芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第三話 レースという戦場

「スー……スー……」

 

敷かれた二組の布団

片方にはオグリキャップが寝息を立てている

 

もう片方には彼が横になり明かりが消えた蛍光灯と天井をただ見ていた

 

結局彼女は何も疑う事も無く、布団を敷いて「明日も早いからそろそろ寝よう」と言いながら電気を消してそのまま眠りについた

 

眠る……明日の為、疲れた為、理由は様々に存在するが人間は眠る

 

何故人間は眠るのか。その主な理由は常に働く脳の疲労回復と記憶の整理定着だと言われている

しかし、根本的理由は餓死から逃れる為だという

 

食べる事でしか生き物は活動に必要なエネルギーを得られない、そしてそれは起きている間、何もせずとも徐々に消費されていく

その無駄なエネルギーの消費を抑える為に人間は眠るという手段を得たと聞いたことがある

 

では人間ではない彼はどうだろうか?

彼もかつての死地の中幾度かは眠る事はあっても常は主人の隣に立ち、守護の命を果たしてきた

 

彼にとっては眠る事に必要性と理由なんてない。僅かな食事によるエネルギーの確保さえ出来れば彼は動ける

やろうと思えば、動物を狩り、その生の血肉によって腹を満たす事だって出来る。もちろん人間という名の動物も対象として例外ではない

 

そもそも彼の人生の中で安眠できる環境など一切なかった

 

 

「……お母さん」

 

 

隣から寝ている筈のオグリキャップの声が聞こえた

 

横を向くとこちらに向くように寝返りをうっているオグリキャップ

その閉じた瞼の間から透明な液体が滲み出ている。涙だ

 

声はどうやら寝言のようだった

夢の中で自身が喋った言葉は眠っている自身の口の動きとリンクし、まるで起きているかのようにはっきり言葉を発する事もあれば聞き取れない位か細く発する事もある

 

彼女は夢を見ながら泣いている

それは楽しい夢か、それとも悲しい夢か、本人でもない彼にとっては意味の無い予想だ

 

しばらくして彼は視線をオグリキャップから天井へと戻し、その双眸の瞼を閉じる

見えるのは色も光も無い暗闇

 

そんな暗闇の中へ意識を手放そうと呼吸をする

果てへの夢は充分に見れた。決してもう彼が夢を見ることはないのだろう

 

 

 

 

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パチッ……ムクッ

 

 

「……朝か」

 

 

時刻はまだ午前3時半位

目を覚ましたオグリキャップはルームメイトが起きない様に静かに布団を畳む

 

 

(いい夢が見れたな。ここはすごく贅沢だ、ご飯は美味しい上に食べ放題!友達のみんなやルームメイトも良い娘達ばかりだ!)

 

 

「カサマツ学園に入れてくれてありがとう。お母さん……さて行こう」

 

 

ドアを開けて物置部屋を後にしたオグリキャップ

 

 

それから数時間後

 

一人の低身長の黒髪のウマ娘が物置部屋にやって来ていた

 

 

(寝てるとこ突撃して脅かしてやろ♪)

 

「朝だぞぉぉ!!起きろ泥ウサギ!!」ガラッ!!

 

 

勢いよく開かれた物置部屋のドア

 

しかし中には人っ子一人おらず

布団も“全て”畳まれた片付けられている

 

 

「…あれ?んん〜?嫌になって帰ったか?……しかし、なんか知らねぇ匂いがするなぁあの泥ウサギとなんか違う気が……まっいっか」

 

 

少女は物置部屋を後にする

 

 

 

 

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あれから更に時間は過ぎ、彼はまたいつも通り本の保管所(図書室)にて資料を漁っていた

 

一応この部屋には管理人らしき人物がいるがご高齢の老人故に気配を殺せばまず気づかれる事もなく本を読むことにも集中できる

 

あれからまた何個かの情報を得ることが出来た

まず地理的にこのカサマツトレセン学園という施設があるこの国は何処なのかという疑問

 

ここはかつて最後の大隊が掲げしハーケンクロイツの国旗、ナチスと同盟関係を結んでいた日独伊三国同盟の一角

 

大和國「大日本帝国」その土地は岐阜県羽島郡カサマツ町にこのトレセン学園とやらは存在する

 

大日本帝国については彼は多少の知識しか知らず、大日本帝国には1度も足を踏み入れた事はない

 

そしてカサマツトレセン学園の主な目的は地方で開催されるというエンターテインメントレース『ローカルシリーズ』

そこで活躍するウマ娘たちを指導・育成を目的とするのがこの学園だ

 

前のウマ娘に関しての情報にも彼女たちは強靭な脚を持っている事を知った

それは単純な物理的力も強いのは確かだが1番の強みは速く走れる力が最もだ

 

そして一概にウマ娘たちの生涯は様々だが主に彼女たちが目指すのが「競走ウマ娘」らしい

 

競走

人間、動物、乗り物と様々だが、それらが一定距離を走り、速さを競うこと

 

彼女たちウマ娘にとってはその数多のレースに出場し、勝つ事が目的であり彼女たちにとって誇りとなり戦果となる

つまりレースとは彼女たちにとっての『戦場』なのだ

 

この学園にもそのレース場を模したトラック(練習場)が存在している

ちょうどそこらに多数のウマ娘たちと少数の人間の匂いが集まっている

 

彼女たちが走る姿が見れるだろうと彼は興味本位に見てみる事にした

 

 

 

 

 

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トラックには既にゲートに入って準備をするウマ娘たちの姿が見えている

 

走るコースはダート(砂)の800m 砂はとてもきめ細かく普通に走るだけでもかなり脚に負担がくる。恐らく雨などで濡れればぬかるみを生み出し更に脚に対する負担が加算されるだろう

 

教師がストップウォッチでタイムを測っていた

現在一番早いタイムは50秒8「フジマサマーチ」というウマ娘だ

 

次に走るメンバーの中にはオグリキャップの姿もあった

 

 

『よーい……スタート!!』

 

 

開始の合図と共にゲートが開く、しかしオグリキャップは走らずそのまま屈んで何かをしていた

どうやら靴紐が解けているらしくそれを直しているのだろう

 

誰の目からもあそこからの逆転は難しいと思われていたがそんな皆からの予想を彼女は容易に裏切った

 

靴紐を結び直した瞬間、先程まで前を走っていたウマ娘全員を追い抜かし1着で800mを走りきった

そのタイムは51秒1

 

タイム自体は先のフジマサマーチより遅いがあの靴紐のアクシデントがなければもっと速いタイムになっていただろう

 

一通りの走りを見終わった彼はさらなる興味が湧き始めていた

走る事に生涯を捧げるウマ娘、彼女たちのみしか知らず人間には決して足を踏み入ることは出来ない戦場

 

彼はそんな血臭死臭とも程遠い戦場に足を踏み入れた

 

 

 

 

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「靴紐がほどけていたとは……想定外だった……」

 

 

解けやすくなったのかな?

 

 

「ちょ…ちょっとき…き、き、君!!痛っ!!」

 

 

ん?顔面からぶつけたな凄く痛そうだ

……この人どこか…………あっ

 

 

「キタハラジョーンズ」

 

「ちょ!?それは忘れて!」

 

 

朝のトレーニング時に会った男性だ

確かキタハラジョーンズと自分で言ってた気がした

 

 

「き、君!名前は!?」

 

「……オグリキャップ」

 

「キャップ(頂点)……良い名だ!俺は北原 穣!俺と一緒に天下を取らないか!?」

 

 

名前を聞かれたので名前を教えたらキタハラジョーンズは天下を取るとかダービーがなんだとか言っているがよく分からない

 

 

「ジョ、ジョーさん!大変だ!」

 

「なんだよ柴崎?!今大事な話をだな!」

 

「ぶ、部外者だ!学園関係者外の人間が今ゲートの方に!し、しかも、あ、あれ!!」

 

「へ?」

 

 

なにやらゲートでなにかあったというらしいからゲートの方を見てみた

そこにはルームメイトの姿があった

 

 

「次はルームメイトが一人で走るのか。余ったのかな?」

 

 

ならば一緒に走ってあげれば良かったかな……あ、上着と帽子を脱いだ

 

 

「……耳と尻尾を隠してるのか。変わった娘だな」

 

「いや、あれはウマ娘じゃねぇよ!人間だよ!」

 

「……え?」

 

 

キタハラジョーンズの言葉に一瞬唖然としてしまった

 

ウマ娘じゃなかったのか

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