あたしはルーサリア・ニン・ナンナ。1万年以上前に時の神、シン様の眷属になったエルフだ。
《ブオオオオオオオオオオオ!!!》
「お゛い、何だごいつら゛ブギャ!?」
「棍棒で殴っだのに゛効゛いてね゛ぐげっ!!」
……唸るような雄叫びと汚らしい断末魔が聞こえてくるが、先に説明させてくれ。
突如として北方の魔物大陸から現れ、人類の暮らす世界へ南下してきた軍勢。魔王ノスグーラ率いる魔獣の大軍――魔王軍だ。シン様を経由して得た話では、こいつらによって数多の国々が滅び、その数万倍もの人類が蹂躙されたらしい。人類にしてみれば憎き光翼人の支配から解放され、国を再建し終えて『さぁ、これからだ』という時に出鼻を挫かれた様なもんさ。
屈強なドワーフも獣人も、魔力に自信のあるエルフも、そして人間族も、誰もが精一杯抵抗した。しかし結果は残酷。どの種族も力及ばず骸に変えられ、時には魔獣どもの腹の中に収まる。大陸中の至る所を絶望と恐怖で塗り潰しながら進撃する魔王軍。
そして遂に、奴らはあたしが暮らす山の麓、いつの間にか現れた大きな建造物――此処の主曰く工場――に狙いを定め、闇が支配する時間に大軍で攻め込んだ。
「やべて……助け゛ぶ!?」
「レッドオーガざま゛に゛報告をばっ!!」
しかし蹂躙されているのは魔王軍の方だった。
工場から出てきた人型に近い謎の軍団。魔獣とは違った悍ましさを外見に宿したそいつらは、腕に付いた武器らしき物を高速回転させ、次々と魔獣に突き刺しては内臓をぶち撒けていく。鉄同士の擦れる音と魔獣の血肉が掻き回される音が混ざり合い、夜の戦場を非常に不快な音楽が支配する。
「ハハハハハッ!! 良いぞぉゾルダート! 流石はこの俺自慢の鋼の軍団だ! その調子で薄汚ねぇ化け物どもを一匹残らずミンチにしてやれ!!」
《ブオオオオオオオオオッ!!》
帽子を被り、コートを羽織った人間族の男が最後に工場から現れ、そんな男を異形の軍勢が雄叫びと共に迎える。己の身長より大きな鉄槌を片手で軽々と持ちながら、余裕綽々とした様子でゆっくりと歩む男をあたしは一応知ってる。何度か会っているからだ。『カール・ハイゼンベルク』、この工場の主である男の名前だ。
「おぉ、ルーサじゃねぇか。この俺が心配になってわざわざ様子を見に来てくれたのか? お前の情報提供のお陰で、あいつらを迎え撃つ準備を整えることが出来たぜ。ありがとよ」
「別に心配してた訳じゃないさ。アンタの不思議な力とコイツ等が居れば、魔王軍とも良い勝負になれると思ってたからね」
「いや、正直拍子抜けも良いところだ。奴ら、存外に脆い。これならドミトレスクん所のモロアイカの方がずっと頑丈だぜ」
ゾルダートと呼ばれた軍団がオークの群れを肉片に変えていく様子を眺めるハイゼンは、そう言って溜め息を吐く。魔獣を見て恐怖や緊張ではなく詰まらなさそうな表情になる人間なんて聞いたことがない。
「……本当にお前と、あの軍団は何者なんだい? オークすらも一瞬で倒してしまうなんてね。あれらを倒すのに兵士10人以上は必要と聞いたんだが?」
「ハッハッハッ! 前にも言ったじゃねぇか? 自由をこよなく愛する戦士と、愉快な仲間たちだってよ? まず一番手前にいる奴が――」
「『ゾルダート・アイン』って言うんだろ? 片手にドリル付けていてライカン?を1分で3体倒せる奴。此処へ来る度に何百回も聞かされたから説明されるまでもないよ」
「そうか……」
ハイゼンは見るからにがっかりしている。そんなに語りたかったのか、自分が作った軍団のことを。勘弁してくれ。似たような内容の説明を何度も受けるのは本当にキツイんだ。ゾルダートとやらの特徴、興味の欠片も無いのにほぼ完璧に覚えてしまったよ……。
「まあいい。嬢ちゃんは下がってろ。俺たちが全力を出すためにな」
「あぁ、高見の見物といかせて貰うさ。あと嬢ちゃん言うな」
この男と出会ったのは数ヶ月前だ。自宅がある山の麓に現れたこの工場に気付いたあたしは、様子を見に行った先で困惑しているコイツと遭遇した。奴の話では朝起きたら工場ごと見知らぬ場所に来ていたとのこと。あたしは情報を集めようと奴に幾つか質問をしたが、『ルーマニア』だの『ラクーンシティの悲劇』だの分からない言葉ばかりで一向に話が進まなかった。途中でシン様からの神託が入らなかったら、あたしはハイゼンが異世界から来た人間だって気付けなかっただろう。
で、シン様の神託の内容をそのままハイゼンに話したんだが、その際哀れみの籠った目で見られ、温かい飲み物を出された。取り敢えず一発蹴りを入れたら渋々信じてくれたが。あ、飲み物はちゃんと頂いたさ、勿体ないからね。初めて味わう苦みだったが悪くなかった。
少なくとも自分が元居た場所からずっと遠くに居るのは理解したようで、「ハハハ! ミランダのクソ女から解放されたぜ! 漸く俺は自由になったんだ!!」と、両手を上げて大喜びしていた。
そのミランダという女は、個人的な理由でハイゼン含む多数の人間を実験動物として支配下に置いていたらしい。生殺与奪の権を握られたハイゼンはそいつに服従するしかなかったが、原因不明の転移によって晴れて自由の身になった、という訳だ。……まるで光翼人みたいな女だね。しかも動機が死者蘇生という、神々が激怒しかねない禁忌を犯すつもりだった様だ。聞いてて吐き気がした。
「オイオイオイオイオイ!! なんだぁ、この状況はよぉ!!?」
「あいつは……」
「ほう、少しは骨のありそうな奴も居るじゃねえか」
数体のゾルダート・アインとツヴァイが振り下ろされた大斧で薙ぎ倒される。魔王ノスグーラ直属の部下の一匹、レッドオーガ。文字通りミンチにされた魔獣どもの肉片に地面が覆われた戦場。予想とは違う自軍の凄惨な状況に奴は動揺を隠せない。
「くっそゴブリンもオークも何やってやがる! たかが下等種に後れを取りやがって! テメェも、よくもやってくれたな!」
「そうカッカすんなよ。お前らが弱くて、俺たちが強かった。ただそれだけのことじゃねえか?」
「人間風情が、舐めやがってぇ……」
「……なんかあたしだけ無視されてない?」
ハイゼンに煽られたレッドオーガは怒り心頭で、両手で持っていた大斧の柄がミシミシと音を立てる。
「ハイゼン、あいつをゴブリンやオークと一緒と考えない方が良い。魔王軍の幹部級の魔物だ」
「その様だなルーサ。アインやツヴァイじゃ少し苦戦しそうな相手の様だ。――じゃあアインやツヴァイじゃない兵士を用意すれば良い」
ハイゼンが指を鳴らすと、それを合図に工場の中から轟音と共に出てくる一体の怪物。上半身がプロペラという魔法帝国にも存在する装置に似た回転機構で出来た、ぶっ飛んでるにも程がある見た目の化け物、『シュツルム』だ。
「な、何だそれは……!?」
「俺が作った軍団の中でもダントツの失敗作、『シュツルム』さ! いけぇええシュツルムぅううううう!! あの赤デカ男を切り刻んでサイコロステーキにしてやれ!!」
《ブルウウウウウウウウウウウ!!!》
ハイゼンの命令に合わせてプロペラを回転させながらレッドオーガに突撃するシュツルム。同時にハイゼンは残っていた他の種類のゾルダート――パンツァーとジェットも参戦させ、こちらはツヴァイやアインと共にオーガ以外の魔獣へ嗾ける。再び戦場は魔王軍にとって地獄と化した。
「くぅっ!!」
レッドオーガはシュツルムの突進を大斧で受け止める。しかしその表情は苦心と焦りに満ちていて、シュツルムの攻撃力の高さを物語っている。大斧は2秒足らずでバラバラにされ、それから間を置かずに今度はオーガに羽根が食い込んだ。
「ぐぎゃああああああああああ!!!」
オーガの固い外皮をシュツルムのプロペラは容易く削り、血で濡れた肉と臓物が辺りに飛び散る。種族間連合軍ですらコイツには歯が立たず撤退を繰り返したというのに、シュツルムのプロペラはとんでもない切れ味である。
「ぞ、ぞん゛な゛!! こ、このお゛でが、人間如きに……!」
「ハハハハハッ! どうだぁオーガとやら、分厚いコンクリート壁も一瞬でぶち抜いちまうシュツルムのプロペラの味は! どうやらテメェもシュツルムの敵にはなれねぇみたいだな! さっさと止めを刺させて貰うぜ? シュツルムぅ!!」
《ブルウウウウウウウウウウウ!!!》
シュツルムがプロペラの回転速度を上げると、その勢いに耐え切れず倒れ込むレッドオーガ。自らの体色より濃い真っ赤な血で全身を染めて激痛に悶える様は、いくら人類を数多く喰らってきた魔獣といえども少し哀れであった。その時シュツルムの体に変化が起き、オレンジ色に光ったと思ったら一瞬で火に包まれる。エンジンと呼ばれる部分から発火した様だ。
「や、や゛め゛……!?」
《ブルンッ!!?》
「ぐうっ!」
シュツルムが前方で腰を落としているオーガに火炎放射を当てようとした瞬間、横から滑り込んできた黒い巨体がオーガとシュツルムの間に立ち、シュツルムを殴り飛ばした。プロペラに諸に当たった為、その顔は苦痛に満ちている。
「シュツルムぅうううう!!?」
ハイゼンが我が子を傷付けられた親の如くシュツルムに駆け寄る。失敗作と言いながらも相当気に入っている様だ。
「ま、魔王、様」
「無事か、オーガよ。どうやら間に合った様だな。貴様は部下と共に下がり回復に専念するのだ。あの下等種は我が直々に相手しよう」
「も、申し訳御座いません。宜しくお願い致します……」
「……奴が魔王ノスグーラか」
「あの黒くてデカい奴が親玉か。よくも俺の愛しのシュツルムを……!」
黒い毛に覆われた巨体に蜷局を巻いた2本の角。間違いない。シン様から教わった魔王軍の頭領と全く同じ特徴だ。何よりこの強大且つ禍々しい魔力。灰色の不気味な魔力が体全体から溢れている。魔王はオーガと他の魔獣を撤退させ、1体でハイゼンや軍団と対峙する。
「にしても、これじゃどっちが悪の軍団か分からないね」
まるで魔王の方が魔王軍に立ち向かう英雄か何かに見えてくる。質の悪い錯覚だとあたしは頭を振り、その考えを打ち消そうとする。これは悪同士の潰し合いだ。
「意外と部下想いの良い上司じゃねえか。ミランダのクソ女にも見習って欲しいもんだ。……シュツルム、よくやった。あとは俺に任せて休め」
《ブルル……》
「オーガたちが世話になったようだな。我々に歯向かっておいてタダで済むと思うなよ、人間?」
「先に手を出したのはテメェらの方だぜ? こうなることが分かってんなら無視すんのが賢明だっただろうによぉ」
「それは無理だ。我には魔帝様がお戻りになられるまで、下等種たちを適切に管理する役目があるのでな」
「何!? じゃあ貴様は魔法帝国の……!」
予想はしていたが、まさか本当に魔王が魔法帝国の兵器だったとは……! 魔王はあたしに視線を向け、不敵に笑う。
「その通りだ、時の神の眷属ルーサリア・ニン・ナンナ。我こそは世界管理の為に生み出された魔帝様の忠実な僕。試作型戦闘培養体『コード.000』である」
「へぇ、この世界にもB.O.W.みたいな生物兵器が存在してるのか。こいつは驚いた」
ハイゼンの顔を見ると本当に驚いている様だ。しかしこの男が暮らしていた世界にも魔王の様な存在が生み出されていたとは、平気で神に喧嘩を売るような連中が多い世界みたいだね。因みにだがハイゼンもまた生物兵器らしい。鉄を浮かせて操る能力はそれ故だとか。
「いずれ魔帝様はご復活なさる。だが、その時下等種どもが無駄に力を付けてしまうと統治に支障が出てしまう。だからこそ我が世界を管理し、下等種を下等種たらしめねばならぬのだ。無論、貴様とて例外ではないぞ人間」
「あ゛ぁ゛? ふざけんじゃねぇ、漸くあのクソ女から解放されたんだ!! 此処でまた誰かに縛られるなんて御免被るぜ!!」
「貴様らの意見などどうでも良い。下等種は大人しく我に管理されなければならない。たったそれだけで魔帝様の平穏に貢献できるのだ。光栄なことだぞ?」
「あのデカ女と言い、どうして図体のデケェ奴はどいつもこいつもエゴまでデカくなっちまうんだ!! 兎に角俺は誰の支配も受けねぇ! 俺は永遠に自由だ!!」
「……そうか、ならば排除するのみだ」
魔王が力を籠め始める。どうやら辺り一帯を強力な魔法で消し飛ばす様だ。あたしはすかさずハイゼンに警告を送る。
「ハイゼン、来るぞ! あの魔力量からして使ってくる魔法は相当な威力だ!」
「あぁ、分かってる! 嬢ちゃんはさっさと逃げろ! ……さて魔王さんよ、親玉同士のタイマンといこうか!!」
「だから嬢ちゃん言うな」
あたしは魔法で飛翔して空へ退避する。眼下では手をハイゼンに向けて詠唱を始める魔王と、あたしとゾルダート軍団の避難を確認してから能力を発動するハイゼンの姿が。
「……何をする気だ貴様?」
普通の人間ならば在り得ない力を行使しようとするハイゼンに、思わず詠唱を止めて問い掛ける魔王。
「今に分かるさ!! ぐっ、うおおおおおおおおおおお!!!」
工場周辺に敷地に散乱している大量の鉄屑。それらが浮き上がったと思うとハイゼンへと飛んでいき、次々にその体にくっついていく。一瞬でハイゼンの姿は鉄に埋もれて見えなくなった。一体何をするつもりだ、ハイゼンベルク?
「き、貴様、本当に人間か!? こんなふざけた力を脆弱な人間族が持つ筈が――」
「ウ゛オオオオオオオオオオオオッ!!!!」
「な……」
「は……?」
あたしは目を見開いた。ハイゼンの居た場所から現れたのは、大きさも形もバラバラな鉄が集まった、芋虫に手が生えた様な歪な鋼鉄の怪物だった。後方では待機中のゾルダート軍団が雄叫びを上げている。まるで人類の少年たちの様に。魔王は己の数十倍も巨大な化け物に見下ろされ、目を点にして鼻水を垂らした姿で表現出来そうな顔で呆然と立つ尽くす。だがすぐにハッとなってツッコミを入れた。
「貴様ほんっとに何者なんだよ!!」
全く以ってそれな。
「ハハハハッ!! 俺は自由を愛する戦士だ!! だから俺の自由を邪魔する奴は全部殺してやる!! まずはテメェからだ! 死ねぇ!!」
「まずいっ!」
怪物と化したハイゼンが巨大な右腕を魔王に叩き込もうとするが、魔王は咄嗟に空高く跳躍して紙一重で躱す。腕の先端に付けられた切れ味の鋭そうな巨大丸鋸が地面に食い込み、粉々になった岩や土が周囲に飛び散る。
「あ、あぶな」
「何処へ行くんだぁ?」
「な!? へぶぅ!!」
魔王が安堵したのも束の間、なんとハイゼンもまた何十メートルも跳躍して魔王を地面に殴り付けた。あの巨体のどこにそんな跳躍力があるのか。
「ぐ……ぅ……!」
「ハッハッハッハッ! さぁ、この鋼鉄の肉体に跪け!!」
「舐めるなよ下種がぁ!!! 我の強大な魔法で焼き尽くしてくれる!!」
魔王は屈辱に塗れた顔で吠えると、立ち上がって再度右手を迫り来るハイゼンに翳した。奴の掌にどす黒い炎が宿る。あれは――。
「ハイゼン! 避けろおおおお!!」
「ダークフェニックス!!!」
魔王の掌から現れた黒炎の巨鳥がハイゼンを焼き尽くす。炎に包まれた奴を見て、あたしは何とも言えない喪失感を抱いた。
「ハイゼン……」
「ぐぁっはっはっ!! どうだ、これが魔帝様より与えられた我の力だ! 思い知ったか人間めぇ!!」
「――あぁ、効いたぜ。嘘じゃねぇ」
「あっはっはっはっ……は?」
魔王の笑い声が消える。炎の中から現れた、ほぼ無傷の怪物を捉えて。あたしは目の前の光景が信じられなかった。
「ば、馬鹿な! 我の最高位の魔法を喰らって何故平気でいる……!?」
「そんなことはねぇって言っただろ? 丁度寒かったら良い具合に温まったぜ。 お礼にこいつを喰らいな!!」
ハイゼンが取り出したのは長い筒の様な物。確かタイホウとか言ってたな。鉄の塊を高速で撃ち出す武器だった筈だ。それを右手?で掴み、魔王に向けると先端の穴から火を噴かせた。
「ひっ!?」
本能的に危険を察知した魔王が咄嗟に防御態勢を取る。己の目の前に土魔法で築いた強固な盾を10枚形成し、ハイゼンが放った鉄の塊を防ごうとした。結果はギリギリ防げたというもの。鉄の塊は10枚中9枚の盾を貫通し、10枚目にも大きなヒビを作って漸く停止した。
「すげえなお前、砲弾を防いじまうなんてよ。ルーサの言う通り、とんでもねぇ力を持っているみたいだな。――よぉし決めた。お前の死体を、俺の軍団に加えてやるよ! 光栄に思いやがれ!!」
「う、うああああああ!!!」
魔王は逃げ出した。先の防御魔法で魔力はカツカツにも拘らず、連続で跳躍してハイゼンの攻撃を躱しそのまま去って行く。
「あ、おい待て!! せめて首だけも置いてけ!! ――くそっ、さっき喰らった火でバネがいかれちまったみてぇだ。跳んで追い掛けることが出来ねぇ……」
「……」
何ということだ。人類が総力を結集しても敵わない魔王を、この男は実質たった一人で退けてしまった。もしかしたらコイツも太陽神の使いっパシリたちと同様、この世界に希望を齎す存在なのかもしれない。
「ハハハハハッ、まぁ良い! 取り敢えず自由を守り抜いたぞ! 俺たちの……勝利だ!!」
《ブオオオオオオオオオオ!!!》
元に戻ったハイゼンとゾルダート軍団が、くっそ喧しい咆哮を上げる。……さっきはああ思ったものの、あたしにはコイツ等が希望になり得る連中だとは到底思えなかった。あの魔法とは異なる能力も、こいつ等の見た目も、あまりにも凶悪過ぎる。
「おーい、ルーサ! 大丈夫か!? もう降りてきても問題ないぜ!」
「……そのようだね」
あたしが地面に降り立つと、ハイゼンはキラキラした瞳で熱く語り出した。
「どうだ、俺と俺の軍団の戦いっぷりはよぉ? 最高にカッコ良かっただろ!?」
「まあ、今までにない戦いだったから興味深くはあったね」
「そうだろそうだろー? あっはっはっはっ!」
特にこのハイゼンベルクという男。魔力は全く無いが、代わりに得体の知れない何かを奴の体内から感じ取れる。おまけに油っぽい匂いに混じって血の匂いがする。それも何人もの人間の血が。自由になりたいだけの男みたいだが、ほっとけば何をしでかすか分からない。監視が必要だね。
「……どうしたんだ嬢ちゃん、そんなに睨むなよ。可愛い顔が台無しだぜ?」
あたしの警戒心を感じ取ったのか、ハイゼンが訝しむ様にあたしを見る。
「嬢ちゃんは止めろと言ってるだろ? これでもあたしは1万年以上生きてるんだよ」
「ハハハハハッ! 冗談の上手い嬢ちゃんだな! 特異菌に感染してる訳でもなさそうなのにそんな不老不死みてぇなこと…………嘘だよな?」
最初は笑っていたハイゼンも、あたしの真剣な表情を見て次第に真顔になる。
「本当さ。神の眷属になってから全く年を取らなくなったんだよ。だからあたしはお前よりずっと年上なのさ――坊や」
「マジかよ……。ってか『坊や』は止めろ! クソデカ女のムカつく顔を思い出して虫唾が走る!」
「だったら嬢ちゃん呼びも止めるんだね。外見通りの子ども扱いは御免だよ」
「分かったよ、悪かった」
ハイゼンは素直に謝ると、帽子を胸に当てて丁寧にお辞儀をする。
「それじゃあ改めて宜しくな――ミス・ナンナ」
この男、意外と紳士的な様だ。あまりにも様になっていたので少しばかり見惚れそうになったが、何とか耐える。こんな危険そうな男に魅了されるなんてどうかしてる。
「ルーサで問題ない。畏まった態度を取るのは苦手だろ?」
「分かるか? ならフランクにいかせて貰うぜ。――さてと、これからどうすっかなぁ?」
「目的が無いならお前も魔王軍を討伐しに行かないかい? もうじき太陽神が召喚した使者が大陸に上陸するらしい。あたしはそいつらと、この世界で勇者になる連中を導く役目があるんだ」
「太陽神の使者?」
「確か……二ホンとか言う連中らしい」
「何!? もしかして日本人がこの世界に来てるのか!?」
ハイゼンは驚愕しながらあたしに詰め寄る。あたしはあたしで、この得体の知れない男が太陽神の遣わした英雄たちを知ってることに驚く。
「知ってるのか、連中を?」
「知ってるも何も、俺が居た世界の国の一つさ。ハハハハハ! 不運な奴らだな! 神様とやらの命令で縁もゆかりもない世界の為に、ご苦労なこった!」
ハイゼンは頭に手を載せながら笑うと、何か決意したような真剣な、それでいて楽しそうな顔になる。
「面白れぇ。良いぜ、魔王軍討伐に手を貸してやる。自由を奪われるのは俺も嫌だからな。但し協力はするが俺は誰の下にも付かねぇぞ? あと魔王と、ついでにオーガの死体は俺が頂く、良いな? ……よし、まずは日本人と合流しようじゃねえか」
「言っとくけど、妙な真似をして魔王軍討伐を妨害するんじゃないよ。そん時はあたしも許さないからね?」
「おぅおぅ、おっかねぇ女だぜ。安心しろ、そんなことはしねぇ。俺が戦う為には鉄が要る。工場を離れる以上、日本人から供給して貰わなきゃいけねぇんでな」
「なら良いが……ま、期待してるよ、ハイゼンベルク卿」
「おう、任せろルーサリア」
あたしとハイゼンは協力関係を結び、互いの手を握った。
その後、トーパ王国建国神話に魔王軍を討伐した英雄たち――太陽神の使者と古の勇者、そして自由を求める鋼の軍団――が記されることになるが、それは更に先のお話。
余談だが、ハイゼンベルクが失踪したことで儀式が実行出来なくなり、途方に暮れている女が居たとか居なかったとか。
ヴィレッジ最高でした。特にイーサンのあのシーンには泣いた。イーサン……アンタは本当に最高のパパだよ。ハイゼンさんも敵ながらカッコ良かった。願わくばDLCでイーサンとの共闘が実現しますように。