DERBYTALE (AU) 作:フラウィー
飛んで来る尖った芝の塊を前から上から横から、掠りつつも避けてエアグルーヴの前へ行く。
だがエアグルーヴは強く踏み込むと、とても素早い動きで青年から離れる。
攻撃しようにも当たる直前でそのように避けられる。
どうしようもなかった。
「……この攻撃を、避け続けるか」
エアグルーヴが投げるように手を振ると、壁から急速に生えた芝の塊が飛んで来る。
芝の塊はまるで槍のように一直線に飛んで来る。
青年はすんでのところでおもちゃのナイフで真っ二つにしてみせた。
だがその先にはエアグルーヴはおらず、天井から降り注ぐ小さな芝の棘によって、ダメージを負う。
今の彼では長時間戦い続けることは不可能だった。
精神的にも、『LOVE』的にも。
そこでエアグルーヴが一度、攻撃を止める、
「……もう戻れ。貴様では私を殺すことはできない」
青年は首を横に振って、力強く踏んで駆け出す。
だが横から飛んできた芝の攻撃に当たってしまい、壁際まで飛ばされる。
体は既にボロボロだった。
しかし青年は立ち上がり、エアグルーヴを見つめる、
その眼差しにエアグルーヴは少し困惑していた。
困惑した一瞬に気づき、青年は走り出す。
「ッ!? なっ……!?」
エアグルーヴは振り上げられたナイフを避けようと動き出そうとするが、咄嗟のことに体が上手いこと動かずよろけてしまう。
完全な隙にエアグルーヴは死を覚悟した。
だがそのナイフが振り下ろされることはなかった。
青年はナイフを振り上げたまま、歯を食い縛って固まっていた。
「な、何を……している。貴様ッ……!!」
青年は動けなかった。
彼にはウマ娘を、人を殺すなんてことはできなかったのだ。
だがエアグルーヴはそんな彼に怒りの声を上げる。
「たわけがッ……!! 殺せッ!! 私を、殺してみせろッ!! その覚悟もなくて、外に出られると思うなッ!!」
だが青年はナイフを降ろし、エアグルーヴに背中を向ける。
エアグルーヴはその背中を見て、声が出なくなる。
何度も見た背中、何度も見送った背中が、そこにある。
もう二度と同じことが起きないようにと、彼女は誓ったはずだったのに。
そう考えた時、彼女の足には自然と力が入っていた。
青年は彼女に何も言わず、ドアを通ろうとした。
だがその瞬間、足元の芝が一斉に燃え上がる。
赤く、熱く、それはまるで怒りのように。
ドアも炎を纏い、どう頑張っても通れそうになかった。
「……通りたいのならば、私を乗り越えてみせろ。さもなくば、私が貴様を殺す」
エアグルーヴはそう言って落ちてくる芝を燃やす。
横から飛んで来る槍のような芝も燃える。
完全にここは炎に包まれていた。
だが青年はナイフを投げ捨て、エアグルーヴを見つめる。
エアグルーヴはその視線につい、攻撃の手を緩めてしまう。
炎が彼を避けるようにして一部分だけ消えたのだ。
「っ……な、ぜだ。なぜッ……! そんな目で、私を……見ないでくれッ……!!」
スッと手を前に、青年に向ける。
すると彼女の後ろから一つの燃えている芝の槍が放たれる。
だがその槍は直前で大きく軌道をずらし、全く別の方向へと飛んで行った。
その攻撃を最後に炎は消え去り、お互いに動かなくなってしまった。
沈黙の時が流れる。
数十秒か、数分か、どのくらい経ったのかわからなくなった頃。
エアグルーヴが口を開いた。
「……わかっている。わかっているつもりだ。貴様は地上が……家族が、恋しいのだろう?」
その言葉に青年は口を開きかけて、何も言わずに頷く。
彼には帰る家がある。
地下ではない、地上に、人間のいる場所に。
「だが、ここから出すわけには……いかないのだ。もし出て行けば……さっき話した通り、皇帝が貴様を始末しにかかる。それだけは、それだけは」
歯を噛み締めて悔しそうに俯く。
何もできないのだ、彼女には。
彼女自身それを理解しているからこそ、彼を外に出すわけにはいかなかった。
だが青年はただ、ここから出なければならない、と言う意思を伝える。
その言葉にエアグルーヴはただ、立ち尽くすしかなかった。
だがしばらく経って、口を開く。
「私は……貴様のような人間一人、守ってやれない愚か者だ。すまなかったな、人間。私のワガママなどに付き合わせてしまって」
そう言って苦笑した。
すると自然とソウルも二人の中へと戻って消える。
今この時を持って、戦いは終わりを告げたのだった。
エアグルーヴが青年の前に行き、そして抱きしめる。
否、これは抱擁だった。
母がまるで、自身の子にするような。
暖かくて、優しいもの。
だがそれも長くは続かずに離れる。
そして青年の目をしっかりと見つめる。
「もう二度とここは戻ってくることはできない。その覚悟はできているんだな」
青年は頷き、ポケットからものを取り出す。
人間用の電話だった。
青年はこれは、返しておきたい、と言う。
だがエアグルーヴは少し考えて、押し返した。
「電話──そうだな、寂しくなったら電話ぐらいしてくれてもいいぞ。私は普段、暇だからな」
そう言って笑うと彼の横を通り後ろを行く。
一瞬だけ後ろを振り向くが、すぐに前を向いて元来た道を戻ろうとする。
だがその前に、彼女は一言だけ呟いた。
「絶対に、生き残ってくれ」
その言葉に青年は振り返る。
だがもう既に、エアグルーヴの姿はなかった。
青年は電話をしまい、正面を向いて歩き出した。
ドアを抜けた先は来た時と同じ、暗い空間があった。
中心には芝、そしてそこにいるのはやはりテイオーだった。
テイオーは何処かイラついているような顔をしていた。
「君は一体なんなのさ。和解しちゃうなんてそんなのあり? 言っただろう? ボクはこの世界は殺すか殺されるかだって……まぁ、いいや。君にだっていつかわかる時が来るさ。その時が楽しみだな」
嫌な笑みとともに地面に潜る。
青年はテイオーの言うことを気にすることなく外に向かって歩く。
青年の旅が今、始まる。
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