『アイリス、レプリロイドだけの世界なんて幻だ。』
私の言葉に対して返してきた彼の言葉は今も記憶に残っている。
私は、兄と共にかつて軍で『平和を愛する心』と『闘争心』の二つを持った『伝説のロボット』の再来を目指して作られた存在だ。
平和を願う心を持った私と戦う意思を持つ兄。性格は違えど、兄妹である故に互いに思う気持ちは強かった。
だから、失うのが怖かった。
いつも近くで見守っていた兄さんがいなくなることが。初めて好きになった人に壊されることが。
戦争だから避けられないのは分かっている。けど、それでも戦ってほしくなかった。
兄の死を直感で悟った時、私は自分の中で何かが壊れた。同時に強い憎悪一色に染められていった。
何故・・・・どうして、兄さんが死ななければいけなかったのか?
ゼロのせい?イレギュラーのせい?それとも・・・・・人間のせい?
人間がいるからレプリロイドは互いに殺し合わなければいけないの?人間がいるから兄さんたちはイレギュラーとして壊されてしまったの?
憎い・・・・人間が憎い。人間側に付いたイレギュラーハンターが・・・・・ゼロが憎い!!
私は、憎悪に支配されるままに兄さんの『闘争心』を司るメモリーと動力炉をコアに変えてゼロの前に立った。
『落ち着け、アイリス!話を聞いてくれ!』
ゼロの声は、もう私の中には届かない。謝っても兄さんはもう帰ってこない。
そして、以前の私も・・・・・・。
彼に最後の別れを告げた後、私が見たのは見覚えのない天井と小さい人形だった。
『シャンハーイ?』
「えっ?」
私は、初めて見る存在に思わず体を起こす。そこは一軒の民家で私が寝かされているベッドから少し離れたところでは一人の少女が人形の修繕をしていた。人形は私が起きたのを確認すると少女の元へと行き、彼女は私の存在に気づく。
「あら、目が覚めたのね。よかった~。体の方はもう大丈夫?」
「え、えぇ・・・・・」
「でも、驚いたわ。まさか、森の中でほぼ人間と同じ大きさの機械人形が倒れていたんですもの。にとりに頼まなかったらどうなっていたことか・・・・」
少女は、私のことを見ながらブツブツと独り言を言う。体を見てみるとゼロとの戦いで負ったはずの傷はなくなっていた。
そして、心の中にあったはずの憎悪も。
私は保護してくれたアリスさんの下で暮らすようになり、たくさんの人たちと出会った。
霊夢さんや魔理沙さん、慧音先生に人里の人たち、妖怪のルーミアちゃんやチルノちゃん。みんないい人と言うわけじゃないけど私がそれまで持っていた『人間に対する疑念と軽蔑』、そして、『本当の平和な世界はレプリロイドだけの世界』と言う考えが誤った認識だったことを知ることができた。慧音先生の勧めで寺子屋の講師をしているけど、子供たちの反応を見てなおさらそう感じた。
けれど・・・・もう、あの人には会えない。
私はそれだけのことをしてきたのだから。
だから、この地から祈っている。
貴方が自分の信じた未来を勝ち取ることを・・・・・
「ア、アイリス?そ、そんな馬鹿な・・・・・・・」
ゼロは、目の前にいる彼女を見て自分の目がどうかしているのかと疑った。
『アイリス』
自分の世界で存在するレプリロイドのみで編成された軍隊『レプリフォース』のオペレーターで陸軍士官であり敵対することになってしまった旧友カーネルの妹である。
あの今は忌まわしき『レプリフォース大戦』のきっかけとなった空中都市スカイラグーンの墜落事件の現場において、保護し以降は何度も平和的に解決しようと言う彼女の意見を聞き入れようとせず、ゼロは最終的に友であるカーネルをイレギュラーとして倒してしまった。
それを知った彼女は絶望し、レプリフォース大戦の末期、ハンターベースで回収されたカーネルの遺体からメモリーチップを持ち出し、融合することでイレギュラー化、ゼロは止むを得ず託された彼女を自分自身の手で倒すことになる。
そして、彼女の最期を看取った後、彼女のボディはその場に残され、シグマの策略により、地球を攻撃しようとした戦闘衛星の消滅と共に失われてしまったのだ。
だが、そのアイリスが今、目の前に立っている。
「ゼ、ゼロ・・・・」
ゼロを見たアイリスは、動揺して落とした鞄を拾わず、逃げるようにアリスの家と思われる家の中へ駈け込んで行った。
「まっ、待ってくれアイリス!」
ゼロは、彼女を追って中に入ろうとしたが鍵がかけられたらしくドアノブを引いても開かない。
「開けてくれアイリス!」
「帰って!お願いだから帰って!」
ドアの方から彼女の悲痛な叫びが聞こえた。ゼロは、やはり本物のアイリスだと確信した。
「アイリス、俺の話を聞いてくれ!俺のせいでお前は・・・・」
「私は貴方に会わせる顔がないの!だからお願い。このまま帰って・・・・」
「アイリス・・・・」
突然の出来事で錯乱しているのか、ゼロはもう一度ドアを叩こうとする。
「おい、お前!そこで何やってやがる!?」
「!?」
背後からの声に彼は、振り向く。そこには籠を手に持った縞模様の巨大なトカゲが立っていた。
「なんだお前は?」
「人の質問を質問で返すんじゃねえ!親からそういう風に答えろって教えられたのか、あぁ!?}
「・・・」
ゼロは、混乱している頭の中を整理しながら落ち着いて答える。
「俺は、この家に入った少女に会おうとしただけだ・・・・ただそれだけなんだ。」
「本当にそれだけか?俺からしてみればお前が無理やりドアをこじ開けて入ろうとしたようにしか見えなかったけどな。」
トカゲは、籠を置いて目を細めながら近づいてくる。
「そ、そんなことはしない!!」
「ダァ・・・どうだろうな、この間のテラザウラーといい、ここには敵がわんさか来るからな。」
「テラザウラー?まさか、ワスピーターと同じように変形したアイツのことか?」
「ワスピーターだと!?」
名前を聞くなり、トカゲは不機嫌そうな顔に変化する。
「てめえ・・・やっぱり、デストロンの一員だな!?」
「違う!!大体なんであんな無害そうな奴にそんな敵意を向けるんだ!?」
「惚けるんじゃねえ!!現にこの間テラザウラーの奴が攻めてきやがったんだ!霊夢の奴は、また来たらお仕置きすればいいと言ったが俺はそうはいかねえ!ここで貴様を叩き潰す!ダイノボット、変身!!ダアァアァアアアアアア!!」
ダイノボットは叫ぶと同時に体が開き、骨を意識したようなロボットモードの姿へと変形する。
「クッ、聞く耳を持たないと言うことか。」
ゼロは、セイバーを引き抜いて臨戦態勢を取る。
「いやぁ~サンキューな、アリス。お前が一緒に入ってくれたおかげでいつもより多く収穫が得られたぜ~。」
箒に跨っている魔理沙は、風呂敷の包みを抱えながら隣で人形と共に空を飛んでいる少女に礼を言う。
「何がサンキューよ?素直に今まで盗んだ物全部返せばパチュリーだって、貸してくれるようになるのに。」
人形遣いアリス・マーガトロイドは、呆れた顔で答える。
この魔理沙、実はかなりの蒐集癖であり、拾うものならともかく人の家の物を持ち出していくこともしばしばある。そのたび持ち主に返却を求められるが彼女曰く『借りているだけでいつかは返す』とのことで一度も返したことがない。
「いいじゃんかよ、あんなにあるんだからさ。それに私は『返さない』とは言っていないぜ?『死ぬまでには返す』って言っているんだからよ。」
「だからってね・・・・はあ、あのハチがなんでアンタの家に居着いているのか今だに謎だわ。」
「まあ、いいじゃねえか?また、面白いことが始まるかもしれないからな。それにパチュリーのことだから多分直々に取返しには来ないだろう。来るなら来てみやがれってな☆」
「はあ・・・ん?あれは何かしら?」
アリスは森の方で、下からレーザーが照射されるところを見る。
「あれって弾幕ごっこか?一体だれが・・・・・・あっ!?そう言えばゼロがお前の家に行くって言ってたの忘れてた!?」
「えっ?どういうこと?」
思い出してあたふたする魔理沙に対し、アリスは理由を聞く。
「えっと・・・・実は」
<少女、説明中・・・・>
「アンタね・・・・そう言うのはもっと早く言うことじゃないの?」
「ごめーん、ごめーん!次の研究課題を考えていたから完全に忘れていたぜ。」
彼女の呆れた表情を見ながら魔理沙は、両手を合わせて謝罪する。アリスは、手持ちの時計を取り出して時間を確認する。
「この時間だともうアイリスが人里から家に帰ってきている時間・・・もしかして、巻き込まれているんじゃ!」
アリスは、慌てて自宅を目指して飛んで行く。
「おい、待ってくれよ~!」
魔理沙も慌てて追いかけた。
「ダアアアアア!!」
ダイノボットは、回転するサーベルと盾を構えながらゼロと一騎打ちを繰り広げていた。ゼロは、Zセイバーで応戦するが先ほどのテラザウラーの時と違い、近接戦が得意な彼に苦戦をしていた。
「相当できるな、まさか俺とここまでやり合うとは!」
「フン、てめえこそ大したもんだよ!俺は強い奴であるほど燃えるたちなんでね!せいぜい頑張るんだな!!」
斬り合いで距離を取った後、ダイノボットは、両目からレーザーを発射する。ゼロは飛水翔で防御し、雷神撃を仕掛けようと構える。
『ゼロ・・・もう一度聞く。自分の真の姿を、真のパワーを手に入れたくはないのか?』
「!?」
突然のフラッシュバックに彼は、動きを止める。
「ガラ空きだぜ!!」
ダイノボットは、その隙をついてレーザーを再度発射する。
「グオッ!?」
我に返ったゼロは、急いで回避しようとするものの体の動きが追い付かず直撃してしまった。吹き飛ばされた彼は、すぐに起き上がって斬りかかってくる相手にセイバーを構えるが再度脳裏の記憶が駆け巡る。
『戦ってくれよ!悪魔のイレギュラーハンター!』
『イケてるぜ、ブラザー!キキキッ。この調子で残りのレプリロイドを全て始末しようぜ!』
『コロシテヤル、コロシテヤル・・・・ユルサナイッ!』
「ハア・・・ハア・・・・」
かつて対峙したイレギュラーたちの幻聴に何かに怯えているのかゼロの動きは鈍くなり、ダイノボットの攻撃を次々と受けてしまう。
「どうした!急に動きがだらしなくなってきたぞ!もっと本気で来い!!」
そんな彼をお構いなしにダイノボットは、更にサーベルの回転率を上げて追い詰めて行く。
「ゼロ・・・・・」
二人の戦いの様子をアイリスは、家の窓から見つめる。本当はこのまま大人しく引き上げてほしかっただけだった。ところが何の用事なのかアリスの家を訪ねようとしたダイノボットが誤解をして戦うことになってしまった。
更に何を気にしているのかゼロの動きが急に鈍くなり、ダイノボットが一方的に攻撃をするようになった。
「どうしよう・・・・このままだとゼロが・・・・」
助けに行こうにも戦闘能力のない自分が言ったところで足手纏いにしかならない。しかも、拒絶しておきながら怒の面下げて行けと言うのだ。彼女は頭を押さえながらどうすることもできない自分を呪うがふと見た瞬間、ダイノボットの姿がある人物と重なった。
「・・・・・兄さん?」
剣を使っているせいなのだろうか。二人が戦っている姿がかつてレプリフォース大戦での出来事と同じように見えたのだ。そして、このままいけばゼロはカーネルのように・・・死ぬ。
その真実を理解した瞬間、彼女は目からポロポロと涙を零し始める。ゼロは未だに自分が憎んでいると思い、自ら命を絶とうとしているのではないか?そうだとすれば・・・・・
「嫌・・・もう嫌!それだけは絶対!!」
彼女は、急いでドアを開ける。
ダイノボットの攻撃で倒れたゼロは、起き上がる気力もなくその場で仰向け状態となる。
「ダァアア・・・・・俺のことを馬鹿にしているのか!?急に手を抜きやがって!」
「・・・・お前には関係ない。」
諦めがついたのか彼は、起き上がろうとしない。ダイノボットは、盾をしまうとサーベルを両手に持って彼に突き刺そうと構える。
「こんなことで最後にするなんて気に入らねが・・・てめえがそうしたいならさせてやる。」
「あぁ、頼む。」
ゼロが目を閉じると彼は、両腕を叩く挙げて勢いよく振り下ろそうとする。
「ダメエエエエエエエ!!!」
「ダアッ~~!?」
次の瞬間、泣きながら走ってきたアイリスが横からダイノボットを突き飛ばした。いきなり突き飛ばされたことで彼は、そのまま近くの木に激突し、一時的に回路が異常をきたしたのか目をキョロキョロさせて首が360度回転する。
「な、何しやがるんだぁ~~!?」
ダイノボットは、フラフラしながらアイリスの方を見る。アイリスは、ゼロの前に立つと彼に手を出させまいと庇う。
「お願いです!ゼロを・・・・彼を殺さないで・・・これ以上戦わないで・・・・」
「ハアァ~~ッ!?なんだそりゃ!?」
納得がいかないのかダイノボットは、首を元の角度に戻して彼女の前に来る。
「いいか!コイツは、自分で最期を決めたんだ!その礼儀に乗るのが『戦士』と言うもんだ!!それを邪魔するのは・・・・礼儀として失礼だろ、あぁ?」
「・・・・彼は、自分のことを責めているんです。だから・・・」
「ちょっと何やっているの貴方たち!?」
そこへアリスと魔理沙が合流してきた。魔理沙は、傷ついているゼロを見るなり唖然とする。
「お、おい、ゼロ!?大丈夫か?」
「・・・・・」
「おい、ダーダートカゲ!お前、霊夢に世話になっているくせになんてことしてくれるんだ!?」
「あぁ!?コイツはデストロンだ!そこの女を襲おうとしたところを阻止しようとしたんだ。それともあれか?俺の勘違いだと言いたいのか!?」
「このあんぽんたんの醤油漬け!勘違いにも程があるだろ!!コイツは、お前たちと違うんだよ!?」
「ダァア・・・・こんなことラットルにしか言われたことないのに・・・」
流石にこれ以上は戦える状況でないと判断したのかダイノボットは、剣をしまう。それが分かるとアイリスは、倒れているゼロの方へと駆け寄り、抱き起こす。
「ゼロ、大丈夫?」
「あ、アイリス・・・」
ゼロは彼女の顔を見るなり、申し訳なさそうな顔をする。
「まさか・・・・こんな形でまた会うことになるとはな・・・・」
「私も。でも、ごめんなさい。」
ボロボロの彼の姿を見ながらアイリスは、彼を抱きしめながら泣いて謝罪する。
「何故、謝る?謝るのは俺の方だ。俺は・・・・お前から全てを奪った・・・カーネルも・・・・レプリフォースも・・・そして、お前自身も・・・すまない・・・。」
「違う・・・・本当に謝るのは私の方。私は貴方の話を聞こうとせず、武器を向けて・・・・あなたに会うのが怖かった・・・ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・・」
互いに謝っている姿を見て魔理沙とアリスは勿論、先ほどまで敵意を剥き出しにしていたダイノボットまで思わず感動泣きしそうになっていた。
「ダァア・・・・馬鹿野郎、謝るんだったら最初から謝りに来たんだって言いやがれ・・・」
「喧嘩をしかけたお前が言うことか!?全く。」
「でも、参ったわね。彼、相当ボロボロよ。これだとにとり呼んで直してもらうしかないわ。」
アリスの言う通りでゼロの体は、かなりひどい状態だった。人形の修繕なら得意な彼女だが、機械となると話は別だ。そう考えているとダイノボットが先に声をかけてきた。
「そいつはどこにいるんだ?」
「えっ?妖怪の山だけど。」
「そうか。」
「まさか、連れてってやるのか?」
「勘違いするんじゃねえ、元は俺が撒いちまった種だから片付けるだけだ!」
そう言うと彼は二人の方へ向かい、ゼロを担いで歩き始めた。アイリスはその後をついて行く。
「大丈夫なのか、アイツら?」
「さあ・・・でも、あの外見だと椛たちに警戒されるんじゃないかしら?」
「まあ、あの顔じゃなあ・・・・って、アイツ何しに来たんだろうな?」
「そう言えば、そのことに関して聞かなかったわね・・・・・って、あら?」
アリスは、自分の家の近くに籠が放置されているのに気が付く。拾ってみるとメモ紙が挟まっている。
「・・・・霊夢の手紙ね。」
「なんて書いてあるんだよ?」
「何々・・・・『最近、茶栽培始めたから最初にできたサンプル試しに飲んでみて。霊夢。』ですって。」
「へえ、霊夢の奴。アイツ居候させてからそんなことしていたのか。丁度いい、お菓子と一緒に頂こうぜ!」
「別に貴方に飲んでと言っていないでしょ?・・・・まあ、一人で飲むのもなんだからいいわ。」
「やりい!!」
ガッツポーズを取る魔理沙の様子に呆れながらアリスは自分の家へと戻る。
ダイノボットってこんな奴だっけ?