初期の頃と今とでだいぶ文体違うなぁ、とかなんとか
では本編をどぞ!
年も明け日は進んで春、時は止まることもなく季節は流れていく。
それでも日常は変わらず平穏なままである。
─北星家邸宅
「ただいまー、あれ? 父さん。お仕事の方は一段落ついたの?」
「あぁ、入学式シーズンも終わって、書類とのにらめっこ生活ともしばらくはおさらばさ。」
そう言ってハハハと笑う大柄な男の名は
彼は昔、世界で戦う総合格闘家だったが、引退後、昔のツテを使って作った警備派遣会社、今では日本国内シェアの多数を誇る大手企業の“北星総合警備派遣会社-KGDO(kitaboshi-guardsmen-dispatch-office)-”の社長を勤めている。
普段は仕事が忙しく、余り家に帰って来ない彼だが、今日は一段落付け、帰って来ていた。
「ゆとりがあるのは良いことだ。こうして愛娘達の顔が見れるし、何より、七海ともこうして会えるからな。」
そう言うと義仁は20代と言われても信じられる程の美貌と若さを保つ南美の母親、
「ちょっとアナタ、びっくりするじゃない。それに南美が見てるわ。」
「じゃあ見てなかったら良いのかい?」
七海の赤くなった顔を覗き込みながら義仁が尋ねる。
その質問に顔をますます赤くさせた七海は体をもじもじとさせる。
「当たり前じゃない。会えなくて寂しかったんだからね…?」
「ごめんな七海、お詫びに今度仕事が忙しくなるまで我が儘聞くから。」
「もうアナタったら…。ん…ちゅ…。」
七海と義仁は娘のいる前だというのにキスを始める。だが南美はもう慣れきっているのか、“はいはい、ご馳走さま”と言いながら自室に入っていった。
結婚から18年になるこの夫婦だが、いまだ新婚さながらのラブラブ加減を見せているのだ。
side 南美
まったくもう、毎度のことだけど両親のバカップルぶりには付き合いきれないわ…。
普通娘の目の前でキスなんかするかぁ? それもあんな、お、大人なキス…。
私もいつか誰かと…。
ふにゃあぁぁああっ!!?
自分で想像したことなのにスッゴい恥ずかしい…。
でも、顔がすごいにやけちゃう…、こんな顔誰にも見せらんないよ。
結局この日は悶々としてあまり寝られなかった…。
side out...
「フゥゥ、シャオッ! ショオッ!!」
「ぬぅぅ、でぇりゃぁ!」
日曜日の早朝、北星家邸宅内にあるジムに置かれたリングの上で、ある二人が拳を交えていた。
南美の鋭いローキックを片足を前に出して受ければ、そのまま義仁は短頸の要領で拳を突き出す。だが、南美もそれを腕を使って受け流しながらその流れで裏拳を打ち込む。
一瞬のうちに幾重ものフェイントや、本命への攻防をこなす二人、刹那の攻防を終えた二人は同時に飛び退き、距離を開けた。
二人の荒々しい呼吸と流れ落ちる大粒の汗からその凄まじさが窺える。
「また強くなったな、南美…。我が娘ながら末恐ろしいな、どれ程強くなるのやら…。」
「父さんは逆に鈍ったんじゃない? やっぱり最近は書類仕事しかしてないせい?」
「ハハハ、娘にそう言われるとはな。だが、まだまだお前には負けてやれんぞ。父親としての威厳がかかっているからな。」
「私はいつか父さんを超えるわ。言ったはずよ、父さんの背中を見てここまで来たと…。」
「嬉しいことを言ってくれるな。ならばまだこの背中を拝ませ続けてやろう。」
言葉を交わし終えた二人は再度構えを取る。
彼らの表情は父娘のそれではなく、好敵手との一戦を前にした猛者のそれであった。
「フゥゥ、ショオッ!!」
「なんのぉ!」
南美の放った左の手刀突きに対して義仁は右の正拳突きによるクロスカウンター。
両者とも顔を横に逸らして回避し、次の一手に出る。
義仁は右腕でそのまま南美の左腕をロックし肘関節を極めようとする、だが南美は瞬時にそれを察知し左腕を捻ってロックから逃れた。
そしてがら空きになっている義仁の鳩尾めがけて右膝を放つ。
「流石は父さんね、これをガードされるとは思ってもみなかったわ…。」
「ふん、ギリギリだったがな。」
南美の放った膝は寸でのところで義仁の左手で受け止められていた。
「行くぞ!!」
「はいっ!!」
体勢を立て直した二人は拳を引く。
そして限界まで緊張した空気が一気に解き放たれ、二人は同時に拳を突き出す。
「二人とも~、そろそろご飯よ~。」
その声と同時に二人の拳が互いに当たる寸前で止まる。
「仕方ない、今日はここまでにしよう。」
「そうね、私はシャワー浴びてから行くって母さんに伝えておいてちょうだい。」
「そのくらいなら御安い御用さ。じゃあ、先に行ってるぞ。」
義仁はタオルで汗を拭いながら部屋を去る。
南美は義仁が完全に去ったのを確認してからジムに併設されているシャワールームに向かった。
ジムと言ってもあくまでこのジムはスパーリングを行うために義仁が建てたものなので、筋トレ用具はベンチプレスやスクワットなどの簡単な物しか置いておらず、代わりにサンドバッグやスパー用のミットなどがある。
思春期の娘の為にシャワールームまで完備する徹底ぶりだ。
南美はシャワールームのボイラーを着け、更衣室に入る。
用意していたスポーツドリンクを飲み干し、一息いれてから、シャワーを浴びる準備を始めた。
さっきまで着ていた汗だくのシャツを脱ぎ、籠の中に入れる。よほど汗を吸っていたのか籠の中に放り入れると小さく水音がした。
衣服を脱ぐと、その均整の取れた体が露になる。
無駄のない引き締まった体、けれども女性らしい柔らかな曲線を描く肢体はさながら芸術のようでもある。
だが…、
「ハァ、なかなか大きくならないなぁ…。」
南美本人は気にしていた。
自身の背の高さに見合わない胸部の小ささを。
というのも、南美が行くTRF‐Rにはカセンというナイスバディな店員がいる。
その圧倒的な胸部の差は南美の劣等感を刺激し、今ではその事を弄るだけでキレられる。
格闘技をやる上では邪魔になるだけなのだが、それでも少しは大きくありたいという複雑な乙女心である。
シャワーのノブを捻ると少しばかり熱い湯が出る。
お湯は南美の肌を流れ、床のタイルへと落ちていく。
(もう少し大きかったらペタいとか壁とか言われないんだろうなぁ…。)
シャワーを浴びながら南美は自身のコンプレックスに手を当てる。
(男の人ってやっぱり大きい方が好きなのかな? もしそうなら…。いやいやいや、恋人のこの字もないのに何を考えてんのよ!)
喝を入れるように自分の頬を叩く。
頬にほんのりと赤く手のひら形の跡がついたが気にしない。
汗を流し終えた南美は体を拭き部屋着に着替えた南美はおいしい朝食の待つ母屋に向かった。
「母さんおはよう。」
「はい、おはよう。さぁ朝ごはんを召し上がれ。」
食卓に置かれているのはほどよく焦げ目のついたトーストに黄身が半熟気味に焼かれた目玉焼き、ジューシーさを窺わせるベーコンと瑞々しいサラダ。
北星家の日曜日いつものメニューである。
「いただきまーす。」
手を合わせてお辞儀をする。
幼い頃から食事に対する礼儀を母親から教え込まれた南美にとってこの動きは無意識でも行うほどに身に付いた行動である。
さっそくトーストを1枚手にとってかじりつく。サクッと軽快な音と共に芳ばしい匂いが鼻腔をくすぐる。
「ん~、おいしい。流石は母さんね。」
「当たり前よ。私は胃袋を掴んで結婚したのよ?」
「はいはい、母さん達の馴れ初め話はもう聞き飽きたわ…。何かある度にいっつも言うんだもの、もう暗記しちゃった。」
ご満悦な表情を浮かべる母親を見て、南美は溜め息をついた。
“仲がいいのは良いんだけどねぇ”と心の中で呟きながらトーストをかじる。
「今日もジムに行ってくるからお昼はいらない。」
「今年で中学最後の大会だものね。頑張ってらっしゃい。」
「南美の活躍はいつも見ている。俺も鼻が高いぞ。よく頑張ったな。」
「…うん、ありがとう。」
ぶっきらぼうにそう言って南美は顔を二人から背ける。
その顔に若干の照れが浮かんでいるのは秘密のことだ。
「お姉ちゃん、頑張ってね。」
「うん、ありがとう天慧。お姉ちゃん頑張るね。」
優しい笑顔を浮かべ妹の頭を撫でる。
撫でられている天慧の顔にも満面の笑みが浮かんでいる。
北星家はいつもこんな感じ。