――――――――これで29枚目。
俺自身の目撃情報を求める張り紙はあちこちの電柱やらブロック塀等に張り付けられていて、その一つ一つの回収を親父と母方の祖父母以外の家族総出で行っている最中だ。
セナ姉の話によれば、全部で62枚…張り過ぎだろ、というか俺は猫か?猫探すようなノリで張り紙拡散されたのか?
因みにSNSは…どうやら個人情報の漏洩を恐れて行えなかったらしい。いくら何でもビビり過ぎだ、と言ったが事例があるとの事だ。
全く…分かってはいたが、日本に帰っても頭の痛くなる話ばっかりだ。
寧ろコッチの方が頭の痛い話が多い。何せ高校の退学手続きやら戸籍が何やらどうやらと思い出したくもない書類の山に追われてた訳だ…コレ全部、財団がやってくれたら話が早かったのにアイツら根回し済んでないだのと抜かしやがって――――まあ警察のお世話が無い当たりソッチに気を取られてんだろうな。
…だから俺は疲れたんだ。
なんで二十後半代にもなって姉に字の汚さを咎められにゃならんのだ。
もう半分は集めたんだ…休んでも良いだろう。
そう考えて、俺はこの辺の近くにいい感じの河川敷があった事を思い出した…よくバーベキューで騒いでるパリピが居て、休むに休めないかもしれないけど、そんな事より俺は何処か腰を下ろせる所に行きたかったのだ。
………そんな自分の目の前には、大手のコンビニエンスストアがホットスナックの香りを漂わせて店を構えている。
「………」
正直、腹も減っていた。
俺は今誰よりもきっと欲望に忠実だろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ああ、クソ。
フライドチキンがこの上なく美味い…ジュワッとくる油(脂とも?)と塩気のアクセントがもう悪魔的だ。こういう健康に中指立てるような飯こそがこの世の真理なんだよ…なあにが健康志向だ、なあにがヘルシーメニューだ、なあにが低カロリーだ。どーせ添加物ばっかよ、それならこのフライドチキンと変わらねぇ。なのに薄味で油っ気のない料理が何になる?満たすのは見せかけのスマートさを実感する満足感だけだ、腹も心も満たせやしない。
どっかの自動車会社の社長だってエコカーを売ってながら趣味の車は「景気よく排気ガスを吐くようなゴツい車」だって言ってんだ。不健康は魅力なんだよ。
…何を言ってるんだ俺は。
やっぱり、かなり疲れてたらしい。それか強化ボディで相変わらず調子乗っているだけか。
何気なく、取り合えずのノリで新調したスマホ(もち某リンゴ社製…に見せかけた財団製)を取り出してアカウント作り立てのTwitterを見れば…何と言うか案の定と言うのか、やれ「どの政治家がどうこうでどうでナントカ発言」だの「どの芸能人がどこどこでどーで問題発言」だの…朝のニュースといいネットニュースといい言葉狩りと揚げ足取りしかやってない。
トレンド欄からホームに戻れば、フェミニストの皮を被って好き勝手やってる女性主義者共が調子のいい言葉でマンガ・アニメにケチをつけてやがる…テメェの出てくる幕じゃねえんだよ見たくねえなら見るなクソアマ!今すぐテメェの手足の指全部削ぎ落して口を溶接してやろうか!?
…落ち着け、俺。こんなヤツ相手にムキになってんじゃねえ。
見なければいいはこっちも同じだっつーの…ブロックブロック、やっぱり疲れてんだな。
やっぱりネットっていう素性隠せる場所は皆好き勝手やるからクソだ、クソだよクソ。
それに対してリアルってのはまあ穏やかなもんだ、皆それぞれ(とりわけ日本人は)“仮面”が大好きだからそれを付けて暮らしてるお陰で表面上は綺麗で大変よろしい。
最初に心配してたクソパリピ共のバーベキューの気配も無いもんだ…結局こういう自然の景色に落ち着いてしまうんだろうか。
――――ふいに、やや遠方からガチャガチャ音が響いてくる。
ランドセル特有のガチャガチャだ、うるさい小坊がやって来たと思ったがクソパリピに比べりゃまだいい方だ、自分も案外通って来た道だし。
そう思ったのだが…どうも様子がおかしい。
なぜランドセルを叩きつける音がして、人を叩くような音までするんだ?それと何を叫んでる?それだけが気になって、喧騒が響き渡ってくる方向を振り向けばその理由が一発で分かった。
自分の
その上で殴る蹴るだ、そして罵声だ、とどめに5人組の笑い声――――ああもう分かりやすいくらいに“いじめ”の光景だよ。いくら年月が経っても弱い者いじめの手法ってのは変わらないんだな。全く、認めたくない過去を思い出させてくれる…!
前言撤回、リアルもリアルでクソだ…ああそうだったよ、“向こう”じゃこんなの比べるまでも無いくらいクソッタレな事が全部リアルで起こってるんだった。
だから……多分、俺は世の中のシガラミだとか何だとかの外側に居る事が好きなんだろうか。
自分だけが世の理の外側に、常識の外側にいるような…そういう感覚を求めてた。強化人間の身体ってのはそういう時だけ都合が良かった。
こんなクソみたいなネット社会が、こんなクソみたいなリアルが…記憶を
…そのうち、いじめはエスカレートして遂にはいじめられっ子に出血さえ見受けられた…流石にあれで失血死するわけじゃないが、もう血まで出したらいかんよな?一線を超えちまった訳だ――――あ、骨折れ…てないか、軽いヒビが入っただけだ。
関わる気は無かった。
何せいじめってのは第三者がその場でやめろと下手人を追い払うだけじゃ普通に止まらないし、だからと言って安っぽい正義振り翳して下手に介入するといじめが悪化する。やるなら徹底的に…と言いたいが、徹底的にやると今度はそのいじめてる側がいじめられる側にシフトするだけでまあ後味が悪い。
しかしまあ…ここまでやらせてるとその内死に至る。流石に目の前で死なれては、そっちの方が数倍後味悪い。
こうなりゃ少しは干されて貰わなきゃいい加減俺の腹の虫も収まらん。
というわけでスマホにライトニングケーブルと専用機器経由でUSBメモリを直付けし、現場の撮影を開始した。
幸いクソガキ5人は俺に気付いてないし被害者は(防御こそ当然ままならない程だが)あと30分殴られ続けなければ命に別状はなさそうだ…寧ろ“多少”酷い傷なくらいがこの後役に立つ。他人様に自分の考えを押し付けるようで申し訳ないがこれは怪我の功名と言う奴だ、死ななきゃ安い…生きてりゃ“チャンス”が回ってくる(それ以上に受難というクソッタレが降りかかってきたりもするが)。
さて、時間にして2分半。丁度いいアングルの映像が取れた。もうこのクソガキ共に用は無い。
役目を終えたアクター達にはお帰り願おうか。
「おーい、何してんだー」
俺が間の抜けた様な声で呼びかけると、流石に“怒られるような事”をしている自覚はあるのか「やべっ」「逃げろっ」と蜘蛛の子を散らすように、という慣用句のお手本が如き逃げっぷりで5人とも逃げて行った…ただ一人、酷い傷で塗れたいじめられっ子を置いて。
「おい坊主、大丈夫か?」
まあ大丈夫な訳がない…が、多分この手の子供が言う言葉は決まっている。
「…はい」
声変わりもギリギリ来てないような声で彼は細々とそう言った。まあ、そう言うだろうな。
よく見ればランドセルに不用心にも名札があった…成程、俺と同じ都南小か。あそこは1年坊だけ名札の義務がある。その名札を今の今までお守り代わりに持っているたぁ…そりゃクソガキグループに目を付けられもする。
この時期の子供ほど、理解の超えるモノに対する不寛容の強い時期は無いだろうな。
取り合えず「立てるか?」と手を差し伸べて立たせてから…果たして手元のUSBが“余計なお世話”では無いかのインタビューを開始した。
「全くいつまで経ってもああいうヤツ居なくならんよなぁ?
仕返しとかしないのか?」
「…したら、あいつらと同じに…」
OK、反撃の意思はアリ。
そしてやり返さないのは、一緒に怒られたくないか?それとも子供ながらに、って奴でクソガキと同じ所まで落ちたくないか?まあどちらにしろ躊躇しているパターンだ、よく分かる。
「まあそうだよなー、5人相手じゃね。
センセーに言うのだって怖いよな?」
いじめられっ子は「うん」と言いたげに首を縦に振った。
さてここからだ。
USBメモリなんざただただ渡せばいいと考えるだろうが、ここで言っちゃいけないのは真実だ…仮に「今の所ちゃんと映像にしてコレに移してるから、お母さんかお父さんに見せなさい」と言ったって、こういう大人しい子供は親に迷惑をかけまいとするのか…もしくは現状の変化に恐怖心があるのか、どうも渡したがらなくなる。多分。
だから何気なく、寧ろ今回の件とは関係ないように思わせるのだ。
「ああそうだ。
…坊主、その名札都南小だろ?」
また彼は頷いた。
「じゃあ、ちょっとさ、今…アレだ、PTAの、あ!PTAって分かる――――よな。すまんすまん。まあ学校の活動の一環で今ちょっとお前らの父さん母さんに配りものがあるんだ…コレ何だけどさ」
こんな時に自分のガバガバな説明スキルが発動するとは思わなかった。
「え…USBメモリ?」
「お!よく分かるな」
「うん…お父さんが仕事で良く使ってるんです」
USBメモリを頻繁に使う仕事って…なんだ?普通の会社員ってそんなにUSBメモリ使うの?じゃなきゃ何だよ、産業スパイ?それとも動画編集業者か何か?
まあいいや何でも。
「…そっか。
まあちゃんと届けるんだぞ?じゃないと親御さん困っちゃうからなー」
親が困る、はちょっとした脅しである…が、強ち嘘でもない。
「うん…ありがとう、ございます」
彼はボロボロの身体を引きずって、恐らくは自分の家へと帰って行った。
…流石に随伴してやった方が良かったのか?いやいい。妻帯者の手前、事案だと思われたくもないし第一そこまでする義理ってのがない――――今更何が“義理がない”だと思うが、正直今の所「何やってんだろうな」って感じが強い。
どういう訳か、心のどこかで今の今までやってたのが“ただの八つ当たり”って感じがして…このままやってやっても、虚空を勢いよく殴りつけているような虚無感と羞恥心が止まらない。どうするんだ…USBメモリもあと2本、同じ内容のストックがある。本当に…本当に、何をやってるんだ。
俺は今、生まれ故郷のある世界に地に足付けて存在している……ハズなのに、何故かこの世界から切り離されたような…。
きっと“マツダ・トウヤ”じゃなくて“マーシレス”として動きすぎたせいだ。ここにいるのはマツダ・トウヤなんだよ…マーシレスに居場所なんかない。なのに俺は…。
その内、考えてるのも空しくなって、芝生に身を投げ出した。
「…あの、マツダくん?だよね?」
「んぁ…?」
頭の後ろから、自分の“最初の”名前を呼ぶ声が聞こえた。
…誰だと思って身体ごとそちらに振り返ると、あれ、ええと――――誰だっけ、この制服の眼鏡女。いや見覚えがある事にはあるんだが、というか俺が通ってた高校の女子用制服なんだけど…多分関わった事もないからか、名前も何も出てこない。
「ええと、あー…」
「お、覚えてるかな…?
小中高で一緒だった…イワナミだけど…」
「え、イワ、ナミ…あ!あー、ハイハイ覚えてる覚えてる!思い出した。
そうそう、マツダだよ俺。マツダ・トウヤ」
ああそうだった、イワナミ…コイツあれだ、小学校の4年の頃にクラス一緒になった、(俺と同じく)影の薄くてどこのグループに馴染めて無い様な図書室入り浸り組の女で、中学でも1年の時に同じクラスになってその前期に気まぐれで入ったナントカ委員会で一緒のチームだかグループだかになった縁があったきり、そこから特に何のかかわりもなく奇妙な偶然で同じ高校に行くことになり――――入学から約1か月後に俺は白夜王国の森に、体を弄られて放り出されたんだった。
それくらいの関りだった男を覚えている辺り、彼女は余程記憶力がいいんだか…それか人間関係に乏しいんだか。
「行方不明に…なったって聞いてたんだけど」
「あぁそうそう、つい1週間前まで行方不明リストに入ってた」
「そうだったんだ…。
なんか、その」
「“よく帰ってこれた”ってか?」
「え?うん…そう、かな…」
「でしょうね…。行方不明者なんて大概ホントは死んでるか、そうそう帰ってこないってのにな」
「うん…。
マツダくんは…えっと、何処に…?」
「何処?何処に連れてかれたのかって事?」
「うん、そういう…事」
「あーそれは…アレだ、言えない事になっててさ」
「それって…まさか」
「いや別に売られて所有権が云々じゃ――――あー、うん。無いから、と言うか仮にイワナミが思ってるような人身売買だったとしても日本に国籍あるうちは日本に逃げきれてればもう勝ちだって」
「そう、なの…?」
「そうだよ。日本じゃ人身売買が違法だから主張もできやしないし無理やり連れて帰ろうにも流石に先進国の政府に直接モノ言って圧力かけられるシンジゲートなんざ無ぇよ。ヤクザ使って誘拐しようにも今時暴対法で好き勝手動けないハズだから表立っての誘拐ってのは――――無いってのは楽観的なんだろうけどまあ警察のお世話にさえなって保護してもらえりゃあんまり怖がる必要もないし。というかそこまでアングラ系のファンタジーじゃないっての」
「だよね、考えすぎかぁ……」
飛ばされた世界はテレビゲーム的ファンタジーのお手本みたいだったがな。
まあその気になれば財団の奴ら公にならずにそのまま俺一人連れ去れそうだけど。
「それに、言えないのは俺自身の都合なワケよ」
イワナミは俺の答えに対して少し訝しむような表情を見せた。
「え、どうして…」
「まあ、なんつうか…連れてかれた先で自分の生活がデキちゃった訳よ。開業までしたし」
「開業…」
「ああ。
最初は肉体労働(傭兵)だったけど…その時のノウハウで結局店構えるのに落ち着いてな」
今は果樹園で安さと大量生産を武器に(労働基準法以外)合法に稼ぐ傍ら、別名義で行く所まで行ったヤツ相手に金貸し(割合はトイチ)もやってる。ぶっちゃけ暗夜も白夜も日本ほどに民法も会社法(会社なんてないけど…)も商法も厳しくないから煩雑な手続きだとかは殆ど必要なかった。というか今は自分は責任皆無の会長職みたいなモンであるから勝手に金が入って来るような状態なワケ。
ああそうそう、ノウハウってのは“脅しのネタ”の隠語ね?昔、強化人間パワーにモノ言わせて黒い仕事引き受けてた甲斐があったよ。ノスフェラトゥの失敗作処理のとか…。
…親と姉には金利関係を含む経営者って伝えた。
しかしまあ…こんな面識が一枚の紙きれほどの薄さしかなかった女とよく会話が弾む。
いや…俺が一方的に話してるようなものか。
「……そういえば、ソッチはもう受験の時期か?」
「え?あ、う、うん…そう、だね」
一気にイワナミの顔が(元からどこか暗かったのに)暗くなっていく…地雷を踏んだらしい。
「…すまん、流石に無神経だったわ」
「い、いいよ!大丈夫、だから…」
「いやその声が大丈夫じゃ――――ああ、うん」
もうこれ以上踏み込むまい、我の弱い奴ほど内側にはとても抱えきれないような闇ばかりが籠ってる。
とりあえず話題を変えようとするがそんなホイホイと話題が――――と悩んだ末に、一つ思い出した事があった。
「というか…お前ここ通学路じゃなかったよね?引っ越した?」
「ううん、今日は都南小に行こうって」
「へえ。
そりゃどうして」
「特に理由はない、かな…ただちょっと、久しぶりにカシワギ先生に会いたくなっただけ」
「え、マジか…カシワギ先生まだ定年じゃなかったのか…」
カシワギ先生っていうのは丁度4年生の時、俺とイワナミが居たクラスの担任だった…明らかにカタギじゃなさそうな雰囲気を漂わせてた壮年って感じの先生だ。ぶっちゃけ俺の小学生時代はこの先生のお陰で結構救われたと言ってもいい、何せこの先生が頑張ってくれたお陰で当時のいじめが半分減った。残りの半分はもう…奴らは悪魔みたいなモンだったのだろう、いるよな?妙に賢しくて、立ち回りが上手いし運も良かったお陰であんまり怒られなかったけど一番の主犯だった奴とか。そういう奴らだった。
全部昔の話だ…あまり引きずっちゃいない。
そして件のカシワギ先生に話を戻すが…まあ、とにかくいい先生だったってのは確かだ。
きっとイワナミもお世話になってたのだろうな。それこそ俺以上に…。
「え?
まだ40代だよ?カシワギ先生」
「…は?」
そしてイワナミの口から結構衝撃的な事実が飛び出した。
嘘だろ?あの顔で当時30代後半だったってのか?滅茶苦茶老け顔じゃねえか…!
「…冗談はよしてよ」
「いや、本当に…」
「…」
「…本、当」
「さいですか…ずっと50代だと思ってた…」
「うん、それは分かる…私もずっと思ってたから…」
やっぱり俺だけの話じゃなかった。
思い返してみれば、当時の(数少ない)友人との会話でも割と定年ギリギリというのが定説だったんだからな…!因みにもう一つの通説が【左手の黒い革手袋は詰めたエンコを隠すため】なんてのがあった…が、これは実は(小学校教師として)グロ注意な火傷痕を隠すためであるのは俺達は知っている。
――――ふと、先ほどまでの疎外感と虚無感がさっぱり無くなっている事に気が付いた。
残りのUSBメモリ2本へと目を向ける…“マツダ・トウヤ”はそこまでして自分のトラウマにケリを付けたいのか?それともまた妙な正義感を振り翳そうとしているのか?もう自分の事なのに良く分からなくなってきた…が、別の事に気が付いてそんな事を考えるのをやめた。
そもそもが乗りかかった船なのだ、そうなったら最後どんなに沈もうが結局浮き上がるのが“マーシレス”だし“マツダ・トウヤ”もそうかもしれない。
最終的に、もう深くは考えない事にした。
一先ずイワナミと一緒に都南小に行く、そしてカシワギ先生に伝えれば何かアクションは起こしてくれるはずだ…あの先生ならば望む事が出来る。
「まあ、俺も顔合わせに行こうかな?なんか…行方不明の件が伝わってたら、あれだよ。ご迷惑をお掛けしましたと…ね」
「そっか。多分、それがいいかも…」
「かもな、後それと…船にも乗りかかったし」
「…?」
「ああ、なんでも無ぇ。
ともかく一緒に行くか?行き先は同じな訳だし」
「うん」
ずっと河川敷で立ち話をしていた俺達は同じ方向へと歩き出した。
こんな言い方すると…なんかスポ魂的な感じするけどなんてことない、行き先が同じなだけだっていうね。何を言ってるんだろうか。
「というか都南小って、コッチ?」
「うん……!、いや、違った…」
「おいおいおい…」
流石に僅かながらに都南小の方向は覚えていたので、違和感を問うたら案の定と言う感じだった。
そしてさっきのスポ魂の言い回しで歩んだ道をまた引き返して正反対の方向へ進んだ…よく見りゃ都南小は遥か向こうにデカデカと見えるわけで。
昔はあの学校に行くのが憂鬱だった…いじめもあるけど、何より学校が山の上にあるせいでか、単純に上りがきつかった。
俺は登校区画的に裏門から入っていたが、その裏門前の道路に――――あー、丸いポチポチみたいの…ええと、アレの正式名称が思い出せない。アレだよ、坂のキツイ車道とかにある車の滑り止め用の凹凸。とりあえずアレが裏門前にあるって事でどれだけキツイ道なのかを分かって欲しい。
50m走が9秒でやっとだった俺の身体能力であの坂道を上るのは地獄だった、一応正門に回り込めばそこそこ平らな道を行けるのだが、それだと今度はバカみたいに時間がかかる。朝学活には間に合うのだが、遅れてくると今度はクソ野郎共の下らないトラップに引っかかる訳だ…ほら、黒板消しのやつとかさ。中学は本当に目と鼻の先に正門があったから本当に楽だった…クソは相変わらずクソだったけどな。
まあ…本当に昔の話なんだがな、ごく一般的な年月からしても…肉体的、精神的年月からしても。
小中学校の思い出をこうして思い出す内、生活の循環にあったものを一つ一つ確認していった。
その中の一つがネット漫画とネット小説だ、中学時代にスマホを与えられて以来欠かさずに更新内容をチェックしていた。
当時面白くて見ていたやつが全部今も面白いと感じれるかと言われれば、正直そんな事は無い。今見て見れば「何が面白かったんだ」と頭傾げるような物もある。逆に昔はスルーしてた作品を拾ってみると、意外とイケる事に気が付いたりもする。理解力や知識が追い付いてきたんだな…って。
「…!。
ねえ、そのサイト…」
「えっ…あ」
しまった。
中学時代から自分のスマホ画面を見られないよう人一倍気を使ってた俺が…まあ仕方ない。
「マツダ君も見てたんだ」
「うん、まあ。
…やっぱりイワナミも見てたのねコレ」
「う、うん…今は他の小説サイトも使ってるけれど」
「マジかぁ…。
――――所でよ、実は自作を投稿しようとか、それかもうしてたりとかしてない?」
「え、えぇえ!?
し、してない、よ…」
あ、これしてるんだな…まあいいや。
「まあ、そりゃそうよな。
実はさ…俺、昔やろうとしててさ、でもやっぱり思いつかないんだよなぁって」
「うん…そうだよね。
難しいもん、物語を作るの」
「そそ…あ、でも一つ思いついたわ。
評価が大体スクロールした先の方に偏ってて、尚且つ自称評論家気取りの小説のなんたるかを分かってる風吹かして、ただただ他人に毒吐きたいだけな結局素人のよく分からん誰かにコメント欄で上から目線でボロクソに叩かれるくらいの奴」
「えらく具体的…」
「でもそんな奴いっぱい居たろ?
――――で、内容はというと、先ず主人公が突然ヤクザに敵対組織の構成員と間違われて後頭部から殴られて瀕死になるんだ」
一瞬、イワナミの表情からサーッと血の気が引いた。
…そりゃそうだ。俺が行方不明になったある程度の経緯は既にニュースで流れている。
「そしたら放置された半分死体のソイツをショッカーが拾ってカマドウマ怪人にしちまうんだ、そしたら実験の為にそんじょそこらの異世界にゲート繋いでポイ捨てするワケ。
…そしたら主人公、記憶喪失で化け物になって大暴れするってストーリー。
――――――――盛りすぎかな?」
「う…う、うん。
盛り過ぎなのもそうだけど…ネタもB級映画を意識し過ぎかなーって。書きたいだけならともかく、評価されたいってなると…あまり多くの人には刺さらない気がする」
まあ実際刺さらなかったがな!ガハハハ
「それもそうか…」
今のネタはリアルだったら色々驚きだろうが、創作としては三流もいい所だ…自称評論家じゃ無くたってこんなのツバ吐きたくなる。
「…なんか、想像以上に喋っちゃったな。
俺らそんな関わりあったっけ?」
「うん…委員会の時以来かな、こんなにマツダ君と話したの」
「あん時もあん時で事務連絡ばっかだったしよ。
――――あ、やべ、もう都南小。どうしようドキドキしてきた」
「やっぱり久しぶりだと緊張するの?」
「それもあっけど、さっき言えなかったけど…実は早めにソリティアしてワンタンエグゾディアしなきゃいけない事情を抱えてまして…」
「よく分からないけど…強欲の壺なら1枚、弟が持ってるよ」「いや本当に遊戯王するんじゃなくて…」
まさかネタの方に食いついてくる女だとは思わなかった…もしかしてコイツ、もうちょっと仲良く出来たんじゃねえだろうか?
まあそんな事はこの際どうでもいい。
運のいい事に、すぐ目の前をカシワギ先生が歩いていた。
「おーい、お久しぶりでーす!」
1年か2年かくらいかけて書いた…。