芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第五話 もう一人のウマ娘

物置部屋

 

 

基本は誰も入らないその物置部屋の壁に背を預け腰を降ろし、何をするでもなくただ一点を見つめる彼

 

ダートでの走りを終え、オグリキャップから労いと賞賛の言葉をもらってから彼はトラックを去った

 

たった800mという距離の戦場は彼からしたら息切れどころか汗の一滴さえ流れはしない

 

だがただ走る、されど走るだけの行為はかつての彼には意味も理由も表す事はなかった

故になにか 内側で 新鮮な感情、言葉にするなら「高揚」感を感じていた

 

もっと単純に言葉にするなら

 

『楽しかった』……彼の中で今この言葉が一番しっくりくる感情なのかもしれない

 

 

ガラガラッ

 

 

「あ、やっぱり此処にいたか」

 

 

ドアを開けて物置部屋に入って来たのはいつも通りの泥で汚れたジャージ姿のオグリキャップだった

 

 

「ちょうど良かった。キタハラが君に会いたいと言っててな、明日一緒について来てはくれないか?」

 

 

腰を下ろす彼の目線に合わせるように屈んで話すオグリキャップ

 

彼女の言うキタハラという名の人物、恐らくオグリキャップがあのダートを走り終えた時、彼女に声を掛けていた帽子を被った男の事だろう

 

学園の部外者に会って何をしたいのかは分からない

ただ分かるのは、彼がこの物置部屋を仮拠点にしているのはおそらくオグリキャップが話しただろう

 

しかしもしそんな話をしたならば部外者である彼を捕まえる為に複数の人間が此処に来るのは当たり前の筈だ。しかし、一向にこの建物にはウマ娘以外人間は誰も近づかない

 

彼女を使っておびき寄せて捕まえるという事も考えられるが彼からすれば大した脅威にさえならない

やろうと思えば逃れる手段などいくらでもある

 

彼は了承の意を込めて頷いた

 

 

「そうか。出来れば誰にも見られないようにしてくれとキタハラに言われたから少し早めに寮を出るからそれだけ覚えておいてほしい」

 

 

再度彼は頷いて答えた

 

 

「…少しいいか?」

 

 

オグリキャップは彼の帽子を両手で持ち上げ彼の頭を凝視する

特に抵抗もしない彼は簡単に素顔を彼女に晒した

 

あのトラック時にも見せたのだから今更ではある

 

 

「本当に耳がない。キタハラの言った通り人間なんだな……でも、変わった匂いがするんだな君は。キタハラやベルノとも違う…不思議な匂いだ」

 

 

帽子を降ろし、ありがとうっと一言添えてからオグリキャップは自分の布団を敷き横になり始める

 

彼も彼女に続くように布団を敷き横になった

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

翌日

 

河川敷

 

 

「……」ソワソワ

 

「……」グッグッ

 

 

午前四時朝早くから学生寮を後にし、オグリキャップと彼、後もう一人見知らぬウマ娘をオグリキャップが連れてきてあの河川敷にてキタハラという男を待っていた

 

学園内では無く、人気の少ない河川敷を選ぶあたりどうやら誰にも見られないようにとは本当の事のようだと警戒心を和らげるが常に気配には気を配っている

 

待つ間オグリキャップはストレッチを始め、彼は特に意味も無く川を眺め、知らないウマ娘は彼の隣で落ち着かずソワソワしていた

 

 

(うーなんで私まで此処にいるのー!?トレーナーさんのチームにオグリちゃんと入ってから次の日に急に朝早くからオグリちゃんがやって来て「ベルノも来てくれ」って言われるし!わけも分からず一緒に寮を出たら昨日ターフをめっちゃくちゃ速く走った知らない人が待ってるし!あれから数分ずっと隣で黙ったままで怖いー!トレーナーさんまだなのー!?)

 

「…………あ、あの〜」

 

 

ウマ娘に声を掛けられ、彼女の方を向く

 

「ヒィ…」と小さく呟く彼女を彼は何の用かとただ言葉を待っていた

 

 

「わ、わ…わわ、わた、私、べ、ベルノライトって言います!」ペコッ

 

 

…………………………。

 

 

「ふぅ……」グイグイ

 

 

ベルノライトと名乗った少女はお辞儀をしたまましばらく静寂が続く

 

一秒、また一秒経つことにベルノライトの顔は緊張と恥じらいによってどんどん顔を赤くしていく

 

 

(う、うわー!自己紹介失敗しちゃったー?!何も返って来ないし!!ずっと見てるし!!なんかもうやだよー!!助けてオグリちゃん!トレーナー!)

 

 

スッ

 

 

「……え?」

 

 

少女の視線に映った白い手袋の右手、顔を上げると彼がベルノライトに対し右手を差しだす

 

 

「あ、え、えっと……あ、握手……です、か?」

 

 

未だにぎこちない言葉で彼に問いかけるベルノライト

彼は静かに頷き彼女の問いに答えた

 

 

「……よ、よろしく…です」ギュ

 

 

自身の手を握るベルノライトの手を彼の大きな手は優しく握り返す

まるで壊れ物を扱うように加減を確認しながら握手を交わす

 

 

(お、大きい手……男性の手を触るなんて、は、初めてかも///)

 

 

握手を交わしてからまたソワソワと落ち着かなくなったベルノライト

彼女の姿を見て彼は一つの答えを見い出し、未だに握ったまま放心状態のベルノライトをよそにキョロキョロと周りを見渡した

 

そして視線にあるものを見つけてからベルノライトの手を離してから彼女の手の甲を軽く叩く

 

 

「へ?……あ、す、すいません!なんでしょう!?」

 

 

慌てながら彼の顔を見るベルノライトに対し、とある方向に指さした

 

 

「……公、園?」

 

 

彼が指さした方向には少し離れた場所に公園が存在している

 

しかし、その指ははっきりと公園内にある一つの公共施設を指している事にベルノライトは気づいた

そして気づいた瞬間、また彼女の顔は赤くなっていた

 

彼が指さした場所にあるのは青の男性を表したマークと赤の女性のマーク

それぞれ別の入口がある施設

 

そう、公衆トイレを指さしていたのだ

 

 

「ち、ちが、違うんです!!///////確かに挙動はおかしかったかもですけど!け、決して、も、もよ…ゴニョゴニョって訳ではなくて……て、ていうかセクハラですよーーー!!!」

 

 

赤くなったと思ったら凄い早口で話し始め、最後には叫ぶベルノライトに彼は首を傾げる。違ったのか?と言っているようだった

 

 

「ベルノライトも仲良くなるのが早いな。さすがだな」

 

 

ストレッチを終えてからルームメイトとベルノライトの二人を見て呑気にそんな事を呟くオグリキャップだった

 

 

「おーい!待たせ……なにか、あったのか?」

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