世を照らすのは日輪だけじゃない。   作:ポンタ ponta

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 どうも皆さん、お久し振りです。やっと全てのテストとレポートが終わり、肩の荷が下りました。そのせいか燃え尽き症候群になりかけましたが……。多分原因の九割は有機化学ですね。三時間ぶっ続けで解いても終わらないとか………問題を少し易しくして欲しいです。他のテストの時間は75分なのにこの差よ。
 それと、そろそろ外伝含めた原作が買えそうなので、次回か次々回の投稿は遅れるかもしれません。何べんも反芻して消化し、突っ込めるネタは突っ込みたいので。

 さて、話は変わり、有一郎くん、無一郎くん、誕生日おめでとうございます。
 今回はこれ↑を言いたかったので日曜日更新になっただけで、次回の更新はいつも通り木曜日になります。

 “彼”に関して言い訳。
 本当はもっと書く予定だったんですが、なぜかこうなりました。でも出てます。ちょっとは出てます。ちょっとです。
 今回の話は難産でした。少しキャラの口調がおかしいのは目を瞑って下さい。



第6話 僕の名前は。

 蝶屋敷に運び込まれてはや四週間。怪我が完治した僕宛てに、お館様から文が届いた。なんだろうと思いつつ文を紐解けば、

 

『以下の者を柱に任命する、霞柱・時透無一郎』

 

 と達筆な字で書かれてあった。

 

「凄イジャナイノ! 私モ鼻ガ高イワー!!」

 

 傍にいた銀子が誇らしげに、そう喉を鳴らすのにも無理はない。柱とは鬼殺隊の最高位なのだから。けれども僕はどうしても誇れなかった。だって僕はただ頸を斬っただけ。それ以外は全部兄さんがやってくれた。刀があの時折れなければ、兄さんが柱になっていた。

 

 だから。

 

 隠の人に案内されて訪れた産屋敷の本邸。そこの玉砂利にて会議前の顔合わせが終わり、炎柱の煉獄さんに「柱としてともに頑張ろう!!」と言われても、素直に頷けなかった。頷けなかったことが申し訳なかった。

 

 それからの会議の内容はまったく頭に入ってこなかった。入ってきても直ぐに忘れてしまう。耳に入る言葉も霞がかってよく聴こえなかった。

 僕は柱じゃない。その思いが強すぎて、居心地が悪い。

 

 ―――兄さんは全身の骨に皹が入っていたり折れていたりと、全治半年の怪我を負った。意識もまだ戻ってない。あの時僕が鬼の挑発で逆上しなければ。僕が怪我をしなければ。僕がもっと強ければ。僕がもっと速く動けたら。ここにいたのは僕じゃなくて兄さんだったのに。

 ………そうだ、僕と兄さんは双子なんだ。だから僕は兄さんの振りをすれば、兄さんが柱になったことになるんじゃないか? うん、そうだ。そうしよう。

 

 声質も性格も、そっくりに。幸いなことに兄さんのことは僕が一番知っている。眉の角度も眉間の皺も、兄さんと同じように。一人称も僕から俺へと変えよう。そうすれば、きっと、兄さんが…………。

 

 

 

―――………

 

 

 

 さてその三日後、無一郎が性格メタモルフォーゼしたことを知らない悪魔は、ようやく出来上がった萌え袖隊服を片手にウキウキルンルンと蝶屋敷の病室に訪れた。

 

「無一郎ちゃぁぁん!! これ柱就任のお祝いに「うるさい」え?」

「うるさいって言ったんだよ」

「………幻聴かしら? 今無一郎ちゃんがアタシにうるさいって」

「少し黙っててくれない? そんなことも分かんないの?」

「……無一郎ちゃんがグレたぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 一瞬固まった後、ダバッと滝のように涙を流しながら屋敷の外へ飛び出した。駆け出して向かった先は風屋敷。柱合会議で柱に何か嫌なことされたと思ったのだ。そしてその筆頭が不死川実弥。判断基準は顔。

 

「オリャャアアアア!! 出てこいこのスケベ柱!! 出てこないなら玄関ぶっ壊すわよ!!」

「まずテメェの頭を吹き飛ばしてやろうかァ」

 

 憩い(おはぎ)の時間を奪われ、青筋を浮かべて出てきた不死川実弥は、くい、と指で道場を差す。

 

「ほ~んアタシとやろうっての? 良いわよアンタの足腰が立たなくなる程相手してやるわ」

 

 ドッタンバッタン互いに拳で殴り合い。両方に青アザを拵えたところでようやく本題に入った。

 

「んで、何しにやって来たァ? しょうもねぇ理由だったらブチ殺すぞォ」

「無一郎ちゃんがグレたのよ!!」

「ハァ? 無一郎って確か霞柱になった奴だろォ? ソイツと俺に何の関係があんだよォ」

「心当たり無いの? そんなヤクザみたいな顔してるクセに」

「ぶっ殺す!!」

 

 飛んできた殺人拳をヒラリと交わし、アンタじゃないならもう用はないと、今度は音柱の屋敷へと駆け出した。

 そして到着した数分後。

 

「死ねえぇっっ!!!!」

 

 日輪刀と爆弾を構えた宇随天元が、玄関から飛び出した悪魔を追いかける。

 

「お前ふざけんなよ!!? なんで嫁がいる俺が無一郎を襲ったことになってんだよ!!!」

「無一郎ちゃんはすんごい可愛いし、どれくらい可愛いか言ったら目に入れても痛くないほどに可愛いし、そんな子がグレたなんて何かあったに違いないわ!!」

「なんでそこから俺に飛び火すンだよ!! お前の思考回路どうなってんだよ!!」

「乙女回路」

「うるせぇぇ! お前さっさと止まれぇぇ!!!!」

 

 ドンパチ繰り広げながらも逃走していたら、なんと正面から凶悪ズラの男がやって来た。

 

「あっ良いとこにきた不死川!! ソイツ仕留めろ!!」

「あらやっべ」

「テメェ覚悟しろよゴルァアアっ!!」

 

 怒りで凶悪な顔が更に進化し、泣く子を黙らせるどころかギャン泣きさせる凶悪な顔へと悪化した。

 流石に身の危険を感じた悪魔はすぐさま方向転換。

 

「アタシ逃げる!!」

 

 逃げる悪魔に、追いかける柱二名。

 血走った目で死に晒せクソジジィーー!!! と叫ぶ二人に迫られながら、悪魔は三十六計決め込んだ。

 

 しかし現柱の二人に敵う筈はなく、日が沈んで間も無く妖怪討伐、もとい悪魔祓いは終了した。

 

 場所は変わって風柱邸。

 悪魔は部屋の畳に突っ伏した。

 

「うぅ、アタシもう、お嫁にいけない……!」

「お前は嫁をとる方だろうがァ」

「こんな奴を相手にする女が存在するかどうかが疑問だけどな」

 

 天元は自分で勝手に入れた茶を啜りながら、ぱしんと机を叩いた。

 

「んで、何がどうあって俺達のところにやって来たンすか?」

 

「実はね―――」

 

 

 

 

 

 

「いやどう考えても兄が重傷なのが原因だろ」

「あっやっぱり? アタシも薄々そう思ってた!」

「なら来るんじゃねェよ!!」

 

 実弥の振り下ろした拳骨が悪魔の脳天に直撃。ぷっくらたんこぶができた。

 

「よし、俺がド派手に元気付けてやるよ」

 

 すっくと立ち上がった天元は頼もしく親指をおっ立てた。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

「ほう、こりゃあまたド派手に似てんな」

「双子だからね」

「ん? こりゃ笛か?」

 

 ベッドの隣に鎮座する机の上に、ぽつりと置いてある笛を、天元は手に取った。

 

「なんか代々継承していたらしいわよ。詳しくはアタシも知らないけど」

「ふ~ん」

 

 しげしげと竹でできた笛を、天元は太陽に翳してみたり覗き込んだりとした後に、唄口を咥えた。

 そしてそっと息を吹き込めば、ぴゅー……と的外れな音が鳴る。

 

「何だこれ? 音外れてんじゃねえか」

「皹が入っているせいかもね。ほらココ」

 

 鋭狐の血鬼術によるものか、示された箇所には僅かに皹が入っていた。

 もう一度注意深く眺めた天元は、何か聴こえたのか、おもむろに首をかしげて窓を見た。

 

「どうしたのよ急に? 何かあるの?」

「んーー………??」

 

 目を凝らした先には空を飛ぶ二羽の鴉。喧嘩をしているのか何やら騒がしい。

 

「おっと危ね」

「ぎゃぁああ!!!」

 

 彗星の如く病室に突っ込んで来た二羽の鎹鴉をすっ、と避ければ後ろにいた悪魔の顔面にぶつかった。

 

「ハーーイ私ノ勝チィ!! アンタハソコデ無様ニ転ガッテ悔シガッテナサイ!!!」

「ズルイズルイ!! 私モ無一郎チャント一緒ニイル!!!」

 

 ふんぞり返っている銀子とジタバタ駄々をこねる金子の後ろで、悪魔が「目がぁぁぁぁ!!!」ともんどおりを打つ。

 そんな騒ぎを聞きつけてアオイがやって来たが、天元が何でもないと返して見送った後、足元にしゃがみ込んだ。

 

「オイ鴉。どっちが無一郎の鴉だ?」

「「私ヨ!!」

「ハァァァ!!? アンタノ担当ハ有一郎チャンデショ!! ソレニ今アンタ私ニ追イカケッコデ負ケタヨネ!!? ナニサモ私デスッテ顔シテンノヨ!!」

「………ヒューヒュー」

「それ口笛のつもりか?」

 

 銀子に迫られそっぽを向く金子は知らんぷりで口笛を吹く。

 その様子で答えを出した天元は銀子の方を向く。

 

「普段の無一郎はどんな感じなんだ?」

「ヨクゾ聞イテクレタ!!」

 

 あ、これは絶対時間喰う奴だ。と天元は悟った。

 

「無一郎チャンハネー、可愛イクテネー、優シクテネー、強クテネー、ソノ優シサハ留マルコトヲ知ラズ海ヨリ深ク空ヨリ広イ。ソレスナワチ器ノ大キサデアリ無一郎チャンノ偉大サガ」

「手短に言ってくれ」

「トテモ良イ子ナノヨ!!!」

「なるほど」

 

 デモ、と続けた銀子はしょぼんと肩を落とした。

 

「有一郎チャンガ下弦ノ壱トノ戦イデ重傷ヲ負ッチャッテ、マダ目ヲ覚マサナクテネ」

 

 そこで口を切った銀子は金子と一緒に有一郎のベットへと飛んで枕元に移った。

 

「兄デアル有一郎チャント中身マデソックリニナッチャッテ、私悲シイ」

「無一郎チャンガ有一郎チャンノヨウニ振舞ウナラ、私ガ付イテアゲナクチャッテ思ッタノヨ!! ダッテ私、有一郎チャンノ鎹鴉ダカラ!!」

「なるほどなぁ……」

 

 思案に耽る天元の横に、バルスから回復した悪魔が立った。

 

「どう? なんか良い案でもある?」

「そうだなぁ………あ、そうだ」

 

 無一郎チャンノ担当ハ私ガ貰ウ!! ともみくちゃに喧嘩する光景を眺めながら、天元はふと思いついた。

 

「好物でも食わせてやれば少しは元気になるんじゃね?」

「無一郎ちゃんの好きなものは風呂吹き大根よ」

「よっしゃなら嫁に作って貰うか」

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 その日の晩、風呂吹き大根を持ってきた天元は、アオイを経由して無一郎の食事に出してもらった。

 当の本人と悪魔は屋根裏に忍び込み、こっそり様子を窺うことにした。

 

 漆塗りの箸の先が大根を切り分け、無一郎の口元へと運ばれる。

 

 全ての大根が嚥下されるのを見届けた二人は、音を立てずに屋根裏から撤退した。

 

「………大丈夫そうじゃないか」

「そうね………」

 

 好物を頬張る表情を見れば、無一郎の内面がぼんやりとだが窺い知れた。

 

「……アタシちょっと焦ってたのよ」

 

 月が見える縁側に座り、悪魔はぽつりとそう言った。

 月光に照らされた桜の花弁が風に吹かれてひらひらと舞う。

 

「無一郎ちゃんと有一郎ちゃんは、アタシが特に教えることもなく自分たちで鍛え上げて、いつも二人で切磋琢磨し合ってた」

 

 天元は何も言わずに耳を傾ける。

 

「そのお陰で実力はついたけれど、もしいつかどちらかが死んでしまって一人になってしまったら、あの子たちは一体どうなるんだろうって。もしかしたら呆気なく死んでしまうんじゃないかって」

 

 不安だったのよ、と呟く横顔は辛そうだ。

 二人の育手として、保護者として、二人のことを真剣に考えているのだろう。普段通りの破天荒な振舞いだったがそれはきっと、不安を感じさせないようにするこの人なりの気遣いだったのかもしれない。

 

「でも、杞憂だったようね。もしどちらかが死んでしまっても、きっと立ち直れるわ」

「そうか……」

「……あら、涙が出てきてしまったわ。いけないわね、年取るとどうにも涙腺が脆くなっちゃって」

「ほらよ、これで拭いとけ」

「ふふふ、アナタやっぱり良い男ね、アタシと一緒にならない?」

「やめろお前鳥肌が立つ!!」

 

 腕をしきりに擦った天元は、ぺッと吐き捨てた。

 

「色々振り回してごめんなさいね」

「別に良いけどよ、あとで不死川のとこに行って謝っとけよ。それと──」

 

 そこまで言いかけて、天元は目の端に写ったそれを見た。それにつられて悪魔も体の向きを変える。

 少し離れた先で、悪魔が渡した隊服を着た無一郎が、食膳を下げに来たアオイと向かい合っていた。

 声は消こえない。でも指文字や読唇術を鬼殺隊の隊士は全員修めているから、唇を読めば何を言ってるかを知れた。でも知らなくても分かっただろう。だって無一郎の表情は嬉しそうな顔だから。

 

 無一郎は喜んでいた。

 師範がくれた僕たちだけの隊服だって。

 似合ってるかなって。

 

 天元は耳が良いためしっかりと聴こえた。そしてやれやれ、と肩をすくめる。

 

(全く、しっかりしてんじゃねえか)

 

 なぁ? と隣に居る悪魔を見れば、そこに姿は無い。ばっと前を向けば、

 

「無一郎ちゃぁぁん!! 全くもう無一郎ちゃんたら、がぁ゛んわい゛い゛ーーーっ!!!!」

「うるさい」

 

 耳をつんざく野太い叫び声を上げて突撃してた。

 

「全くあなたって人は!! 何回言ったら静かにしてくれるんですか!!? ここには患者さんが居るんです!! あなたが騒いでいると怪我に障ります!! もっと静かにしてください!!!」

「やっべ興奮し過ぎて鼻血出てきた……」

「聞いてますか!!?」

「あっ涎も出てきた………」

「うるさいなぁ。アオイさんが静かにしろって言ってるだろ。聞こえてないの? 耳悪いの? 耳悪いなら診て貰えばここ医療施設だし」

 

 喜色満面の顔から一転、汚物でも見るような視線は悪魔の心にグサっと刺さり、膝を付かせた。

 

「うちの師範がごめんなさい。ほら起きろ」

「げふっ……!」

 

 ぺこりと腰を折った無一郎は、しくしく泣く悪魔に軽く蹴りを入れて無理矢理立たせる。

 そのまま蝶屋敷の門前まで来ると、ゲシっと蹴り飛ばした。

 

「さっさと家に帰れ」

「無一郎ちゃんってばヒドイ!!」

「嫌なら土に還れ」

 

 そして縋りついてくる手を払いのけ、無情に門を閉める。ただ、その隙間から、

 

「師範、ありがとう!」

「ッ~~~~~!!!!?」

 

 満開な笑顔が咲いた。

 不機嫌な顔から一転して満開な笑顔をされちゃ脳が対応しきれない。それが目の前で起こった訳で、悪魔は立ったまま気絶した。

 

 

 それから数時間後、蝶屋敷に帰ってきた胡蝶しのぶは、門の前に倒れている不審者(佐藤勇太)に困惑しつつも、取り敢えず脈を測って生きていることを確認した後、放置した。こういうことはよくあるのか、気休めに藤の御守りだけ胸元に置いて帰った。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 既に夜は更けているというのに、何処からか木刀を振るう音がする。

 月明かりを頼りに音が聴こえる方向へと歩けば、ひとり、我武者羅に木刀を振るう少年がいた。

 

 この前柱になった時透無一郎くん。私にとっての姉のように兄が起きない人。

 

 少しの親近感が湧きながら、そっと、囁くように彼の名前を呼ぶ。

 

「無一郎くん」

 

 途端に振り返った顔、彼の長い髪がふわりと広がる。

 

「胡蝶さん」

「もう寝た方が良いですよ。徹夜は身体に毒です」

「いえ、まだ動けますから。ほっといてください」

 

 そう言って再び木刀を振り始めた彼の腕を掴む。

 

「無一郎くん」

 

 今度は強めて名前を呼べば、ばつが悪そうにこちらを窺う。

 

「眠れないなら、少しお話しでもしませんか?」

「お話し……ですか?」

「ええ」

 

 無一郎くんと話そうと思ったのは、特に理由は無い。強いて言うなら、なんとなく。そう、なんとなく。

 

 春になったと言えど、夜はまだ肌寒い。無一郎くんのと私の分の温かいお茶を入れた後、月明かりに照らされた縁側に座り、隣に座る無一郎くんにお茶を差し出す。

 

「無一郎くんは、鬼をどう思いますか?」

「滅ぶべきかと」

「貴方もそう、思いますか?」

「当たり前では?」

 

 何を当たり前のことを、とでも言いたげな彼の眉間をつん、と指で突く。

 

「私の夢は、鬼と人間が仲良くすることなんです」

「随分高尚な夢ですね」

「反対ですか?」

「別に、人を襲わない鬼なら仲良くしても構わないと思います」

「……珍しい方ですね」

 

 そう言えば、無一郎くんの視線は空へと移った。暫し考え込むように空を見詰めた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「でも鬼が人を喰らう限り、現実にはなりません。……夢物語に過ぎないですが、僕は良いと思います」

 

 そこで言葉を切った彼は、手を月へと伸ばす。

 

「その道のりは月程に遠く、その道は酷く険しいものでしょう」

 

 しかし、とこちらに振り返る。

 

「歩み続ければ必ず届きます。僕の願いが一つ、叶ったように」

 

 彼の青みがかった瞳がふっと緩んだ。それにつられて私の頬も弛んだ。

 

「励ましてくださってありがとうございます。それと無一郎くん、身を詰めすぎないようにしてくださいね」

「……できるだけ」

「絶対とは言いませんが、ほどほどにしてくださいね。私、貴方を見ていると元気になるので、貴方が倒れてしまっては困ります」

「何で?」

 

 首を傾げて上目遣いで訊ねてくる。これが無一郎くんの素なのかしら。敬語も抜けてしまっている。

 私は少し微笑ましげに笑ったあと、二の句を継いだ。

 

「兄のために頑張る無一郎くんを見ていると、元気を貰えるの」

 

 私が姉の仮面を被るように、彼も兄の仮面を被っている。けれどもそこには“無一郎くん”がいて、自分を殺してない。その事に私は、“胡蝶しのぶ”を重ねてしまう。私が私であれないけれど、無一郎くんは無一郎くんでもいられる。

 だから元気が貰えるの。そんな想いを込めて、まっすぐ視線を交わす。

 

「よくわかんないけど、頑張ります」

 

 この想いは届いてないけれど、ぴしっと背を伸びた彼を見る限り、届いてなくても良いだろう。

 

 そして二言三言言葉を交わして別れた後、私は姉さんが眠る部屋に入った。

 

 病床に横たわる姉さんは、今もこうして眠ったまま。早く起きてほしいと願いを込めて握っても、握り返してはくれない。

 

「姉さん。私頑張るよ」

 

 だから、見てて。その言葉を呑み込んで、私は病室を出て調合室に入る。

 入って早速棚に伸びた手は迷いなく、必要なものを掴み取った。

 明日の機能回復訓練で使う薬湯のもとを作り、必要な数を揃えたあと、薬棚から藤の花と色々な薬草を取り出す。

 薬研で挽くことも、火にかけることも、これは既に何度も行った動作。別の事を考えていても手は勝手に動いてくれる。

 私は先程の会話を思い返していた。

 

『私の夢は、鬼と人間が仲良くすることなんです』

 

 嘘ではない。かといって本当という事でもないでしょう。

 

 姉さんの振りをして、姉さんの想いを継いで、仮面をかぶって振る舞っても、心に燻る嫌悪感はいつまでも経っても消えはしない。姉さんの鬼と仲良くする夢を、叶えたいと理性では訴えるものの、心が否定する。鬼という単語を聞いただけで、私の心は憎悪で泡立ち抑えきれぬ憤怒が沸く。

 

 胸に澱む激情のままに、放り投げれば楽になれるというのに、私はどうしても捨てられないの。

 捨ててしまったら最後、私はきっと何もせず腐ってしまうから。

 

 手元を見れば、既にそれは出来ていた。

 軽く洗って調合したばかりの丸薬を口に含み、舌でころころと転がす。

 

 不味い。

 

 味はとても酷いもの。とても飲み込めるものじゃない。そう、例えるなら私の鬼への憎しみのように。

 

 水を呷って胃腑に流し込む。こんな風に私の憎悪も呑み込めれば楽なのに。うまくいかないものよ。

 

 そして私はまた一粒、紫苑に染まった丸薬を流し込む。

 

 確実に弐を屠れ、姉さんが目覚めるなら、惜しむものなど何もない。

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 その日の深夜、それは突如、何の前触れもなく現れた。有一郎の眠る、その部屋で。

 

 冷気と共に現れた“彼”は、有一郎をじっと見詰めた後、机に置いてある笛を取った。そして直ぐに元の位置に戻すと、再び音もなく姿を消した。

 

 

 ほんの僅か、十秒にさえ満たない時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 

 それから数日が過ぎ、空が夕暮れ模様に染まる頃。真新しい隊服を纏った無一郎は蝶屋敷の門前に居た。霞屋敷へと向かうのだ。

 

「無一郎チャン、モウ行ッチャウノ? マダココニイテモ良イノヨ?」

 

 左肩に止まった銀子が心配そうにそう言った。

 

「うん。もっと強くならなくちゃいけないから」

「頑張ッテネ! 私ハココデ応援シテイルワ!!」

 

 右肩に降りた金子が励ますように翼を広げる。金子はやっぱり有一郎の側に居ることにした。

 

「頑張るよ。きっと兄さんなら、背筋を伸ばしてちゃんとしろって言うだろうから」

 

 そよ風が脇を通り抜ける。追うように上を向けば、空には一つ、星が瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

「黒死牟」

「はっ」

「例の鬼が出た可能性がある。見つけ出して始末しろ。可能ならば十分に躾を施し連れてこい」

「御意に、御座います」

「無論、邪魔者は切り捨てろ」

「御意に」

 




 時透さんちの有一郎くん。
 スヤスヤお眠り中………。

 時透さんちの無一郎くん。
 原作よりマイルドな霞柱誕生!! 兄が目覚めなくてしょんもり………。でも生きてるからハッピー。ツンデレスイッチを持っている。鬼や隊士相手には有一郎モード。隊士以外は無一郎モードを使い分ける。が、たまに混ざる。

 胡蝶さんちのしのぶさん。
 鬼殺用の毒は自分で調合する凄い人。新作はお館様に送り、お館様が()詳しい詳細を添付して返す。それを読んで効果を高める感じで作っている。そのため原作より効果はかなり強め。服薬は原作通りの効き目。上弦の弐絶対殺すウーマン。

 胡蝶さんちのカナエさん。
 上弦の弐との戦闘の負傷で、未だ目を覚まさない。はてさて目を覚ます時は、妹が悲願を叶えた後か。
 ちなみに病室は妹の部屋の隣。(元々の姉の部屋ではない)。理由は不埒な奴が現れたら直ぐにサーチ&デストロイするため。つまり善逸は要注意人物に該当する。

 鎹鴉の金子ちゃん。
 無一郎の鎹鴉になろうと銀子と担当の座を競い合っていた。でも結局は有一郎の鴉だから側に居ることにした。鴉だから何も出来ないことに胡座をかかずに、蝶屋敷にいる間は隊士をカァァァァ!! と起こす係に付く。また伝令も手伝う。

 鎹鴉の銀子ちゃん。
 無一郎の担当の座を守りきった。追いかけっこは僅差で勝った。その代償に佐藤勇太の目が犠牲になったが気にしてない。無一郎の良い所は何時間でも話していられる。

 補足
 例の鬼は禰豆子ではないです。また、珠世さんでもありません。オリジナル鬼です。


 大正こそこそ話。
 実は薬湯を訓練で使うのはちゃんとした理由がある。と言っても大袈裟な理由ではない。また、カナエさんが死なずにいるのには理由がある。

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