あたしは今日もハイゼンの工場を訪れ、トルコ?コーヒーを嗜みながらシン様とハイゼンの遣り取りを興味無さげに眺めていた。
「見ろ坊主! これが鋼の軍団の新たな兵士、ゾルダート・ワイバーンだ! どうだ? この至る所に付けられたドリルを!」
ハイゼンが両手を大きく広げて、工場前の広場に鎮座する新型のゾルダートを披露する。一人と一柱の前には、全身ドリルまみれで胸に赤い光を宿したワイバーンが一頭。どうやら赤い光を放っている部分が死体である筈のワイバーンを動かしている様だ。その動作は生前の個体とも謙遜ない。
「おっ、ドリルは全部三連装なんだ。 これは強そうだ」
「だろ? これで攻撃力は大幅アップだ! 強力な化け物どもだって駆逐しまくってくれる筈さ! ハハハハハッ!!」
「……今更だけどさ、お前だって相当な化け物だろう」
そう突っ込まずにはいられない程、あの芋虫の怪物は衝撃的だった。
……おや?
「来たみたいだね」
あたしは自宅がある山全体に結界を張ってある。侵入者防止対策だ。それに魔力を持った何者かが引っ掛かり、特定周波数の魔導波があたしの脳に送られてきたのだ。シン様も気付いたらしく、その少年の様な顔立ちが神性を帯びたものに変わる。……普段からそれくらい真面目そうな顔してれば純粋に尊敬できるのに。
「……ルーサ。太陽神の使者と種族間連合で間違いないと思うよ?」
「えぇ、シン様が仰られていた時間通りです」
少し前、工場へ向かう途中で目撃した飛行物体(後に太陽神の使者が操る戦闘機と判明)に稲妻を撃ち上げてからかったことがあるが、その持ち主が連合と共に山を登っている最中である。明らかにあたしの存在に気付き、協力を求める為に向かって来ているのだろう。家を空けたままでは擦れ違いになってしまうね。
「よいしょっと。それじゃあ会いに行くとするかね。太陽神の使いっ走りどもに」
コーヒーを飲み干して椅子からゆっくりと立ち上がる。そんなあたしへ待ったを掛ける男が一人。
「待てよルーサ。わざわざこっちから出向く必要はねぇぞ?」
「どういう意味だい、ハイゼン?」
「ここ最近、お前はよくこの工場に遊びに来てくれているからな。自宅を空ける日も多いだろ?」
主にお前の監視の為に、だ。別に遊びに来てる訳じゃない。しかし何だろうか。嫌な予感しかしないんだが。
「こんな辺鄙な世界でも強盗やら泥棒やらは居るだろうし、魔獣なんて危険な化け物も多い。家の物が盗まれたり、壊されたりしたら困るだろ? だからお前が留守中の間、お前ん家を守る番人を派遣してやった。ソイツが此処まで案内してやれば良い」
「……は?」
え、何? それはつまり……ゾルダートを派遣したってことか? 何故気付かなかった。いや、確かゾルダートは魔力を全く持たない筈だ。って事は、あたしの結界が感知する訳ないじゃないか。あれは対象の魔力を利用した代物なのだから。
「なあに、気にするな。いつもお前には世話になってるからな。その礼とでも思ってくれれば良い」
「ハイゼン……君ってば、やっぱ良い奴なんだね!」
「こう見えても俺は受けた恩をきっちりと返すタイプなんでね。ハハハハハ!」
シン様が目を輝かせ、それに笑って答えるハイゼン。このイカレ野郎のどこが良い奴だって? いや、それよりも。
「……ところでさ、その番人とやらは使者や連合をちゃんと味方と判断できるんだろうね? それにどうやって此処まで連れてくるんだい?」
直後、ハイゼンの笑いが止まる。
「…………あ、やべ。直接行ってプログラムを入力しねえといけねぇ」
「おい」
あたしは顔を引き攣らせた。不味い。使者と連合の連中の身が危ない。
――――
「――此処で間違いないですね」
「こんな山の中に、こんな大きな家が建っていたとは」
一方の日本軍と種族間連合。数日前にアンカルド山にて確認された人影を追って山の頂上まで登ってきた面々は、眼前の大きな屋敷を前に自分たちの推測が正しかったことを知る。
「中に誰か居るのでしょうか?」
「分かりません。ドアを叩いて確かめてみましょう」
誰が先頭に立って話をするか相談した結果、この世界の住民で種族間連合の長であるガレオスが門戸を叩くことになる。――が、彼の拳が門戸に触れることはなかった。
突如ガラッと大きな音を立て、扉が横にスライドした。もしや隠遁した大魔導士かと期待した面々だったが、すぐにその顔が凍り付いた。
『!!?』
現れたのは人……に見える。しかし顔も含めた全身を装甲で覆われた物々しい出で立ちは、とても彼らが想像する魔導士からは遠くかけ離れていた。何より物騒なのは両腕に取り付けられた3連装のドリル。それをぎゅるぎゅるとぶん回したまま外へ出てくる。
「な、何なんですか貴方は!? 貴方がこの山で暮らす魔導士ですか!?」
恐怖に駆られながらも勇気を出して話し掛けるガレオス。だが返事は来ない。番人として工場より派遣されたゾルダート・パンツァー――ドイツ語で『戦車』を意味する鋼の兵士は、目の前の彼らをルーサの家を侵す敵と認識。計6本のドリルを回して襲い掛かった。
「危ない!!」
帝国海軍艦隊司令の笠井が、咄嗟にガレオスを引っ張って横に回避する。直後にガレオスが居た場所に突き立てられたドリルが地面を抉る。全員が身の危険を感じた。
「う、撃て!!」
笠井の指示で三八式の銃声が鳴り響く。護衛の兵士が放った銃弾はパンツァーの腹や頭の装甲に当たり、そして弾き返した。
「ダメです! 鎧が邪魔で銃が効きません!」
「仕方ない、一旦引くぞ! あれだけ鎧で身を固めてるなら動きは遅い筈だ!」
銃以外に碌な武器を持ってない笠井たちにパンツァーを倒せない。急ぎ撤退しようと即決し、いざ行動に移ろうとしたところ。
直後、茂みから飛び出してきた影が一つ。それはパンツァーへと一気に近付き……
「何しとんじゃ貴様ああああああ!!!」
《ブオバアアアアアア!!?》
「……え?」
エルフ特有の長い耳を持った黒髪ツインテールの少女が、それもう見事な跳び蹴りをパンツァーにかまし、近くの巨木へ叩き付けた。
「ハア、ハア、ハア……」
「な、何だあの女の子は……?」
笠井に付いて来た士官の一人が息も絶え絶えな少女を不思議がっていると、今度は家の上空を大量の鉄が舞う。今度は何だと警戒する笠井たち。
「ぱ、パンツァーああああああ!!」
空から現れたのはコートを羽織り、帽子を深く被った一人の男。なんとコイツは浮遊する金属の上をひょいひょいと飛び移りながら地面に降り立った。彼は口を大きく開けて叫ぶと、今しがた蹴り飛ばされたパンツァーに縋る。
「ルーサ、テメェ! 俺の可愛い兵士に何てことしやがる! 俺の好意の何が不満だゴラァ!?」
「ソイツは今まさに連合と使者を殺そうとしてたんだぞ! あたしがコイツ等を待ってたって前に何度も言った筈だよな!! 殺しちまったら共闘なぞ出来なくなるわい!」
「そうだとしても、もうちょっと優しく止めやがれ! パンツァーは強い衝撃に弱いんだよ!」
「……何か喧嘩が始まったぞ?」
「俺らはどうすりゃ良いんだ?」
此方を無視して言い争いを始める男と少女を呆然と眺める笠井たち。彼らは二人が落ち着くまで待つことしか出来なかった。
その後、機械化死体兵の件で一時険悪な雰囲気になったものの、ルーサの尽力もあって日本軍と連合への援軍として加わったハイゼンベルク。彼は工場へ寄って留守番役を除く、ほぼ全てのゾルダート軍団を引き連れて合流。その際、迎えに来ていた駆逐艦『細雪』が笠井らの後ろを歩く数百体のゾルダートを目撃。その凶悪な人相があまりにも恐ろしかったのか、乗員の一部は夢で追い掛け回される羽目に。
次回予告。
『とある鉄馬の超電磁砲』。