芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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今回の話は原作からかなり改変してます


第十四話 選択と本心

北原 side

 

 

俺がトレーナーになりたいと思ったのは25の時だった

 

仕事を辞めて腐ってた俺にろっぺいさんからカサマツのトレーナーになる道を与えてくれた

 

画面越しに見るウマ娘のレースでは無く、生で見た中京レース場での「東海ダービー」

 

あの時の心躍る興奮は忘れる事はなく、いつか自分が育てたウマ娘と東海ダービーを制するという夢を追いかけてトレーナー人生を歩んできた

 

そして出会えたんだ。オグリキャップ

 

『頂点』の名を持ち、自分と重ね合わせて心の底から応援したくなるそんなウマ娘(スター)に

 

やっと…巡り会えたと思ったのに……やっと…夢が叶うと

 

 

「…さん、トレーナーさん!」

 

「っ!」

 

「タイム!ストップウォッチ押してないじゃないですか!」

 

「あ…あぁすまん!」

 

 

そうだった

オグリのタイム測ってたんだった

 

 

「…キタハラ、なんだかぼーっとしてる。疲れてるのか?」

 

「そ、そうか?確かに少し寝不足かもな。はは…」

 

 

心配してるオグリに笑って誤魔化すがどうしても頭からスカウトの話がチラついてくる

 

本心ではオグリを中央に行かせたくはない

オグリと同じ、もしくはそれ以上のスターになれるウマ娘がカサマツに現れる事などこの先きっと無いだろう

 

夢を叶えるためにはどうしてもオグリじゃなきゃダメだ

 

…だが、結局それは俺の我儘だ

レースに出て走るのはウマ娘であって俺じゃない

 

どんなレースに出たいか、それを望むのは走るウマ娘たちであって、俺たちトレーナーは出たいレースで勝たせてやる為にサポートする存在だ

 

改めて自分が、トレーナーとはなんなのかを考えると俺はある答えに気づいた

 

 

 

俺はオグリを自分の夢で縛っているのではないのか?

 

オグリの自由を自分の我儘で奪っているのではないのか?

 

 

 

「…すまね。ちょっと用事があるの思い出したから離れるわ。オグリはクールダウンしててくれ」

 

「?…分かった」

 

 

俺は…内側から込み上げてくる違和感に気づいて逃げるようにその場から離れた

 

 

「…キタハラ、少しやつれてないか?」

 

「…」

 

「…ベルノ?」

 

「え?!あ、うん!そう、だね…トレーナーさん、ちょっと元気無いよね…」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

_________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっ……オ"エ"ッ……はぁ…はぁ……」

 

 

学園の教員用トイレで胃の中の物を吐き出していた

 

スカウトの話からまだそんなに経っていないってのに色んな事が頭の中で渦巻いている

 

 

「…はぁ」

 

 

ようやく少し落ち着いて壁に寄りかかって天井を見た

 

 

「何が、頂点だよ…俺はただ、あいつの性格に甘えてただけじゃねぇかよ……」

 

 

オグリの性格に甘えて、ただ自分の夢を叶える為に利用してるだけじゃねぇか…

 

 

「…きっとあいつはもっとすげぇレースで活躍できるウマ娘だ。カサマツに留まっていい器じゃねぇ…俺みたいな地方トレーナーじゃなくて、中央の、ろっぺいさんみたいなベテランに見てもらう方がきっといい…オグリに話さなきゃな」

 

 

一つの決心をつけて、オグリの下に向かう為に教員用トイレから出た

 

 

トンッ

 

 

「ん?」

 

 

トイレから出た瞬間肩を掴まれた

 

 

「あ…お前か」

 

「…」

 

 

買ってやった私服ではなく、初めて出会った頃の黄緑1色の服?を身にまとったあいつだった

 

 

「お前結構目立ちそうなのになんで誰にもバレないんだろうな。あんまり学園内を彷徨くなよ?」

 

「…」コクッ

 

「んで、なんか様か?この後オグリに大事な話があるんだけどよ」

 

「…」スッ

 

「…お前」

 

 

肩を掴んだ逆の手に握られていたのはスポーツドリンクが入ったペットボトルだった

量を見るにまだ買って開けてない感じだ。こいつはそれを俺に向けて差し出してきた

 

 

「…ありがとよ!ちょうど喉乾いてたんだよ」パシッ

 

 

俺は蓋を開けて、口の中に残った胃液の感覚を強引に洗い流すようにスポーツドリンクを飲んだ

きっとこいつは分かってたんだな。オグリの中央スカウトの話も、それで俺が悩んでた事も、何もかもお見通しだったんだろうな

 

 

「ぷはぁ、本当にありがとよ…じゃあ俺はオグリのとこ行くから、またあとでオグリのトレーニング見る時は頼むな」

 

「...」コクッ

 

 

そう言って俺は早足でオグリを探しに向かった

 

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼 side

 

 

「…」

 

 

彼はキタハラの背を見送った

 

いつもの日課のように図書室で資料を漁って、喉の乾きを解消する為に自動販売機なる機械から飲み物を買って戻る所にキタハラの声と異臭を感じてそれを辿って来た

 

中京盃から暫くしてからキタハラはまともに食事を取っていない

最近はいつもゼリー飲料なる物をよく口にしていた

 

まともな食事を取っていないのに嘔吐しては水分を著しく失う事になる。だから彼が買ったスポーツ飲料をキタハラに差し出したのだ

元々、キタハラから一応と言われて少量の金銭をもらっていたがハッキリ言えば彼にはあまり意味をなさない

 

今回のスポーツ飲料もオグリキャップたちがよく口にするから興味本位に買っただけ。そして現時点でそれを最優先で必要としてるのはキタハラだと判断した

 

キタハラにあまり学園内を彷徨うなと言われたが、彼にとっては現時点での活動拠点であり、気軽に資料を漁れる快適な場所だ

故にここ以外に拠点を見つけるのはあまり得策とは言えないし、まだ知りたい情報はたくさんある

 

 

…!

 

 

 

しばらく歩いていたらどこからまた声がした

聞きなれた2人の声、彼はまた一度声のする方向に向かった

 

辿り着いたのはキタハラ、オグリキャップ、ベルノライトが使っている部室だ。何故か入り口のドアの横でベルノライトが座っていた

 

 

「東海ダービーは私達の夢だろう」

 

 

そう言いながら部室から出てきたオグリキャップ

座っていたベルノライトはオグリキャップを追っていった

 

開きっぱなしのドアから中を覗くと下を向いたキタハラが居た

 

 

「それがお前の答えか…でもオグリ、俺は……」

 

「…」

 

 

オグリキャップの中央へのスカウト

 

その話題は既に新聞紙なる情報紙にでかでかと書かれていた

当のオグリキャップ本人は新聞を見てないから何も知らなかっただろうがそれを先程話していたのだろう

 

単純にしてもこの件は難しい話だ

 

有能で動ける新兵は希少だ

当然能力と実績があれば更なる激戦区での活躍を見込まれる。故に部隊としての優秀な実績が欲しい上官達は誰もが有能な兵を欲しがり、自身の下に置きたいものだ

 

だが、そんな彼が知る一部の軍属の常識とは違いこの話は色々ややこしさがある

 

 

仮にオグリキャップが中央に行く事を決めたとしても、担当トレーナーであるキタハラは中央には"行けない"

 

中央のトレーナーになるにはライセンス、資格なる物が必要でキタハラはそれを持っていない

しかも中央のトレーナーライセンスの獲得は地方のトレーナーになるよりも困難なものらしい

 

ならば中央で新しいトレーナーを見つければいい話かもしれないがオグリキャップ、彼女は恐らくそれをしないだろう

 

彼女は忠義者、という訳ではないが一度信頼した相手は絶対に裏切らない性格だ

だからキタハラが共に中央に来ないのであればオグリキャップも中央には行かない

 

それに既にオグリキャップには東海ダービーという目標があるのだ

 

 

ならば断ればいい

 

 

そうすれば全て解決するというのにキタハラは彼女のその答えを相手に伝える事を躊躇っている

 

そもそも何故トレーナーに介してスカウトをしてるのか彼はこれが納得出来ていない

スカウトしたいのはオグリキャップならば直接本人に話せばいい事だろう

 

これでは自身より身分または階級の高い者が低い者から良質な者又は物を強引に寄越すように脅迫してるのと同じだ

 

「皇帝」シンボリルドルフ…これでは所業がただの「暴君」と変わらないじゃないか

 

 

♪~♪~♪

 

 

「ッ!はい、もしもし…」

 

 

懐から取り出したスマホという情報端末を取り出してそれを耳にあてるキタハラ

最近知ったがあの情報端末で同じ情報端末を持つ物同士で連絡を取り合えるらしい

 

彼は耳を済ませてスマホから聞こえる内容を途中からではあるが聞き取った

 

 

『それでオグリキャップの返事は?』

 

「あぁ…それが…まだ考えてる最中で……」

 

『…そうですか。差し出口挟むようですが、貴方には一番の選択を考えてあげてほしい。彼女(オグリキャップ)にとって一番の選択を…よろしく頼みます』

 

 

プツ…ツー…ツー…

 

 

「一番の選択…なら答えは決まってるんだよ。でも、どうやってあいつにそれを認めて受け入れさせればいいんだ…」

 

「…」

 

 

キタハラの中では答えは決まってはいる

彼はオグリキャップを中央に行かせたいと

 

だが結局当の本人が受け入れなければ意味がない

 

ならば方法は一つ

 

キタハラは選択したならオグリキャップにも"別の方法"で"確実な答えをさせる"選択をさせればいい

 

 

「…」

 

「あ、お前か。今日は学園内でやけに会うな…なんか用か?」

 

「…」スッ

 

「?」

 

 

彼は部室にあるホワイトボードに文字を書き始めた

 

最初に書かれた文字『ゴールドジュニア』

ダート1600の重賞レースの名だ

 

 

「なんだ、中京盃のつぎに考えてたレースの話か?今はそれどころじゃ……ッ」

 

 

途中でキタハラは言葉を紡ぐのを止めた

 

彼はその文字の下に二つの矢印の線を書き、左の矢印先に『中央』右には『東海ダービー』と書いた

 

そして左右の矢印線の中間にさらに文字を追加する

 

 

左に「勝利」 右に「敗北」

 

 

「…ま、まさか、レースでオグリに選択させろってのか!?お前!」

 

「…」コクッ

 

「ふ、ふざけんなよ!?仮にレースでわざと負ける様な事をすればあいつはレースから永久追放だ!二度とレースを走れなくなるんだぞ!!」ガシッ!

 

「…」

 

「そんなのやらせる訳ねぇだろ!……俺は、あいつにそんな…お、俺はまだ、あいつが走ってるのが……み、見…………」

 

「…」

 

「…ぢくしょう……今すぐ、テメェを殴りてぇ気持ちで、いっぱいなのに………今それが一番かも、しれないかもと、思っちまったおれは…ざいあくだ…」ポタポタ

 

「…」

 

 

胸ぐらを掴み、殴り掛かろうとするキタハラだが握り拳を徐々に下ろしながら涙を流し始める

 

確かに方法としてはオグリキャップに対して残酷だ

全てのウマ娘に言えることかもしれないがオグリキャップにとって走る事はなによりの生き甲斐だ

 

それをレースで、しかもわざと負ける様な事など彼女は絶対にしないだろう

だがもし勝ってしまったら彼女はカサマツから離れ、中央に行く事になる

 

これはオグリキャップに対する最大の選択肢だ

 

 

競走ウマ娘としての誇りを取るか

 

自分にでは無く他者の理想の為に走るか

 

 

彼はオグリキャップがどの選択を取るのかが見たいのだ

 

理想の為に敗北者の烙印をその背に背負う覚悟があるのか

 

それとも理想を捨てて更なる強者を求めて新たな闘争に身を置くのか

 

 

彼は善意の為に、この平行線の話に決着をつけたくてこの提案をしたのではない

 

ただただ見たいのだ

 

 

オグリキャップという『怪物』の進み先を

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