―――パブロ・ピカソ
かつてマックイーンもメジロの療養施設で長期間怪我を癒やしていたが、そもそも病院の方が施設として優れているなら、金に困っていないメジロ家のマックイーンはそちらを使っている。
つまり基本的な施設能力が――おそらくは、施設に対しての投資額が――大病院すら上回っている。それがメジロの医療施設なのである。
様々な人間が集まっていた。
メジロ家お抱えの人間達。
主治医が招聘した今は後進の育成にあたっているはずの名医。
三浦が探し、アポを取って、善意半分仕事半分で参加した、
今は個人のクリニックで評判が高い、
医者の意地で、有給を使って手伝いに来た、かの少年が運び込まれた大病院の若き医者。
理学療法士のかつての同僚。
鍼灸師が連れてきた同業の異端。
シェフが連れて来た"医食同源の極み"と呼ばれる料理の鉄人。
集まった人間全員を満足させる完治祝いの特大ケーキを作り始めたパティシエ集団。
八方手を尽くし、名の知れた名人に呼びかけ、集まったのはほんの一部。
しかし、十分すぎるほどの人材が集まっていた。
「なるほど、これは難敵だ」
「実は最近こんな治療例があって……」
「使えそうな論文集めてきたっす、参考にしてください」
「クランケのカルテまだ見てない人居ませんか? ここにコピー置いときますね」
「え? 何? あたし何故ここでこき使われてるの? 安心沢はそう思います」
「1%に挑むよりは貴女使った方がマシだからよ。あ、100%成功させるつもりでやりなさい」
「ひええ~」
「『絶対失敗しないから』と言え、安心沢。刺し間違えたら死ぬ患者だぞ」
「ぜ……ぜったいに……失敗しま……全力を尽くします……」
「絶対、絶対かぁ。"絶対失敗しません"って、言ったことねえや……でも、やるか」
「やってやりましょう! ここで治療法が確立できれば、未来の患者も助かります!」
才能に溢れた人材がある。メジロの財力で、人材を活かす。
努力を怠る者もいないだろう。医師達は全力を尽くし、
ならば、あとは、運。
人事を尽くして天命を待つべし。
たとえば、『99%死に1%生き残る処置』とはなんのことだったのか、その詳細だとか。
「……1%とは、そういうことでしたか、いえ、噂には聞いていたものでしたが……」
「主治医さんはご存じでしたか。"ウマ娘の力を借りる"という、治療法を」
「はい。
注目度の高い発展途上の医療技術ですので。
ウマ娘からの臓器移植。
ウマ娘からの輸血。
ウマ娘の抗体や固有の毒物耐性の利用。
骨格筋の共生微生物転用研究……
人体が未知である以上に、ウマ娘の体は未知です。
可能性という点では、不治の病を治す可能性を、最も高く保有しています」
「なので、確率が低くても、可能性自体はあったんです。
成功率1%というのも大分サバを読んでいたらしいですけどね。
わたしは……こわかったんです。
わたしとおなじ病気の人もいない。
わたしが最初の症例。
だから、その方法で助かった前例もいない。
助かる保証なんてどこにもなくて……なさけなく尻込みしていたんです」
「……資料は十分に集めてあります。
その1%、今からでも挑戦できるでしょう。
しかしながら、保険適用外の臨床試験も乏しいようなものばかり……」
「調べるには人体実験になりますし、しかたないですよ。人でも、ウマ娘でも」
『人馬移植医療』。
それは、最先端にして最異端。
医学界では『異種移植』と呼ばれる技術が、この世界においてのみ、『ウマ娘』という特異存在の影響で、特徴的な研究と発展を繰り返した結果生まれた、特殊な医学体系であった。
異なる動物を掛け合わせる医療は、400年前ハーベーが始めたとされる。
ハーベーの血液循環説が発表されるまで、人類は基本的な血液の概念を持たず、また輸血などの救済方法を持たなかった。
ハーベーの発表を受け、血液研究は一気に加速する。
人々は犬の血を猫に注いでみたり、ビールやワイン、牛乳や尿まで動物に注いでみたり、「鹿の血を牛に注げば鹿の角が生えるに違いない!」といったレベルの思考で、様々な実験を行った。
しばらく後、フランス人医師のジャン=バティスト・ドニが、事故にあったウマ娘を助けたいという少年の意思を汲み、少年の血液をウマ娘に輸血した。
結果は成功。
1667年のこの事例が、人類史上初めての科学的な記録が取られた輸血であると言われている。
一部の輸血事業者がウマ娘を会社のアイコンとしているのは、この偉業があったからである。
そして、ドニは羊の輸血を、人に輸血することを開始した。
当時の医学では『人間とウマ娘は極めて近似である』という科学的な根拠が出揃っておらず、人間とウマ娘が子供を作れること、人間からウマ娘が生まれること、人間とウマ娘が似ていること……そういったことが認知されていながらも、人間とウマ娘が別の動物であるというイメージは、現代より遥かに強く根付いていた。
そう。
ドニには「ウマ娘と人で輸血が大丈夫なら羊でも大丈夫だろ」という認知があったのである。
しかもこの輸血、最初の二例は成功し、患者を救ってしまう。
調子に乗ったドニは次々と羊の血の輸血を行ったが、貴族が拒絶反応で死亡し、便乗して輸血で死んだと見せかけて夫を毒殺する妻が出てきて、その妻が殺人を誤魔化すためドニを訴訟し、医師達が大論争を繰り広げ、輸血が1670年に禁止……と。
それはもう、大騒ぎとなった。
皆が、「ウマ娘から輸血すると死ぬかも」というイメージを持つには、十分だった。
それから『輸血』には宗教的禁忌感から逆風が吹き、医学から輸血の存在は消されてしまう。
特に、ド二の悪印象と共に、人とウマ娘の輸血行為も禁忌と見る風潮が出来てしまった。
当然ながら、移植手術の類もタブーとされ、長らく研究する者はいなかった。
人から人への輸血も、1818年まで実行されることはなくなり、150年もの間、輸血という手段が医学に戻ることはなかった。
1875年頃、ランドイスらが『異なる動物の血液を輸血すると溶血反応などで死ぬ』ということを証明したことで、異種の輸血などに対する忌避感は、あらゆる意味でピークを迎える。
日本でも、最初の輸血が行われたのは1919年だった、というほどだ。
人間にウマ娘の何かを移すことで救う医療の歴史は、一度止まってしまった。
しかしながら現代では、既に再開されている。
時の流れは禁忌を薄め、命を救うため、人が全力を尽くすことを求めるものだ。
様々な代用実験の発明、基本的な技術の発展により、未だ未知も未知ながら、人とウマ娘は『自分達の体』という最大の未知を知り始めている。
何故、ウマ娘は人間とほぼ同じ体で重機じみた力が出せるのか。
何故、人は奇跡を目にしただけで、先天的な盲目が治り、折れた骨すら繋がるのか。
分からないことは、まだまだ山のようにある。
けれど、人とウマ娘は、助け合い、調べ合い、かつては治せなかったものを治せるようにしてきた。不可能を踏破し、可能にしてきたのが、人とウマ娘の歴史である。
ならば。
「数年前ならば1%だったかもしれません。
時の流れと症状の悪化で更に可能性は下がったかもしれませんが……
技術は日進月歩です。
昨日誰かを救えなかった後悔が、明日の医学を進歩させます。
昨日救えなくとも、今日救えるようになることが肝要。
あなたや、テイオー様が、変化することで"救える自分"になっていったように」
「お願いします。わたしは……生きていたいんです。トウカイテイオーと一緒に」
「お任せを。今はあなたとマックイーンお嬢様の主治医ですので」
かくして、多くの人間の集合知により、
お嬢様の望みは完治。
求めるものはハッピーエンド。
倒すべきは彼に巣食う全ての病魔。
今現在、
一つだけ治すということはできない。
全て治せるか、その場で全て治せず死ぬか、どちらかしかない。
オール・オア・ナッシングだ。
治療を行わなかったわけではなく、かといって行った分見えるようになったわけでもない。治療に成功したわけでもなく、失敗したわけでもない。そんな眼がまず強敵だ。
過去に行われた治療の全てを確認し、眼の精密検査を繰り返し、その治療跡で"事故"を起こさないよう綿密に計画を立て、先日起こったという『奇跡』を頼りに、視野を再建する。
2021年に、海外で失明を理由に引退を決定された名ウマ娘テアカウシャークが『奇跡の目の復活』で引退撤回したのを受け、その眼球を再建した最新技術の導入、それが決定された。
十数年間、どんな医者でも治せなかった眼を治す。
なんと高い壁だろうか。
ウマ娘の眼球再建技術として生み出された技術を、人間に導入する、世界初の手術。
チームAが、それを担当する。
第二の難敵は病巣の摘出。
複雑で、健常な部分と混ざり合い、モザイク模様の如き最悪の体内を作り上げている体内から、命を蝕む部分を取り除き、代替の人工臓器等を精密に埋め込まなければならない。
肉には腫瘍、骨にも腫瘍、内臓は生きているのが不思議なほどで、血管は変なところが繋がっていて不意打ちで破けやすく、神経まであっちこっちに地雷があり、迂闊にメスを入れれば気付けば体の障害が増え、最悪死ぬことになる。少年の体内は最悪の状態だ。
メスで触れれば即座に終わりの地雷が、体内に大量に埋まっている。
どんなに調べても、体内の地雷を全て見つけられた気がしない。
如何な名医とは言え、独力で挑むには難しい案件であった。
そんな体内を手術で整理し、人工臓器等を入れ込み、長生きできるよう形成する。
難易度は推して知るべし、である。
当然、手術も医師達の経験則に頼るしかなく、彼らにとっても初の体験となる。
当たり前のように、これも世界初の挑戦だった。
チームBが、それを担当する。
体内整形は医師の外科的な技量だけでなく、マイクロレベルまで作り込まれた人工の人体パーツを作る者が必要となる。
間に合わないようであれば、研究所などからコネで分けて貰うしかない。
彼の新しい体のパーツを揃え、手術中に精密に埋め込む。
チームCが、それを担当する。
ウマ娘が力んでも破れない、ウマ娘の毛細血管をモデルにした人工血管。
動物の細胞から汎用性が高く頑丈な人工臓器を作る技術を応用し、ウマ娘と人の細胞から生成した、強靭で拒絶反応が起こりにくい臓器。
ウマ娘の足が折れて引退することに心痛め、その足をどうにかできないかと考えた医者が生み出すも、ウマ娘の力に耐える強度の骨を結局生み出すことはできなかったという、寿命より長い耐久年数の人工骨格を生み出す製造機械。
近年生まれた3Dプリンタで人工心臓などを作る技術、マイクロチップを埋め込み臓器の機能を再現する技術、ウマ娘の抗体を用いた生命力の増進技術、ウマ娘の体毛を加工した人体に優しい特殊縫合繊維の技術―――彼らは何にでも手を伸ばし、『生存の可能性』を模索した。
そして。
必要な種類と量の人工靭帯部品を、チームCは数日で揃えた。驚異的な速度であった。
こういった『強いもの』で補ってようやく、『死にかけ』を『普通に生きられる少年』にまで押し上げることが可能となるのである。
集められるものを集められるだけ集め、細い糸をより集めるように、彼らは1%の成功率を、ほんの少しずつでも上げていく。
そして、最後に、心肺機能。これをチームDが担当する。
また、テイオーと会っていた日々の中で、徐々に体力がなくなっていった。
これは、心肺機能が低下している典型的症状である。
肺の劣化が呼吸を、心臓の劣化が体力を、それぞれ削り落としていた。
彼の奇病を治すにあたり立ちはだかった最大の壁が、この心肺機能の根本的低下である。
心肺機能は心臓と肺を新品と取り替えればすぐどうにかなる、というものでもない。
更に彼の奇病は、根本的な心肺機能を低下させるというもので、過去に手術を行って心臓と肺に手を入れても、一向に改善に向かわないという最悪の症状を伴っていた。
かつて
気付いたが、成功率の低さゆえに拒んだのだ。
人間の臓器移植には、『ドナー因子』という概念が存在する。
また、臓器移植の後に何らかの不具合が起こる"悪い因子"を指して、『予後不良因子』などと呼ぶこともある。
因子は、移植元の身体に備わったものであり、移植先に伝わるものだ。
かつて唯一、
"悪い因子"があるなら、その逆もある。
"移植先に因子が悪い影響を与える"ことがあるなら、その逆もある。
"拒絶反応が起こらない"に留まらない、その先の可能性がある。
人の因子より強い、ウマ娘の因子がある。
ならば、ウマ娘の協力が得られれば……極めて特殊な事例に対応できる、特殊な治療法が確立できるのでは? と、考えたのだ。
ドナー因子を厳選すれば、狙った影響を移植先に与えられる可能性がある。
心臓などを移植などせずとも、特殊な加工を施した輸血程度で、ある程度効果がある。
血液の受け皿になる臓器が専用の調整がなされた人工臓器であれば、更にその効果を高められる可能性がある。
"馬の物語は名馬から受け継がれる血が全て"―――などと、言ったのは誰であったか。
少なくとも、この世界では言われない言葉で、他の世界では定期的に言われる言葉だろう。
ウマ娘の体の一部を人間に移植したところで、人間は人間だ。
ウマ娘の能力を得られるわけではない。
プロボクサーの心臓を引きこもりに移植したところで、引きこもりがプロボクサーと同じ性能を得られるわけがない。
だが。
『彼を救えるウマ娘の因子』を、彼に導入して、心肺機能を補うことはできる。
ウマ娘の因子を人間の側に僅かなりとも導入するという、世界初の手術。
数年前、少年に提案された時は、技術不足で『99%死ぬ』と言われたそれ。
因子継承という、最先端にして異端の救済方法であった。
既存医療の延長でありながら、あまりにも基礎部分に異様な技術が前提として在る、ウマ娘が存在する世界にしか生まれない、ウマ娘が存在する世界でも実用に至っていない奇形の医療。
進歩している現在の人類の技術レベルでも、これら全ての手術が漏れなく完璧に成功する可能性は非常に低いだろう。
才能のある医師が集まって、最大限に努力して、それでも最後は運次第。
成功率1%未満。そう言われるに相応しい絶望的な患者へ、医師達は挑む。
ウマ娘を救うための医学と、人間を救うための医学の融合。
これは、前例の無い医療であり、事実上の不可能への挑戦だった。
手術は手術当日から始まっているのではない。
それ以前から始まっている。
手術に至るまでの日々は、理学療法士、鍼灸師、シェフ、パティシエの独壇場であった。
理学療法士は弱った
鍼灸師は科学的ではないアプローチから
シェフは食事面から完璧なコントロールを行い、健康第一の治療食にありがちな味の悪さなどなんのその。美味くて健康に良い食事で、
パティシエは死を前にして不安になりがちな
そして、同僚の主治医に託した。
手術が始まれば、彼らにできることはなかったから。
「大分体調が改善できたようです、希望様。
病気の進行が進む前に、予定を早めて手術に入りましょう」
「はい、主治医さん」
一日二回の診断で
本当に僅かな積み重ねを、主治医らは重ね、その時へと向かっていた。
翌日、主治医に連れられ、多くの最新機械が運び込まれた手術室に向かっていると、
「準備できました?」
「いつでも」
「初めて手術した時と同じ気分ですよ」
「今日は大先生の胸を借りる気持ちで臨みます」
「こちらこそ」
「我々鍼灸担当は手術前に彼の生命力を高めて終わりですが、失敗できませんよ」
「あの、"強い人間になれる秘孔"とか、あたし体感二割くらいしか成功しないんですけど」
「気合いで十回連続成功させなさい安心沢。外したら死を選ぶくらいの覚悟でね」
「ひええ……」
「ふぅ」
「頭と胸の同時手術はやったことあるが……深呼吸、深呼吸」
「失敗して元々、とか思わないでいきましょう。気が緩んで成功するとは思えません」
申し訳ない、と少年は思った。
少年はずっと、透明人間になりたい想いを抱えて生きてきた。
その想いを実質、テイオー以外の誰にも見抜かれずに生きてきた。
透明人間は死体が見えない。
透明人間は死んでも気付かれない。
透明人間は、死んでも悲しまれないことができる。
自分が死ぬことで誰かに迷惑をかけたり、誰かが悲しんだりすることを、彼は嫌がり、その性格が彼の絵の透明な魅力を増加させていた。
だから、当たり前なのだ。
それがウマ娘の"勝ちたい"という本能にも匹敵する、医者の"救いたい"という本能によるものだと分かっていても、気が引けてしまう。
それでももう、『わたしを救うためにそこまでしなくていい』だなんて、言うことはない。
誰に迷惑をかけてでも、誰のお世話になってでも、誰かを何かで悲しませることになっても、生きたい。彼女と生きたい。一緒に生きたい―――
そう、
奇跡が、彼を変えたのだ。
「……」
主治医は言葉少なに、患者の心に、無愛想に寄り添っている。
されど、喋る時は喋る。
「死が迫り、テイオーさんと仲を深め、貴方は成長しました。
急成長した貴方の絵が、テイオーさんの足を限界を超えて治しました。
そしてテイオーさんの起こした軌跡が、貴方の身体に奇跡を起こしました。
……類似の事案なら、確かに存在することです。
完全に理解不能なことでも、非現実的なことでもありません。
皆が医学を投げ出したくなるほどの無茶苦茶です。
しかし……皆、それに応えたいと思う気持ちもあります。今日がその時です」
「主治医さん……ありがとうございます。あの、そろそろお名前を教えてくださいませんか?」
「こちらへどうぞ、マックイーンお嬢様がお待ちです」
「マックイーンさんが? あの、お名前を」
「マックイーンお嬢様、希望様をお連れしました」
手術の場に連れて行かれると思って覚悟していた
そして何故か手術室の手前の部屋で、手術衣に身を包み本を読んでいたマックイーンを見て、少年はかなり首を傾げてしまった。
「やっと来ましたのね。読み終わってしまうかと思いましたわ」
マックイーンが読んでいた本の裏表紙には、ピカソの言葉が刻まれていた。
『
不可能に挑む言葉。
ピカソの言葉であるということは、芸術の本なのだろうか。
マックイーンは本の途中に栞を挟み、テーブルの上に置き、席を立つ。
そしてすぐ本に触れていた手をアルコールで消毒し始めたため、しばらく本の続きを読むつもりはないようだ。
何故マックイーンが手術を受けるような風体なのか。
彼は何も聞いていない。
いつも華美か可憐な私服とアクセサリーに身を包んで居たマックイーンが、今日はそういうものを一切身につけていない。
長い髪を纏めて上げて、手術衣の透明な帽子で頭を包み、手術衣一枚でそこに立っている。
病院の通院年数であれば同年代の誰にも負けない
マックイーンのその素朴さが、違和感を通り越して困惑を生んでいた。
"髪の毛一本たりとも床に落とさない"というマックイーンの意思が伝わってくるかのようだ。
美しさより完璧を求める。
今のマックイーンは美しくは見えないかもしれないが、手術室に入る人間の格好としては、これ以上無いほどに完璧だった。
主治医がマックイーンに頭を下げる。
「マックイーンお嬢様。お嬢様の献身、無駄には致しません。絶対に結果を出してみせます」
「……ふふ、主治医。貴方、いつから詐欺師になりましたの?」
「少しの間だけです。
信じることで起こす奇跡……
信じられる『絶対』を、私も増やしてみたくなりました」
「貴方、意外とノリがよかったのですね。知りませんでしたわ」
「私も知りませんでした」
そして、主治医は扉の向こうに消えていった。
この扉の向こうに、手術を行う部屋へ繋がる道がある。
多重に施設を区切り、そのそれぞれで殺菌消毒を行っているため、基本的にこの施設のこの区画で病気の元が無自覚に持ち運ばれることはない。
「ちょっとしたお久しぶりですわね、
まさか手術当日まで、ここまで会えないとは思っていませんでしたわ」
「マックイーンさん、なぜここに……いや、それより、そのかっこうは」
「主治医からどんな治療をするか、説明はされたのでしょう?」
「え、ああ、うん。
最新の医療とウマ娘から提供されたものを使うんだって。
人の医療とウマ娘の医療を技術の最先端レベルで合わせた、世界初のものだって……」
「手術に使うそれを提供していたのが、
「えっ」
涼しい顔で言うマックイーンに、思わず
「臓器移植や輸血は健康で、より肉体的に優秀な方がよいというな話はあるでしょう?
不健康な者や、親戚に遺伝病がある者からの臓器移植は不安視される、とか。
そうであれば、これは自慢ではありませんが、
マックイーンは微笑み、いつもの癖で髪をかき上げようとして、髪を纏め上げていることを忘れていて、かき上げようとした手が空振る。
マックイーンは気品のある微笑みで、無言で空振ったことをごまかしにかかった。
少年は見なかったことにした。
「まさか、ずっと裏で治療に協力を……!?
あ、いや、今日もか!
マックイーンさん、なんで……
あ、いや、ちがう。まずはありがとうだ。
ありがとう、マックイーンさん、きみの好意に感謝します」
「ふふふっ。混乱していてもまず感謝を選ぶのは、少し可愛らしいですわね」
「なんできみがそんなことを?」
「まず、最初の検査で適性があったので候補に入っていたそうですわ。
本格的な検査で、最初に用意したサンプルの中だと
「……そんなことあるんだ」
「ふふふっ。他のメジロのウマ娘に大分心配されましたわ。心配ご無用ですのに」
「そりゃ、そうだよ。普通はそうだよ」
テイオーは直感的に、
だから警戒していた。
他のウマ娘に対してはそうする気配も無かったのに、マックイーンに対してだけ、『センセーと相性最高だから』という理由で警戒していた。
帝王の直感だけを理由に、
その通りだ。テイオーの直感は正しい。最初からずっと正しかった。
それこそ、互いの臓器を交換しても拒絶反応が出ることは無いと言い切れるほどに。
彼の体はマックイーンの血を拒まず、マックイーンの体もまた彼の血を拒まないだろう。
二人の相性は、医学的見地から見ても"この上ない"ほどに最高だった。
「
「うん、知ってる。実況が言ってたよ。『史上最強のステイヤー』さん」
「何故そう呼ばれているか、根本的な理由をご存じですか?」
「え? ごめんね、ウマ娘のその辺りについては、そんなくわしくないんだ」
マックイーンは微笑み、息を吸って、吐く。
ただ姿勢良く息をするだけでサマになるのは、令嬢の特権だろうか。
綺麗な呼吸をするマックイーンの呼吸音の長さを耳で見て、少年は気付いた。
「……長距離が得意そうだね。息がなかなか切れなさそうだ」
「正解ですわ。
心肺機能が高いウマ娘ですの、
お分かりですわね?
「……!」
「テイオーは貴方を心配していましたわ。
下がる心肺機能。
出る咳。
心肺機能の低下に追随する体力の低下。
ふとした時に倒れてしまうほどの心肺の弱化。
けれどそれも今日までのこと。
これは自慢ではありませんが、ウマ娘でも一、二を争う心肺機能を持ち合わせていますのよ」
この世界におけるウマ娘のメジロマックイーン、ここではない世界に存在する競走馬のメジロマックイーン、その両方が最強のステイヤーと呼ばれた最大の理由。
それが、その心肺能力だ。
周囲が絶賛するほどに、その心肺能力は飛び抜けて高かった。
心肺能力の高さは持久力や回復力に直結する。
長距離走において、メジロマックイーンが最強たる所以である。
体調不良がまず咳として出て、咳を基準にテイオーに心配される、まず弱さが心肺に出てくるのが
その強さが心肺に現れるのがメジロマックイーンである。
誰もが
ゆえに、異端の医療でドナー・マックイーンの因子を継承できたなら。
主治医らが探し求めていた、最後の希望のピースが嵌まり込む。
彼女がこんな格好でここに居るということは、そういうことだ。
「主治医には好きなだけなんでも持っていきなさい、と言ってありますわ。
……メジロの肩書きがある以上、血を抜くくらいしかしないでしょうけども。
リアルタイムで抜いた血でないと効果がない治療だと聞きますもの。
うっかりうっかり、血を抜きすぎて
「! そ、それはさすがに……そこまでしてもらうのは……」
「……? ああ、いえ、貴方のその想像はおそらく間違ってますわ」
「え?」
マックイーンの心を読んだかのような涼やかな否定に、
テイオーのことは理解できていても、マックイーンのことはまだ理解できていないから、少年はマックイーンに事あるごとに驚かされている。
トウカイテイオーに迫るほど、この少女も、運命を蹴り飛ばす強い心の力を持っていた。
「これは自己犠牲の精神ではありませんわ。
それが正義の行いだと思っているからでもありません。
これは私がそうしたいからそうしている、強いて言えば信念の延長でしょうね」
「信念……」
誇り高くも、美しい。
されどマックイーンのその美しさは、穢れないがゆえの美しさではない。
泥に塗れることを恐れない、泥中の蓮華のような美しさだ。
仲間一人に泥を被らせず、一緒に泥を被り、一緒に走る白鳥。
それがメジロマックイーンである。
「貴方達の背中を押して、命を賭けさせたのです。
無責任にも、当事者でもない、友人の一人でしかない、この
ならば、貴方と比べれば随分と過小でも、この命を賭けなければ。平等になりませんわ」
「―――!」
「貴方に一人で命を賭けさせるつもりはありませんわ。共に行きましょう」
"死ぬのが怖い"という気持ちが。
"最悪自分は"という不安が。
"一人で死んでいくのはどんな感じかな"という竦みが。
"手術中、眠っている間に、死んだら、気づかないまま、そのまま"という恐怖が。
マックイーンの言葉で吹き飛ぶのを、
彼はもう、一人じゃない。
「ありがとう。きみに出会えたことも、わたしの誇りだ」
「大袈裟ですわ。それに……」
自然と二人は笑い合っていた。
笑顔を交換し合える、不安な時に共に居てくれる友人。それのなんと素晴らしいことか。
「互いにその関係を誇れるからこその友人関係。そうは思いませんこと?」
「……うん、その通りだ」
二人は一つ二つ言葉を交わして、主治医と同じ経路を進み、手術室へと向かった。
その道中は、歩行入室形式の手術室と、そう変わらない仕様が感じられる。
傷に響かない清潔なこの施設において、更に清潔で、過剰なほどの清潔感が在る。
この先の領域に、細菌の一つも入る余地はない。
この先に在るのは人を治すための空間だが、人を救うために特化しすぎた手術室という領域は、ただそう在るだけで一つの異界のようだ。
事実、そうである。
手術室は、リアルな科学の極みであると同時に、ホラー映画でよく使われるオカルティックな物語の象徴でもある。
手術室はいつの時代も、『生と死の境に最も近い異界』であるからだ。
この先に、誰の目にも明らかな、生と死の境界がある。
「この先に進むにあたり、私物は持ち込めませんわ。
と、いうわけで。随分と遅れましたが、先に渡しておきますわね」
私物を入れるためのカゴを前にして、マックイーンは唐突に、手術衣のポケットから、ハート型の箱を取り出した。
「? これ何……あっ」
少年が受け取り、触れてその形を知る。
「ゴタゴタが続いている間に過ぎてしまったでしょう、『2月14日』」
「……バレンタイン!」
「テイオーからですわ」
「!」
「全く、テイオーから預かっていたものの、
当然、テイオーも彼に全く会えていない。
手術当日にマックイーンが会えたのも、状況が生んだ特例である。
テイオーが真心を込めたチョコレートを預かり、冷蔵庫に入れて、彼に会おうとしても会えず、数日頭を抱えていたマックイーンの姿は想像に難くない。
テイオーのチョコを受け取り、
「あ、あはは……な、なんか思ってたよりずっとうれしいし照れるね。なんでだろ」
「あら。初めて見る顔ですわね。ふふふ、テイオーも中々やりますわ」
流石に、手術前に食べるわけにはいかない。
私物を入れるカゴの中に、
丁寧に扱われた少女の愛と勇気の塊を見やり、マックイーンは満足そうに頷く。
「正直に言えば……テイオーに本命のチョコレートをあげる勇気は無いと思ってましたわ」
「ははは。手厳しいね」
「勇気にも種類がありますもの。
恐ろしい者に立ち向かう勇気と、顔を真っ赤にして告白する勇気は別ですわ」
「うん、それはそうだ」
「
恋する相手にチョコレートを作り、こうして人伝てでもちゃんと渡せたトウカイテイオーの愛と勇気を、マックイーンは最大級に評価する。
「
「ああ。がんばろう」
「ええ。あの子の本命のチョコレートの感想、あの子に直接言わなければ許しませんわよ」
「……ほんとうに手厳しいなあ」
"それが言いたかったんだなあ"と、
このチョコは優しい応援ではない。
厳しい鞭打ちである。
このチョコを受け取った時点で、手術に失敗して死ぬことは許されない。
チョコの感想を言わずに死ぬなど許されない。
トウカイテイオーの本命チョコの感想を本人に言うまで、マックイーンは
『死ねばその恋と愛を裏切ることになりますわ。それで平気ならどうぞご自由に』、と―――そういう、厳しいマックイーンの言葉が、チョコから伝わって来る気すらする。
メジロマックイーンは、大事な友人を甘やかさないタイプであった。
命を懸けて一緒に居てくれるが、甘ったれたことは許さない。そんな女であった。
「チョコの箱の裏面を見たら……いえ、触れたら、もっと良いですわよ」
「裏面? ……これは、おまもり?
もしかして……
わたしが描いて、テイオーちゃんに渡された、絵の入ったおまもり?」
「ええ、そうですわ。テイオーに頼まれました。これで貴方を守ってほしい、と」
「……そっか。いま思うと、ちょっとはご利益あったのかな。守ってくれたのかな」
「テイオーはあったと思っていますわ。でなければ貴方に渡そうとはしないでしょう?」
マックイーンの手で、お守りとなって。
テイオーを守り、彼女を奇跡の果てまで送り届け。
今、マックイーンを通して、テイオーから
善意のリレー。
あるいは、奇跡のリレーか。
ともすれば、祝福のリレーかもしれない。
"自分のように奇跡がありますように"と、トウカイテイオーは祈りを込めて、このお守りを
「人間の男のわたしにどのくらいエドワード7世の加護があるのかは、わからないけど」
「え?」
「え?」
マックイーンは少し驚いて、虚を突かれた様子で少し考えていたが、数秒の沈黙の後、なにやら何かを理解した様子で頷いた。
「……貴方はどうにも忘れてるようですわね。いえ、独学ゆえに抜けがあるのでしょうか」
「?」
「最後の放蕩王エドワード7世は、最後までドイツに敵視されていました。
そんなドイツからウマ娘専門画家エミール・アダムを呼び、愛バ達の絵を描かせた。
敵対する国からお気に入りの画家を呼び、お気に入りのウマ娘を描かせる……
そんな逸話が残ってるくらい……かの王は、ウマ娘を描く画家も愛していた王ですわ」
ちょっとだけ、育ちと教養の差が表れて、芸術に関する少年の知識……いや、『王が愛したもの』に関する少年の知識を、マックイーンが上回る。
「人間の画家とウマ娘の少女が両思いなら、あの王が応援しないわけがないでしょう?」
「……!」
マックイーンは、思うのだ。
目には見えない、運命の意地悪などというものが、もしあるのなら。
目には見えない、『頑張れ』と雲の上から言っている、美女とウマ娘と画家が大好きな王様の加護だって、ほんのちょっとくらい、どこかにあるんじゃないか、なんてことを。
「無病息災のお守りのつもりが、縁結びのお守りになっていた……ってことかな」
「世界一有名な絵描き好きでウマ娘好きの王ですもの。そういうこともあるかもしれません」
ふっ、とマックイーンは笑む。
「まったく。誰のための御守りだったのか、分かったものではありませんわね」
皆、皆。
何かを愛している。
誰かを愛している。
それがどこからか、どこかへと繋がっていく。
奇跡というものは、その繋がりの先にあるのでは、と―――マックイーンは、ふと思った。
「あの、さ」
「はい、なんでしょうか」
「このお守りは、きみが持ってるといい。
もうテイオーちゃんを守ってくれた実績つきだ。
たぶん……いや、かならず、きっと、きみを守ってくれる」
テイオーから渡されたお守りをマックイーンに手渡そうとする
この期に及んで、マックイーンの心配。
筋金入りである。
何故手術を受ける方が、自分より生存確率の高いマックイーンにお守りを渡そうとするのか。
テイオーのお守りを受け取って、そのお守りに宿っているかもしれない奇跡も、テイオーの想いも受け取って、その上で、マックイーンにお守りを渡そうとしている。
『わたしはわたしで生き残る』。
『だから、この奇跡はきみに』。
『きみに死んでほしくない』。
『一緒に生きて戻ろう』。
そんな想いからの行動だろう。
マックイーンは微笑み、いつも持ち歩いているもう一つのお守りを、彼の手に乗せる。
「
「あ……」
「これは友人が
「……あ、あー。その。もうちょっと時間くれたら、きみのおまもりの絵を描き直し……」
「これがいいのですわ、これが。他は要りません」
友情の証ですわ、とマックイーンが微笑み、
二人の二つのお守りを重ねて、カゴに入れる。
手術室には持ち込めないが、きっと守ってくれるだろう。
画家も、ウマ娘も、雲の上の王様は守ってくれるだろう。
二人はちょっとばかり、お守りのその加護を信じている。
「第一、
「うん、そうだね」
「貴方以上に、そばにあって安心する御守りはありませんわ。
御利益という点では、どんな大明神よりも大明神かもしれませんわよ?」
「そ、そこまで言う……?」
「ええ、言いますわ。
いっそ拝んでみましょうか?
「か、かんべんしてくれないかなあ」
「ふふふっ」
必ず、生きて終わると。
必ず、あの子の元へ帰ると。
必ず、あの子に"ただいま"と言うのだと。
同じように、ちょっと泣き虫な一人の女の子のことを想う、二人の友達関係があった。
「春が来たら、皆でお花見に行きましょう。テイオーが喜びます。きっと、楽しいですわ」
「ああ、それは……いいね。花見なんて、まともに一度も行ったことないや」
"見る"を知らなかった少年は、花見という言葉に感慨深そうに、そろりと呟いた。
手術室に入った二人を、看護師達が出迎える。
優しい言葉をかけながらも、これから始まる手術に、看護師達もどこか緊張した様子だ。
主治医が出てきて、マックイーンが少々安心した様子を見せる。
マックイーンがメインの手術台の横に置かれた、サブの手術台の上に寝かされる。
その身体に計測器がつけられていくが、これはあくまで参考にする数字を出すためのもの。
マックイーンは最後の肝心なところで彼に輸血するための献血、あるいは途中にそれ以外のことをするため、途中までは待機である。
長大な手術は一回で30時間を余裕で超える。
しかも、疲労で手元が狂えば終わりだ。
医師達は交代交代で手術を担当し、最高精度の手元を保ちながら、ちゃんと休憩を取って精度を取り戻し、また幾度となく手術室で処置を繰り返す。
学生のバトンリレーくらい気楽であれば、どんなによかったことか。
『自分のところで失敗できない』。
『自分が担当の時に遅れたら患者が死ぬかも』。
『僕の後の人は上手くやれるだろうか?』。
『俺が寝てる間に患者が死んでたら俺は耐えられるのか?』。
『死なせたくない』。
『この子は何十時間も苦しんでるんだ』。
『疲労で手元が狂うのが怖い』。
無限のプレッシャーの中、彼らは戦うことになる。
自分以外が失敗したら全部終わり。
自分が失敗しても終わり。
大手術とはそういうものだ。
皆を信じるしかない。
自分を信じるしかない。
その戦いは、どこまでも
ちょっと手元が狂えば、仲間全員の努力が無に帰る。
ちょっと気を緩めれば、自分ではなく、患者が死ぬ。
どこまでも、他人。
自分の失敗の責任を、他の人達が被ってくれる。
ゆえにこその地獄。
この手術もまた、途方も無い時間を前提とするものだった。
当然ながらマックイーンも、その終盤まで起きていなければならない。
合間に多少寝ててもいいが、必要な時には必ず起きてなければならない。
そんな状況で平然と寝ること自体が難しいだろう。
マックイーンからの輸血が必要なタイミングは、大まか見当はつけられているものの、全員が世界初の手術に携わっている以上、誰も本当に必要なタイミングは分かっていない。
マックイーンは起きていなければならない。
30時間か、40時間か、50時間か。
"楽にこなして終わらせる"ことが許されている者など、この場には一人も居ない。
この場の誰もが、戦場の只中にいるかのような気分だった。
手術台の上に寝かされた
まずは心電図のシール。
次に血圧計など、モニタリングのための計測器。
最後に酸素マスクが口に当てられ、麻酔の準備が完了した。
心電図が心臓の動きを見つめている。
血圧計、パルスオキシメータ、体温計、その他諸々の機械が動き出す。
とくん、とくんと、少年が生きている証が可視化される。
点滴が差し込まれて、全身麻酔が始まる。
全身麻酔が始まると、少年の目がとろんとして、やがてその瞳が閉じられる。
「……」
チューブを差し込み、気道を確保して、チューブからガス状の麻酔薬が微細に流れ込み、少年の全身麻酔をコントロールする。
麻酔は多ければ死に、少なければ目覚めてしまうもの。
熟練の麻酔医は今回の特殊な状況に合わせ、序盤は呼吸器、途中からは静脈点滴を用いて、少年の麻酔を維持し、手術の途中に彼が起きてしまうことを防ぐ役割を持っている。
心臓と肺の代わりをする、人工心肺装置がいつでも動ける状態で待機している。
執刀医である主治医の周りの医師達が、無言で頷いている。
かたん、と、メスが銀色の皿の上で揺れた。
不可能と死を前にして僅かに震えた指先を、拳をぎゅっと握ることで、主治医は無理矢理に抑え込み、己の恐怖を踏破する。
「開始します」
銀色の刃が、手術室の光で煌めいて。
ゆっくり、ゆっくりとやらなければならない。
ゆっくり走るようにしなければ、この手術は成功しない。
全力で歩くようにしなければ、この手術は間に合わない。
人体が手術に耐えられる時間には限界があり、それは医師の技術によって長くなる。
それでも、限界はある。
制限時間がある。
人は無限の手術に耐えられない。
そしてこの患者は、名だたる名医達が見てきた全ての患者の中でも、間違いなく一位争いができるほどに、『しなければならないこと』が多かった。
だから、しなければならないことを分け、チーム単位で各処理を仕分けた。
オール・オア・ナッシング。
全て治せるか、その場で全て治せず死ぬか、どちらかしかない。
神業でないとこなせないような状況が、次から次へと降って湧いてくる。
少し間違えれば、即死に繋がる。
予想外の病巣が次々に出てくる。
先週検査で確認したはずの部分が、一週間で形を変えている。
少年の体内は、少年の絶望に相応に、『絶対に治せない』と言われるに足るものだった。
熟練の医師達の心を折るには十分すぎる絶望が渦巻いている。
気力と生への執着だけで生きてきた少年の体内は、手遅れに手遅れを重ねた、奇跡すら塗り潰す最悪の宝庫だった。
ゆっくりしないと、少年が死ぬ。
速くしないと、少年が死ぬ。
針の穴に糸を通すように丁寧にしないといけないのに、処置しないといけない部分が多すぎて、このままでは間に合わない。そんな焦りがある。
針の穴に糸を通すように丁寧にしないといけないから、慣れた速度でやろうとしても、難易度の高さに失敗しそうになってしまい、医師の背中に冷や汗が垂れる。
それは地獄であった。
"救いたい"を前提とした地獄。
"救えない"がちらつく地獄。
救おうとしても、救えない地獄。
十数年間、生を諦めたくなかった少年をへし折り続け、踏み潰し続け、叩き壊し続けた、どうしようもない絶対の絶望。
いかなる医者も匙を投げた絶望が、少年の命を掴み続けている。
死ね、と。
逃さない、と。
お前は幸せにはなるな、と。
病魔が、死が、少年の命を掴んでいる。
死が近付いている。
死神が来ている。
彼の生を許さない運命が、にじり寄っている。
医師達の心に染み入る不安、弱気、僅かな諦観が、死神の声となって囁いた。
―――お前の積み上げてきたものは、酷く情けないものだったんだな?
それは、幻聴であったが。
「ふざけるな」と、医師達は奮起した。
まだ先は絶望的に長い。
予定された手術過程は無限に思えるほど長い。
生命活動が弱まっている。
最初の想定以上に、少年が死に向かう速度が速い。
十数年かけて蝕まれた少年の命は、既に死神の玩具であった。
されど、だからどうしたと、医師達の手は止まらない。
人を救うことが好きだから医者になったような奴らが、この程度で折れるわけがない。
皆同じだ。
誰かに強制されたわけではない。
好きだからそうしてきた。
好きだからその生き方を選んできた。
苦しいこともあった。
辛いこともあった。
誰もがそうだ。
幸せなだけの人生を生きてきた者などいない。
誰もが挫折、苦難、絶望を味わい、その中で歯を食いしばって生きてきたのだ。
走ることが好きだから、ウマ娘の競争の道を選んだ。
絵を描くことが好きだから、目が見えないという最悪のハンデがあっても、絵を描いた。
人を救うのが好きだから、何度患者を救えなくても、何度目の前で人が死んでも、医師を志した者達は人を救おうとする。
皆同じだ。
だから。
『死ぬな、生きろ、まだ死ぬな』と、少年に心の中で叫びながら、医師達は諦めない。
一時間。
二時間。
三時間。
四時間。
砂粒を一つ一つ積み上げて城を作る作業のように、途方もなく長く感じる時間が過ぎる。
燃え滾る鉄板の上に降る白雪のように、貴重な時間が一瞬で溶けていく。
まだ終わらないのか、と思う看護師がいた。
まだここまでしか手術が終わってないのか、と思う医師がいた。
まだ、まだ、病魔との戦いは終わらない。
逃げ出せない悪夢の中に、
もう目覚めるという逃げ道は無い。
悪夢の中で、
真っ黒な死は、
黒い絵の具をキャンバスにぶちまけたようなその姿は、姿が明確な死神よりずっと『死』そのものに近く見えて、途方もなく恐ろしかった。
「はぁっ、はぁっ」
これは悪夢が見せる幻覚ではない。
本物の死。
手術中の彼に迫る、生の終端だ。
悪夢の荒野には底の見えない谷があり、そこに落ちれば死ぬという確信があった。
追いかけてくる黒き死に捕まれば、その瞬間に死ぬという確信があった。
上を見上げれば、今に落ちてきそうな空があって―――それが落ちてきても、その時点で死ぬ、そういう確信があった。
ここは悪夢の荒野。
そして、間近に迫る死の具現。
一瞬であっても気を抜けば、その瞬間、死に飲まれる。
ウマ娘は己が生の存在証明をするかのように世界を走るが、この世界において、走ることをやめた者は死に至る。
生を嘲笑うような、死の世界だ。
テイオーが、マックイーンが、
「まだ……まだだっ!」
そんな中、彼は諦めていなかった。
走る。
走る。
走る。
テイオーのように。
マックイーンのように。
あのレース場で耳を傾けた、夢を追う無数のウマ娘達のように。
必死に、懸命に、前を見て、胸に抱えた祈りのために走る。
彼が見えない目で見てきたウマ娘は、皆一生懸命だった。
誰もが頑張っていた。
誰もが実体のない夢を追いかけていた。
その熱に、そのひたむきさに、その素晴らしさに、彼はずっと惹かれてきた。
だから、忘れない。今でも覚えている。
諦めずに走ることの大切さを。
諦めずに走り続ける方法を。
諦めずに走っていく心の在り方を。
誰よりも諦めなかったトウカイテイオーが、彼に何もかもを刻んでくれたから。
諦めずに夢を追うウマ娘の真似をするように、諦めずに死から逃れ続ける。
「死にたくなかったのは、死にたくないって言えるようになったのは、生きてたからだ!」
叫ぶ。
そして、走る。
死は速い。
きっとどんな生よりも速い。
死はどんな生よりも速いから、どんな生にも追いつける、最悪の走者だ。
けれど、
絶対の死から逃れ続ける。
まだ、まだ、死ねない。
ここで死を受け入れるには、残してきたものが多すぎる。
何より、ここで死を受け入れては、あの少女が泣いてしまうかもしれない。
それだけは、絶対に、絶対に―――受け入れられない。だから、少年は荒野を走る。
「生きてるのが、楽しくなったから!
もっと生きていたいと思えたから!
だから……死にたくないって、叫べたんだ!」
ウマ娘は走る。
人は走る。
彼も走る。
何のために?
目が見えない者は走らない。
転ぶ危険性が高いから。
気を抜いた瞬間に大怪我する可能性が高いから。
事実、
落ちてくる工具も、足元の突起も見えない彼にとって、暗闇の世界を走ることは命懸けであったが、命が惜しくないほどに彼女を好きだと思う気持ちが、死の恐怖を振り切った。
そうして、彼は『走る』を正しく知ることができた。
『走る』を、トウカイテイオーが彼にくれた。
『走る』が、今彼を、迫り来る死から逃してくれている。
彼女のために走ること。
生きるために走ること。
誰も知らない明日へ向かうために走ること。
「お前なんかに捕まってたまるか……彼女を置いて死んでたまるか!」
彼女のためなら、生きるために、懸命に走れる。
「過去の、最強最速の自分と戦って、彼女は振り切って、勝ったんだ!」
彼女のおかげで、生きるために、懸命に走れる。
「わたしが、よわくても!
わたしが、なさけなくても!
わたしのかけっこが、並でも!
おまえなんかに追いつかれるものか!
わたしは……だれよりも速かったトウカイテイオーの、その心を追いかけた男だ!」
走ることの無い盲人が、走ることで生きるウマ娘と出会い、得た物語があった。
今ここにあるものが、その物語の結実の一つ。
少年の足に宿る帝王のステップが、最強最速のステップが、死すら置き去りにする。
「死が待っているゴールになど行くものか!
おまえ程度に追いつかれてたまるものか!
わたしは……わたしは……!
あの子が待っているゴールに、生きて、一着で、辿り着くんだ!」
叫び、走った。
諦めないことだけが、彼女の奇跡に報いる生き方だと、そう信じて。
「―――絶対に!」
それは永遠の絶望。
この悪夢に終わりはない。
脱出口などない。
黒き塊の死神を倒す手段はない。
逃げることしかできない。
そして、黒き塊は永遠に追ってくる。
いつかは捕まるしかない。
これは
終了時間が設定されていない、永遠にして最悪の鬼ごっこ。
死に捕まれば終わり。
そして、最後には死に捕まるしかない。
なればこそ、絶望しか無い永遠の鬼ごっこ。
けれど。
少年は、その絶望を跳ね除けるだけの希望を、もう胸から溢れるほどに貰っているから。
そんな永遠の絶望では、永遠の帝王を愛する彼の心を、折ることなどできなかった。
機械が冷たく、波長と数字を表示する。
かろうじて、と頭につくが。
手術室は人がどんどん入れ替わっていくが、少年が生還する気配はまだ見えない。
紙一重で少年の命を繋ぐ処置を行いながら、少年の病巣を処理していく、綱渡りを通り越して糸渡りと言うべき状況を、医師達は超人的な技量で乗り越えていく。
一秒一秒、一瞬一瞬が、気を抜けば全てを終わらせてしまうほどの、危機的状況の繰り返しであった。
五時間。
十時間。
十五時間。
二十時間。
二十五時間。
三十時間。
終わらない。
ずっと手術を続けているのに、終わらない。
まだまだ終わりが見えない。
女性看護師の一人が長時間の緊張と疲労で倒れたが、まだ終わる気配もない。
担当時間の朝の9時から3時間も集中して手術を行い、交代して昼12時の食事を取り、3時間ほど仮眠を取って、15時に起き、予想外の病巣について1時間以上他の医師と議論し、手術プランを状況に合わせて修正し、1時間ほど自分の手術担当の予習をして、失敗できない超高度の手術プランを頭の中に叩き込み、18時からまた執刀。3時間集中して手術を行い、倒れた看護師の代わりに21時から他の医師の補助に入り、24時に一旦抜けて食事を取って、3時間仮眠。3時に仮眠を終えて、また予想外の事態が起こった少年の身体について1時間弱議論。次の手術の準備を1時間して、それでようやく20時間だ。
そして、まだ終わらない。終わる気配がない。
常人であれば一分と保たないほどの全力の集中を、何時間と継続させ、それを何度も何度も繰り返す。
そうでなければ救えない。
そうでなければ間に合わない。
ローテーションを組んで負担を分担し、それでようやくこれである。
名医の補助に名医がついていないと回らない。
全病巣を並行して処理しないと間に合わない。
メスを入れれば入れるほど、医師達は自分達の見解の甘さを思い知らされていく。
もはや人類が積み上げてきた医学という巨人は心の支えになどならず、彼らは信念のみで、この悪夢的な難病に立ち向かっていた。
技量的に最も優れている老いた名医が、一時的にローテから落ちる。
若き医者が、命を削る勢いで穴を埋めるも、技量が足らない。
才気溢れる医師が、その場の思いつきで奇跡的な再建手術を思いつく。
生真面目なだけが取り柄の看護師が、一度だけ見たマイナーな論文の内容を思い出し、それが些細なヒントとなって、なんとか手術計画を立て直すことに成功した。
誰も彼もが必死で、けれど『手術失敗』の烙印が押される瞬間が迫っている。
心電図が心臓の、血圧計が循環状態を、パルスオキシメータが血液中の酸素の状態を、ガスモニターが呼吸状態を、体温計が体温を、尿量測定器が腎臓の状態を、中心静脈圧計が体内の水分量などを。他の計器も
知らせていた。
過去形だ。
もはや手術はそういう段階にない。
全身を解体して再構築するような現段階で、生命活動の波が上がっては下がり、上がっては下がり、もはや測ろうとしても使える数字が出ないものが増えすぎている。
ただ、手術が完遂する前に彼は死ぬかもしれない―――そんな経験則から来る予見だけが、医師達の周りを包み込んでいる。
誰もがいっぱいいっぱいな中、マックイーンが声を上げた。
「もっと
「!? いけませんマックイーンお嬢様!
先程一度大量に血を抜いたばかりです! これ以上の献血は命に関わります!」
「彼の命を救えるならいくらでも関わってさしあげますわ!」
「!」
「冗談じゃありませんわ! こんな結末、何が良くてこんなものが肯定できますの!」
真っ青な顔で、袖をまくって、マックイーンは真っ白な腕を医師に突き出す。
さあ針を刺せ、と言わんばかりに。
「彼を嘘つきにしないためなら、
「マックイーンお嬢様……!」
誰も彼もが崖っぷち。
希望を僅かに見たと思った瞬間、容赦なく絶望に叩き落されている。
されど、誰も彼もが諦めてはいなかった。
諦めかけていた人間も、メジロマックイーンのその姿に、情けない自分を奮い立たせていた。
悪夢の荒野が、どんどんと死の世界に近付いていく。
今にも落ちてきそうだった空は、もう十メートルと少しくらいの高さしかない。
その空に触れたら、死ぬ。
荒野だった地面は、もう六割ほどが滑落し、地面のほとんどが底の見えない奈落となった。
そこに落ちれば、死ぬ。
黒い死神は形を変え、大きさを変え、どんどん速く、どんどん大きくなり、もはや
『諦めなくてもいずれは死ぬ』と言わんばかりに、黒き塊は大きくなっていく。
『諦めないまま死ね』と言わんばかりに、黒き死神は速くなっていく。
空の死に呑まれて死ぬか。
地の死に呑まれて死ぬか。
黒き死に呑まれて死ぬか。
選択肢は三つに一つ。
「どれもごめんだ!」
ぐっ、と足に力を込めて、
心を削るような加速。もうこれ以上の加速は無理だ、というくらいの気概で加速したのに、死神は平然とついてくる。
人間にしてはありえないほど粘り、死神もそれについていくのがやっとであったが、もう命の限界が近付いている。
「負けない、負けない、絶対に、負けない……! わたしが信じる絶対は、きみだ!」
命の限界まで追い詰めている。
なのに、折れない。
折れていない。
死の恐怖を前にして、心が死に屈していない。
それは『死』に心があったなら、最大最悪の屈辱だったことだろう。
このまま死に呑まれても、それはきっと負けではない。
この命は死に向き合い、死に立ち向かい、折れなかった。
なればこそ、この命はもう何があっても、真の意味で死に敗北することはない。
十数年少年の心を折り続けた死が、今ここで初めて、
何かが。
何かが、変わろうとしている。
何かが、生まれようとしている。
それは死に抗う彼の心が生み出さんとしているもの。
しかし、そこに至るまでに何かが足らず、死がそれを阻まんとしている。
「絶対に、生きて帰って、きみにもう一度―――」
逃げる生。
追いかける死。
また、空と、地と、背後から迫る三つの死が、膨らんだ。
医師達の経験則が、"間に合わない"と叫んでいる。
手術を受けている少年が保たない。
予定の全過程はあと数時間で終わる見込みだ。
しかし、医師達は経験則から、
現在、朝6時。
手術の開始から45時間が経過していた。
日本では55時間の手術を成功させた医師が『これをこなすには鍛えないといけない』とコメントしたことがあったが、真実そうだろう。
鍛えていない医師は明確についていけなくなっており、普段から鍛え上げている医師の負担がどんどん増して行っている。
施術順序を考えて
不可能への挑戦が、終わる。
不可能が不可能なまま、終わる。
治せない病が、治せない病のまま、終わる。
「あと少し、あと少しなんだ。あと数時間保ってくれれば……!」
諦めたくない医師達が、決して諦めない意思を固めたまま、その心に一瞬"諦め"がよぎった、その時。
限界まで血を絞り出したせいで気絶し、別室で治療を受けていたはずのメジロマックイーンが、十時間で肉体が絞り出した血液を回して、真っ青な顔で壁を叩く。
鮮烈な音が、萎えかけていた皆の心を奮い立たせた。
「いい時間ですわ……出せる切り札が、増える、時間です……」
「マックイーンお嬢様! 横になっていてください! 本当に貧血で死んでしまいます!」
「死にませんわ……死ぬものですか……理学療法士、壁の、電話を。番号を、指示通りに」
「は? どこかに電話をかけるということですか? ここで?」
「そう、です……窮地にこそ……言葉は真に響き……起死回生となるのですわ……」
もう電話の番号を押す体力さえ残っていないマックイーンが指示を出し、理学療法士がマックイーンの言いなりになって番号を押していく。
どこかの病院か何かか?
いや、違う。
この場のほとんど全員が、その番号に覚えがなかった。
それは、マックイーンの友人の電話番号だったから。
「ここは、手術室。携帯電話は、通じませんわ。しかし、備え付けの電話なら……!」
今にも死にそうな顔色で、マックイーンは今にも死にそうな友人を救わんとする。
ロクに思考もできない頭で考えて、思いついた打開策は一つ。
ここに、
「彼女がいつもの日課の早朝走り込みをしているなら、この時間に起きているはず……!」
「! それは、まさか……」
「さあ早く! 彼女が走り始めたら電話になんて出ませんわ!」
手術室と、遥か彼方の携帯電話が、繋がる。
『おはよー、マックイーン。あ、あのさ。
なんか電話かけてもらってすぐこれ聞くのどうかなって思うけど、手術どうなっ』
「今死にかけてますわ! このままだと死にますわ! 貴女、未亡人ですわよ!」
『!?』
「力を貸しなさい、テイオー!
今日はライバルとしてではなく、仲間として!
窮地にこそ響く貴女の言葉で、彼を強引にでも死の淵から引っ張り上げなさい!」
マックイーンの叫びが、一秒のもたつきさえも生まないまま、彼女に状況を理解させた。
彼の悪夢は、いつも死と繋がっていた。
死を恐れれば悪夢が生まれる。
悪夢に苛まれれば死が近付く。
精神的な衰弱が死を近付け、死が近付けば精神が衰弱する。
最悪のループである。
画家の夢は、時に死後の世界を初めとする異界を垣間見る……そんな考えがまことしやかに語られたこともある。
そして今、死から逃げ切れなくなった
「くっ……」
空が近い。
近すぎる。
触れれば死ぬ空が、もう数m程度の高さもない。
走って逃げることももう無理だ。
もう荒野がない。
もう地面がない。
猫の額ほど狭い地面しか残っていない今、走り回って逃げることもできない。
少し足を滑らせれば地面を呑み込んだ『死』に食われ、そのまま消えてなくなりそうだ。
そして、もう、逃げる場所がないから。
黒き闇が集まった、黒き死神から逃げられない。
死神は、急に速度を落とした。
恐れろ、と言わんばかりに。
折れろ、と言わんばかりに。
逃げ道を失った
「……諦めるもんか」
なのに、少年の瞳から、希望が消えない。勇気が消えない。祈りが消えない。
誰かがくれた、永遠に消えない光が、その瞳に宿っている。
「トウカイテイオーの勇姿を見たやつが、諦めるなんて、なんて冗談だ。笑えない」
死は永遠である。
死ねば終わり。
覆されることはない。
絶対の永遠。
静寂の永遠。
真に不敗であり、無敵であり、最強であるものこそ『死』なのだと、そう言う者も少なくはないだろう。
『死』に勝てるものなど居ない。
奇跡でも起きない限り、死の運命は覆らない。
『希望』は、『死』に殺される。
「諦めて、たまるかっ……!」
そして、黒き塊が膨らんで、少年を呑み込んだ。
それは、確定の死をもたらすものであり。
避けることも防ぐこともできない、彼の悪夢を死で終わらせるもの。
だから、もうどうしようもない―――はずだった。
どうしようもないはずだった。
少年を呑み込んだはずだった。
死は運命を成したはずだった。
はずだった。
「
現実で、電話から声がしている。
それが少年の耳に届いている。
夢の中で、少年の前で、少女が微笑んでいる。
現実で聞こえているはずの声を、夢の中の彼女が喋っている。
「死なないでよ、
それは、青いウマ娘だった。
それは、赤き不死鳥のウマ娘だった。
二つが混ざり合う、
悪夢の中で少女が
その光景を、
フランツ・マルクの、『
青きウマ娘を生み出したフランツ・マルクが最後に描いた絵は、おぞましく描かれた黒き何かに立ち向かい、勇猛果敢に勝利する、赤き不死鳥である。
マルクは、死・絶望・理不尽を、黒き塊として描いた。
それを倒す赤き不死鳥を、その対として描いた。
その絵こそが、『小さな青いウマ娘』の後継、『戦うフォルム』。
宇都宮美術館では、その絵はこう語られた。
『"戦うフォルム"には、抗うことのできない運命を乗り越えようとする、フランツ・マルクの意思が込められているのだろう』
そう。
その姿こそ。
如何なる運命も、如何なる死も、理不尽を押し付けること叶わない、赤き不死鳥。
今、青きウマ娘は、その背に燃える反逆の翼を翻す。
赤く燃え盛る、不死鳥の翼を広げた、運命を蹴り飛ばす青きウマ娘。
それが、悪夢の中で、自分の心が生み出した存在だと、分かっているのに―――
■■■■■■■■■■
「ああ、なるほど」
「? 何納得してるの?」
「夢の中で怖い鬼が出てね。
わたしはきみを守ろうとしたんだけど……
きみがぱぱっと倒しちゃって、わたしを子供扱いしてなでていたんだ。謎が解けたよ」
「あー」
「ありがとう、お嬢さん。夢の中でもわたしを助けてくれて」
■■■■■■■■■■
これまでもそうだった。
これからもそうだろう。
彼女は、夢の中でも彼を守る。
夢を見せるのがウマ娘だ。
が、夢の中でまで好きな人を守るウマ娘は、きっと彼女くらいのものだろう。
後ずさる黒き死神をよそに、夢のテイオーは――現実では電話の向こうのテイオーは――、少年に優しく語りかけた。
「ね、
「二つの、約束?」
「一つは、ボクが君を守るって約束。
今のボクは遠くにいるから、それはちょっと分かんないかな。
でも、心はそばにいるよ。
もう一つは……ほら、初めて出会った時に、どこに行こうとしてたか、って話した時」
「……ああ」
現実の
眠っている
会話に見えるが、会話が成立しているのは夢の中だけだ。
現実では一方的にテイオーが話していて、その声がここにそのまま届いている。
「テイオーちゃん、あの約束のこと、覚えてたんだ。わすれてるかと思ってたよ」
「ふふふー、驚いてる?
全部、全部、忘れられない思い出だ。
心の力になってくれる思い出だ。
だから、テイオーは忘れない。
「
覚えててくれてるって信じてる。
だからね。
どうしよっかなーって思ってたんだけど……覚えててくれてるって前提で言うね」
青い不死鳥のウマ娘は、頬をほんのり赤く染めて、
■■■■■■■■■■
「目も見えないのに一人でどこに行こうとしてたの?」
「ウマ娘というものを知りたくてね。ウマ娘さんたちが居るところに行こうとしていたんだ」
「え、珍しい。今時ウマ娘を知らない人って居るもんなんだね」
「学術・芸術においてはある程度知っていたのだけどね。実物はさっぱりなんだ」
「へぇ~。あ、じゃあレースやってる所に連れて行ってあげる! いっぱいいるよウマ娘!」
「いいのかい? 是非お願いしたいが、迷惑じゃないかな」
「いいっていいって! あ、いつかボクのお願い一個聞いてくれたらそれでいいよ!」
「お願いか。わたしがお願いしてる立場だからね。わたしにできることであれば、なんでも」
「おっけーおっけー、じゃあいこっかっ」
■■■■■■■■■■
そう。
二人が初めて出会った日の、初めて会話をしたあの時。
一つ、交わされた約束があった。
彼は言った。
なんでも言うことを聞くと。
男に二言は許されない。
あの日、彼女が得た『お願い』の権利を、彼女は今日まで使わなかった。
"なんでも言うことを聞く"だなんて
お願いを使わず、絆を育み。
お願いを使わず、彼に好かれて、彼に尊重されて。
お願いを使わず、彼が自らの意志で奇跡を信じられるよう、走り。
最後の最後に、ただ一人の少女として、その『お願い』の権利を使う。
麻酔で眠る彼の耳元で、電話から彼女の声が響いている。
『お願いは一つだけ、たった一つだけ』
その声が、彼の心を震わせた。
『ボクは、君が大好きだから。誰よりも大好きだから。一生、そばにいてほしいな』
現実で、受話器から少女の声が響く。
夢の中で、不死鳥の青きウマ娘が、死を砕く。
ただ、ただ。
そこには、奇跡があった。
奇跡に、死が負ける。
愛に、死が負ける。
恋に、死が負ける。
想いに、願いに、祈りに、青いウマ娘に、不死鳥のウマ娘に、死が負ける。
絶対の永遠であったはずの死が、"永遠の愛"に滅ぼされていく。
『待ってるよ。ずっと。また一緒に夢をかける日が来ないなんて、ボク思ってないからさ』
心こそが、奇跡を起こす。
心に諦めがある者は、難病を克服することなどできない。
心の強さのみが、土壇場で病と死に打ち勝つ力である。
機械の計測値が動いていく。
あと数時間で、手術が終わる。
なのに、あと一時間命が保たない。
そういう状態のはずだった。
救えない命だったはずだった。
それももう、終わった話。
「マックイーンお嬢様、これは……!?」
「当然の結果ですわ。
だって、テイオーが以前言っていましたもの。
テイオーは約束したのでしょう?
どんなものからも、
約束したなら、テイオーは守りますわ。
運命の意地悪を受けても、何度も夢破れても、テイオーは最後に約束を守るのです」
立て直した生命活動は、残り時間を爆発的に延長する。
それこそ、手術の残りを全て終わらせてなお、時間が有り余るほどに。
展望が見え、希望を抱いた医師達が、一気に手術を進めていく。
その光景を、真っ青な顔色で、心底誇らしそうに、マックイーンが眺めていた。
「
手術が始まる前から、
十数年、
幼少期からずっと、彼に寄生し続けていた死があった。
それが今、消し去られていく。
あと数十年は寄って来れないくらいに手酷く、『死』は不死鳥の青いウマ娘に倒された。
どんどんと『生』に近付いていく少年の顔色を見やり、マックイーンは勝ち誇る。
「去りなさい、無粋な死。貴方如きが無敵の帝王に勝とうなどと、百年早いですわ」
トウカイテイオーと、
マックイーンは笑った。
心底愉快そうに笑った。
本当に楽しそうに笑った。
「百年後、あの二人が同じ墓に入る頃なら、また来ることを許してあげます」
奇跡は、死の運命を覆すもの。
マックイーンはそういうものだと知っている。
知っているつもりだった。
なのに。
いざ、その目で見てみると―――笑えて、笑えて、仕方なかった。
マックイーンは笑った。二人が幸せになれることが嬉しくて、ずっと、ずっと、笑っていた。
少年が絵を描いている。
透明感の薄い絵だ。
写実的で特筆すべき点はない。
ただ、単純に上手かった。
彼が描いているのは人物画だったが、モデルにされた少女の可愛らしさ、美しさ、凛々しさ、それら全てが最高レベルにまで高められている。
この絵と写真を見比べれば、ほとんどの者が『写真の方がリアルなはずなのにこの絵の方が本物っぽいのなんでだろう……?』と首を傾げる、そんな絵だった。
「なーんでこんなに上手いのに、なんかちょっと売れなくなっちゃったんだろね?」
イスに座り絵を描いている少年の肩に顎を乗せ、胴に手を回して、彼が描いている絵の隅っこをつんつんとつついて、テイオーはぼやいた。
「んー、テイオーちゃんの目はわたしの絵を大分贔屓してるからね」
「いやいやいや、贔屓目抜きにしても、
「ははは。ありがとう。
でも、うん。
世界が見えるようになっちゃったからね。
世界を見たことがない人だけが描ける絵は、描けなくなっちゃったんだ」
「んー、今の方が上手いと思うのにー」
少年は絵を描いている最中、遠くをマックイーンが通りがかったのを見て、手を振った。
マックイーンがそれに気付き、手を振り返してくる。
テイオーは手を振り返してきたマックイーンがゆっくりこっちに来るのを見て、ややむっとしつつつ、少年の身体を抱きしめた。
"渡さないぞー!"という言葉にされなかった想いが露骨に伝わってきて、少年は苦笑する。
絵の中の少女の服に最後の色を乗せ、少年はその場で背伸びをした。
「はい、出来たよ。顕彰用のテイオーちゃんの絵」
「わぁい! ふっふっふ、これがずっと飾られるのか~」
『顕彰ウマ娘』。
かつて、初めて会った日に、マックイーンが彼に教えたもの。
すなわち、ウマ娘の殿堂入りである。
この年、トウカイテイオーはそれに選ばれていた。
彼の絵はテイオーやマックイーンの足にあった不治の損壊を快癒に向かわせ、全盛期と同等、それどころか全盛期を超える足を得た二人は、現役に復帰。
また、新たな伝説を打ち立てていった。
テイオーとマックイーンのどちらが顕彰に選ばれるかは諸説あったが、どうやら今年はテイオーがマックイーンに明確に勝利し、殿堂入りしたようだ。
顕彰ウマ娘はその姿を肖像画に描かれ、肖像画に描かれた者の名前と、描いた者の名前と共に、URA競争博物館に飾られる。
ウマ娘レースの最高機関であるURAが残っている限りは、ずっと。
つまりウマ娘のレースが存在する限りはずっと、トウカイテイオーと彼の名前は、彼が描き、彼女が描かれた肖像画と共に、そこに飾られ続けるということだ。
博物館に行けば誰もが、並べられた二人の名前を目にすることができるだろう。
「本当にわたしでよかったのかな? もっと上手い人がいくらでも……」
「
「いや、普通にいる……」
「いーまーせーん! いない! そうでしょ!」
「……ふふふ。そうだね。わたしは、ずっときみの一番だ」
「そうそう! ボクにとっての一番はセンセー! じゃなくて
顕彰ウマ娘取り消しや抹消などというシステムはない、つまり。
彼と彼女は、『
顕彰という歴史に組み込まれた以上、突然施設と資料が全焼でもしない限り、彼と彼女の名前はずっと残り続けることだろう。
仲睦まじく並んだ二つの名前は、ずっと残る。
ウマ娘のレースが文化として残り続ける限り、殿堂入りが語られなくなることもない。
なんとも恐ろしいことに、この二人は、この世界にウマ娘のレース文化が存在する限り永遠に残り続ける、二人の愛の証を打ち立ててしまったのだ。
URAの賞に便乗して、である。
URAは組織の資金でこの二人の名前をセットで語り継がなければならない。
ずっと。
ずっとである。
肖像画を描いた者と描かれた者の名前をセットで並べない理由がない。
よってずっと、URAはテイオーと
おそらく、日本史上最大規模の『ここに二人の名前を相合い傘で書いて行こうよ!』だ。
「うん、でもよく描けた。だれもが絵を見てきみに恋をするような一枚が描きたかったからね」
「えへへー、で、でも好きになってほしいのは
「……照れずに言えたら完璧だったね」
「い、今の無し! もうちょっと上手いこと言うからリテイクリテイク!」
「ええ……」
伝説になった永遠の愛だった。
おそらく、この先百年は語り継がれるだろう。
URAの殿堂入り記名を、消しゴムに好きな人の名前を書くおまじないか何かと勘違いしたようなウマ娘は、後にも先にもトウカイテイオーしか現れないかもしれない。
「はっ、マックイーンが来てる、牽制しないと……
「また今度ね」
「今じゃなきゃ意味ないよ!?」
最高のウマ娘と、最高の画家による暴力。
これがまた最悪であった。
ウマ娘が弱ければ、顕彰に選ばれるわけがなかった。
画家がヘタクソだったなら、それを理由にURAが拒めた。
しかし"バチクソに勝ちまくってる"としか言いようがない連戦連勝で新たな伝説を作ったウマ娘が、最近絶大な人気を誇るウマ娘画家を指名してきたなら、URAももう断れない。
もはや誰も文句がつけられない。
URAの殿堂入りは、顕彰ウマ娘の栄誉は、教室の黒板の隅っこに落書きされた両思いの相合い傘の同類となってしまった。
URAは少なくとも今年度いっぱいは、バカップルの愛を宣伝する広告代理店となる。
もはや伝説。
伝説としか言いようがない、輝ける至高の惨状であった。
「ごきげんよう、おふたりとも」
「おはよう、マックイーンさん」
「おはようマックイーン。でも
「ふふっ、今日もテイオーはテイオーですわね」
「だね」
マックイーンがやってきて、少年が描いていた絵を見て、感嘆の息を漏らす。
「いい絵ですわね。以前と画風が違うものの、間違いなく最高の一枚ですわ」
「うん、人生最高の一枚にするつもりで描いたから」
「ふふん、どーだマックイーン。
「今回はテイオーに顕彰の先を譲りましたが、次は譲りませんわ。
まず次の顕彰を
その時は
「うん、わかった」
「分からないで!? ボクを人生最高の一枚にしたって話はどこに行ったの!?」
わちゃわちゃするテイオーとマックイーンの、ころころ変わる表情を楽しそうに眺め、少年が穏やかに微笑んでいた。
ちょっとしたことで感情豊かに動く耳や、魅力的に動く二人の表情を、少年は飽きる様子もなく眺めている。
「
「はやくガッコー行きなさい、お嬢さん」
二人がトレセン学園に行ったのを見送って、少年はどこへともなく歩き出した。
目的地はない。
どこでもよかった。
どこに行っても楽しかった。
何を見ても楽しかった。
世界は素敵だと、迷いなく言える。
そんな人生が、楽しかった。
ふと、そんな人生の合間に、人助けをすることもある。
「きみ、財布落としたよ」
「へ? あ、ありがとうございます!」
短めの黒い髪。
くせっ毛をまとめる和花の髪留め。
ウマ娘の特徴である飛び出た耳が、ピンと天を突いていた。
美人系に属する顔つきに、幼い表情が乗っている、そういうタイプのウマ娘に見える。
財布に"キタサンブラック"と名前が書いてあったのが、少年の目にも見えた。
財布に名前が書いてあるあたり、見た目以上に幼いのかもしれない。
「画家さん……ですか?」
「ああ、さすらいの絵描きさ。
似顔絵なら1枚5分100円で受け付けてるよ」
「安っ……いや、速い!? 100円で生活できるんですか?」
「おべんとう作ってもらってるから、お腹空かないし平気かなあ」
「思いっきり浮世離れしてる感じの芸術家さんだ……漫画以外で初めて見たぁ……」
「そんなにしてるかな? 普段は公園で子供に絵を描いてあげたりしてるくらいだけど」
「……あ。最近ちょっと噂の『公園の魔法使いさん』ってあなたのことですか?」
「魔法は使えないかもね。もしかしたらそのうち使えるようになるかもしれないけど」
「なんか……こう……人生に余裕がありすぎる人とか言われてませんか……?」
「ははは。最近言われるようになったよ。余裕が出来たのは最近なんだ」
ふむふむ、と頷いたキタサンブラックなる少女は、財布を開いて五十円玉を二枚取り出し、少年に差し出した。
「これも何かの縁ですね。一枚お願いします!」
「うん、まいどあり。世界で二番目に美人に描いてあげるからね」
「一番じゃないんですね……」
「本人が居る所で言うと調子乗るから控えてるけど、一番はもう決まってるから」
「これは……ノロケ……? 私初対面で惚気を撃ち込まれている……?」
最初に、変な人だな、とキタサンブラックはまず思った。
次に、瞳の色が深い人だな、とキタサンブラックは思った。
やがて、話していると落ち着く雰囲気の人だな、とキタサンブラックは思った。
「きみはどんな自分になりたい? なりたいきみを描いてあげよう」
「なりたい私……?」
「なににだってなっていいよ。
なににだってなれる。
人は変われるからね。
だれかと出会えば、変わろうと思えば……どんな自分にだって変わっていける」
少年は、柔らかく微笑んでいる。
「きみが夢みる未来のきみは、どんな姿をしていたのかな」
「……夢」
「なんでもいいんだ。きみがそれを望み、きみがそれで幸せになれるものであれば」
かつて、夢を見られない少年がいた。
かつて、夢を諦めた少年がいた。
かつて、夢に憧れる少年がいた。
夢を見るような物語があった。
少年は今、誰かの夢を応援するため、夢をえがく筆を取っている。
「この筆は、きみの夢をかける。きみの夢を聞かせてもらえたら、うれしいな」
キタサンブラックは少し考えて、自分の中の想いを整理する。
そして、とてもシンプルな答えを口にした。
「……私、夢があります。なりたい自分があります。私のなりたい未来の私は―――」
ゆめをかける。
ゆめをかけよう。
今日も、明日も、明後日も。
ゆめがあるなら。
ゆめをかける。
きみとなら、いつまでも、ゆめをかける。ずっと、いっしょに。
そう思えるなら、きっといつまでも幸せだ。
トウカイテイオーは、いつまでも希望と共に。
https://www.youtube.com/watch?v=668cIbMGoHI
【顕彰馬とその肖像画を描いた人物】
・1987年
顕彰馬:シンボリルドルフ
絵:中川一郎氏
・1994年
顕彰馬:メジロマックイーン
絵:久保田政子氏
・1995年
顕彰馬:トウカイテイオー
絵:加藤助八氏
・2020年
顕彰馬:キタサンブラック
絵:長瀬智之氏(JRA公式サイトは早く最新のキタちゃんのだけ画家さんの名前記載忘れしてることに気付いて……)
これにて完結です。
お付き合い頂きありがとうございました。
終盤大分加筆しまくったので文字数膨らんで更新遅れたりしたの申し訳ないです。
本編はこれで終わりです。おまけ程度に後日談何か書いたりするかもしれませんが、彼らの物語はここで終わりとなります。
「最初と最後がピカソだった」とかそういう小ネタを探してみたりすると楽しいかもしれません。
私から説明していくことはそんなありませんので。
今後こういう感じの二次増えたらいいな、なんて読者視点で少し期待しております。
それでは改めて、感想や評価や支援絵などの応援、ありがとうございました。