芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第十五話 迷い

ゴールドジュニア当日

 

カサマツレース場

 

 

昨日の雨によってダート場は多量の雨水を含み、ぬかるんだ不良バ場状態であった

 

既に観客席場にいる彼はオグリキャップの姿を捉えている

 

 

 

 

 

 

 

 

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ゴールドジュニア当日から数日前

 

 

カサマツトレセン学園

部室

 

 

「次のレース決まった?キタハラ」

 

(まだ怒ってる…)

 

「…」グッ

 

「…」

 

 

オグリキャップの中央へのスカウト話をした次の日

 

部室に集まったオグリキャップ、ベルノライト、キタハラ、そして彼

次のレースについての話にきたオグリキャップの耳はいつものような真っ直ぐにではなく、後へ伏せている

 

しばらくの沈黙の中、キタハラはオグリキャップに一枚の紙を渡す

 

 

「…ゴールドジュニア、ダートの1600の重賞レースだ。枠番は6枠6番、今回のレースにはマーチも出走するらしい」

 

「!キタハ「ただし条件がある」…?」

 

 

「このレースに勝ったら中央へ。もし負ければ東海ダービーを目指そう」

 

 

「「!!!」」

 

「…」

 

 

昨日彼が提案した選択の内容を話すキタハラ

 

その内容に二人は驚愕する

 

 

「か、勝ったら中央に、負けたら東海ダービーって、そ、そんな」

 

「何故だキタハラ!」グッ

 

「ぐっ!」

 

「オグリちゃん!」

 

 

キタハラに詰め寄り、彼の胸ぐらを掴むオグリキャップ

その表情はいつもより困惑していた

 

 

「昨日言ったじゃないか!東海ダービーは私達の夢だって!一緒に東海ダービーを走ろうってマーチと約束したんだって!」

 

「た、頼むオグリ、俺の話を聞いてくれ!」

 

「なのに、こんな酷い事をなんでキタハラが……待て」スッ

 

 

掴む力を緩めて、オグリキャップはある事に気がついた

トレーナーであるキタハラの性格はよく知っているし、ベルノライトも今日初めてこの話を知った

 

だがもう一人居る

 

キタハラにこの提案ができる見知った人物が今この場に

 

そうして彼女は壁に寄りかかりこちらをじっと見る彼を捉える

 

 

「…お前か。キタハラにこんな提案をしたのは!?」

 

「…」コクッ

 

 

否定する素振りも見せず彼は肯定した

 

 

「ッ!なんでだ!?お前だって知ってたじゃないか!キタハラの夢を!私の目標も約束も!」

 

「…」

 

「お前は私をどうしたいんだ!トレーナーでも無いのになんで!」

 

「オグリ止めろ!そいつは悪くねぇ!」

 

「…キタハラ」

 

「確かにこの案を出したのはそいつだ。一度は俺だって殴りたくもなった…だが最終的にその案を受け入れたのは俺だ」

 

「ッ…」

 

 

オグリキャップは振り返りもせず、聞きたくないと言わんばかりに耳を伏せる

 

 

「オグリ、競走ウマ娘として走れる期間はそんなに長いわけじゃない、事によっては怪我や病気で早期引退するウマ娘だっている。そんな中で中央で走れるチャンスを貰える地方のウマ娘なんて極小数だ…俺はお前にそんな絶好の機会を、俺の「夢」だけで棒に降って欲しくない」

 

「ッ、キタハラだから私は「だからこのレースでお前の答えと覚悟を見せてくれオグリ!」ッ!」

 

「言葉じゃなくて、競走ウマ娘として、走りでお前に決めて欲しいんだ!…もしお前が本当に心から東海ダービーを目指したいって、中央からのオファーを捨てる為に負ける覚悟があるなら、俺がその責任と汚名を全部背負ってお前の目標と約束を支えてやる!お前の"今"のトレーナーとして!」

 

「…キタハラ」

 

「トレーナーさん…」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

___________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その話からしばらく、ゴールドジュニアに向けてのトレーニングをしてきたがキタハラとオグリキャップ、二人の間の会話は極端に減っていった

 

だがどちらも手を抜く事はせずキタハラは教えられる限りの戦術とトレーニング内容を与え、そしてオグリキャップはトレーニングをこなしながら戦術知識を吸収していった

 

今回のゴールドジュニアに向けてのトレーニングに彼は参加しなかった。否、キタハラから断りを言い渡されたのだ

 

 

「オグリのトレーナーとして、これがもしかしたら"カサマツ"で最後の教えになるかもしれないから…最後は自分の力であいつを強くしたい」

 

 

その希望を承諾し、彼はトレーニングに一切手を貸さずに彼らのトレーニング風景を眺めた

 

 

「ダートがこんな状態だと展開も紛れるかもな。不良バ場の走り方は教えたのか?」

 

「…雨が降った昨日の座学で出来る限りは教えました。あとは実践だけです」

 

「…チッ!」バシッ!

 

「いってぇ!!何するんすかろっぺいさん!?」

 

「六平(むさか)だ!バカのくせに悟った顔しやがって!テメェらで決めたんだろうが。なら後はお前の担当バが決める事だ」

 

「分かってます。でもオグリは必ず勝ちます、あいつは絶対レースでわざと負けたりなんかしません」

 

「どうだろうな、ウマ娘だって人間と同じ思考する生き物だ。人間よりかは本能に少し忠実ってだけでな。ところでレースを見に来てる『皇帝』には話したのか?」

 

「もちろん話しましたよ。まぁ良い印象は持たれなくなりましたけど」

 

 

そう言いながらキタハラは六平にシンボリルドルフとの電話内容を語った

 

 

 

『…なるほど。勝てば中央、負ければ地方…と』

 

「はい」

 

『……失礼を承知で申し上げる。本気で言っているならば貴方は彼女のトレーナーに相応しくない』

 

「…」

 

『勝ったらとか、負けたらとか、貴方はまるで彼女を信じていないようだ。トレーナーならば自分のウマ娘の勝利のみを信じるべきだ』

 

『少なくとも彼女…オグリキャップはそれに応え続けるウマ娘です。それだけの器「分かってます」…なに?』

 

「"今"の自分がオグリキャップのトレーナーに相応しくないのも、オグリキャップが色んな思いに応えてくれる凄いウマ娘なのも。だからこそ俺はあいつが勝って中央に行ける様にするつもりです」

 

『…ならば何故そんな条件を彼女に突き出したんだ?』

 

「知りたいんです。あいつが本当に中央のスカウトを蹴ってまで、俺の"夢"と、あいつが決めた"目標"と"約束"を守る為に走るのか…現実的な選択をではなく、"理想の為に走る覚悟"があるのかを」

 

『ッ…』

 

「もしあいつがそれだけの覚悟を持って負けるなら、俺が全ての責任を背負ってあいつを東海ダービーに連れていくつもりです…お忙しい中、お話を聞いて頂きありがとうございました」

 

『…』ブツ

 

「…切られちまった」

 

 

___

 

__

 

_

 

 

 

「てなわけでかなり失望されたと思いますよ、ハハ……」

 

「あぁ…ほんとにバカ野郎だなお前は」

 

 

六平の容赦ない言葉にキタハラは更に落ち込んでいた

 

そんな二人の隣に彼は何食わない顔で並び立った

 

 

「すまなかったな。こっちのわがまま聞いてくれてよ」

 

「…」

 

「お前はオグリはどうすると思う…って聞いても喋らないんじゃあ分かんねぇか」

 

「…」

 

(たくっ本当にこの外人は何もんなんだ)

 

 

六平からサングラス越しに睨まれてる事も気にせずレースが始まるのを待つことにした

 

 

 

その頃

 

雨水でぬかるんだダート場でずっと立ちっぱのままのオグリキャップ

 

そんな彼女にベルノライトが声をかけた

 

 

「オグリちゃんそろそろ移動しないと…」

 

「なんか…変な感じだ」

 

「え?」

 

「レースは走りたいし、負けたくない…のに、どこかで走りたくないし負けたいと思っている……私が走ったらお母さんが喜んでくれた。キタハラだって…ついこの前までは…」

 

「オグリちゃん…」

 

「私は負けたくない……でもキタハラを、悲しませたくない……私はどうしたらいい。一体どっちを選べば」

 

 

 

バチンッ!!

 

 

 

「!?」

 

「マーチさん!?」

 

 

突如、オグリキャップの頬に平手打ちをかましたのは同じゴールドジュニアに出走するフジマサマーチだった

 

 

「貴様…ッ。これは!どういうつもりだ!!」

 

 

怒りの籠った声でオグリキャップに新聞の一面を見せるフジマサマーチ

そこにはゴールドジュニアを最後に中央へ行くというオグリキャップの記事が書かれていた

 

 

「…」

 

「マーチさん!誤解なんです!」

 

「東海ダービーはどうした!?私との…約…束…をッ……バカに…しやがって………ッ!」

 

「マーチさん…」

 

 

一緒に東海ダービーを走ろう、ジュニアクラウンの時にオグリキャップがフジマサマーチにした約束

 

しかしその約束も今自分の選択によって破ろうとしている

 

だからこそ、オグリキャップは宿敵であるフジマサマーチに言い放った

 

 

 

「だったら私に勝て」

 

 

 

「ッ…」

 

「私が負けたら中央へなんて行けない…そうだろマーチ?」

 

 

それはオグリキャップにとって好機だった

 

唯一自分と並んでくれるかもしれない友達であり、宿敵であるフジマサマーチならこのレースで自分を負かしてくれる唯一の希望であると

 

 

「…あぁ!私が、勝てばいい…!ここでも、東海ダービーでも、貴様は私に負けるんだ!貴様を中央になど行かせない!!」

 

 

今だに迷いの中にいるオグリキャップの答えを待つこともなく、ついにゴールドジュニアレースが始まろうとしていた

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