世を照らすのは日輪だけじゃない。   作:ポンタ ponta

1 / 22
 注意点
 全集中・捏造の呼吸。
 作者、鬼滅の刃一巻も持ってない。(買う予定)けど持っていたとしてもその通りにいくとは限らない。
 なんでも許せる人向け。
 嫌でしたらブラウザバック。


第1話 夏の夜

 情けは人の為ならず。

 他人に良くしていれば、巡り巡って自分の為になる。

 

 父さんはいつもそう言って、有言実行していた。けれどそれが還ってくることはなかった。

 

 俺たちの為に、無理して働いていた母さんは風邪をこじらせて肺炎になった。

 母さんの為に、嵐の中薬草を採りに行った父さんは、崖から落ちて帰っては来なかった。その後を追うように、母さんは死んでしまった。俺たちが十歳の時だった。

 

 二人とも誰かの為に動いていたのに、良いことなんてひとつもなかった。少なくとも、俺にはそう見えた。

 神様も仏様もいないんだって、救ってくださることはないんだって、幼いながらもそう悟った。

 情けは人の為ならず。誰かのために何かしても、ろくなことにならない。そうとも悟ってしまった。

 だから俺は、たったひとりの弟を守ってやらなくちゃって、覚悟した。

 

 山に入ってきた盗賊の類いの連中に、俺は一人で立ち向かった。斧を振り回して追い出した。麓の連中は父さんと母さんと仲良くしていたくせに、俺たちとも顔を合わせていた筈なのに、さも他人のように見て見ぬふりをした。結局人間はそんなもんだ。誰かの善を喰らって腹を肥やす。お前らがいるから神様も仏様もいないんだ。いたとしても、誰が好き好んでお前らみたいな奴らを救うと思うのか。俺なら救わない。同じ人間として括って、善も悪も一括りにして、ただ観察対象くらいにしか見ない。

 

 盗賊と立ち向かったのは泣きたいほど怖かったけど、斧を取り落とすかと思ったほど震えたけれど、弟を守れるのはもう、俺しかいない。

 

 俺が弟を守るんだ。誰がなんと言おうと、これだけは譲ってなんかやらない。誰の手も、借りおうとは思わない。

 

「出てけよ!!!」

 

 鬼がなんだ。人助けがなんだ。俺たちが継国の子孫だからと言ってなんだ。月を模した耳飾り(・・・・・・・・)をしているからなんだ。知ったことか。それで俺たちになんの得があるんだ。

 俺が剣士になるのを拒否したら、今度は俺たちを保護したいと言い出した。頼んだ覚えもない護衛もつけて、何度もお守りとやらを寄越してきて、その度に捨てて、なにもかも突っぱねた。

 あまねと言った女を、水を掛けて追い返して、冷たさで震える肩を見て見ぬ振りをして、俺は黙って背を向けた。その日は無一郎と大喧嘩して、それ以降無一郎とは口を利いてない。

 

 腹が立った。

 

 助けてほしい?

 剣を握ってほしい?

 

 冗談もほどほどにしろよ。

 

 だからお前も剣士になるなんか言うんじゃない。

 両親のお人好しをそっくり受け継いだ無一郎は女の言葉を真に受けて、「剣士になろうよ」と目を輝かせて何度も俺を誘ったが、俺がそれに頷いて返すことはしなかった。俺が唯一返したのは「お前なんかが剣士になれるか。無一郎の無は無能の無。お前は人を助けられるような特別な人間じゃない」ただこれだけだ。

 

 弟は世界の不条理さを分かってない。

 世界は理不尽と不条理で溢れているって俺は分かってる知っている。

 

 だって誰よりも慈しみを持つ母さんが死んだから。

 だって誰よりも優しさを持つ父さんが死んだから。

 だって誰も俺たちを助けようとなんかしないから。

 だって誰もが俺たちから搾取しようと近寄るから。

 

 弟が危険な目に合わないように心を鬼にして、戯言だと吐き捨てた。

 

 御守りと銘打たれたものを、憎しみを込めて握り潰して踏み締める。こんなものがなんだっていうんだ。なんの気休めにもなんの得にもなりゃしない。

 

 どうせ神様も仏様もいないんだ。

 だから神様も仏様も助けてはくださらない。

 かと言って誰かが助けてくれる訳でもない。

 だったら俺も他人なんて助けない。

 怪我していようが死にそうだろうが、なんだろうが。

 そこら辺で勝手にくたばっていればいい。

 

 そんな風に考えてたから、きっと、バチが当たったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 御守りを踏みしめた夜、寝ていた俺は虫の知らせで目を覚ました。

 夏の暑さを和らげようと戸を開けたままにしていたことを後悔した。

 その戸の向こう側に、人影が影を伴って現れた。

 猫のように光る目、異様に伸びた爪と犬歯。涎を口の端から垂らすそれに、直感的に鬼だと気づく。

 鬼から逃げようと無一郎を起こす前に、鬼は茂みからここまでひとっ飛びで間を詰めた。

 

「逃げろ!!!」

 

 振り上げられた鬼の手が寝ている無一郎に下ろされる前に、俺は力一杯その鬼に蹴りを入れた。俺の渾身の蹴りを受けて、鬼が離れているうちに、無一郎が無事かどうか振り向く。

 

「兄さん!!!」

 

 やっと目を覚ました弟は、目を丸くして俺を見る。その双眸に写る俺の後ろに、鬼の鉤爪が迫っていた。

 

 始めに感じたのは衝撃。そしてすぐに焼かれるような熱さが背中を伝った。

 呻きながら布団に倒れかけた俺を、咄嗟に無一郎が抱き留める。

 

「は、はやく逃げろ………」

 

 絞りだした声は、今まで聞いたことのない弟の怒号がかき消した。その叫びと共に消えた無一郎のぬくもりを探そうと、霞む目を開けて虚空へと手を伸ばす。

 しかしあろうことか弟は、鬼ともつり合いながら玄関の戸を壊して家の外へと飛び出した。

 

 なんとかしなくちゃ。兄である俺が、弟を守らなくてどうする。

 

 あんな鬼に一人で勝てる訳がない。それも子供ならなおさらだ。けれど、せめて俺でもと、背中の傷に呻きながらも必死に這いずる。

 

 玄関の外に出れれば、無一郎の盾にでもなれるかもしれない。

 けれど体は布団さえ越えることが出来ず、俺は無様に転がったまま、進まない、進めない。

 

 ならばもう、俺にできるのは無一郎の無事を祈ることだけ。

 

 血で赤く染まった指を組んで必死に祈る。都合の良い展開を望んで祈った。誰か助けてくれないかと、神様にも仏様にも祈った。

 神様も仏様もいないと信じている分際で、憎しみを込めて御守りを踏みしめたくせして、全く道理に合わないことだと思う。

 

 でも、無一郎には関係ないことだから、悪いのは俺だけだから、無一郎だけは助けて欲しい。弟は俺と違う心の優しい子です。人の役に立ちたいというのを俺が邪魔した。

 

「悪いのは……俺だけ…です」

「バチを……当てるなら…俺だけに……してください」

「神様………仏、さ………ま」

 

 お願いします。弟を助けてください。

 どうか弟だけは、俺はどうなっても良いから、地獄に落ちても構わないから、

 

「どうか、………どう、か…弟を」

 

 弟を連れて行かない下さい。

 無一郎は俺と違って人の為に動ける人だから、死ぬのは俺だけでいいでしょう。

 

「代…わり、に………俺の、命を、……差し出すので、弟だけは」

「無一郎だけは………助けてください………」

 

 目の前は滲んで、布団にとめどなく涙がこぼれて、幾つもの染みを作っては消えた。背中から流れた血はくっきりと残っているのに、涙は消えてしまったから、それがどうしても、俺の願いが叶わないように思えてしまう。

 

「ううっ………お願いします」

 

 それでも懇願する俺の懐から、竹の笛(・・・)が音もなく転がった。

 

「あ………」

 

 以前、父さんが言っていた。

 

『何かあったら、この笛を吹きなさい。そうしたら、お月様が助けてくれる』

 

 父さんはそう言って、俺の首に笛をかけた。

 

『ただ、お日様に当ててはいけないよ。お月様は夜にしか居られないからね』

 

 父さんが朗らかに笑って、その大きな手の平が俺の頭を撫でた。

 その感触と共に思い出した。

 

「ぐ………」

 

 今使わなくていつ使うんだ。

 藁にも縋る気持ちで笛を掴み、吹き口を咥え、俺の命を吹き込むように吹いた。

 

 どうか、どうか、どうか――――。

 

 途端に吹いた冷たい風。

 音もなく現れた大きな人影。

 月を背に立つその腰には、一本の刀が揺れていた。

 

 

「……遅れてすまぬ。安心して眠るが良い」

 

「お月、様………?」

 

 その人影を見て、まるでお月様みたいだと、薄れる視界でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 夜が明ける数刻前に、あまねが数人の隠を率いて景信山を訪れた。

 本来ならば来る予定ではなかったが、夫である産屋敷の勘が、そこで何かが起きると囁いたからだ。

 

 時透家についた時にはすっかり夜が明けており、その現場は凄惨の一言に尽きた。

 引き裂かれた木々。抉れた地面。

 まるで天変地異でも起きたようなその光景に、あまねたちは思わず足を引き留めた。

 

 これが鬼による襲撃だと気づいたのは、家のそばにある岩陰に、誰かの衣服とそれに付着する血が残っていたから。

 

 自らの頬を叩いて気を取り直したあまねは、急いで家の中へと足を踏み入れた。

 どうか生きていて欲しい。

 そう願う心情とは裏腹に、家の中からは人の気配が無く、鼻を侵す鉄錆の匂いが漂ってきた。

 

 幸いにも布団の上で手を握り合う二人には、まだ息があった。

 

 奇妙だ。いや、息があったことではない。

 二人の異様の怪我の少なさだ。

 兄の方は背中を深く抉られ血を流していたが、弟の方には手や腕に浅い傷が何本か走っていただけ。弟の方は既に治っていた。

 

 継国の血を引くこの子らは、大して怪我をすることなく鬼を斃せたのだろうか。

 自分の考えに心からの納得はしなかったが、思考の海に沈むのは後回しにして、近くの藤の家へとあまねたちは二人を運んでいった。

 

 

 そこで治療が施され、峠を越えた二人は産屋敷へと運び込まれた。

 

 

 

 

 

 そして彼らが目を覚ましたのは、冬木の桜になってしばらくした頃だった。

 

 

 




 作者は時間を縫ってこの話を書いてます。質を求めるならば、私の話はお薦めしません。私より質も量もある小説はいくらでもありますので、そっちをご覧になって下さい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。