鋼の軍団、自由の為に魔王軍を蹂躙す   作:Woudy

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今回はヴィレッジ屈指の謎人物の登場です。


Ⅵ-商人、現る①

ーカラ♪コロ♪カラ♪コロ♪カラ♪コロ♪カラ♪コロ♬ー

 

「や、やべぐぎぇええええ!!!!」

 

ーカラ♪コーロ、そう、ち♫ー

 

 愉快な音楽に混じって聞こえる魔獣の断末魔、何か液体が噴き出る音。あたし含め討伐軍は無視を決め込み、決して右側の乗り物に目線を向けないよう努める。うっかり見た者は余りの凄惨さに嘔吐し、数名の仲間と共に元来た道を引き返していく。

 

「なんだまたか? ったく、この程度の寒さでリタイアかよ? だらしねぇ奴らだぜ」

 

「「「「半分はお前(貴方)が作った乗り物のせいだよ(ですよ)!!」」」」

 

 呆れた様子で去っていく兵を見送るクソ野郎に、タ・ロウ、キージ、ケンシーバ、そしてあたしはツッコまずにはいられない。ただでさえ極寒の気候で兵たちの体力が奪われているのに、移動式カラ殺装置とやらがグロテクスな美術品を生み出していくせいで兵たちの精神は更に摩耗し、撤退する者が後を絶たない。これで500名。内、半分はハイゼンが原因だ。にも拘らず抗議の声が出ない辺り、ハイゼンの出鱈目な力が人類の勝利に役立つと誰もが確信してるからだろう。

 

「そういうハイゼンはどうなんだい? その格好で平気なのか?」

 

「問題ねぇ。伊達に寒い国で暮らしてねぇからな。ハハハハハッ!」

 

 あたしらはかなり厚着だが、ハイゼンは薄着とまではいかなくとも左程着込んでいない。それでいて余裕綽々としているもんだから大したものである。

 

 タ・ロウが後続の部隊を見て難しそうな表情になる。未だ付いてきている兵たちも疲労を隠せない。

 

「……そろそろ限界かもな。これ以上大部隊での進軍は極めて困難だろう」

 

「元より想定してたことさ。彼らには申し訳ないが後はあたしらでやろう」

 

 これから先は氷雪に覆われた不毛の大地だ。食糧となる動植物も水も殆ど手に入らないだろう。そのような状況で500人分の食事を毎回確保するなど、到底不可能。このまま無理に進撃しても全滅するのは目に見えていた。

 

「そ、そんな、納得出来ませんよタ・ロウさん! 貴方たちだけ行かせて帰れだなんて……!!」

 

 タ・ロウは部隊を集合させると彼らに撤退を促す。隊長のエスペラントが抗議の声を上げるが、あたしらの意思は変わらない。

 

「気持ちは分かるが、お前たちではこの地の過酷さには耐えられない。それはよく理解しているだろう?」

 

「いや、ルーサ殿。それはアレが原因なところが大きくて……」

 

 一斉にカラ殺装置を恨めしそうに見る兵たち。実際、彼らの言葉にも一理あるので、あたしらは遠い目になる。

 

「……アレを差し引いてもさ。人数分の食糧は確保できないし、これからはより極寒の世界。既に限界が近いお前たちを、わざわざ死にに行かせるような真似はしたくないんだよ」

 

 あたしの言葉に兵たちは押し黙る。こいつらも分かってるんだ。これ以上は無理だと。

 

「エスペラント隊長、ここは一旦退きましょう。人類がもっと強くなって、グラメウス大陸へ進出できるくらい強くならないと、この大地は過酷すぎます」

 

「……そうだな。本当は一緒に戦いたかったが、今の状態ではそれも叶わなそうだ」

 

 副隊長が賛同し、エスペラントが苦渋の決断を下す。兵は誰もが表情が暗く、このまま進軍しても満足に戦うことは出来そうになかった。寧ろあたしらの足を引っ張るだけだと思ったのだろう。しかし、どうしても不安は拭えないようだ。あたしらだけで減ったとはいえ多数の魔王軍を相手にすることが。そこへ黙って一部始終を見ていたハイゼンが得意げに語り出す。

 

「心配すんなよ隊長さん。俺と鋼の軍団がしっかりコイツ等を連れてってやるからさ。安心して吉報を待っててくれ」

 

 ゾルダートは死体だ。故に食事は必要ない為、ハイゼンの分の食糧さえ用意出来れば何処までも進み戦える。見てくれこそ悍ましいが、今の兵たちにとって鋼の軍団は非常に頼もしい存在に映っていた。悔しいが何も手に入らない不毛の大地では、補給要らずのコイツ等の方が軍隊としては有能なのだ。

 

「申し訳ないハイゼンベルク卿。どうか4人のことを頼みます」

 

「おう、任せてくれ」

 

「お前たちの意思は俺たちが引き継ぐ。命を無駄にするんじゃない」

 

「タ・ロウさんだけはありません」

 

「そうとも、5人も居れば魔王なぞ造作もない」

 

「ま、人間にしてはよく頑張ったよ。ここまで送ってくれて、ありがとな」

 

「皆さん……」

 

 タ・ロウがエスペラントの肩を叩き、ケンシーバとキージ、そしてあたしが横から口を挟む。自分の不甲斐なさに男泣きする種族間連合の兵士たちだが、それを咎めるなどという無粋なことは誰もしない。

 

「では我々はここで引き返します。もし戻ってこられなかったら、必ず迎えに行きますから!」

 

「ああ、承知した。お前たちも決して諦めるな。生きてトーパの地へ帰るんだぞ!」

 

 去り行くエスペラントたちを、あたしらは地平線の彼方へ消えていくまで見送った。

 

 

 

 

 

 それからの進軍は非常に速いものとなった。一度の狩りで5人分の食糧を数日分確保できるし、疲労が溜まっても移動式カラ殺装置の内部で横になれる。特に後者は睡眠中も進軍可能な点と魔獣に襲われる危険性を下げる点から推奨された。最初は凶悪な人相の集団の側で寝ることに抵抗を感じたが、それも毎日繰り返せば左程気にならなくなった。慣れとは恐ろしいものだ。

 

 しかし……

 

「これからは魔獣を喰おう」

 

 5人と1000体での旅が始まって1ヶ月。その日の夜に焚火を囲って食事を取っていた時、タ・ロウが言い出した。

 

「……現状を考えれば、やむを得ないだろうね」

 

「私もタ・ロウさんに賛成です」

 

 あたしらが今後直面する可能性の高い食糧問題。最近は大型の獣が滅多に現れず、鳥や魚などの小型の獲物しか入手出来なくなった。今日の食事も近くの川で手に入れた僅かな量の魚で作ったスープだ。当然、それだけでは腹が満たされず、失った体力を回復するには程遠い。遅かれ早かれ禁じ手を使わなければならなかった。

 

「そういや気になってたんだが、何で誰も魔物を喰おうとしなかったんだ? コイツ等、割といけるのによ?」

 

 ハイゼンだけはスープに加え、毒兎の串焼きをガツガツと喰っていた。コイツはトーパの地を出る前から頻繁に魔獣を喰っているので、魔素中毒を起こさない体質なのは明白だった。

 

「人間にとって魔獣の魔素は猛毒なんだよ。食べると変質魔素が体内に蓄積されて、人体に大きな異常を来してしまうのさ。身体能力が著しく上がるけど、寿命を削ってまで食すには割に合わないね」

 

「ってかそれ、毒兎だよなハイゼンベルク? 魔素は兎も角、毒そのものを喰って平気なのか?」

 

「あ? 美味いから軽く何十匹も喰ってるけど、別に何ともねえぞ?」

 

「美味いのかよ……」

 

 ハイゼンは生物兵器、つまり人の形をした魔獣みたいな存在だ。だから魔獣やら毒やらを体内に取り込んでも何ともないのだろう。本当とんでもない体してんなコイツ。

 

「って、待てよお前ら。魔獣を喰うってことはつまり……まさか」

 

 ハイゼンが食べる手を止めて真顔になる。タ・ロウが己の覚悟を口にする。

 

「寒さや飢えで無様に死ぬくらいなら、魔王を倒すまでの寿命だけでいい。俺はアイツの首を取りたいんだ」

 

「私も同じ所存です」

 

「一度は捨てた命、タ・ロウ殿に預けている。毒を喰らわばなんとやら、だ」

 

 ケンシーバもキージも同じ思いだった。そしてそれは、あたしも同じ――。

 

「ルーサ、お前は……?」

 

「あたしもタ・ロウたちに付き合うよ。悪いねハイゼン、もしあたしらに何かあったら魔王を頼むよ」

 

 はっきり言って、もう疲れた。タ・ロウたちの様に勇気溢れる者たちを、あたしは神の使者として多数導き、誰もが例外なく散っていった。神の使者に選ばれても、心は一人のエルフに過ぎない。1万年以上続く人生の中、多くの人を死へ導き続けたあたしの精神は、もうボロボロだ。だからタ・ロウが魔獣を喰うと言い出した時、漸く自分も冥府の神に迎えられる時が来たんだなと、思ってしまったのだ。

 

「ハイゼンベルク、俺からも頼めないか。俺たちがダメだったらお前に魔王を討伐して欲しいんだ。勿論、タダとは言わない。仮に途中で力尽きたら俺の死体をくれてやるよ。怪物にでも何にでも改造して、魔王戦での先兵として使ってくれ」

 

「私もだ。好きにしてくれて構わん……と言いたいが、人殺しだけは勘弁して欲しい」

 

「私もですハイゼンベルク卿。その時は獣人の力、存分に役立てて下さい」

 

 タ・ロウたちはあろうことか、死体を提供するとまで言い出したのだ。例え死んでも魔王を倒せるように。ハイゼンは、そんな彼らにとっての夢を叶えてくれる男だから。

 

「……」

 

 ハイゼンは真顔のままあたしらを見る。しかしその表情からクソ野郎染みた思考は読み取れなかった。寧ろ家族や友人との別れを惜しむ、悲しそうな瞳をしていた。

 

「おいふざけ――」

 

 その時だった。ガタガタという音が闇の中から近付いて来たのは。

 

「何だ!?」

 

「魔獣か!?」

 

 すぐさま臨戦態勢を取るあたしら。しかし現れたそれに全員が困惑し、どう反応すれば良いか分からなかった。

 

「馬車……?」

 

 現れたのは1台の馬車。こんな極寒の地でも平気そうに馬は鳴き声を上げて、あたしらの前で停車する。

 

「……おいおい、マジかよ。こりゃあまさか」

 

「何か知ってるのか、ハイゼン?」

 

「いやだってさ……俺、この馬車に見覚えがありまくりなんだよ」

 

「何――」

 

「これはこれは、まさかこの世界で貴方に出会えるとは」

 

 あたしの声が馬車の中から発せられた声に遮られる。直後に正面の扉が開き、中から一人の男が姿を現す。腹丸出しの、オークの様な巨躯の凄まじいデブだ。それを見たハイゼンは口を大きく開けて驚愕していた。

 

「デューク!!?」

 

「お久しぶりですね、ハイゼンベルク卿」

 

 え、この凄いデブ、ハイゼンの知り合いなのか? これにはあたし含めて全員が驚いた。

 




次回。バイオ村がどうなったか判明します。
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