世を照らすのは日輪だけじゃない。   作:ポンタ ponta

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 実は私、鬼滅の刃はアニメから入った人です。鬼滅の刃という漫画とアニメがあるのは元々知っていましたが、読もうとする意欲はなく、本誌が完結してから見始めました。そしてものの見事にハマりました。逆に完結してからハマって良かったです。
 これと同じ理由で呪術迴戦も見てないです。引っ張りハンティングのゲームでしか知りません。あと十コンボォォ!! の奴でしか知りません。なにあのパンダ、ミンク族? それになにあの目隠し、前見えてますか? あと領域展開と術式展開が混ざるんじゃあ。
 あ、あと試しにイラストを描いてみました。描いた絵を見て、うーん………なんか顔の形歪んでない? 下っ手くそだなぁ。と思いました。初めてとしても酷い。真正面から中指立てて喧嘩売ってるレベル。どうやら私の画力はたったの5。ゴミめ。宇宙の帝王には遠く及びませんでした。

 pixivにも投稿することにした理由は、単にページ切り替え機能があるからです。ぶっちゃけそれ以外理由はありません。ちなみに、慣れているハーメルンの方が執筆しやすいからか、あちらは書きにくいです。

 甘露寺さんのところなんですが、14巻のお館様とのお話しのシーンでは、甘露寺さんが伊黒さんから貰った靴下を履いているように見えます。なので順番的には甘露寺さんションボリ→伊黒さんから靴下貰ってホワホワ→その流れで食事してビクビク→お館様からのお言葉でウルウルからのギャピシャキーン。と考えています。甘露寺さんもあまり情報がないので、捏造モリモリてんこ盛りでお届けします。過去もモリモリ山盛り富士山盛りです。

 漫画によると、マッチを漢字で表すと燐寸になるんですが、胡蝶さんの場合は漢字ではなくマッチとなっているので「燐寸」と「マッチ」の二通りでてきますが、別段気にすることではないので流してください。

 この作品は基本的な流れは原作通りに進みますが、進まないことも勿論あります。特に“彼”が存在する以上“彼”が関わったキャラの一部は原作から離れています。今回登場する累も原作通りの性格ではございません。原作知識は、ぽ~いと真上に投げ出してください。で、読み終えたらキャッチしてください。


第9話 長くもがなと思ひけるかな。

 空を見ていた。夕焼けに燃える空を。

 庭の岩に腰を預け、木々の間に見える空を見ていた。

 

「「鉄井戸さん」」

 

 と、二人に声を掛けられて、ようやく地上へと意識を戻す。

 

「よく来たな、さぁ受け取りな」

 

 砥ぎ終わった刀を渡せば、無一郎は頭を下げて、二人揃って手を振った。揃いの隊服を着る彼らに、鉄井戸は慈しみに満ちた表情で見送る。

 

(儂はもう、長くはない)

 

 鉄井戸は二人の背中が消えた後もまた、空を見る。

 神無月の空は何処までも澄み渡り、雲一つ無かった。

 

(お前さんたちにはもう、不安はない。これで一つ、心残りは無くなった)

 

 風が吹いた。

 木々が揺れて紅葉を散らす。

 皺の刻まれた頬を風が撫でる。

 

(せめてあの娘が起きるまで生きていたいが……)

 

 ずぐり、と身体の中から嫌な音が鳴る。

 

(無理だな。これは)

 

 手を胸にあて、優しく擦る。そしてまた、空を見る。

 

 この何処までも続く空の向こうに、幽世(かくりよ)があるのか。

 

 鉄井戸は手に持つ煙管をくるりと回す。懐から取り出した燐寸で火を着ける。

 

(薬もだいぶ効かなくなってしまった)

 

 茜色の空はやがて夜へと塗り替わる。

 時間の流れはひどく鈍間で、穏やかな時間だった。

 星が出ても月が出ても、鉄井戸は岩の上に居続けた。

 

 鳥の声に耳を傾け、虫の音に心を凪がせ、ひたすらに穏やかな時間に、鉄井戸はただただ静かに身を浸らせた。死期が迫る身だからこそ、この時間が堪らなく愛おしく、どこまでも美しかった。

 

 最後の一本が燃え尽きた時、鉄井戸は煙管をそっと、懐の中へと仕舞い込んだ。そしておもむろに岩から腰を上げ、ぽつぽつと自宅への道を歩き出した。

 

 そして溜め息と共に溢した。

 

「次会う時にはもう、儂は既に―――」

 

 続く言葉は、ひとしお強く吹いた風によって形になることは無かった。

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 半年に一度の柱合会議、産屋敷邸に赴いた俺の頭に、突如として激痛が迸った。まさに青天の霹靂と呼ぶべきものに、俺は脳天を打たれた。

 

「あわわわ、ちょっとまよってしまいまして」

 

 そう叫んで赤面する彼女を見た瞬間、俺の頭になにか鋭いものが突き刺さったような激痛を覚えたのだ。

 そしてわかってしまった。理解してしまった。これが、この痛みが、恋と呼ぶのだと。

 

「あ、私今回柱に任命された、恋柱の甘露寺蜜璃と言います!!」

 

 赤面から一転、鈴を転がしたような声で薔薇色の頬を綻ばせ、自己紹介する彼女は、天上に咲く梔子ほどに可憐で美しかった。

 

「………蛇柱、伊黒小芭内」

 

 水気を失った喉で返せば、若草色の瞳が柔らかにしなり、蓮の花が咲くように笑った。

 それを目にすれば頭の痛みも増し、胸が弾んだ。

 

「ところで……」

 

 小首を傾げた彼女の人差し指が、俺の頭頂部を指す。

 

「あの、大丈夫ですか? 先ほどから頭に蛇君が噛みついていますが」

「心配ない。それと鏑丸という名前がある。俺の友人だ」

「えっと鏑丸君、伊黒さんの頭から血が流れているので、離したほうが良いんじゃないかな?」

 

 彼女に言われれば、鏑丸は素直に牙を外した。しかしおろおろと首をうねらせる。

 外れたお陰で頭の痛みは治まったが、胸の弾みは収まらない。

 

 ああ、やはりこれは。ああ、間違いない。

 熱病に魘されたような熱さも、早鐘のように弾む心臓も。

 しかし導き出した答えを否定するように、俺は首を振った。

 

「案内しよう」

「わ~ありがとうございます!!!」

 

 隣を歩く彼女は黙っていることが辛いのか、一人で喋り始めた。それを厭う気持ちは微塵もなく、彼女の家族構成や四匹の猫の名前と特徴、好物の話しに耳を傾け板張りの廊下を進む。

 

 美しい人だ。

 

 そう漠然と思う。自分が生まれてから見た何よりも美しい、と。

 彼女と一緒に居るだけであとからあとから湧き出る、知ってはならぬ感情を消すように、熱を帯びる胸を摩る。

 

「久しぶりだな甘露寺!! 柱就任おめでとう!!」

「ありがとうございます煉獄さん!!」

 

 しかし庭に着いても消えず、友人の冷たい鱗でもこの熱を収めるには足らず、ならば一体なにがこれを静めることができるのか。

 

「胡蝶しのぶと言います。これからよろしくお願いしますね、甘露寺さん」

「お願いします! あの、しのぶちゃんって呼んでも良いですか?」

「良いですよ」

 

 屈託のない仔猫のような笑顔で他の柱と馴染み始める彼女を、ぼんやりと眺めながら思う。

 自分はこれから一体何をすべきなのか、と。

 俺に誰かを恋する資格はないし、赦されない。

 それと同じように誰かに恋われる資格はないし、恋されていい人でもない。

 

「何でしのぶちゃんは普通の隊服なの!? 私これなのに女の子みんなこうだと思ってたのに!!」

「私も最初はそれを渡されましたよ。でもその隊服は前田さんの目の前で油をかけて燃やしましたね。悔しげに泣き叫ぶ姿は見物でした」

「しのぶちゃん!?」

 

 取り合えず今やるべきことは前田とかいう奴を抹殺すること。その塵は細切れになるまで切り刻んでやる。

 そう決めかけたが、

 

「よろしければ油とマッチ貸しますよ」

「いや、大丈夫! ありがとね!!」

 

 彼女自身が気にしないなら仕方ない。諦めよう。鬱憤をひとまず呑み込み、ふん、と息を吐いた。

 

「遅れてしまいすみません」

「まだ時間ではない。謝る必要はないだろう」

 

 あの冨岡より遅く来た無一郎は「あの人が新しい柱か」と呟いて、宇随と話していた甘露寺の元へ歩き出した。そしてくい、と甘露寺の羽織を引く。

 

「あなたが甘露寺蜜璃さんですか? 僕は霞柱、時透無一郎と言います」

「若いのに柱だなんて凄いわ! これからよろしくね!!」

 

 無一郎の手を握ってぶんぶん上下に振った甘露寺に、無一郎は「ところで」と口を開く。

 

「その隊服は………?」

「いや、あの、これはね」

「僕みたいに師範からの贈り物とかですか? それにしてもそのままだと風邪ひきますよ、寒くないんですか? あとさっき見えましたよ隙間から」

「えっ!?」

 

 ぴたりと固まった空間。何故皆が固まったのか分からないのか、無一郎は首を傾げた。

 

「………何かおかしなこと言いました?」

 

 変な空気になったところで「お館様のお成りです」との声がかかり、柱たちは一斉に跪いづいた。密璃も慌ててそれに倣い、気心の知れた杏寿郎の隣に跪く。

 

「よく来たね、私の可愛い剣士(子供)たち。今日はとても良い天気だね。空は青く澄んでいるのかな」

 

 二人の御息女に手を引かれてやって来た耀哉はいつもの位置で腰を下ろした。

 

「柱の九画が全て揃ったこと、とても嬉しく思うよ」

 

 耀哉の揺蕩うような声で始まった柱合会議は、昼を少し過ぎる頃に終わった。終われば基本的にすぐに解散し、各々自分の屋敷に戻って睡眠を取るか鍛練する。どうやら行冥と無一郎は戻らずなにやら話しているが、小芭内は屋敷に戻ろうと腰を上げる。その途端、ふと思い出す。

 

(甘露寺寒がっていたな)

 

 日が差し込むとは言え今は秋。肌寒い日にあんな格好では寒いだろう。事実会議中に、甘露寺は寒そうに足同士を何度も擦り合わせていた。

 

(それに隊服を恥ずかしがってもじもじしていたしな、靴下はどうだろうか)

 

 この感情を伝えるようなことはしない。俺にそんな資格はないのだから。

 だが、願うことは良いだろう。彼女の幸せを願うことだけはきっと、こんな俺でも赦されるだろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 屋敷へと帰る道すがら、藤の家紋を掲げた呉服屋に寄った俺は、甘露寺に合うような靴下を探していた。

 

「恋人への贈り物ですか?」

 

 女物の靴下を吟味していたからか、店員が話しかけてきた。

 

「違う。だが手伝ってくれ。俺にはよく分からん」

 

 かしこまりました、と微笑んだ店員はあれよこれよと多くの靴下を持ってきた。

 

「アンタが選んでくれ」

「いけませんよ」

「なにがだ」

 

 どれが良いのか分からないから訊いているというのに、店員は微笑んだまま首を横に振った。

 

「貴方が選ぶべきですよ」

「…………」

 

 さぁさぁと促され、仕方なく俺は何本の靴下に目を通す。

 俺は今まで人に贈り物などしたことがない。だからどういうふうに決めたらいいかわからない。あれでもないこれでもないと考えては、あれもいいなこれもいいなと迷いに迷う。

 ともすれば鬼と戦うより頭が疲れるが、不思議と厭ではなかった。むしろ心が妙に浮き立つ様だった。それは畳に這う鏑丸も同じ様だった。

 吟味に吟味を重ねて選んだ三本の靴下。しかしこの中から一つに絞るのは難しい。

 

「おい、どれがいいと思う」

「貴方が決めるのです」

「できないから尋ねているんだ。少しは手伝ってくれ」

「嫌です」

 

 一体この店員はなんなんだ? 嫌がらせかと思ったが、微笑みを絶やさずにいる店員の瞳は真剣そのもので、有無を言わせない迫力があった。

 けれどやがて、店員は表情を緩ませた。

 

「この中からどれを選んだとしても、貴方の贈り物は必ず想い人に喜ばれますよ」

「想い人じゃない。何度言ったら分かるんだ。耳が聞こえないのか貴様は」

 

 頑なに否定したら、店員は思わず笑ってしまった、といったような笑顔で口を開いた。

 

「こんなにも時間をかけて選んでいるというのに、想い人ではなかったら一体誰でしょう?」

「姉妹とか友とかあるだろう」

「でも貴方の目は真剣でしたよ。その瞳の奥には“愛”がありました。親愛でも友愛でもなく、好いた人への愛がありました」

 

 思わず口を噤んだ俺に、畳み掛けるように言った。

 

「何故そこまで否定するかはわかりませんが、貴方がこんなにも時間をかけてくれたものを、贈られた人が喜ばぬはずがないでしょう。自信を持ってください」

 

 その子に相応しいと思うものを選んでください。

 続いてそう言われて俺は一つ、迷った末にその靴下を手に取った。

 

 彼女の桜髪に似合う、その色を。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 会議が終わった後、しのぶちゃんに誘われて訪れた蝶屋敷。私は今まで酷い怪我とか負ったことがないから来たことない。だから、物珍しさでお上りさんみたいにきょろきょろしていたらしのぶちゃんに笑われちゃった。ちょっと恥ずかしい。

 

 そのまま頂いたちょっと遅めのお昼ご飯。

 本当はたくさん食べるつもりはなかった。好きな女の子に嫌われたくなかったし、気持ち悪いとも思われたくなかったから。

 けれどしのぶちゃんはすごい聞き上手で、私の入隊理由も優しい笑顔で聞いてくれるから、いつの間にか私の前には空になった食器が積み重なっていた。

 

「甘露寺さんよく食べますね」

「そ、そうかな? これでもそんなに食べてないけど」

 

 天丼六杯、白飯五杯、味噌汁四杯。空になった器に目を向けて、しのぶちゃんはちょっとびっくりした顔をした。

 

 やっぱりおかしいよね。女の子がこんなに食べていたら気持ち悪いよね。

 ごちそうさまをしようと箸を止めた私の腕に、しのぶちゃんの真っ白な手が触れた。急なことでびっくりしていたら、何度かにぎにぎされてはぎゅっとされて、訳がわからないままじっとしていたら、ふんふんと頷いたしのぶちゃんは人差し指を立てた。

 

「甘露寺さんは普通の人と同じ体型で、捌倍の筋肉があるんです。つまり筋肉の密度が高いんです。ですから、いっぱい食べないとダメですよ。筋肉の多い人は基礎代謝が高いんです。少なくとも人の捌倍は召し上がってください」

「でも、女の子なのに……そんなにいっぱい食べたら、その……気持ち悪くない? 嫌われないかな」

「甘露寺さんに必要な栄養を摂るなと言うような方と、無理して一緒にいることないですよ。そういう奴はこうすればいいんです」

 

 愛らしい笑顔のまま、しのぶちゃんはここにはいない相手をこうしてこう、そしてこう、とぐーで殴る真似をしてみせてくれた。

 

「ねぇ?」

「しのぶちゃんったら……」

 

 あなたは本当に優しい子。

 あなたのその言葉で、私の心がどれほど軽くなったか。

 

 けれども、私は、やっぱり。

 

「俺は恋柱様とは付き合えないな。だって沢山食うし」

 

 その一言で、私の心はどこまでも重くなる。

 

 蝶屋敷から帰ろうとして通った病室の前。そこから漏れ出た男の人の声。

 私の食事風景を見ていたのか、どれくらい食べていたのかを伝える声は、千枚通しのように鋭く尖り、私の心をぐさっと突き刺した。

 これ以上聞きたくなくて、私は耳に両手をあてて足早にその病室を離れた。

 

『君と結婚できるのなんて熊か猪か牛くらいでしょう』

 

 脳裏にかつて言われた言葉が蘇る。

 

『そのおかしな頭の色も、子供に遺伝したらと思うとゾッとします』

 

 まるで私が人間じゃないみたいに言われて、私は冬の日差しの下でしばらく茫然としていた。あたたかと照らされた梅の蕾が妙にはっきりと見えたのを、昨日のことのように覚えている。あの時、私の心は寒烈の気でかちこちに凍りついた。

 

『恐ろしい。まるで牛や猪だな。その髪色と言い、君を迎えたい男なんて一生現れやしないだろう』

 

 生まれて初めて言われたその言葉に、私は私を偽って普通の人間であろうとした。

 

 ―――百七十個の桜餅を八ヶ月毎日食べていたら髪の色と目の色が変わってしまった。

 お父さんとお母さんからもらった色を、変えてしまったことに申し訳なくなって泣きそうになった私を、それでもお父さんは、蜜璃の髪は桜みたいで綺麗だよ、と頭を撫でてくれて、弟や妹たちは桜餅みたいでおいしそう、とやさしく背中を叩いてくれて、お母さんは、見た目が変わってもお腹を痛めて産んだ子を嫌う訳が無いでしょって、更に桜餅を勧めてくれた。

 そんなみんなのやさしさを振り切って、私は髪を染め粉で黒くして、食べたいのをぐっと堪えて、どれだけお腹の虫がぐぅぐぅ鳴いても、頭がくらくら朦朧とし始めても、私は大丈夫と自分に嘘をつき続けた。自分だけじゃなく家族にもいっぱい嘘をついた。力も弱い振りをした。

 髪を黒くしたのは、みどりの黒髪に憧れただけだからって。

 力が弱くなったのは、失恋したからって。

 

 そしたらある日、結婚したいって言ってくれた男の人が現れた。

 

『君の髪はまるで烏の濡れ羽色。とても美しい』

『その小動物のような食事姿も可愛らしい』

 

 そう言われて、私は疑問に思ってしまった。

 私は一生こうして生きてくのかなって。

 いっぱい食べるのも、力が強いのも、髪の毛も、全部が全部私のなのに、私は私じゃない振りするのって。

 

 疑問に思えば思うほど、私の一歩先を歩く男の人の声が遠のき、石畳を歩く足の感覚もおぼろげになり、それに反するように、ぎゅっと強く握りしめた両手の感覚だけがはっきりとしていった。

 

 私が私のままできること、人の役に立てることがあるんじゃないかな?

 私のままの私が居られる場所ってこの世にないの?

 ありのままの私を好きになってくれる人はいないの?

 

 こんなのおかしいって、そう思った途端に視界と頭の中がぐるぐる回り始めた。

 空腹も相まって倒れた私は、目覚めたときに決めた。頭の中はすっきりと澄んでいた。

 大丈夫か? と、心配してくる男の人にごめんなさい、と謝ってから、あられもなく着物の裾を翻して、坂を転がるように自分の家へと駆け出した。

 

 私が私らしくいられる場所を探す。

 添い遂げる殿方を見つける。

 

 そして家を飛び出すように鬼殺隊に入った。家族は鬼殺隊に入ろうとする私を心配したけど、最終的には背中を押してくれた。最初は反対していた両親も、ありのままの蜜璃でいられるなら、と納得してくれた。

 

 師範として私を育ててくれた煉獄さんは、私の奇抜な髪と力を見ても、卑下することも忌避することなく、まっすぐと私の目を見て、

 

『見た目など些末な問題だ! 気に病む必要はない!』

『君の膂力も体の柔らかさもさることながら、奇抜な髪色だって見方を変えれば鬼の気を引き人を明るくする立派な才能だ!』

 

 と、言ってくれた。私の育手になれて幸せ者だと、誇りに思うとも言ってくれた。

 凍りついた私の心は、煉獄さんの炎のように暖かい言葉で、じんわりと溶かしてくれた。

 

 でも、だからと言って、前を向けたわけじゃない。もちろん私だって万人に受け入られるとは思ってない。けれども、そんな陰口を聞いてしまうとどうしてもやる瀬ない気持ちになってしまう。

 

 ―――あれほど軽かった足取りは反して重くなり、それに伴うように心は重く、私は賜った恋屋敷へと足を引きずるように駆けていった。

 

 

 

 

 

 

「あの人可愛らしいよな。見ているだけでドキドキしてくる」

「あーわかるわかる。恋柱様の笑顔見てると恋したくなってくる」

「でも恋柱様と付き合えるかと言ったら違うよな」

「うんうん。俺は恋柱様とは付き合えないな。だって沢山食うし。山かってくらい皿が盛られてたな」

「そうそう。恋柱様めっちゃ食ってたな、えげつねぇ程。もし付き合えたとしてもあの人の食費を養えるほどお金が無いからな」

「男なら女を養える程の懐を持ちたいけどさ、あれは柱でもない限り無理だ。俺たち柱になれるほど力ないし才能もないしな」

「そうだよな、もう脳内彼女で淋しい心を紛らわすしかないよな。ちなみにこれから俺の脳内彼女は恋柱様だ!」

「俺は胡蝶様だけどな。ちなみにお前は?」

「俺……胡蝶様の妹、結構、好き」

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 ここ、那谷蜘蛛山で僕はその日、青い彼岸花を探しに夜の山道を彷徨い歩いていた。

 

 月しか明かりの無い山は、生い茂る草や木々でほとんど前が見れない。けれど僕のような鬼、特に強膜が赤く染まった鬼は総じて視力が優れているっておっしゃっていたから、僕は気にせず山を歩ける。決して躓いたりしない。しないったらしない。

 

「イテッ」

 

 してない。

 

 一段と開けた場所に出た時、ドサって音が聴こえてきた。続いて苦悶に満ちた叫び。何だろう? と思いつつ音が聴こえてきたところに行ってみたけど見当たらない。幻聴だったのかな? と思った瞬間、もう一度叫び声が聞こえてきて、やっと見つけた草むらには、僕の手の平ぐらいの大きさの、頭だけの鬼がいた。

 

「………そこでなにしてるの? 元々その姿なの?」

「違うわよ! そんなわけないでしょ!!」

 

 血に塗れたその鬼は瞬く間に体が再生して立ち上がった。それでも随分と小さいけど。十寸くらいかな。

 

「きゃぁ、私裸じゃない!!」

 

 そりゃ再生したらそうなるだろう。

 この鬼馬鹿かな? と思いつつ見ていると「あっち向いてて!」と理不尽に怒鳴られた。取り敢えず僕はそっぽを向いて手の平から糸を出す。服でも作ろうかと思ったけど、僕にそんな器用なことできなかった。出来たのは細長い布。服に仕立てられるのは僕の役割じゃないし仕方ないかと思う。

 

「はい。取り敢えずこれで体隠せば?」

 

 ほい、と手渡せば凄い勢いで奪われた。細長い布を体にぐるぐると巻き付け、包帯男みたいな格好になった彼女は礼と共にぺこりと頭を下げた。

 

「私の名前は奸鷄。よろしく」

「僕の名前は累。下弦の伍だよ」

 

 自己紹介する時は身分を明らかにした方が良いって知っていたから、左目にかかる前髪を上げて十二鬼月の証を見せれば、突如として奸鷄は目をひん剥いた。

 

「………どうしたの?」

 

 急に動かなくなった目を見つめていると、糸が切れたように倒れた。

 

「気絶?」

 

 どうしようか迷ったけど、ひとまず“家族”の所に連れて帰ることにした。

 

 ただ家族と言っても本当の家族じゃない。母さん、父さん、兄さん、姉さんが居るけど、全員鬼だ。血も繋がってない。いやある意味血は繋がっているけど。

 

「あら累、どうしたのその子?」

「拾ったんだよ母さん。奸鷄って言うんだって」

「随分と小せぇ体だな、コイツなに喰ったらこうなるんだ?」

 

 二対の前肢で奸鷄をぺしぺし叩く兄さんに、姉さんがこう言った。

 

「あんたも何食べたらそんな蜘蛛の胴体になるのよ。見ていて気持ち悪いわ」

「ただの変化だわ。忘れてんのか姉さん。ついにボケたのか? ばーちゃん世代の仲間入りか? 姉さん役から婆さん役に変えっか?」

「なんですってアンタ!?」

「静かにしなさい二人とも、この子が起きちゃうわよ」

 

 母さんの宥めを聞き入れず、ぎゃーぎゃー騒ぎ出した姉さんと兄さんに起こされたのか、奸鷄が勢いよく身を起こした。

 

「あっ起きた」

「………ぎゃあああああ!!!! 人面蜘蛛ぉぉおお!!!」

「うるさっ、しかもなんだコイツまた気絶したぞ」

「アンタの顔がキモすぎたんじゃないの?」

「喧嘩売ってんなら買ってやるよぉ!!!」

 

 わちゃわちゃ騒ぐ二人見ていると、頭の奥がどうしてか疼くんだ。その原因は多分、僕の記憶にある。

 というのも、僕に人間だった頃の記憶は無いから。

 でも覚えているものもある。それは怒りと悲しみの感情だけ。

 

「毎回毎回思うけどアンタの蜘蛛気持ち悪いのよ!! なにあの化け物!!」

「姉さんの喰い方も気色悪いわ!! なにあの食べ方!!」

 

 兄妹喧嘩を見ても癪に障ることではない。

 けれど、どうしても腹が煮え立つものがある。

 

「兄さん」

 

 怒りを滲ませて問えば、兄さんはすぐに謝った。

 

「いいよ、僕は優しいから許してあげる」

 

 どうしたって許せない。家族の顔が元の顔に戻るのを。

 今までは切り刻んだり、知能を奪ったりして鬱憤を下げていたけど、それはいけないことだと言われてからは自重している。

 それにしても、

 

「兄さんは、まだ来ないのかなぁ」

 

 飢えを満たすために麓の集落のひとつを襲った後、稀血の人間の腕を手にして月を見る。

 

「兄さんの好物、とっといた方がいいのかな?」

 

 うーん………うん、やめとこ。とって置いて腐ってしまったら目も当てられないし、腐った肉もおいしいと言えばおいしいけど、僕はあんまり好きじゃないから。

 

「いただきます」 

 

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 口元に何かが垂れる感覚で、わたしは目を覚ました。

 

「やっと起きた? 大丈夫?」

 

 目の前にいたのは累とかいう鬼で、口元に垂れていたのは人間の血だった。花より甘く、とろりとした芳醇さのこれは、すぐに稀血だとわかった。

 

「大丈夫」

 

 身を起こしたわたしに稀血の指を渡して、累は微笑んでこう言った。

 

「僕と兄妹になる?」

 

 って。その誘いにわたしは、一も二もなく頷いた。

 

「これからよろしくね、奸鷄」

「うん、よろしくね、累」

 

 頷いたけれど、わたしは家族というものが嫌いだ。

 “家族”というものにわたしは、漠然と恐怖と哀しみを覚えたから。

 どこでそんなことを思ったのかは思い出せないけど、“家族”という単語は不愉快だ。頭がいやに軋む。でも、“兄妹”という単語は好きだ。なんでかわかんないけど。

 

 というのは本音の半分。残りの半分はわたしのため。

 

 わたしは自分さえ良ければいい。死ななければそれで良い。

 例え目の前の奴が死んだって、あの方の配下にされたって、わたしが生きてさえいればそれで良い。

 それに兄というものは妹を守るものだから、わたしが生き残れる可能性が高くなる。

 

 わたしは自分が生き残れるためなら何でもする。

 

 それがわたしの肉体を動かす、根源だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 累と兄妹という関係になってからというものの、累の家族とはそこそこ会うような関係になった。特に繭を作り出す娘とはよく話す。というのも、わたしは鳥を鬼にするためにはわたしの血を注入する必要がある。今までは小さくした体でこっそり近づいたり、罠を作って捕まえて注入していたけど、逃げられてばかりであまり上手くいかなかった。でも、繭の娘がいれば簡単な罠で捕まえられる。現状はまだ両手で数えられる程だけど。

 

「アンタって体の大きさ変えられたのね」

「当り前よ。だって体が小さいとその分一度にたくさん食べられないし」

 

 普通の大きさに戻ったわたしを見た娘は驚いたようにそう言った。

 見開かれた瞳の色は、累と同じ色。いつもの苦々しい顔はどこかへ行ってわたしも少し驚いた。

 なんで顔が似てるのかと以前訊いてみたところ、わざわざ似させているって言ってた。そうしないと怒られるんだって。そう言ってたからわたしも顔を似せることにした。

 

「そういえばあなたの血鬼術って累とどこか似ているよね。糸を出すとことか」

 

 そう尋ねたら一気に元の苦々しい表情に戻った。聞いちゃまずいことだったのかな。

 

「………これは累の能力よ。私たちは弱い鬼だったから累の能力を分けてもらったの」

 

 でも、と娘は続ける。

 

「一番上の鬼は、能力を分けてもらってない。アンタと一緒よ」

 

 へぇー誰だろ? そう思った日の次の夜、その鬼が誰なのかを分かってしまった。

 

 日が暮れると共にやって来たその鬼は、わたしの恐怖の対象そっくりだった。ズルズル引きずられている鬼らしき体に、更に恐怖が湧き出す。

 顔は変化させているのか累と同じだし、十二鬼月の文字もない。更に腰には刀を佩いてなかった。

 いくつも違う点があるけれど、やって来たその鬼は間違いない。

 火山のように噴き出しそうな恐怖を前にして、わたしは必至に体を縮めて目が合わないように下を向いていた。

 

「ほら、挨拶しなきゃだめだよ」

 

 そのくせ累ときたらわたしの背中を叩いて急かす。兄なら妹の心ぐらい読んでくれよ。

 できることならこのまま小さくなって消えてしまいたかったけれど、そうは問屋が卸さない。

 

「奸鷄と言います。累の妹になりました。よろしくお願いします」

 

 カラカラと乾いた喉から絞り出し、この時間が早く終わってくれるように心の中で祈る。

 

「私の名は………言わずとも分かるだろう」

「あれ? 兄さんと奸鷄って知り合いだったの?」

「少しな」

 

 これ絶対あれだよ。あの方がわたしを監視しようと送ってきたに違いないよ。

 手汗びっしょり冷汗たらたら、鬼が脱水で死ぬことはないけれど、わたしは死んでしまうんじゃないかと怖くなった。

 

「兄さん、僕、最近新しい技ができたんだ!」

 

 幸いにも累が外へと引っ張り出してくれたお陰でひとまず安心することができた。もうこのまま帰ってこなくていいよ。わたしの精神的安全の為に。

 

 

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 兄へ新技の御披露目が終わり、累はやっとその鬼について訊いた。

 

「ところで兄さん、その頭がない鬼の体はなに?」

「これか? これは手土産だ。母への」

 

 そう答えた兄は、ベンチ代わりに座っていた鬼の体から腰をあげ、ひょい、とその巨躯を担ぎ上げた。

 

(そんなの渡されても母さんは喜ばないと思うけど……)

 

 さて、母のところへ行くか、と歩き始めた兄を見ながら、累はそんなことを考える。

 

「その鬼は元々その姿なの?」

「いや、私が頸を飛ばした」

 

 兄の片手を握りつつ、夜の山道を歩く兄は、何でもなさげに答えた。

 その様子を見るに、どうやら兄さんは特に苦労もせずに倒せたようで累はホッとする。鬼であろうと敬愛する兄が傷つく姿は見たくないのだ。

 

「その頸はどうしたの?」

「……さぁな、どこかで転がっているかもしれん」

 

 普段兄が何をしているのかを、累は詳しくは知らない。

 あまり語りたくなさそうだったから、あえて聞かずに置いている。

 今回の件も何か関わっていそうだなぁ、と察しながらも累はトコトコ歩く。

 

「おっと、大丈夫か?」

「うん」

 

 片手が兄の手にあったからか、累は転ぶことはなかった。けれど微笑ましげに見てくる兄に恥ずかしさが募った。

 

「あのね、訊きたいことがあるんだけど……」

 

 身長差による歩幅の差を、自分に合わせてゆっくり歩いてくれる兄にホワホワしながらも、累は少し躊躇いがちに口を開いた。

 

 

 

―――………

 

 

 

 

 

 霧で溢れたとある山。二つに割れた岩の前。

 

「最終選別、必ず生きて戻れ。儂も妹も此処で待っている」

 

 日輪を模した耳飾りを付けた少年は、赤天狗の老爺の羽織の上に、ぽたぽたと丸みを帯びた涙を落とした。

 




 刀鍛冶の鉄井戸さん。
 暇さえあれば空を見上げて待ち続ける。待つのは願いを叶える流れ星か、それとも黄泉への迎えか。

 甘露寺さんちの蜜璃さん。
 破廉恥極まりない隊服をそれでも着る理由は、折角作ってくれたものを燃やすなんてキュンとしないから。そのおかげで前田の命は繋がった。
 超限定的な会話の場面を聞いて気を落とす。もう少しその場にいれば肩を落とすことはなかったのに。

 時透さんちの無一郎くん。
 柱合会議で遅れた理由はただの寝坊。銀子につつかれても起きず、有一郎に叩かれても起きず、最終的に有一郎が着替えさせて背負い、銀子に案内して貰った。当の本人は到着三秒前に起床&状況を把握。有一郎からのお言葉を貰い、しょんぼりと入っていった。

 時透さんちの有一郎くん。
 正規の手段ではなくお館様の場所を知ってしまい、ちょっと罪悪感に苛まれる。
 無一郎に新しい柱はどんな感じの人だったかと訊いてみたところ、ぴよぴよ言ってて桃色のヒヨコみたいという返事が返って来て、はっ?? となった。更に今度の休みに悲鳴嶼さんの所に行こうと言われて更にはっ??? となった。

 伊黒さんちの小芭内さん。
 喜んで貰えるか、いやそもそも受け取って貰えるかと不安になって、選んだ靴下を渡す勇気が無い。けれど常に懐に忍ばせている。
 一方、それを悟った鏑丸はひと肌脱ぐ。はたまた次回に続く。

 呉服屋の女性店員。
 伊黒さんが好きな人の為に靴下を選んでいることはすぐにわかった。別に女性の勘でも何でもなく、普通に見てわかった。

 下弦の伍の累。
 家族仲は原作よりは気持ち良好。家族ごっこに妹が参加。兄ムーブを頑張る。最近……というか昔からなぜかコケやすいのを気にしてる。もう兄さんに相談しようかな。

 妹気質の奸鷄。
 早く配下を増やして、むしった羽で作った羽毛布団で眠りたいと思う今日この頃。鬼だから睡眠は必要ないが、癒しに必要。娯楽と一緒。
 もしかしたらあれは兄なんだから、妹であるわたしを守ってくれるんじゃないか? と希望的誤解をしてる。

 ここで大正コソコソ裏話。
 累は兄と呼んでいるだけで累の家族じゃない。そのため繭を作り出す娘も一番上の兄ではなく鬼と言っている。
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