1日遅れも許すでごわす
~ある異なった時間軸の話…~
2の月24の日。
この日マーシレスは、呻きながら部屋の隅から隅を延々と歩き続けていた。
突然響いたノックにも気が付かずに。
「トウヤー、おーい、トウヤ?居るのか?
鍵…開いて――――うわっ!?居るなら返事しろ馬鹿!何やってんだお前」
「悩み過ぎて…家を右回りする以外にやる事がない」
「んな。
何そんな悩んでるんだよ」
別に悩まない男とかそういう訳でも無いし、何なら人生の半分以上を悩むのに費やしてる男だが、そんなマーシレスの――それも無意味にリビングを周回する程の――悩み、それは…。
「ベルカの誕生日」
かなり重大案件だった。
「あっ、そうだ…俺もどうしよう」
そしてシームレスに悩みに共鳴するジン。
「なんかもう、外食とかどうだ?」
「そういうのマンネリ過ぎてなんか…って感じがな」
「いやいやマンネリでいいんだよ、そう言うのは。
誰かの誕生日だけ、何処の店に行くー…とか、何を食べるー…とか。そういう習慣があってこその家族だろ」
「うん、そうだけどさ、親父。
…出来ればね?今年…いや、去年か。去年の俺の誕生日と同じくらいのインパクトにはしたいんよ」
「何、してくれたんだ?ベルカちゃん」
「一応発案と主導はスミカ。
むしろアレはアイツじゃねーと出来ん」
「いや本当に何をしたんだ?」
「クソデカスリットのチャイナドレスで接待ディナー」
…この一言の後、ジンは文字通りに目をぱちくりさせた。
「…悪い、耳がイカれたらしい。
もう一回」
「クソデカスリットのチャイナドレスで接待ディナー」
「…え?」
「クソデカスリ…――――」
「もういい!もういい、もういい…
え?何、クソデカスリットって」
想像はついているものの、一応聞いておきたいジン…もしかするともう少し健全なものである可能性を…。
「鼠径部の線が見える程のスリットの。
更に言うと黒サイハイと黒長手袋のオプションまで付いてた」
「うん、しまった、想像通りだどうしよう」
そんな可能性など最初から存在しなかった。
「んで、スリットは…片側?」
「いや両側にスリット…もう前掛けみたいな感じになる奴」
「お、おう…」
「AI絵師が高確率でキャラクターに着させてるタイプのやつ」
「いやそれはしらん」
近年のSNS事情には当然だが詳しくない男、ジン。
「一瞬穿いてないかと思った」
「は…穿いてたのか?」
「見たけど、ベルカは履いてた…すごいのを。
スミカは知らん、見てない」
「スミカちゃんもやったのか…いや、やるか」
見てたら色々大問題である。
「…本当に、どうしような。
夢…叶っちゃったじゃんトウヤ」
「夢でもねぇよ…夢にも見て無かったから。
――――これで俺らは普通に誕生日パーティとか絶対許されないと思うんですよ親父」
「そうだな、そりゃ許されないな」
性癖ドストレートのお祝いをしてくれたのはそれで良い、とても良い。
しかしそれのお返し、ともなると途端に人生最大の試練と化す。
「…実を言うと俺、今でもアイツの性癖がよく分からん」
「待て待て、こっちも性癖で勝負する必要はない」
「ヤる時もいっつも俺の方に主導権持たせてくれるし…」
「お前さ、まさかだけど無意識的にベルカちゃん良い様に扱ってねぇよな?」
「やめろよマジで自分でも気にしてんだから。
…にしたってアイツ、今でも自分出すのが苦手ってのもある」
「だよなぁ…どうも人に合わせてる方が楽そうな子だもんなぁ…お前と一緒で」
マーシレスは自身の父親を睨みつけ、何か言いたげに口をもごもごと動かした。
まあそんな事は兎も角として二人は一刻も早くベルカへの誕生日パーティの案を出さねばならない。
…その時、ジンが「あっ」と、何かに気が付いたように顔を上げた。
「お前…どっちにしろベルカちゃんの誕生日はお前のより先に来るだろ?」
「ん、ああ…そうだけど」
「去年のベルカちゃん、誕生日に何してあげたんだ?
お前の事だ…何もしなかったってこたぁねえだろ」
「…当日、果物をさ、自前で経営してる農場からかき集めたんだよ。バリ新鮮なの。
それと加工済みフルーツをその場でカットしてフルーツパフェっぽくしてみたんよ」
「それ初耳だけど、なんか8部東方家みたいな事してんのな。
んで、それはどうしてだ?」
「いや、王女様から昔、ベルカが甘いもの大好きって聞いたから。
――――あぁ」
マーシレスも漸く、彼の意図を理解したようだ。
「多分だけどな…お前がやったそれ、ベルカちゃんには凄く嬉しい事…だったんだと思うぞ。
だから…うん、その、提案したのはスミカちゃんらしいが…きっと彼女もそれだけの“お返し”をしたいと思ったんだろ。
ノーパンしゃぶしゃぶをさ…」
「違うから。そこまで違いは無いけど違うから。
でも…そう、なのか?」
「いや俺もこの推測にそこまで自信ない。
トウヤこそどうなんだ、俺より長いだろ」
「…多分、そんな気がする。
それならそれで丁度いい、今丁度日本からちょろまかしたシャインマスカットが…――――すまん今の忘れて。兎も角シャインマスカットが育ってるんだよ」
「本当に丁度いいな。
――――それとあんまり責めないけどさ、程々にしろよそういう違法行為」
「まあ程々にしておく。
…ベルカ、盗品を食べるっての地雷っぽいし」
「あぁ…そうだったな。黙ってろよ?」
「うん。
じゃあ…ちょっと急ぐわ。ゲートあっても若干間に合わなそうだし」
「分かった。
俺も自分で何かそれっぽいの用意しておくぜ」
「七面鳥よろしく」
「売ってるのか?」「売ってる。んじゃ」
こうして後日、ベルカの誕生会は成功を収めたそうで。
「しっかし…結局の所はやっぱり、誕生日ってのはある意味マンネリが一番いい気がするな」
「何?親父、生足どころか尻までチラ見えするチャイナドレスでの接待をウチの文化にしようっての?」
「そうじゃねぇよ…。
こういう、さ。祝われる側が一番喜ぶような感じの…」
「やっぱりクソデカスリットチャイナドレス恒例化しようとしてんじゃん」
「だから違えって」
おわれ
何?どうせクソデカスリットチャイナドレスがやりたかっただけだろ、って?
…全部N○sanが悪い。