芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第七話 怪物の初陣

 

「596、597、598、599、600!」

 

 

河川敷の階段にて両足ジャンプのトレーニングをするオグリキャップ

トレーナーであるキタハラの提案による走り方の為に足首を鍛えるトレーニングをこなしていた

 

オグリキャップは筋力と体力は独自メニューを毎日欠かさずに続けていた為にどちらもバランスよく優れている

腕の振りのしなやかさ、腰から膝にかけての連動など技術面も評価が高い

 

しかし最初に彼がオグリキャップの足を見てそれをキタハラに指摘

そこからはキタハラの提案の下に足首を重点的に鍛えるトレーニングメニューが組まれた

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」チラッ

 

 

汗を拭い取りながら息を整えるオグリキャップの視線の先に彼はいた

 

帽子とコートを脱ぎ右手を地面に付き、左腕は背に回して片腕立て伏せをしていた

しかも両足も宙に浮かし逆さま状態という漫画やアニメの中の鍛練の様に半ば現実離れした光景だ

 

キタハラからの協力を承諾してからは彼はオグリキャップ、ベルノライトのトレーニングの補助をしている

補助と言っても基本は彼女たちの走りやトレーニングの様子を観察し、指摘するぐらいだ

 

一定回数を終えたのかしばらく止まった後に今度は右手から左手に替えてまた腕立て伏せを再開した

 

 

「……もう1本」

 

 

彼の鍛練姿を見て、オグリキャップはトレーニングを続けた

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

5月19日(火)

 

レース当日

 

 

オグリキャップのデビュー戦であるトレセン学園の新入生たちによる平地競走

14時30分〜の第一レース コースはダートの800m レース環境事態は前のゲート体験時と同じだ

 

地方のレース場であるカサマツレース場

地方のレース場ということもあり、普段はあまり訪れる人は極小数だがトレセン学園の新入生たちの初レースという事もあり普段よりは観客は多い

 

もちろん観客には人のみではなくウマ娘もいる

 

 

観客席側には既に彼の姿もあった

しかし今回の姿はいつものオーバーコートではなく一般人を装う為にとキタハラがお金を出して買ってくれた私服一式だ

 

濃い藍色のジーンズに黒のタンクトップ、その上に薄緑のジャケットを羽織って、サングラスをかけている

靴と白手袋はいつも通りだ

 

一般人を装うという事だがただでさえ彼の見た目は服を除いても浅黒い肌に淡い銀髪

タンクトップ越しにも分かる鍛え抜かれた肉体に成人男性の平均身長を軽々と超える高身長とかなり特徴的だ

 

観客である人間やウマ娘からも走る選手ではないというのに視線を集めていた

 

 

「あ?あの席に座ってるの外国人か?」

 

「観光客?こんな地方にとは珍しいね」ケタケタ

 

「ふーん…あら、よく見たら結構いい男そうじゃない?」

 

「なになに?ノルンはあーいうのがタイプ〜?」ケタケタ

 

「んーまぁ見た目だけならね」

 

「お前の基準値分からねぇ」

 

 

ヒソヒソと彼を見ながら話す人間とウマ娘たちの声を無視し、パドックを一点に見つめている

もうすぐ指定時間、レースに出場するウマ娘達が続々とパドックから出てきた

 

今回一番の人気を誇るフジマサマーチが出てきた

新入生の中でも勉学に優れ、現最速タイムという高成績を示している彼女は今ではカサマツトレセン学園の期待の星と呼ばれている

 

幾度かトレセン学園で彼女の走る姿を観察していた

 

彼女は高い運動能力に冷静に分析できる頭脳、なによりの強みは瞬発力と開幕時のスタートダッシュの上手さ

 

レースに置いてスタート時の走り出しの速い・遅いで戦略が変わりやすい

余程の自信家でもない限りスタート遅れをわざとするようなウマ娘は居ないだろう、それだけ大事な要素の一つが得意というのは大きな強みだ

 

おそらく今回のレースでオグリキャップの脅威になり得るのは彼女ぐらいだ

 

そして次に出てきたのはいつも通りの泥まみれのジャージ姿、オグリキャップだ

しかし今回は片手になにかを持っていた

 

それを両手に持ち目一杯掲げてから頭に装着した

 

それはひし形が連なって出来た髪飾り、確か数日前に母親から届いた小箱に入っていた物だ

 

就寝時になって物置部屋に戻って来たら布団で横になりながらずっと母からの手紙と箱の中に入っている髪飾りを見ながら彼女が微笑んでいたのを思い出す

 

数分位見ていたら彼が帰って来たのにようやく気づいたオグリキャップは汗を流しながら顔が真っ赤になるほど紅潮し、最終的に姿が見えなくなるほど掛け布団を被ってしまった

特にする事も無くオグリキャップがひいてくれた布団に横たわり彼も寝た

 

そんな事があったなと半ば思い出してからオグリキャップが彼に気づき手を大きく振っていた

彼は答えるように片手を小さくあげる

 

しばらくしてアナウンスが響く中

各ウマ娘達がゲートに入る

 

 

ついに彼女らの、新兵たちがゲートという戦場の入口となる城門の前に立つ

 

この日の為に新兵は戦術家(トレーナー)から戦場を教えられ対策と戦略を授かった

それらを携えたった一つの勝利という座に就く為に戦場を駆ける脚をひたむきに鍛え上げた。戦場では歩み、走りを止めた者から敗北し死んでいく

 

君たちは今まさに決して歩みを止めても緩めても行けない激戦区の前にいる

 

勝利を求めるならひたむきに走れ

 

敗北したくないなら歯を食いしばって走れ

 

隣に立つ者らは同じ釜の飯を食った戦友であり、自身の勝利を妨げる敵である

 

 

『ダート 800m 新バ戦 10人がゲートにおさまりました!』

 

 

敗者という屍を踏み越えて唯一の勝利を掴めにいけ

 

オグリキャップ

 

 

『ゲートが開いて 今スタート!!』

 

 

開戦の火蓋は今 切られた

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

『おっと!?5番オグリキャップ出遅れた!後ろからのレースになります』

 

「・・・ッ!!」

 

 

スタートの合図と共に各ウマ娘たちが一斉にスタートした中、出遅れてしまったオグリキャップは最後尾からのレースという運びになってしまった

 

いつもの様に走ろうとすると足から痛みが伴い始め、いつも通りに走れず速さが出せない

 

 

(不味いな走りづらい……)

 

 

痛みの原因は既に分かっていた

否、レースが始まる前からこうなるのではと予測はしてはいた

 

彼女がいま着用している靴は度重なるトレーニングや走りによって既に限界を越えているのだ

その靴にはなにか思入れがあるのか、それともまだ大丈夫だと過信したか、どちらにせよ今の彼女の選択は小さな枷となりそれは彼女の能力を著しく弱める結果になった

 

スピードを抑えて走る事を余儀なくされたオグリキャップはキタハラの助言を思い出しながら走る

 

 

(先頭を走る相手を常に意識……キタハラはああ言ってたけど…………先頭…何処?)

 

『初出走のウマ娘10人 第3コーナーのカーブを曲がります』

 

 

カーブに入った

それと同時に更なるアクシデントがオグリキャップを襲った

 

 

「わっ...!」ググ…

 

「?…ッ!!?」ドン

 

「ごめっ...!」

 

(なに...?)

 

 

6番のゼッケンを付けた『ウォークダンサー』がオグリキャップとぶつかってしまった

 

カーブを曲がる時に発生する遠心力は体の重心を外側に押し出す様に働き、コースの外側へと引っ張られてしまう

靴の不調によりスタート遅れで始まり、先頭ウマ娘を探そうと内心焦り始めていたオグリキャップは周りの状況まで見えていなかった

 

衝突により外側を走る事になったオグリキャップ

スピードは緩まないが更に不利な状況になっていった

 

 

『第四コーナーのカーブに差し掛かる!先頭はサウスヒロイン!続いてフジマサマーチがピッタリとついている!』

 

「ブハッー!!」

 

 

カーブの終わりが近づき、直線に入った瞬間先頭のサウスヒロインが息を吐いたと同時に彼女は仕掛けた

 

 

『ゼッケン1番フジマサマーチ スパートをかけた!サウスヒロインをとらえる! フジマサマーチ先頭!! 残り200m!!』

 

 

勝負を仕掛けたフジマサマーチは遂に先頭へと追い抜いた

 

しかしそれはオグリキャップにとっても最後のチャンスを生み出した

 

 

(見えた 先頭 体力は残ってる)

 

(泳ぐようなイメージ…川砂を掴んで…足首で)

 

 

 

 

蹴る!!!

 

 

 

 

ドバァァァァ!!!

 

 

 

 

『おおおっと!!?大外からゼッケン5番!!オグリキャップ!!ここで仕掛けてきたぁー!!』

 

 

先頭のフジマサマーチを完全に捉えたオグリキャップは最後の力を持って勝負に出た

 

デビュー戦に備えたトレーニング

それは一つの走り方の為に足首を重点的に鍛えた

 

カサマツレース場は川砂を敷き詰めて出来たダートコース

そこを走る為には強靭なパワー、そして足首を使ったコツが必要だった

 

川砂は摩擦が弱く今までのオグリキャップの走りでは表面を滑ってしまい脚力による力が分散され、推進力が弱まりスピードを生み出せなくなる

 

そこでキタハラが教えたコツがまず川砂を足で掴み、滑り止めをする

そして掴んだ川砂を足首を使い強く後ろに蹴りあげる

 

「走り」ではなく「泳ぐ」に近いその走り方は足首の力で川砂を目一杯に搔き込む。それにより足首の力はそのまま推進力になるのだ

それにプラスして彼女のフォームである超前傾姿勢は走りによる風の抵抗を極限まで抑え込み、減速を妨げる

 

 

それらの技術を習得したオグリキャップの走りには、更なるスピードを与えた

 

 

最後尾だった筈のオグリキャップは次々にウマ娘たちを追い抜き、遂にフジマサマーチへと迫った

 

「逃げる」フジマサマーチ

「追う」オグリキャップ

 

既にレースは二人の一騎打ちとなった

 

 

『残り100m!どうなる!!?』

 

 

勝負に終わりが近づく

 

どちらかが勝者となり

どちらかが敗者となる

 

互いの走りで牽制しあう鍔迫り合い

弛みが生じれば押し切られ、敗者の烙印を押される

 

だからどちらも必死に足掻く

 

勝利という座に就く為に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、彼女の足掻きは

 

 

ガクンッ

 

 

突如として綻びが生じた

 

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