやくやって来た
「よぅバカ野郎」
「うぉわぁぁぁ!ろ、ろっぺいさん?!」
「六平(ムサカ)だ!」
「なん…なんで来てるんですか!?」
「ンなの俺の勝手だろうが。それより俺ぁ中京盃やめとけつったよな?ジョー」
「そ、それこそ俺の勝手でしょう!何がダメって言うんスか!?芝への対策ならちゃんとしましたよ!」
「バッカ!そうじゃなくて」
「ト…トレーナーさん!!シ、シシシ…シンボリルドルフさんが来てます!!」
「な、なにぃ!!?」
ベルノライトが大慌てでやってきて、「シンボリルドルフ」という名を口にした
その名を聞いてからキタハラも驚愕する
「…やっぱり来てたか」
「…」
「…オメェはジョーたちと見に行かねぇのか。かの皇帝様の顔が拝めるチャンスだぜ」
「…?」
「…オメェ、まさかシンボリルドルフを知らねぇのか?一体どこの田舎から来たんだ?」
そう言われても知らないものは知らない
そんな彼は首を傾げるしか出来なかった
ただ一つ分かるのは、少し離れた方からオグリキャップたちとは一回り大きな存在が二人存在するという事だけか
そんな大騒ぎも過ぎ、オグリキャップの初の芝のレースが始まる
「ここでもオグリの走りが通用すればいいんだが…頼む通用してくれ〜…」
(…そうじゃねぇんだよジョー『逆』だ。あいつは…オグリキャップは…1人だけは…)
『ゴォオーーーール!!!オグリキャップ後続を2バ身離してゴールイン!!圧倒的だぁー!!』
「よっしゃー!!流石俺のオグリ!」
「…」スッ
「あ?どうした?」
急に彼が立ち上がる
そんな彼の向く方向に視線を向けると複数人の黒服を纏った人間が現れる
「北原様」
「へ?」
「少々ご同行願います」
「お、俺?」
「はい、どうぞこちらに」
「…」スッ
黒服の人間がキタハラに近づこうとした時、彼が立ち塞がった
「…」
「どきなさい。貴方には用はありません」
「…」
「どきなさいと言うのが分からな…」
ッ……ゴロッ
「ッ!?」バッ
黒服の男は彼の腕を掴もうとした
だが、その手は彼の腕を掴む事はせず自身の首を押さえるように掴み、後退した
男は幻覚を見た
彼の腕を掴んだ瞬間、視線が歪みだし、歪みが落ち着いてから男が見たのは彼の腕を掴む首から上が消え去った自身の体だった
「…」
「お、おい、落ち着けって。お、俺が行けば済む話なんだからよ、な?」
彼から放たれる圧に流石のキタハラも危機感を感じ取り、黒服の男たちについていく事にした
彼はキタハラの言葉に素直に従いベルノライトと一緒に待つことにした
「うぅ…す、すいませんやっぱり気になるんで私見てきます!」
そう言ってベルノライトは彼を置いてキタハラを追っていった
「ったく、だからやめとけつったんだ。バカ野郎…」
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「ははっ…なんなんだよこの状況…?」
突然現れた黒服の人達に連れられて来たと思ったら、そこには大勢のウマ娘たちが席に着いていた
しかも彼女たちの制服には地方トレーナーの俺でさえ見覚えがあった
ろっぺいさんがトレーナーをやってる『中央』の制服だ
(トレーナーさん、大丈夫かな…?)コソッ
「君がオグリキャップのトレーナーさんかな?」
「!!?(し、シンボリルドルフ!!?) 」
あの史上唯一七冠ウマ娘『皇帝』シンボリルドルフ?!
な、なんで俺みたいな地方トレーナーに話しかけてきたんだ!?
「まずは突然の呼び出しに応じていただき感謝します」
「い、いえいえ!とんでもございませんです!はい!!…それに止めなかったらあいつがなにしでかすか……」
「ん?あいつ、とは?」
「あ、いえ!こっちの話です!…あ〜、えと…そ、それでご要件は?」
「うむ…そう、だな。あまり時間を取らせるワケにもいくまい。単刀直入に言おう」
「貴方の担当バ、オグリキャップを"中央"にスカウトしたい」
「………え」
シンボリルドルフのその言葉を聞いた瞬間、俺の中で色んな感情が渦巻いているのを感じていた
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その頃
「…」
キタハラが連れていかれてからオグリキャップのライブが始まっており、彼は六平と並んでライブ鑑賞していた
地方とは違い、ライブ用のステージまで備わっており、設備の充実さが物語っている
「つまりそんな地方レベルじゃねぇウマ娘が中京レース場で走りゃあ"中央"にスカウトされるだろうって話だ…おい、分かったか?」
「………?」
「オメェ聞いてなかったのかよ!?」
ライブで踊っているオグリキャップの様子を見ていて、六平が話していた内容を少し聞き逃していた
「たくっ、オメェに話したのは間違いだったな」
「…」
「あら、六平トレーナー」
「あ?」
「…」スッ
後から六平を呼ぶ声に彼も振り向く
そこに居たのは中央の制服を身にまとったウマ娘が一人いた
茶髪…ではなく確か「鹿毛」…だったか
ウマ娘の髪色には専用の名称が存在しており、色によってその名称は様々だ
鹿毛のロングヘアーに瞳の色は緑がかったライトブルー
耳飾りには黒地に濃紺のラインが入ったシンプルなリボンをつけている
「マルゼンスキーか。皇帝さまのお近くに居なくていいのかよ」
「ルドルフは今注目の芦毛ちゃんのトレーナーさんと話してるからもう少ししたら戻るわ」
「…そうか」
「ところでなにか話してたけど、六平トレーナーのお知り合いかしら?」
「…違ぇよ。すまねぇが俺はもう行く」
そう言い残して彼とマルゼンスキーと呼ばれていた少女を残して六平は行ってしまった
「あらら、喧嘩でもしちゃったの?ダメよ、理由は分からないけどちゃんと謝らないと。めっ」
「…」
どうやら彼女は六平と彼が喧嘩したと勘違いしているようだ
だが、彼も先程六平の話を聞き逃している為マルゼンスキーの言った通り謝罪はしなければいけないと感じていた
「…」コクッ
「ふふ、そうそう。どんなに喧嘩しちゃってもちゃんと謝れば仲良しこよしに元通り、オールOKね」グッ
「…」…グッ
両手の親指を立ててGoodポーズするマルゼンスキーを真似るように彼も親指を立てる
「ノリがいいわね貴方…でも貴方の"匂い"人間とは少し違う気がするのよねぇ。でもだからってウマ娘に似てるって訳でもないし、うーん、なんて言えばいいかしら?」
「…」
「まぁ細かい事は気にしちゃダメね。知ってるかもしれないけど私はマルゼンスキー、中央トレセン学園の生徒よ。貴方はなんて名前かしら?」
「…」
「…んーと、教えられないとかかしら?…黙りだと困っちゃうなぁ」
「…」スッ
彼はポケットから1枚の紙を開いてマルゼンスキーの見せる
そこには二つの漢字が書かれていた
「『大』と『尉』?なにかしら「おおじょう」?「だいじょう」はおかしいわよね…ん〜」
「…」
「ん〜とりあえず貴方の名前の文字は分かっても呼び方が分からないと不便よね。とりあえず『大』の1文字でだいちゃんって呼ばせてもらうわ、よろしくねだいちゃん」
「…」コクッ
「それじゃあ私もルドルフの所に行かなきゃ。じゃあねだいちゃん、会えたらまたお話しましょう」
軽く手を振ってその場から去っていったマルゼンスキー
話をしてる間にオグリキャップのライブはとうに終わっていた