「……コレはすごいね」
ある日、ハイゼンの案内で工場の地下に降り立ったあたしは眼前の光景に目を奪われる。地上の建物は所謂偽装。鉄という鉄で張り巡らされ、無数のゾルダートが製造されているこの広大な地下空間こそ、ハイゼンが運営する工場の真の姿。まるで街……そう、此処は鋼鉄の街だ。
「おーいルーサ! こっちだー! そんなトコで突っ立ってねぇでさっさと来い!」
「はいはい、分かったよ」
ハイゼンに招かれてある大部屋へと入ると、其処には見慣れた生物の死体があった。
「ワイバーンだね……見せたい物ってのはコレかい?」
「まあコイツもその一つではあるがな。他にも幾つかあるぞ?」
ハイゼンはワイバーンの死体の前で腰を下ろすと作業に取り掛かる。お得意の改造ってヤツだろう。この男の軍勢は全て人間族の死体を素に、ドリルを含めた様々な武器を取り付けて作られている。人の死体を兵器に改造するなぞ不愉快極まりないが、生きた人類を消耗品として使い潰す光翼人よりはマシだろう。
「ほらよ、あそこに重ねてある連中もそうさ。コイツらを使って新型のゾルダートを作ろうと思ってな。魔法とやらは使えないだろうが、屈強な肉体はより高い耐久性に繋がる事が出来る」
「……おいおい。魔獣は兎も角、ドワーフや獣人の死体まであるじゃないか。まさかお前……」
「勘違いすんなよ! そいつらを殺したのは一緒に転がってる怪物どもだ! 化け物を殺した時に見つけたから次いでで持ち帰っただけだ」
意外かもしれないが、この男は一度も人殺しをしたことがないらしい。ハイゼンと同格だった貴族たちは生きた人間を殺した上で化け物に変えていたが、コイツは墓から死体を掘り起こして調達した程度だ。それでも十二分に問題だが。
「本当なら死者の尊厳を踏み躙る行為を神の眷属として見過ごせないところだけどね、今は人類絶滅の瀬戸際。見なかったことにしといてあげるよ」
「寛大な処置に感謝するぜ。皆くたばっちまったら尊厳もクソもねぇからな」
ハイゼンは愉快そうに笑うと、鼻歌交じりにワイバーンの改造工事を始めた。あたしはコイツの背中を睨みながら考えに耽る。やはりこの男は危険だ。死者を弄ることに何の罪悪感も感じられない。度を超えた自己中心主義の、典型的なクソ野郎だ。魔王討伐の暁には神々に協力を呼び掛けて退治した方が……。
「……なぁ、何本ドリルを付けるつもりだい? 多過ぎないか?」
あたしは考えを一時止める。ハイゼンがワイバーンの羽や足の爪を全てドリルに変えていったからだ。正直そんなに沢山要る物かと疑問に思っていると。
「何言ってんだルーサ! まだまだ頭と尻尾が残ってるんだぞ。コイツは全身のドリルを回して敵に突撃させんだよ」
「そんなにドリル付けたら重くて飛べなくなるぞ!」
「ジェットエンジンを背中に装着させりゃ速度は向上するから心配ねぇ!」
「魔王を退けた時に使った大砲でも載せれば良いじゃないか! わざわざ接近戦をさせて戦力を減らす危険を犯さなくても」
「分かってねぇなルーサ。ドリルぶん回しながら肉薄して敵を屠るから良いんじゃねぇか。確かに大砲もロマンだが、遠くからチマチマ撃って戦うのは味気なくて俺はあまり好きじゃねぇ。武器はやっぱりドリルかプロペラだろ?」
「いや待て、好きとか嫌いとか……お前どういった基準で武器を選んでるんだい?」
「カッコよさ」
「……は?」
「カッコよさ!」
「お前さぁ……」
目を輝かせて断言するハイゼン。その様は正に幼い男子のそれ。あたしは呆れて溜め息を吐いた。
「なぁに、お前もこの工場に通い詰めれば俺の気持ちが分かる時が来るさ。そん時は一緒に語り合おうぜ、ルーサ?」
「やめろ、あたしを変な趣味に引き込もうとするんじゃない」
「別に女が男のロマンにハマっても構わんだろ?」
「そんな意味で言ったんじゃないよ!!」
うん、紛れもなくコイツは危険だ。このまま一緒に居たらあたしの好きなものが花からドリルに変わってしまう! だが、コイツから目を離すわけにもいかないし……あたしはどうしたら良いんだい!? 教えてくれ、シン様……!
――別にドリル大好きになっても良いだろう?(by シン)
「ちょ、ちょっと何やってるんですか!?」
大陸南の海岸に停泊中の日本空母『土佐』。その甲板上であたしはハイゼンから教わった技術を活かして戦闘機を修理していた。服が汚れないように、修理中はアイツから貰った作業着を着込んでいる。
「どうしたんだい、使者さんたち? 今修理中なんだが?」
「どうしたじゃないですよ! 何でプロペラの先端にドリルを付けているんですか! 機体前方が重くなるしそれ以前に付ける意味ないですよ!」
「安心しな。軽くて強靭なポリマーを使ってるからさ」
「そういう意味じゃなくて……!」
急に声を掛けてきた日本人は何故かあたしのやり方に不満な様だ。……失礼な、折角ドリルを付けてやったというのに。
「なぁ。あの女の子、確か魔法使いってやつじゃなかったか?」
「まさかエンジニアでもあるなんて凄いよな……変な改造さえ施そうとしなければ」
「十中八九、我々と同じ世界出身の、あのルーマニア人の影響だろうな。一体何を教えたらあんな変な趣味に目覚めちまうんだ?」
離れた場所にいる日本人2人の会話が聞こえてくる。何を言う。ハイゼンはあたしに新しい世界を拓いてくれたんだぞ? お前たちはドリルの素晴らしさをまるで分かってない。
「おい、どうしたルーサ」
「あ、ハイゼン」
「ヒェ」
そこへ船の外壁を上って現れた怪物形態のハイゼン。傍で悲鳴を上げる日本人を無視してあたしたちは話を続ける。
「聞いてくれよハイゼン。この日本人、あたしが折角ドリルを付けてあげたのに文句ばっか垂れるんだよ」
「何い、どういうことだ?」
「いや、あの、それは、その……」
慌てて弁明しようとする日本人を通り過ぎ、あたしが修理中の戦闘機を観察するハイゼン。やがて彼は日本人にではなくあたしに怒鳴ってきた。
「おい、ルーサ! これじゃ全然ダメじゃねぇか!」
「えぇ、何であたしなんだい!?」
「そ、そうですよね。プロペラにドリルを付けるなんて――」
「後ろにもドリル追加しねぇで、どうやって尻に食らい付こうとするトカゲどもを攻撃するんだよ!?」
「ドリルそのものにツッコめよ!!」
日本人のキレのあるツッコミが入ってもあたしとハイゼンの議論は終わらない。
「待ちなよ、戦闘機の方がずっと速いんだ。ワイバーンじゃ追い付けないから肉薄なんかされないよ」
「だからロケットエンジンを付けんだよ! これで真後ろから来るトカゲ野郎にドリルを飛ばして串刺しに出来るだろ?」
「成程」
「納得しないで! 尾翼が焦げる!!」
まさかロケットとドリルを組み合わせることでそんな凄いことが出来るとは。また一つ、あたしの中の知見が広がった気分だ。
「おら、ちゃっちゃとコイツの修理を終わらせるぞ? 次はあの戦艦の艦首に巨大ドリルを付けなきゃいけねぇからな!」
「おぉ、だから怪物化してたんだね。デカくなればデカい部品も扱いやすい」
「そういうこった! 鋼鉄の○哮に負けないドリル戦艦を作ってやろうぜ! ハハハハハ!」
「止めてください、本当に!!!」
ふふふ。魔王を潰した後はそのまま旅に出てみようか。あの唸る音、目にも止まらぬ回転速度、そしてどんなに固い物でもドデカい穴を開けてしまう圧倒的な破壊力。ドリルの素晴らしさを余すことなく世界に伝えていくとしよう。あたしはそんな夢を思い浮かべながら作業に戻るのだった。
「――っという感じになってたまるかい!!!」
「終わったか? 随分長ぇ例え話だったな」
「ドリル、僕は良いと思うけどなー?」
「分かってるじゃねえか坊主。ほら、菓子もっと食うか?」
「わーい!」
「……何で出てきてるんですかシン様?」
見ればハイゼンと並んで座り、奴から貰った菓子を食べる少年が一人。あたしの主にして時の神、シン様だ。お前ら、もう仲良しかよ。
「暇だから?」
「よし、殴ってあげますから前に出て下さい」
「ごめんなさい許してルーサお姉ちゃん」
「おいおい、ダメだぞ姉ちゃん? 弟は大事にしなきゃ。酷い姉貴なんてドミトレスクだけで十分だぜ」
「弟じゃない! 時の神シン様だ! あたしはその眷属!」
ああもう、いつの間にかシン様までこの男によって陥落していたとは……。男って何故ドリルが大好きなんだろうね。兎に角気をしっかり持たなくては。絶対にドリル厨にはならないからな。あたしはそう固く誓った。
ヴィレッジ本編見てハイゼンさん、マジ男の子してるなぁって思った。ロマンに生きている。