芦毛の怪物と白狼の化物   作:Mituba

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第九話 勝利とウイニングライブ

オグリキャップの初戦から二週間後

 

カサマツレース場

 

 

新しい靴を新調し、二回戦目のレースへと挑むオグリキャップ

 

いつも通り、観客側に私服姿で観戦しに来ている彼

最近はいつものと私服姿でこの辺りを歩き回っていたせいか最近は地元の人たちからはだいぶ見慣れたらしく彼に対して小言を言う人は少なくなった

 

 

「ねぇねぇ、あの人じゃない最近この辺で見かけるって外人さん」

 

「もしかして川に流された子猫を助けたって話?」

 

「え?私が聞いたのは重い荷物を持ったお婆さんの手助けしたって」

 

「それ知ってる!お婆さんを背負って片手に重そうな買い物袋を軽々と持って家まで送ったって!」

 

「ふっ、どれも情報が古すぎるわ。私のウマッター情報だとウマ娘の子供が誤って道路に飛び出して車に轢かれそうになった所を颯爽と現れて助けたって情報が」

 

「いや、逆にそこまで細かいと信憑性がないって感じが……」

 

「なんでよ!?」

 

 

違う意味で小話が聞こえるが彼はいつも通り気にも止めずレース場を眺めている

 

その頃、一枚のレシートを見て絶望顔になるキタハラの姿があった

 

 

「ジョーさん、どうしたの?」

 

「少し、出費が……」

 

「……せめて勝って」

 

 

別の女性トレーナーがキタハラの様子を見て担当ウマ娘であるベルノライトにどうしたのかを聞いていた

 

彼女は今回のレースに参加している『ノルンエース』のトレーナーだ

本来ならノルンエースとオグリキャップは同じ部屋のルームメイトらしいのだがオグリキャップ曰く部屋にある荷物の片付けが終わってないからしばらく物置部屋で頼むと言われたそうだ

 

まぁ本来の理由はベルノライトから聞いている

 

よくあるいじめ、というやつだろう

そういう事もあってかベルノライトはノルンエースが今回のレースに出バしている事を知ってからなにかあるんじゃないかと心配しているのだ

 

 

「はぁ〜?大丈夫だって〜!つーかむしろ余裕だし!泥ウサギなんかに負けるワケないじゃん アンタ達じゃないんだから」

 

「あ…あれは公式じゃねぇからノーカンだって!!」

 

 

オグリキャップから少し離れた所でノルンエースとその友達のルディレモーノと話していた

 

その後に来たミニーザレディとなにか話してからノルンエースの表情が変わる

 

内容は聞こえてはいないがあの表情は大抵何かを企んでるというのがわかりやすい

何をしようとしてるかは知らないがオグリキャップに対して特に心配などしてはいなかった

 

むしろ心配なのはなにか仕掛けようとしているノルンエースの方だろう

 

そんな事を考えていたら出バするウマ娘達がゲートに入る。そろそろレースが始まるようだ

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

『スタートしました!』

 

「よし!好スタート!」

 

 

靴を新調し、前回の様なハンデ状態が無くなったオグリキャップは2番手についた

ノルンエースはそのオグリキャップの後方についていた

 

 

「ヒヒっいいね予定通り♪」

 

「お前…前のゲート体験時の靴紐解いた時もそうだがよく次から次にそんな卑怯な事を思いつくよな、泥ウサギがスパートをかけるタイミングで踵を踏むなんて」

 

 

観客側でレースを見るルディレモーノとミニーザレディの声が聞こえてくる

話していたのは先程ミニーザレディがノルンエースに話していた内容の詳細だ

 

オグリキャップはスパート時に地面を掻き込む為に一度大きく踏みしめる瞬間がある

その瞬間につま先を踵に添えて靴を脱がしてしまおうという策だ

 

傍から見ればただの不幸な事故に見えるし嫌がらせとしてはとても効果がある方法だろう

 

 

「一丁前に靴とか新調したみたいだけど脱げちゃえば意味無いよね」

 

 

『先頭は直線コースに向きました。先頭はサウスヒロイン!オグリキャップは2番手!その後方にノルンエースがピッタリとついている!残り200m!』

 

 

残り200mを切った

 

オグリキャップがスパートをかけるとしたらこの時だ

 

 

(気に入らない…ダサいくせに悪目立ちばっかりして…ちょっとマーチと競ったからって調子に乗ってんじゃないの?……気に入らない、気に入らないのよ!)

 

 

ノルンエースが靴の踵に足を引っ掛けようとした

正にその時

 

 

(……行くか)

 

 

ドッ!!

 

 

『オグリキャップここでスパート!サウスヒロインを抜き先頭に躍り出た!』

 

 

スパート時の踏み込みの瞬間、ダートの砂が舞い上がり後方にいたノルンエースに多量の砂が掛かる

 

 

「く、くそっ!!テメ……!」

 

 

一瞬の砂埃の視界不良が晴れたその時、既にオグリキャップはゴール目前という所まで離されていた

 

 

(うそでしょ…もう、あんな遠く……こんなの、勝てるワケない…)

 

 

『ゴール!オグリキャップ誰一人寄せ付けず1番でゴール!!2戦目で初勝利を飾りました!!』

 

「ヨッシャアアアアアアアアアア!!」

 

「やった!」

 

 

結果は予想通りだ

二戦目はオグリキャップの1着でゴールという結果となった

 

初の勝利にキタハラとベルノライトも大いに喜ぶ

 

 

レースが終わりレース場から離れていくウマ娘達

そんな中、ノルンエースにオグリキャップが声をかける

 

 

「砂を掛けてしまってすまない…大丈夫だったか?」

 

「ッ……別に、どうてことないし…」

 

「そうか、なら良かった」

 

 

オグリキャップに対し、恐怖に近い感情に陥るノルンエース

今すぐにでも彼女から離れたいと駆け足気味に歩くと一人の人物にぶつかる

 

 

「ぶっ、ご、ごめ……」

 

 

ノルンエースはぶつかった相手を見て唖然とする

一般男性よりも背が高く、浅黒い肌に目立つ銀髪。前回のレースにも来ていた彼だった

 

ぶつかって来たノルンエースを見下ろしながら腕をあげる

 

 

「ひっ……」

 

 

クイッ

 

 

「…………え?」

 

 

頬に当たる布の様な感触

彼の手に握られていたのは無地の白いハンカチ、ノルンエースの顔についていた砂埃を優しく拭い払ってから彼女を避ける様に歩き出しオグリキャップの下に行く

 

 

「今度は勝ったぞ」フンスッ

 

 

勝利を報告するオグリキャップに対し軽く頷く彼

そんな二人のやり取りをノルンエースはただ黙って見てるしかなかった

 

レースも無事終わり、そろそろレース場を後にしようとしたらキタハラからウイニングライブを見ていけよと言われ今回はまだ帰っていない

 

ウイニングライブとはレースに参加したウマ娘が応援してくれたファンへ感謝の気持ちを表すライブだという

 

このライブはレースによって上位入賞者の複数人で行われるか、一位のウマ娘一人のみで行われる二つのパターンがあるそうだ

 

ただ一つ、問題がある事をキタハラは気づいた

 

 

「やべっライブの練習 全然やってねぇ……大丈夫か……?」

 

 

結果は大丈夫ではなかったそうだ

 

流れて来た音楽はカサマツ音頭なる盆踊りの曲

その曲のテンポに合わせるようにオグリキャップは手を叩いたり、それっぽい動きで踊る

 

その様子にライブを見ている観客たちは皆違う意味で黙りになりキタハラとベルノライトは両手で顔を覆い隠し見てられないって感じだ

 

レースで対決していたノルンエースと友達のルディレモーノ、ミニーザレディもマジかっといった表情をしていた

 

ウイニングライブは終わり数秒経っても沈黙が続く中

 

 

パチッ パチッ パチッ パチッ

 

 

彼一人が静寂の中、ライブを終えたオグリキャップに対して拍手を送った

それに続く様に周りの人間やウマ娘たちも彼に続いて拍手をする

 

 

「ぷっ……ダンス、教えてやるか」

 

 

オグリキャップの盆踊りに毒気を完全に抜かれたノルンエースは最後にそう呟いた

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

翌日

 

カサマツトレセン学園の食堂で今日も大量に飯を食べるオグリキャップとその隣で彼女の食べる姿を見ているベルノライトの姿があった

 

 

「今日はまた1段と多いね……」

 

「レース後はすごくお腹が空く……不思議だ……」ぐぅ〜〜〜

 

「限度ってものがあると思う」

 

 

そんなやり取りをしていると対面の空いてる席にノルンエースが椅子に座る

 

 

「おぅ邪魔すんぜ」

 

 

その後からルディレモーノとミニーザレディもやってきた

 

 

「な……なんの用!?」

 

「別にケンカ売りに来たわけじゃねぇって。ノルンが話あるんだってよ」

 

「……」

 

 

ルディレモーノの説明の後ゆっくりとノルンエースが口を開く

 

 

「……部屋、片付けた…から」

 

「……」

 

「……」

 

「……?お疲れ様?」

 

「おいノルン、こいつ察し悪いぞ」

 

「っ〜〜!部屋に来て良いっつってんの!あーしとアンタ相部屋でしょ!」

 

「…そうだっけ?(あの部屋気に入ってたんだけどな)」もぐっ

 

 

食べる事は止めないオグリキャップにノルンは更に数枚の紙を取り出し、彼女に差し出した

 

 

「あとこれ」

 

「?」

 

「ウチの親がやってるダンス教室の回数券。毎度盆踊り踊られてもたまんないし、あげるから練習しに来なよ…………あと、いじめてごめん」

 

「…?」

 

「ほら行くよルディ!ミニー!」

 

「ちょ……待てって!」

 

 

最後に顔を赤らめながら謝罪し、三人は食堂を後にした

 

 

「……なんだったんだろう」

 

「……さぁ」もぐっ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

後日

 

夜の寮

 

オグリキャップとノルンエースの部屋

 

 

「ねぇオグリ」

 

「?」

 

 

ベッドに寝転んだままスマホをいじるノルンエースが二段目のベッドで横になるオグリキャップに話しかけた

 

 

「あのさ、レース場にいたあの人ってさ…」

 

「……誰だ?」

 

「っ、ほらあの黒い肌に銀髪でめっちゃ背が高い…あんたが1着報告してた!」

 

「あぁ、彼か」

 

 

前までルームメイトだった彼の事だと気づいたオグリキャップ

 

 

「あの人ってさ、あんたの知り合い?」

 

「あぁ、ルームメ……」

 

「え?なんて?」

 

「いや、なんでもない。トレーナーの知り合いで最近私やベルノのトレーニングを見て貰ってる」タラタラ

 

「ふーん。あんたのトレーナーの知り合いか……あのさ、会う予定とかあるの?」

 

「毎日朝のトレーニング見てもらってるからいつも会ってるな」

 

「はっ?!マジで!!?」ヒョコ!

 

「っ!?う、うん……」

 

 

急な大声といきなり二段ベッドに顔を出してきたノルンエースに萎縮するオグリキャップ

そんなオグリキャップに対してノルンエースはなにか言いたそうに落ち着きがなくなる

 

 

「あ、あのさ、その朝のトレーニングの時にさ、ついてっていい?」

 

「別にいいぞ」

 

「い、いや、単にお礼が言いたいだけで……え?いいの?」

 

「あぁ。じゃあ、朝3時半位に起こす。おやすみ」

 

「わ、分かった。おやすみ………………え?3時半?」

 

 

一段目のベッドに戻ってから嘘でしょ?と呟くノルンエースだが既にオグリキャップは寝ていた

 

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