DERBYTALE (AU)   作:フラウィー

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スズカと練習

 足を先へ、先へと進める。

 するとそこに、さっき別れたはずのサイレンススズカ が立っていた。

 スズカは「よっ」とでも言うかのように、ポケットに入れていた右手を軽く振って青年に近づく。

 青年はスズカに、何かあったのか? と聞いた。

 

「スペちゃんに報告してきたわ。ちょっと怒ってたけど……まぁ、多分大丈夫ね」

 

 そう言って少し笑って右手をポケットにしまう。

 周りに人影はなく、どうやら一人のようだった。

 青年はこんなところまで何をしに来たのか、と聞いた。

 

「何をしに来たって……あー、えっと……あ、思い出したわ。忠告をしに来たのよ」

 

 忠告、と聞いて首を傾げる。

 忠告をするようなことがあるのだろうかと。

 なんせここはただのにんじん畑、と言うより農園。

 襲って来るウマ娘たちも上手いこと話せば、和解してなんとか逃げることができる。

 危険なことなど、これと言ってないのだ。

 

「まぁスペちゃんの仕掛けた罠と、私の仕掛けた悪戯グッズね。多少ビリビリする程度だから多分大丈夫よ。それよりも……」

 

 ビリビリするとは一体なんなんのか、と青年は考えた。

 だがスズカはこんな感じだからきっと大丈夫だろうと、そう考えることに決めた。

 心配でいながらも。

 

「スペちゃんはちょっと特別な攻撃を使うのよ。通称青攻撃ね」

 

 青年は先程見た攻撃を思い出す。

 もしかしてスズカの出したやつだろうか? と聞くと、スズカは頷いて答える。

 

「あれもそうだけど、あれよりヤバいのを使うわよ。そうね……実際にやってみるのが一番かしら」

 

 周囲の雰囲気が一瞬にして切り替わる。

 青年とスズカにソウルが浮き上がる。

 どうやら実戦形式で教えてくれるようだった。

 青年は聞いた、やる気がないのではなかったのではないのか、と。

 

「たしかにやる気なんてこれっぽっちもないわよ? でもこれはスペちゃんのためだもの。そのためならいくらめんどくさくても、ちゃんとやるわよ?」

 

 そう言ってスズカは左手を出して軽く指を動かすと、地面から一本の大きなにんじんが生えて来る。

 青いにんじんだ。

 にんじんはスズカの隣で静かに止まっている。

 

「多分知ってるだろうけど、避け方を教えとくわ。青色の攻撃の時は止まるのよ。そしたら傷つかないわ」

 

 人差し指を弾くようにしてこちらに向けると、にんじんが埋まったまま動き出す。

 スズカの言う通り止まっていると、にんじんは青年の体をすり抜けていった。

 自身の体を見てみると傷は付いておらず、彼女の言う通り動かなければ無害のようだった。

 

「ちなみに逆もあるのよ。オレンジ攻撃をされたら、動いていればいいの。わかったかしら?」

 

 青年は頷く。

 要は信号機のようなものだろうと、信号機の逆バージョンと言うことだろうと。

 簡単なことだと理解できていた。

 

「余裕そうね。でもスペちゃんはこんなものじゃないわよ? 例えばこう言う攻撃を使って来るの」

 

 そう言うと左腕を上に挙げる。

 そしてその左腕を床に思いっきり向けた。

 向けた瞬間のことだった。

 突然青年の体に大きな重力がかかり、地面に倒れこんでしまう。

 ソウルを見れば、ソウルは赤から真っ青な色に変化していた。

 

「ふふっ。これがスペちゃんの使う青攻撃よ」

 

 体が上手く動かず、立ち上がるだけで精一杯。

 なんとか横に倒れこむことで動くことはできそうだった。

 これが青攻撃か、と青年は驚愕する。

 

「ま、練習程度だし、これしながら攻撃なんてできないから、今回は何もしないわ……今回はね」

 

 最後の言葉に何故か恐怖を抱く。

 一瞬だけど、スズカのその言葉から答えようのない。恐怖感が沸くのだ。

 青年は蛇に睨まれた蛙のような気分になっていた。

 が、いつも通りのニヤニヤした笑みを浮かべると、二人の間のソウルと青年の重力感は消え、スズカは背を向ける。

 

「それじゃあまた後で会いましょ」

 

 そこで青年もスズカに背を向け、別れようとした。

 だがスズカは途中で足を止める。

 そして青年に向かって言った。

 

「もう一つ──忠告しておくわね。人間、私は貴方を、見ているわ」

 

 そう言われて振り返った瞬間には、もうスズカは消えていた。

 忽然と、まるで夢で見ていたかのような、そんな気分になってしまう。

 

 青年は一度呼吸を整え、歩き始めた。

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