鋼の軍団、自由の為に魔王軍を蹂躙す   作:LWD

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日本人は大して出番もなく退場です。主役はあくまでハイゼンさんと鋼の軍団なので。


Ⅴ-フィルアデス大陸解放

 出発から一年。日本人たちの予想よりも早く魔物をトーパの地まで追い詰めた。既に魔王は撤退済み。フィルアデス大陸に残るのは殿を務めるゴブリンやオークくらいだ。

 

「グオオオオオオオ!!!」

 

 怪物形態のハイゼンが3本の巨腕を振り上げ、咆哮混じりの音楽を流す。それを聞いて戦闘可能な魔獣たちが徐々に後ろへ下がり、やがて一匹残らず魔物大陸へ逃げ帰って行った。

 

「ここで『あれはゴジラじゃない!』と果敢に挑んでくる奴がいねぇのは実に残念だ」

 

「お前は何を言ってるんだい?」

 

「日本映画のネタさ。確かにこの曲は恐怖を煽るにはもってこいだな」

 

 そもそも“えいが”とやらが分からん。あと日本人たちも何のことか分からず首を傾げてるみたいだが?

 

 

 

 

 魔王軍を魔物大陸へ押し返した後、トーパの地にフィルアデス大陸と魔物大陸を隔てる巨大な城壁が建造された。日本人たちに加え、ハイゼンの謎技術も使われた非常に強固で凶悪な壁だ。

 

「地下には村で作ったのと同じカラ殺装置を仕込んである。魔獣がヘタに近付けば壁の手前の落とし穴にストン! 『殺人マシンがぐーるぐる♪』からの異世界産ミンチの出来上がりって流れだ!」

 

 壁が完成し、日本人たちが元の世界へ帰った夜。各所で焚き火が上がり、今日の作業を終わられた連合軍兵士たちがそれらを囲って身体を暖めている。あたしは夕飯を作りながらハイゼンの話に耳を傾けていた。

 

「相変わらずエゲツないもんを作るねぇ……他の連中、思いっきりドン引きしてたぞ?」

 

 しかも何故かあたしまで引かれてしまった……解せぬ。

 

「しかしテメェの魔法はスゲェなルーサ! 物を何万年も劣化させねえとか、メンテナンス業者からしたら商売上がったりだぜ!」

 

「発動には相応の魔力が必要さ。誰でも簡単に出来る魔法じゃないよ。――ほら、飯だ」

 

「お、サンキュ」

 

 あたしが皿に入れた料理をハイゼンに渡すと、彼は大層驚いた。

 

「お前これ、ルーマニア料理じゃねぇか。何処で作り方を知ったんだ?」

 

「お前の工場で見付けたレシピを元に再現してみたんだ。といっても知らない材料とかは入ってないから、擬きってヤツだけどね」

 

「……いや、悪くねぇ」

 

 ハイゼンはスプーンで具材を掬い、口に運ぶとそう感想を漏らした。お気に召した様で何よりだ。あたしも自分の分を皿によそって一口。うん、初めて作った割には中々良い出来じゃないか。

 

「これが……普通の家族ってヤツなのかもな」

 

 ハイゼンが食べる手を止め、あたしと料理を交互に見詰めながら呟いた。

 

「急にどうしたんだい? 家族じゃないだろ、あたしとお前は」

 

「んなことは分かってるよ。だが、一応は家族だった連中とは一緒に飯を喰うなんてことは無かったからな」

 

 ハイゼンは何処か遠い目で星々が輝く空を見上げる。何時もの溌溂っぷりは鳴りを潜め、あたしより大きいその体がずっと小さく見えた。

 

「ところで良かったのかい? 日本人たちと元の世界へ帰らなくて?」

 

「アイツらと俺は生きてる時代が違うからな。それに仮に戻れたとしても俺の居場所は残ってねぇよ。血の繋がった家族はミランダの実験で全員死んじまったし、また偽りの家族と一緒にミランダに支配されるのは御免だ」

 

 そこからハイゼンの愚痴が始まった。普段のあたしなら他人の事情などどうでも良いと聞き流すところだが、何故だかこの男は放っとけない気がした。

 

「ミランダにとって俺たちは只の“子供”。愛情なんて持っちゃいねぇ、これっぽっちも。アイツには人間的な感情なんて無え。そんな奴に何十年も逆らえず、支配され続けてきた。もしまた会う機会があったら……必ず殺してやる」

 

「何十年か……。すまないが、どうもエルフのあたしにはそれが長いものには感じにくいね」

 

「俺は今でこそB.O.W.だが、元は普通の人間だ。時間感覚は人間の時から変わらねぇから、数十年も村に閉じ込められるのはガチで拷問だった。だから異世界へ来て、俺は自由になったんだって知った時、スゲェ嬉しかった。……なのにそれを邪魔する奴がこの世界にも居ると来たもんだ。折角手に入れた念願の自由、侵されて溜まるか……邪魔するやつは皆殺しだ」

 

「………」

 

 本当にこの男は、只々自由になりたかっただけなんだね。コイツがしてきたことは褒められたことじゃないけど、それも根底にあるのは自分の自由を奪われたくないから。非常に窮屈で辛い日々を過ごしてきたが故の反動だと思うと、このクソ野郎にちょっとだけ同情せざるを得ない。

 

「……偶にだったら良いよ」

 

「? 何がだ、ルーサ?」

 

「時々こうして飯を作りに行ってやるって言ったんだ。あたしも家族と死別してからずっと一人で食事していたからね。誰かと一緒の方が退屈を紛らわせるってやつさ」

 

「あぁそうか、お前は1万年もボッチだったんだな……」

 

 クソ腹立つことを哀れんだ目で言いやがったので、後ろに回って蹴り入れてやった。ハイゼンはケツを抑えながら抗議する。

 

「痛えな! 何すんだよ!?」

 

「失礼なこと言うからだよ。あたしにだって友人はちゃんと居るわい」

 

「なら別に俺じゃなくても、そのダチと過ごせば良いじゃねえか?」

 

「みんな、あたしを置いて先立ってしまうんだよ。仲良くなってもすぐ寿命が来て死んじまうのさ」

 

 最近仲良くなった奴と言えばタ・ロウの母親だ。ただ、最近と言っても何十年も前だからね、多分ソイツも亡くなってる可能性が高い。

 

「聞けばお前は実質不老不死なんだってね? だったらお前の様な奴でも知り合いに含めておけば、寂しくないと思ったんだよ」

 

「”お前の様な”は余計だぜ。……ま、俺としても孤独に自由を謳歌するのは面白くねえしな。偶にだったら歓迎してやるよ」

 

 分かりやすいくらい嬉そうだねコイツ。実の家族を殺され、険悪な仲の義理の家族を強いられたら、やはり他人との繋がりを求めたくなるもんなんだろうか。

 

「ルーサ殿、ハイゼンベルク卿」

 

 其処へ現れたのは3人の男たち。あたしらに声を掛けてきたケンシーバと、彼の後に続くように付いて来たタ・ロウとキージ。あたしが種族間連合に合流したのは、この3人を魔王の下へ導く為だ。ハイゼンの監視はついででしかない。

 

「おう、お前らか。今日もお疲れさん。飯がまだなら一緒に食わねえか? 俺の故郷の料理だ。是非とも堪能していってくれ」

 

「作ったのはあたしだけどね。遠慮せず座りな。丁度アンタたちを呼びに行くつもりだったからね」

 

「おぉ、眷属様の手料理ですか? 美味しそうですね。ではお言葉に甘えて……」

 

 3人とも食事はまだだったらしく、開いている場所に腰を下ろした彼らにあたしは料理を振る舞った。

 

「さて、食べながら良いから聞きな。予定通り、明日にはお前たちを連れて魔物大陸へ向かうよ。派遣する部隊の編成は終わってるかい?」

 

「えぇ、エスペラント隊長率いる1000名の魔王討伐軍が、我々と共に魔王の拠点へ進軍します」

 

 ケンシーバがあたしらに進捗を説明する。既に3人には彼らの血筋、そしてあたしの正体と役目について説明してある。その為、ケンシーバたち3人はあたしと共に魔王を討ちに大陸へ足を運ぶ。その護衛を魔王討伐軍、そしてハイゼンと鋼の軍団が担う。

 

 特に鋼の軍団はハイゼンによる死んだ魔物の回収・改造で数を大きく増やし、元の人間型と含めて総勢1000体の大所帯となっている。総戦力2000と5名。これが魔王軍を討つ為に今の人類が出せる最高戦力だ。

 

「ところでハイゼンベルク、あれは何だ? 一見建物みたいだが?」

 

 タ・ロウは離れた場所にある巨大な箱型の建造物に目が向く。ハイゼンはよくぞ聴いてくれたと言わんばかりに得意げに笑った。

 

「あれは建物じゃねえ、れっきとした乗り物さ。あれにゾルダート軍団を乗せて魔王のトコへ行くんだよ」

 

「え、動くのか、あれ!?」

 

「あんなデカいヤツが? 太陽神の使者の神の戦船並みだぞ!」

 

「心配ねぇ。俺の能力と技術で、ゾルダートを1000体乗っけても時速20kmは出せる。名前は『移動式カラ殺装置』。下部に設けたトゲローラーとドリルで敵をミンチしながら進む、俺が考えた最強の陸上戦艦だ!」

 

 何とまぁデタラメな物を作りおる。日本人もあれを見て愕然としていたな。太陽神の加護がある彼らからしても無茶苦茶な技術なのだろう。そして安定のドリルである。

 

「あれだけデカいと連合軍も乗せられそうだね」

 

「怪我人ならある程度は問題ない。他にも自走砲やゾルダート・ワイバーンの出撃も可能だぜ」

 

「ワイバーンもか? でもあれは寒い所では使えない筈じゃ……」

 

「あのワイバーンはハイゼンの改造を受けた死体だよ。死んでるから寒さなんて関係ないだろうね」

 

 魔物大陸ではワイバーンは生息出来ない。つまり魔王軍には空の戦力が無く、対して此方は持っている。これによる優位差は計り知れない。

 

「俺自慢の軍団にそれら大戦力を運搬可能な陸上戦艦。くくく、待ってろよ魔王。お前の死体は必ず手に入れてやるからな。コイツみてぇに!」

 

「うわっ、いつの間に!?」

 

 気が付くとあたしらの側には、片腕にドリルを付けたゾルダートが控えていた。鎧の所々から見える白く硬そうな毛並みから、コイツの正体がホワイトオーガだと理解するのに時間は掛からなかった。奴はドリルが付いてないもう片方の手で川の水入りの容器を持っていた。

 

「お、水汲んできてくれたか? よしよし、良い子だ。明日からの戦いも宜しく頼むぜ」

 

「オーガ……か。死んでるんだよな?」

 

「あぁ、ゾルダート・オーガだ」

 

「敵だったとは言え、こうして操り人形にされてしまうと哀れだな……」

 

 しかしオーガも多くの人類を滅ぼし喰らってきた。確かに哀れだが相応の罰だと思う。

 

 ……おっといけない、結構遅くまで起きてたみたいだね。

 

「そろそろ休まないかい? 明日も早いし、十分な休息を取っといた方が良いよ」

 

「おう、そうだな。じゃあもう寝るとする『ブルルルルルンッ!!!』おい、静かにしろシュツルム!! 良い子はもう寝る時間だぞ!?」

 

 ハイゼンは夜に大きな音を立て始めたシュツルムの元へ走り出した。

 

「……親子?」

 

「親子だね」

 

「親子ですね」

 

「親子だな」

 

 まるで寝付けが悪くて夜に騒ぐ子供を叱る親だ。後に勇者と呼ばれるあたしたち4人はハイゼンに対してそう思った。

 

 出発の時は近い。討伐軍にハイゼンベルクと鋼の軍団が加わる以上、魔王軍の命も風前の灯だろう。人類が平和を取り戻すのもそう遠くは無い筈だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――そう楽観的に考えていたが、実際はそんなに甘いもんじゃない。それをあたしとハイゼンは後に知ることになる。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

グラメウス大陸 ダレルグーラ城

 

 

「どうするどうする……奴らは確実に此処へ来るぞ!!」

 

「だから今は戦力を少しでも増やして、あとは魔王様が目覚めるのを待つしかないだろ!」

 

 一方の魔王軍。城に設けられたカプセルで休眠状態のノスグーラの前で、魔族のマラストラスと無事なオーガたちが作戦会議を開いていた。そこにはホワイトオーガと赤竜は居ない。ハイゼンベルクに殺されたからだ。

 

「くそ……1年くらい前までは順調にことが進んでたのによぉ。太陽神の使者どもと、あの意味不明な怪物軍団が現れてから散々なことばかりだぜ……忌々しい」

 

「何か対抗策は無いのか? 特に巨大魔獣に変化できる謎の人間族。あれが一番脅威だ。魔王様の最大魔法すら全く歯が立たなかったと聞く」

 

「魔王様が敵わない化け物をどうやって俺らで倒すんだよ。魔帝様が城に残して下さった魔導兵器なら勝てるかもしれねえが、現状使える奴は俺たちには居ねえ」

 

 イエローオーガの視線の先には壁にもたれかかるように置かれた人型の兵器。MGZ型魔導アーマーだ。しかしこれは高さが2mしかなく、3m以上の身長のオーガやノスグーラは着ることすらできない。魔族のマラストラスなら身長の問題はクリアしているが、魔導兵器の使い方など分かる訳がなく、幹部たちは全員途方に暮れていた。

 

「せめて魔帝様が作ったっていう量産型ノスグーラが1体でも居れば……」

 

「無い物ねだりしても仕方ない。やれることをやろう」

 

 オーガたちの顔は暗い。ゴブリンやオークを増やしたくらいでは、どう考えてもハイゼンベルクと鋼の軍団に勝てるビジョンが浮かんでこなかった。

 

「みな゛ざま、食事ができま゛した」

 

「お、もうそんな時間か」

 

「取り敢えず、飯にするか」

 

 其処へ調理係のオークがご丁寧にエプロン姿で入室してきた。魔獣の裸エプロンとか誰得である。

 

「ん? おいお前、その手に持ってるのは何だ?」

 

 レッドオーガがオークが持つ奇妙な物体に気付く。

 

「ごでれすが……? 地下を゛調べてだら゛見つけたんれ゛す」

 

「木の根っこじゃないか。そんな物どうして?」

 

「……なぁ、脈打ってねえかこれ? 本当に植物かよ?」

 

「見た目は胎児みたいだな。気味が悪いぜ」

 

 あまりの不気味さに顔を引き攣らせる者が殆どだった。

 

「そ゛う゛ですか? 言われでみれば確かに゛い゛い゛い゛!!?」

 

 その時、オークが足を滑られて転んでしまい、奇妙な物体が宙を舞った。

 

「「「「あ」」」」

 

 そして物体は眠っているノスグーラが入ってるカプセルの中にちゃぽんと落ちてしまった。

 

「お前、何やってんだよ!?」

 

「ず、ずいま゛ぜん゛!!」

 

「おい待て! 見ろ!」

 

 ブルーオーガがオークを咎めようとした時、マラストラスが叫んだ。何事かとカプセルを見てみると、先の奇妙な物体が触手を出してノスグーラに絡みつき、腹から体内へと沈んでいった。

 

「な、何だこりゃあ……?」

 

「言ってる場合か! やはり危険な代物だったんだ! このままじゃ魔王様の身が危ない!!」

 

 オーガたちが助けようとする間にも、魔王の体に急速な変化が起きた。体が徐々に縮んでいき、全身の黒く固い体毛は頭部他一部を残して体内に引き込まれ、皮膚や骨格まで大きく変化しているようだ。

 

「魔王様の姿が……」

 

「どんどん変わっていく……」

 

 それは地球にてカドゥと呼ばれる、菌根を元に作られた寄生体だった。何故か異世界に流れ着いたそれは、偶然にもノスグーラに適合し、その結果として姿が変化しているのだ。最も、製作者の様に自在に姿形を変えられるわけではなく、この体の変化も不可逆的なものに過ぎなかったが。やがて変化を終えた魔王の姿に側近たちは驚きを隠せない。

 

「まるで……人族っぽくないか?」

 

 大人の人類どころか、ヘタすればルーサより小柄な体格。色白の肌の裸体に黒く艶やかな長髪。美人と呼んでも差し支えない少女が横たわっていた。蜷局を巻いた2本の黒い角と悪魔の様な尻尾だけが、かつての名残を残すのみである。

 

「――ん? どうしたのだ、お前たち?」

 

 ノスグーラが長い眠りから目覚め、液体の中から上半身が出てくる。元の姿と同じ深紅の瞳が、見る物全てを吸い込もうとする様に動く。

 

「ま、魔王様……ですよね?」

 

「? 何を言ってるのだレッドオーガ? 我は紛れもなく魔王だ……ぞ」

 

 ノスグーラは漸く自身の声が非常に高くなっていることに気付いた。全身を見回すと、黒い体毛ではなく白い肌が目に入る。カプセルに溜まった液体に映るは人族の少女に近しい整った顔。

 

「な、なんだこれはーーー!!!?」

 

 カドゥの影響で少女になったノスグーラが、可愛らしい声を城全体が揺れる程張り上げた。

 




少女化魔王を活躍させたかった。後悔は無い。CVはざーさんで再生してください。

そして登場しました。外伝で活躍した魔導アーマー。スペック的にはイーサンがハイゼンベルク戦で使った自走砲より厄介です。

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