シンエヴァ&Qの補完系SSです。空白の14年間、綾波視点。
彼女は何を思い、何をして過ごしていたのか……?

EEEを読み、綾波の描写ももっと欲しかったな……という想いから執筆しました。

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EVANGELION:3.0 (-14years)

「綾波ッ!手を!!」

 

暗い暗い闇の中。彼が私の名を呼ぶ。

 

「来い!!」

 

躊躇う私に、彼は叫んだ。

 

ゆっくりと彼の方に手を伸ばすと、力強く……本当に力強く、彼は私の手を取り、闇の底から引き上げ、抱き寄せてくれた。

 

「綾波……父さんのこと、ありがとう……」

「ごめんなさい。何もできなかった」

「いいんだ、もう。これでいいんだ……」

 

身体の輪郭が溶けていく。全てがひとつになっていく。

あたたかな、光。

 

碇くん……

 

 

———

——

 

 

ふと目を覚ますと、見慣れた狭い空間が目に入った。

ここはエヴァの中。

……初号機の、エントリープラグの中。

 

碇君の匂いがする。でも、どこにも彼はいない。

 

……私も、いない。

意識はハッキリとしているのに、自分の形状が認識できない。

 

碇君と私は、LCLに溶けてしまったのだろうか?

その可能性が高い。

シンクロ率が高まり過ぎると、ヒトの形を失い、エヴァと融合してしまうという話を赤木博士から聞いたことがある。

 

『碇君』

 

心の中で彼の名を呼んでみる。

 

……返事はない。

 

けれど彼がこの中に溶けているのは実感できる。

あたたかくて、優しい、彼の匂い。

その匂いに全身を包まれる心地よさを感じながらも、どうにかして再び彼に会いたいと思った。

 

この意識だけの状態から、どうすれば実体を得ることができるのか。

 

まず、自分自身を具体的にイメージしてみることにした。

頭の先から、身体、足の先まで。

記憶を頼りに、なるべく鮮明に。

 

——目を開けると、青白く光る自身の身体が認識できた。

視覚情報も先程のようにエントリープラグ内全体を見渡していた状態と違い、「自身の目で見ている」という感覚が実感できた。

 

髪や顔にも手を触れてみると、物質としての質量を感じた。

自身を具現化することに成功できたようだ。

衣服は着用していないが、問題はない。

 

立ち上がり、自分の足で歩き、エントリープラグ内を調べてみた。

すると、コックピットの裏の方で碇君の衣服を発見した。

私を助けてくれた時に碇君が着ていた制服だ。

やはり彼はこの中に溶けているのだと確信する。

 

コックピットに座り、その制服を手に取って眺めた。

つい先程のような、もう何年も前のような、私を抱きしめてくれたときの感触を思い出す。

 

『私が消えても、代わりはいるもの』

『違う!綾波は綾波しかいない!!』

 

私の中に鮮明に焼き付いた、あのときの彼の言葉。

 

私には、代わりがいる。それは物理的な意味も含めて。

「私」という個体は複数存在するモノだから。

碇君はそれを知らない。

 

……けれど。

彼の中で、「綾波レイ」に代わるものはない……そう言ってくれたようで、嬉しかった。

 

彼にとって私は、誰かの代わりではない、「私」という個の存在であれたのだろうか。

 

 

今初号機の外はどうなっているのだろうか。

とても静かで……人の気配も、人工物が動く気配も全く感じない。

 

碇君が溶けたこのエントリープラグの中でひとりきり。

 

手元の制服に顔を埋め、抱きしめた。

 

 

碇君……

 

 

———

——

 

 

目を覚まし、彼のことを想い、再び眠りにつく。

そんな日々を延々と繰り返していたら、自分の髪が頻繁に視界に入るようになった。

 

……髪が、伸びている。

 

いつも短くしていたから、気になることはなかったのに。

触れてみると、襟足の方が少し長くなっていた。

ここに来てどれくらい経ったのかはハッキリしないけれど、それなりの月日が経っているということはわかる。

 

今の私は半思念体のようなものだと思っていたが、髪だけが伸びていることに驚いた。

これは、私が生きているということの証なのだろうか。

 

 

———

——

 

 

……また、髪が伸びている。

あれからどれくらいの時が経ったのだろうか。

髪は肩くらいの長さになっていた。

 

過去の記憶や、昔読んだ本の内容を反芻しながら過ごす。

 

昔一度絵本で読んだことがあり、最近原文を読んでみた『幸福な王子』という本。

金箔で飾られた王子の銅像とツバメのお話。

 

貧しい人々を見た王子は嘆き悲しみ、自分の体の金箔を皆に分け与えてほしいとツバメに頼む。

王子はみすぼらしい姿になり果て、ツバメも冬の寒さに耐えられず息絶える。

幸福を分けたはずの街の人の手により銅像は取り壊され、王子の鉛の心臓とツバメの死骸だけが残り、天に召されて、二人は天国で幸せに暮らす……というお話。

 

誰かのために何かをする、ということ。

少し前まではその気持ちがよく理解できなかった。

碇司令やネルフの皆の期待に応えたい……という気持ちはあったけれど、それは「自分の役割」として認識し、その役割を全うしたいという気持ちからのものだった。

 

けれど碇君に出会って……私を気にかけてくれたり、お弁当を作ってくれたり……碇君にもらったものを、私も返したいと思うようになった。

 

碇君が教えてくれた、ぽかぽかする気持ち。

どうしたら碇君にぽかぽかしてもらえるのか。

どうしたら彼が喜んでくれるのか。

 

「碇君のために、私に何かできることはある?」

 

そんな想いを抱いたのは初めてだった。

 

今ならあの本の王子の気持ちも理解できる。

王子は、ただただ街の人たちの笑顔が見たかったのだ。

 

私も、碇君の笑顔が見たかった。

 

碇君と碇指令に仲良くなってもらいたくて、食事会を企画した。

3号機の起動実験の事件があり、結局実行はできなかったけれど……。

 

もしあのとき食事会ができていたら、何かが変わっていたのだろうか。

 

今更何かができるわけでもないけれど、やはり夢見てしまう。

碇君と碇指令が笑顔になって、ぽかぽかしてくれること。

 

もしここから出ることができたら、碇君のために、二人のために、何かをしてあげたい。

そんな日が来るかもわからないけれど、考えることはできる。

 

考えるための時間は、膨大にあるのだから……

 

 

———

——

 

 

髪が背中の辺りまで伸びていた。

 

繰り返す、過去の記憶。

私が生まれて、碇指令やネルフの皆と過ごして、碇君と出会った思い出。

 

私は本を読むのが好きだった。

……『好き』というのも、碇君に言われて初めて気付いたことだった。

 

以前碇君に「綾波って本好きだよね」と言われたことがある。

それまで意識したことがなかったけれど、たしかに幼少の頃からたくさんの本を読んでいた。

 

私……2人目の私がこの世に生を受けた頃は、身体の調整がまだ不完全で、外に出ることができなかった。

ネルフの地下、人工進化研究所の分室で機械に繋がれ、ひとり過ごしていた。

 

その頃、碇司令が一冊の本を私にくれた。

碇指令の本は難しくて読むことができなかった。

でも、読めるようになりたいと思った。

 

義務教育のプログラムを学習し、文字や基礎的な知識を習得した。

ネルフ施設内の図書館には難しい本が多かったけれど、「知識を得ることも大切だ」と副司令が私に絵本を買い与えてくれた。

 

図書館の本は、詩集や短編などの読みやすいものから手を付けていき、いつの間にかどんな本でもすらすらと読めるようになっていた。

 

薄暗い地下の部屋でひとり、本を読み続けていた。

書いてあるもの以上のことを想像することは苦手だったけれど、字を追うと外の世界を少し覗き見できたような気がして、知識欲が満たされた。

 

 

月日が経過し、技術の進歩と共に身体の調整も落ち着き、投薬と定期的なメンテナンスをしていれば外にも出られるようになった。

 

私が外の社会に出たのは中学一年のとき。

学校には同じくらいの歳の人間がたくさんいた。

 

学校で声をかけられてもどう返せばいいのかよくわからず、少し経つと皆話しかけてこなくなった。

一人の方が落ち着いて本が読めるし、一人が好きだった。

 

 

——そして、彼……碇君に出会った。

 

碇指令の息子。はじめはただそれだけだった。

エヴァに乗る理由に悩み、自身の存在意義に悩み、お父さんに複雑な思いを抱いている、男の子。

 

エヴァでの戦いや日々の交流の中で、彼の強さと優しさを知った。

私をまっすぐに見つめる彼の瞳に、私はいつのまにか捕らえられていた。

 

碇君は、私にたくさんの「初めて」をくれた。

 

「ありがとう」という言葉を伝えたのも彼が初めて。

「嬉しい」「楽しい」という気持ちも彼が教えてくれた。

 

自身に刻まれていく様々な気持ちを自覚して、世界が色付いていった。

今まで無意識に見ていた空も、道端の花も、本の中の世界も。

世界は鮮やかな色を持っていた。

 

碇君が、私を変えてくれた。

そんなことに今更気付くなんて。

 

……碇君。

碇君に、会いたい。

 

 

———

——

 

 

髪の長さが、腰の位置まで伸びていた。

 

今までにあったこと、読んだ本の内容、碇君のこと。

もう何度繰り返したかわからない。

 

碇君。

碇君に会いたい。

 

——サミシイ。

 

ずっと考えないようにしていた。

自覚してしまったら、もう耐えられないと思った。

 

どうして会えないの?せっかく私を助けてくれたのに。一緒にいられると思ったのに。

 

私は今、「寂しさ」を感じている。

ひとりでいるのは平気だった筈なのに。

彼との色鮮やかな思い出を繰り返して、懐かしさを感じて、それだけで十分だと思ったのに。

 

あなたに聞きたいことがたくさんある。

会いたい。会いたい。

 

——そのとき、ぽた、と何かが膝の上に落ちた。

 

「え?」

 

温かい、水の粒。

はらはらと流れ落ちるそれを手で受け止めた。

 

「これは……涙? 泣いているのは、私?」

 

サミシイ。さみしい。寂しい。

寂しくて押しつぶされそう。

 

「……碇君」

 

碇君に会いたい。

 

彼のイメージを強く持ったら、私自身のように彼も具現化できるのではないかと思い、何度も試してみたことがある。

けれど結果はいつも失敗。

 

一度、彼の所有していた音楽プレーヤーだけを具現化することができた。

再生ボタンを押したが、音は出なかった。

 

彼がここにいてくれたら、という気持ちだけではダメだった。

でも今は違う。寂しい気持ちが溢れて、止められない。

 

——また失敗するかもしれないけれど、もう一度試してみよう。

 

何度も抱きしめた彼の制服をコックピットに置き、少し離れる。

 

どうしても会いたい。

祈るように、彼の姿をイメージした。

 

いかりくん——

 

LCLが激しく泡立ち、強い光がプラグ内を満たした。

あまりの眩しさに目を瞑り、再び瞼を開くと——

 

「……っ!!」

 

そこには、制服姿の碇君がいた。

 

「いかり、くん……?」

 

青白く光っている私の姿とも違う。

肉体を持つ碇君。

 

「碇君……!!」

 

涙が溢れた。

先程は寂しくて寂しくて涙が流れていたのに。

いつか碇君が言っていた「嬉しいときにも涙が出るんだよ」という言葉。

今私が流しているのは、きっと嬉しい涙。

 

恐る恐る、頬に触れてみた。

 

……柔らかい。けど、冷たい。

息をしていない。脈もない。ここにいるのは彼を形作る「器」だけ。

きっと彼の「魂」はこことは違うところにある。

 

あの音楽プレーヤーも、碇君も、「器」しか具現化することができなかった。

 

それでも。

それでも、彼の顔を見られたことが嬉しかった。

 

冷たい彼の手に触れる。

私の手を取り、抱きしめてくれた、私より少し大きな、碇君の手。

 

閉じられた瞳。伏せられた睫毛。

私はコックピットの淵に座り、彼を眺めた。

 

もう、孤独ではなかった。

 

 

———

——

 

 

また、髪が伸びた。

座ると床に広がる程までに伸びた髪は、途方もない年月の経過を物語っていた。

 

眠り続ける碇君の手に自分の手を重ね、彼の横で眠る日々。

 

頬に触れたり、髪を撫でたりもした。

物語のお姫様のように口付けで目覚めないかと思い、試してみたこともある。

けれど彼は何の反応も見せなかった。

 

魂がないからか、私と違って彼の髪は伸びなかった。

 

私だけがひとり、ここに生きていた。

 

 

———

——

 

 

ある日突然、機体が揺れた。

 

状況が正しく掴めないが、見知った人達の声が聞こえた。

2号機の人の声と、あの使徒が来た時に2号機に乗っていた人、そして葛城一佐の声。

 

この初号機をどこかから回収しようとしている?

 

続いて、戦闘しているような激しい音と衝撃があった。

 

苦しみ、叫ぶ2号機パイロットの声が響く。

 

「なんとかしなさいよ、バカシンジ!!」

 

その時、コックピットに座る碇君の手がピクッと反応を見せた。

瞬間、エントリープラグ内の視界がクリアになり、外の様子が見える。

 

バシュッ

 

初号機から光のようなものが発せられ、目前の何かを破壊した。

 

すぐに初号機の起動は停止し、再び視界は元の狭いインテリアに戻った。

 

 

——そして、私たちを乗せた初号機は、見知った人たちの見知らぬ組織に回収されることとなった。

 

 

 

 

ここは、「ヴィレ」という組織が所有する「AAAヴンダー」という戦艦の中。

 

初号機が回収された後、周辺の会話が機内に聞こえてきた。

そこから状況を理解する。

 

あの使徒が来たときから14年の月日が経ったこと。

あの出来事はニアサードインパクトを起こし、世界を半壊させたこと。

このヴィレという組織は、ネルフと敵対していること。

 

初号機は回収されてすぐ、赤木博士の指示で中を確認された。

カメラで碇君の姿が見えたことに驚いていたが、私の姿は見えていないようだった。

 

肉体の再構成は必要なく、精神の定着作業をするという指示。

科学の力とはいえ、人智を超えている業だと感じる。

 

「検体 BM-03、拒絶反応なし。自我境界パルス、接続完了」

「了解、サルベージスタート」

 

オペレーターのアナウンスと赤木博士の指示に続き、LCLが泡立ちはじめる。

 

そして……彼の顔に、生気が戻った。

魂の定着とサルベージが成功したのだ。

 

『碇君』

 

声を掛けると、かすかに瞼と指が動いた。

でも、目覚めない。

 

『碇君……碇くん』

 

身体に触れ、揺すりながら声をかけてみるが、彼が私に気付くことはなかった。

 

 

すぐにハッチが開き、作業員がプラグ内の碇君を回収していった。

一緒に音楽プレーヤーも取り出され、パシュッとハッチが閉まる。

 

……そして、また私は一人になった。

 

 

 

 

「非検体 BM-03、心肺機能正常。問題なし」

「これよりシンクロテストを行います」

 

まだ目覚めていない碇君の身体に計測器が取り付けられ、実験が行われていた。

 

もし彼が目覚めたら、またエヴァに乗せられて、戦わせられるかもしれない。

それだけは避けなければいけない。

 

私はコックピットに座り、初号機の操縦管を握った。

 

——碇君がもう、エヴァに乗らなくていいように。

 

「一次計測結果出ました。……シンクロ率、0%です」

「おかしいわね。身体組織のデータは一致しているのに」

赤木博士の声。

 

「引き続き、深層シンクロテストもお願い」

「わかりました」

 

「そちらの方が都合がいいわ。彼はもうエヴァに乗る必要はないのよ」

葛城一佐……ここでは艦長と呼ばれている、彼女の声。

 

ヴィレの人たちは碇君をエヴァに乗せたくないらしい。

それは私の意思とも合致していた。

 

 

 

 

ヴィレに回収されてから、数日が経過した。

 

初号機はヴンダーの艦体に組み込まれ、動力源として扱われるらしい。

 

制御回路が接続された為、ヴンダー内の室内カメラ映像にアクセスして艦内全体の様子や音声も確認できるようになった。

 

一人でいたとき……目覚めない碇君と一緒にいたときとは違う。

人がたくさんいて、寂しくない。

 

私がよく知っている人たちも、知らない人たちも。

皆、それぞれに信念を持ち行動していた。

 

 

——そして、碇君が目覚めた。

 

彼はストレッチャーに乗せられ、運ばれている。

 

「ここは……どこですか?」

 

「言葉は話せます。意識は戻ったようです」

 

医療担当者の少女は、碇君の質問には答えずに連絡を続ける。

 

「たしか……綾波を助けて……」

 

「あの……綾波は?」

 

……碇君が私の名前を呼んでいる。

記憶はあのときのままのようだ。

懐かしい声。私も碇君とお話したい。

 

『碇君、私はここにいるわ』

 

声を出すが、彼には届かない。

 

 

碇君は艦内の発令室に通され、葛城艦長と赤木博士と対面する。

そして浴びせられる、冷たい言葉達。

狼狽える碇君。

 

——そのとき、艦内に突然のアラート音が響いた。

パターン青。……使徒の信号。

 

艦内は戦闘態勢に入り、オペレーターや搭乗員は慌ただしく準備をする。

 

「全艦、発進準備!主機、点火準備!」

 

葛城艦長の指示に、異を唱える赤木博士とオペレーター達。

この光景すら懐かしい。

 

「アスカ!」

「もうやってる。要は点火器をぶち込めばいいんでしょ?」

「頼むわ」

 

14年の間に築かれた信頼。

この一瞬のやりとりでも、その関係性が伝わってきた。

 

「ミサトさん!初号機ここにあるんでしょ!?僕も乗ります!アスカを手伝います!!」

 

「碇シンジ君。あなたはもう、何もしないで」

 

「……!!」

 

サングラスを外した葛城艦長の瞳は……以前の彼女と同一人物とは思えない程の冷たさだった。

 

 

 

 

使徒を倒すために、2号機パイロットが動力源に点火をするという指示。

それはつまり、この初号機が使われるということ。

碇君のことも気になったけれど、今は使徒殲滅が優先。

 

点火されても、初号機が無事に機動しなければ意味がない。

迫り来る使徒を倒すために、私も戦闘の準備をする。

 

コックピットに座り、意識を集中した。

 

「点火!」

「でええええぇぇい!!」

「行くわよ、ヴンダー、発進!!」

 

初号機にエネルギーが注入され、機体が機動した。

プラグ内が明るくなり、視界が開ける。

初号機との神経接続に集中すると、艦体が浮上した。

 

ヴンダーの操縦自体は、発令室で行われているようだ。

私は動力が失われないよう、出力を安定させるように初号機を制御した。

 

 

葛城艦長とクルー達は艦体を大胆に利用し、戦闘に勝利した。

 

「これが『神殺し』の力……ヴンダー、まさに希望の船ね」

 

 

 

 

「検体 BM-03、仮称 碇シンジさん。副長から説明があるそうです」

 

碇君はガラス張りの部屋に通される。

 

首に装着された、「保険」と呼ばれた謎のチョーカー。

2号機パイロットとの邂逅。

初めて知らされる「14年の経過」という言葉に、動揺を隠せない碇君。

 

無理もない。

私はその年月の実感を得ていたから驚かなかったけれど、碇君はつい先程目覚めたばかりなのだから。

 

何もわからない碇君に怒りをぶつけ、去ろうとする2号機パイロットに碇君は問う。

 

「ちょっと待ってよ!アスカなら知ってるだろ!?ねえ、綾波はどこなんだよ!!」

「知らない」

「知らないって……助けたんだよあの時!」

「人ひとりに大げさね。もうそんなことに反応してる暇なんてないのよ、この世界には。そうでしょ?葛城大佐」

「アスカッ!!」

 

彼女はそのまま立ち去ってしまった。

 

「ミサトさん!綾波はどこなんですか!?教えてください!!」

「シンジ君……綾波レイはもう存在しないのよ」

 

信頼していた上司からの冷たい言葉。

私の存在の否定。

 

「いいえ、確かに助け出したんです。きっとまだ初号機のプラグの中に居ます!よく探してください!!」

「当然、既に初号機内は全て探索済みです。結果、発見されたのはあなたと……何故かこれが復元されていたわ」

 

赤木博士が淡々と伝えると、ダッシュボードからあの音楽プレーヤーが引き出された。

 

「検査結果に問題はないので、返還しておきます」

「父さんの……? あのとき綾波が持ってた……やっぱり助けたんじゃないか!!」

 

碇君はそれを手に取り、思い詰めるような眼差しで見つめた。

 

……碇君、あなたは間違ってないわ。

あなたは私を助けてくれた。

だから私は今ここにいる。

 

知覚もされず、ここから出られないけれど、確かにここに生きている。

だからそんな顔をしないで……?

 

ことごとく否定される彼を見るのは辛かったけれど……こんなにも碇君が私を求めてくれているということを知って、胸が熱くなった。

 

碇君が私に会いたいと思ってくれている。

それを知ることができただけでも、この14年感の寂しさが埋められていくのを感じた。

 

 

——突然、鈍い爆発音が響いた。

 

葛城艦長は内線を取り、状況を確認する。

 

「本命のお出ましか」

 

「全艦、第一種戦闘配置!初号機保護を最優先!」

 

本命……ネルフ側の攻撃?

指示の内容からも、この初号機を奪還しに来た可能性が高い。

 

「ミサトさん!リツコさん!一体何が来たんですか!?新しい使徒ですか!?」

 

そのとき、声が響いた。

 

——「碇君、どこ」

 

誰? 私……の声?

 

「綾波……?今の、綾波の声ですよね!?ミサ……」

 

碇君の前にあるガラスの透過がなくなり、白い壁に変化する。

 

「なんだよもう!!」

 

碇君は壁を叩き、行き場のない怒りをぶつけた。

 

「準備できました!碇さん、こっちへ!」

 

それでも碇君は動こうとしない。

 

そんな彼の元に、再び声が届く。

 

——「碇君、どこ?」

 

やはりこれは、私の声。

きっと私の……別の、新たな個体の声。

 

「やっぱり綾波だ……」

 

碇君は壁を叩き、声を押し出す。

 

「くっ……綾波ですよ!!……ぐっ」

 

「碇さん、急いで!」

 

「もういいよ……綾波!ここだ!!」

 

碇君が叫んだ瞬間、部屋の壁が爆発で吹き飛んだ。

その穴から覗いたのは……見慣れた機体によく似た姿。

 

「エヴァ……0号機?」

 

開いた風穴から、手が差し出される。

 

「碇君、こっちへ」

 

碇君はその大きな瞳を見て立ち尽くしていた。

続く、爆撃。

 

「やめてください!相手はエヴァですよ!?」

「だからこそよ!ネルフのエヴァは全て殲滅します」

「ネルフ?ここもネルフじゃないですか!」

「私たちは『ヴィレ』。ネルフ壊滅を目的とする組織です」

 

碇君には、このときに初めてこの組織の存在と目的が伝えられた。

 

「そんな……いや、でも乗ってるのは綾波なんですよ!?」

「違うわ!レイはもういないのよシンジ君」

「嘘だ!だってここにいるでしょ!?」

 

「ミサトさんのわからずや!もういいよ!!」

 

そう吐き捨てると、碇君は大きな掌の上に飛び乗った。

 

待って、碇君。それは私じゃない。

行ってはダメ。

 

その掌が優しく閉じられ、穴から引き抜かれる。

 

『碇君!!』

 

——私の叫びも空しく、彼には届かない。

 

……0号機に似た機体は追撃をもろともせず、一瞬で飛び去っていってしまった。

 

チョーカーのスイッチを押せなかった、葛城艦長。

その姿を見つめる、赤木博士。

 

ネルフの目的は初号機奪還ではなく、碇君の回収だった。

 

 

 

 

——碇君が行ってしまった。

私の声は、届かなかった。

 

私は考えを巡らせる。

 

碇君が回収されたことには意味がある。

ネルフ側は、碇君を目的遂行の為に利用しようとしている。

碇君はまたエヴァに乗せられてしまう。

 

ヴィレの目的はネルフの壊滅。

この戦艦が前線に赴くのは確実。

 

そして、初号機。

この初号機がずっと封印されていたことも、先程のヴィレ側の反応からしても、ネルフはいつかこの初号機を奪いに来る筈。

 

ここにいれば、また会える時が来る。

 

ネルフには碇司令がいる。

以前、碇指令は私を使って自身の計画を遂行しようとしていた。

……でもきっと、私はもう碇司令には必要ない。

 

私は、碇君と碇指令に仲良くなって欲しかった。

碇君がネルフに行くことで、二人の距離が縮まるとは到底思えない。

 

これから、ヴィレと、ネルフが相対して。

この初号機がネルフの手に渡り、最後の計画が遂行されようとするとき。

……碇君は、碇指令を止めようとするのではないかと思う。

 

 

もし碇君が、碇司令……お父さんと、話がしたいと言うのならば。

もしそのために、この初号機が必要になるのならば。

 

……そのときは、碇君をここに迎え入れよう。

 

 

もし碇君が「誰かに利用されてエヴァに乗せられる」のではなくて、彼が"彼の意思で"エヴァに乗ることがあるとしたら。

それが「彼のしたいこと」「彼がすべきこと」で、「彼自身の望み」なら。

 

……そのときは、碇君の意思を尊重しよう。

 

 

それまでは私が代わりに乗る。

 

コックピットに座り、強い意思を持って操縦管を握った。

 

 

だから、私はここでいい。

 

いつか碇君が、また私の名前を呼んでくれるその時まで———

 

 

【Q本編へとつづく】

 


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