ダンジョンでヒーローを目指すのは間違っているだろうか 作:茶々丸さん
1話 出会い
「キャァァァァァ!!」
薄暗い洞窟の中に響く叫び声。
少女が死に物狂いで洞窟の中を駆けていた。
「ヴモォォォォォォ!!!!」
(なんで!?なんで…どうしてここにミノタウロスが居るの!?!?)
ミノタウロス、人型の身体に牛の頭を持った化け物は逃げ惑う少女を徐々に追い詰めていた。
そして遂にミノタウロスは少女を壁際まで追い詰めた。
ガタガタと震える少女が死を覚悟したその時だった。
「…SMAAAAAAAAASH!!!!!!」
「え……」
「もう大丈夫……僕が来た!!」
これが迷宮都市・オラリオで後の平和の象徴と竈の姫の出会いであり、死した英雄の卵が再び英雄になるまでの物語。
洞窟、ダンジョンでミノタウロスと遭遇する少し前。
僕、緑谷出久は今自分の身に起きていることに理解が追いつかず動けずにいた。
自身の意識では先程までヒーローインターンで少女に対して非道な行いをしていたヤクザ、死穢八斎會の若頭である治崎廻と戦いそして━━━━━。
「ッ……」
そこまで思い出し僕は顔を俯かせる。
ナイトアイは致命傷を負い、ルミリオンは個性を失った。
治崎によって虐げられていた少女、壊理ちゃんを救いたいと思い立ち上がった僕は……。
「キャァァァァァ!!」
(悲鳴!?ってそういえばここ何処だ!?)
訳も分からない状況に戸惑ったが何処かで悲鳴を上げる人が居る。
それだけで動かない理由にはならない!
「OFA……フルカウル!」
あまり期待はしていなかったがこの身にOFAが残っていることに喜びを覚えながら今僕に出せる最大出力のOFA・フルカウルで悲鳴の発生源まで駆け抜けた。
駆け抜けた先に待っていたのは壁際でガタガタ震える少女と少女に覆い被さるように壁に手をつけて暴れる牛の頭を持った化け物だった。
(なんだあれ!?異形型の個性か……?)
「ヴモォォォォォォォォォォ!!!!」
(駄目だ……!正気じゃない!仕方ないか)
「SMAAAAAAAAASH!!!!」
足が壊れないギリギリの出力の蹴りを化け物に叩き込んだ。
「ヴモッ!?」
「え…?」
化け物は突然の意識外から攻撃に呻き声を上げながら吹き飛び、そして少女はいきなりのことに目を丸くしていた。
僕は未だに肩を震わせる少女を安心させようと声を張り上げて言った。
「もう大丈夫……僕が来た!!」
「あ、貴方は……」
「僕は……デク。立てる?」
「え、あ……ごめんなさい。腰が……」
身体を牛頭の化け物に向けながらも視線を後ろの少女に向けて問いかけた。
腰が抜けて立てずにいる少女は大粒の涙を零しながら謝る。
「ここの出口……分かる?」
「え、は、はい。」
「僕が君を運ぶから案内してくれるかな?」
「あ、はい」
「ヴモォォォォォォォォォォ!!!!」
「ヒッ!?」
倒れていた牛の頭の化け物は起き上がると怒りに震えながら咆哮する。
今の最大出力で仕留めきれなかった。
腕や足を犠牲にした100%を放つことも考えたが後ろに少女が居る以上動けない木偶の坊になる訳にはいかなかった。
なにより、あの時の二の舞にはしたくなかった。
「で、デクさん……ミノタウロスが来ます!」
「ミノタウロス……確かに耐久度は高いかもしれない……けど、スピードなら負けない!」
僕は少女を抱き上げるとフルカウルの最大出力である20%で洞窟の中を走り抜けた。
身体が軋む音を聞きながら少女の無事だけを考えながら少女の案内の元、この洞窟、ダンジョンの出口に向かった。
やっとの思いで洞窟を出るとそこには中世を思わせる街並みに犬や猫を思わせる耳や尻尾を持った人に長い耳の美しい人達が行き交っていた。
「な……どういうことだ?あ!そうだ!君って気絶してる!?」
動物の耳や尻尾、長い耳は異形型の個性であれば珍しくはない。
実際、クラスメイトの常闇は鳥の嘴を持っていたのだから。
しかし、中世の街並みに疑問が湧き今まさに自分の腕の中に居た少女に聞こうと視線の先にいた少女は気絶していた。
妙に周りの視線が痛かったのはこれが原因だったようだ。
とりあえずこの状態はまずいと思い近くの建物へ向かおうとした時だった。
「ベル……?」
「?……お知り合いですか?」
「うん……で、貴方は?なんでベルを抱えてるの?」
「え、あ、ち、違うんです!この子、化け物に襲われてて!なんとか助けたんですけど気絶しちゃってて……。」
「……分かった。ついてきて。」
「あ、はい。」
犬耳の女性に話しかけられたが少し警戒していたので慌てて事の経緯を説明するとなんとか納得してくれたようで女性の案内をする場所について行った。
案内された場所は医療所のような場所だった。
「ここは……?」
「ミアハ・ファミリアのホーム。」
「おや、おかえりナァーザ。ベルじゃないか…それにそちらは…?」
「あ、僕は緑谷出久と言います!」
「ミドリヤイズク…私はミアハ・ファミリアの主神ミアハだ。君はベルの知り合いかな?」
「あ、いえ、洞窟で化け物に襲われていた所を助けただけで初対面なんです。」
「なるほど…君には礼を言わないとね。ベルを救ってくれてありがとう。」
「え、いや、そんな!お礼を言われる様なことは!それよりベルちゃんを!」
「そうだったな。部屋まで案内しよう。」
その後少女、ベルちゃんを病室に運んだ後改めてミアハさんに事の経緯を説明した。
「牛頭の化け物……5階層にミノタウロスとは……よく生きて帰ったものだ。改めて礼を言う、ありがとう。」
「顔を上げてください!あの、聞きたいことがあるんですが……」
「?私に答えられる事ならなんでも答えよう。」
「ありがとうございます!それで、ここは一体何処なんでしょうか?」
「?……ここは迷宮都市オラリオ。それを知らずにダンジョンに潜ったのか?」
ダンジョン、迷宮都市オラリオ、次々と出る聞き覚えのない単語にあまり想像したくない結末が頭に浮かび上がってくる。
「つかぬ事を聞くが……君はどこのファミリアに所属しているのだ?」
「ファミリア?」
「神の眷属の事だ。」
決定だ……ここは僕の知ってる世界じゃない。
僕は異世界に来てしまったんだ。
ミアハさんにファミリアに所属していないことを告げると心底驚いていた。
どうやらファミリアに所属する際に神から恩恵なるものを授かるのだが、その恩恵にはレベルがありレベル2以上でないと本来ミノタウロスに勝つことはおろか逃げることすらほぼ不可能に近いようだ。
そうこう話している内に外は暗くなってきていた。
「イズク、寝る場所はあるのか?」
「あ、」
話に没頭していて忘れていた事を思い出し顔を真っ青にしていると。
「ベルくん!!!!」
「ヘスティアか。」
「ベルくんは大丈夫なのかい!?」
「あぁ、気絶しているだけだ。」
「はぁ〜良かった……それで君がベルくんを助けてくれた子かい?」
「あ、はい。ミドリヤイズクです。」
「イズクくんだね。ありがとう。ボクは唯一の眷属を失う所だったよ。」
「唯一……?ヘスティアさんはベルちゃんしか眷属が居ないんですか?」
「はは、恥ずかしながらね。ボクたちは零細ファミリアなんだ。まだ出来て数ヶ月さ。」
ヘスティアさんは苦笑いを浮かべながら自身のファミリアの現状を語っていく。
眷属はベルしか居ない現状、稼ぎ頭はベルしか居ないこと、ヘスティアさん自身もバイトを掛け持ちしていること。
なんだか可哀想に思えてきたその時だった。
「うむ、提案なんだが……イズク、ヘスティア・ファミリアに入団するというのはどうだ?」
「僕がヘスティア・ファミリアにですか?」
「み、ミアハ?それはボクとしても願ってもないことだけど……イズクくんの意志を尊重しなくちゃ」
ミアハさんの提案にヘスティアさんはオロオロとしながらも僕の様子を伺うようにチラチラと視線をこちらに向けていた。
「いえ、僕からもお願いします。ヘスティアさんのファミリアに入れくれませんか?」
「ほ、ほんとかい?」
「ほんとです。」
「嘘じゃないかい?」
「嘘じゃないです。」
「……い、やったぁぁぁぁぁ!!ありがとうイズクくん!ボクにも2人目の眷属が出来たぞー!!」
あまりの喜びように僕も思わず笑みを零した。
この後、ヘスティア・ファミリアのホームを見てより一層頑張ろうと心に決めたのはまた別のお話。
※※※※※
あれからベルも目覚めて廃れた教会の地下、ヘスティア・ファミリアのホームではささやかな歓迎会が催されていた。
「イズクくんの入団を祝して、かんぱーい!」
「わぁ!一緒のファミリアに所属出来て嬉しいです!デクさん!」
「あはは、ありがとうございます。」
僕は照れくさくなり少し頭をかきながらグラスを突き出した。
「ちょっと気になってたんだけど、ベルくんはどうしてイズクくんをデクって呼ぶんだい?」
「あ、それは、私がミノタウロスに襲われてデクさんが助けてくれた時にそう名乗ってたので」
今更ながらしまったと思った。
あの時はここが異世界だとは思っておらずヒーロー名で名乗ってしまった。
「あー、実は僕、故郷で人助けをしてまして……その時の僕の呼び名がデクで……」
「へぇ〜どんなことをしてたんだい?」
「あ!私も気になります!」
そこから僕は元の世界の事をふんわりとだが話し始めた。
もちろん異世界であることは伝えていないし、ウソも言っていないがホントの事を言っているわけでは無かったから少し心が痛むのを堪えて話続けた。
夜も深け、ベルはベッドですやすやと寝息を立てていた。
「今日はありがとうございます。僕の為だけにこんなに盛大に祝って貰っちゃって。」
「気にしないでおくれ。僕もベルくんも嬉しかったんだからさ。」
優しい笑みを浮かべそう話すヘスティアさんの姿に何故だか母を思い出し、
「泣いてるのかい……?」
「え、あ、あれ、これは」
「ふふ、君は強いのに泣き虫なんだね…」
「あの、これは、」
「今は聞かないよ。いつか君が打ち明けてくれる日を待ってる。それがボクが君にしてあげる事が出来る数少ない事だしね。」
あぁ、見透かされていたのか……と改めて神の凄さを思い知らされたと同時に知り合いはおろか法則すら全く違う世界に1人、いくらヒーローになる為に頑張ってきたとはいえ所詮は子供なのだ。
そして僕はしばらくの間泣きじゃくりヘスティアさんはひたすら何も言わずにそばに居てくれた。
「強くてしっかりしてるのに子供だ……ふふ、ボクのファミリアに入ってくれてありがとう。君が何処から来た何者でもボクの眷属なんだ。だから安心して今はお眠り。」
泣き疲れて眠りについた僕にヘスティアさんは膝枕をし頭を撫でながらそう言った。
しかし、その言葉は僕の耳に届くことは無かった。