葬送のフリーレン:幕間   作:Paul.P

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1級試験一次試験を終えたデンケンら、食事の後にデンケンがリヒター、ラオフェンを散歩に誘うが…。


一次試験を終えて

魔法はイメージの世界だ。

イメージできたものが全て実現できるわけではないが、イメージできないものは決して実現できない。

 

そして俺は、目の前の老いぼれを倒すイメージがまだできない。

 

「ああ、この味だ。妻との思い出がよみがえる…」

 

俺の目の前で宮廷魔法使いのデンケンが食事をしている。

とても血みどろの権力争いを勝ち抜いた男とは思えない、ラオフェンの世話をしているときなんてただのおじいちゃんだ。

 

「老いぼれめ、なんて食欲していやがる。あれだけ暴れまわったのにもうピンピンしているな」

俺でもまだ全身が痛いのに…。

 

「爺さんは強いからな」

むふーん

 

「ラオフェン、お前が自慢げでどうする。それに二次試験が対人戦だったらどうするんだ。おじいちゃんと孫みたいな関係で戦えるのか?」

 

そう、一次試験が終わったとはいえ俺たちは今、1級試験の真っただ中にいるのだ。

一次試験の戦い方を見ても、間違いなく受験生の中で2番目に強いのはデンケンに他ならない。俺はデンケンに勝つところをイメージできない。今はまだ…だがいつか必ず…。

 

「む…まあその時はその時に考えるよ」

 

ラオフェンらしいさっぱりした答えだ。

「…やれやれ。俺も影響されているようだな。さて、もういいだろう。出るぞ」

 

 

 

 

結局、お金は誰も払わなかった。俺の1級試験合格祈願ということで出世払いにしてくれたのだ。この店はレッカー爺さんが生きていたときからよくしてもらっている。

 

「なあ、もう俺はいい年したおっさんだぜ。それなりに経済力もあるし、そろそろ今までの分も払わせてくれよ」

「気にするなリヒター。来月には払ってもらうさ」

 

気軽に言ってくれる。

 

「さて、そろそろ帰るぞ」

 

そう帰ろうとした矢先にデンケンが声を掛けてきた。

「せっかくだから散歩に付き合わんか?行くところがあってな」

「おいおい、じいさんの深夜徘徊に付き合えってのか」

 

ため息をついているとデンケンが続けて言った。

「今ではあまり知られていない魔法を教えてやると言っておるのだ。宮廷魔法使い直伝じゃ。あまり人に見られるわけにもいくまい」

 

宮廷魔法使い直伝の魔法。それは確かに魅力的だ。これからの試験がどんなものかわからない今、もう少しくらい付き合ってもいいか。

「…本当に役に立つんだろうな」

「保証する」

「爺さん、あたしも行くよ」

 

ラオフェンがやり取りに入って来た。

「ラオフェンも宮廷魔法使いの魔法は知りたいか」

「いや、ただの散歩の付き合いだよ」

 

あっけらかんと言うラオフェン、もう夜なのに若さがまぶしい。

「やっぱり孫じゃねーか…待てよ、傍から見たら俺も孫か…?」

 

「リヒターは息子じゃない?年齢的に?」

「確かに俺はおっさんを自称しているが、他人から言われるのはいい気分ではないな…」

「ごめん」

 

 

 

 

どことなく釈然としない気持ちを抱えながら、俺たち3人は一次試験の行われた森まで再び来た。

「おいおい爺さん。わざわざここまで来るのか?あまり派手な魔法は魔力の消費が多いからごめんだぜ」

 

いっそのこと帰ってやろうか、そう思ったときデンケンが俺の言葉をさえぎって口を開いた。

「静かにしろ、誰かいるぞ…というよりこの魔力は」

 

 

 

 

ああ、嫌になる。この魔力は…勝てるイメージがまるでできない化け物その2だ。なんであんな実力者が今さら1級試験を受けるんだ…。

 

「ああ」

 

俺たちのすぐ先にフリーレンがいた。

魔王を倒した勇者様ご一行の魔法使い。

正真正銘の生きる伝説だ。

ラオフェンが警戒している。まあ、デンケンが足蹴にされていたと言うから当然か。

 

「フリーレンか、こんなところで何を…?」

 

デンケンがつい昨日自分を圧倒した相手に気軽に声を掛ける。

「デンケンと一緒だよ。勇者ヒンメルならそうすると思ってね」

「!!…」

 

嬉しそうな顔をするデンケンを見て、俺はラオフェンと目を合わせた。ラオフェンも何も知らされていないようだ。

「どういうことだデンケン?まるで話が見えてこないぞ」

「心配するな、リヒター、ラオフェン。すぐにわかるさ。それに魔法を教えるというのも嘘ではない」

 

 

 

 

俺とデンケン、ラオフェンそしてフリーレンの4人で森の奥までどんどん歩いて行った。

 

草木が焼けたにおいがする。

これはデンケンの魔法だ。

 

雨で濡れた草木のにおいだ。

いまいましい…。

 

道がえぐれているのは、フリーレンの弟子の魔法か。

一般攻撃魔法を打ちまくったな…。

 

「おいデンケン、フリーレン、どこまで行くんだ?」

「もうすぐだ」

「もうすぐだよ」

 

二人が声をそろえて言った。

それを見たラオフェンが妬いている。勘弁してくれ。御守りはもうこりごりだ。

 

 

 

 

そして血の臭いがするところまで歩いてきた。

「………」

 

「そういうことか、デンケン。老いぼれめ、はかったな」

「いや、魔法は本当さ」

「しかし間に合うのか?もう1日は経っているぞ」

「あれは夜目がきかないからな。明日の朝までなら間に合う」

「そうか」

ラオフェンも察したようで少し早歩きになっている。

 

 

 

 

そして俺たちは、「あの木」の下までやって来た。

遺体を弔うために。

 

 

 

 

しかし遺体はすでになかった。

「デンケン、やはりもう遅かったんじゃないのか?」

「いや、遺体が綺麗になくなっているだろう。これは人の手によるものだ。それに魔力の痕跡がある」

確かに魔力の痕跡が堂々と残っている。

これなら探知は楽にできる。

 

 

 

 

「そこにいるのは誰だ?」

 

少し離れたところから、俺たちに声を掛ける者がいた。

 

「あんたは…」

草陰から歩いてきたのは1級魔法使い、ゲナウだった。

後ろには多くの協会の人間がいた。

 

 

 

 

俺たちは切られた木に腰かけながら話をしていた。

「意外だな。あんたら魔法協会の人間はそんなこと気にする組織だとは思っていなかったが…」

そう、ゲナウたちは一次試験の犠牲者たちを弔っていた。

俺の言葉にゲナウが答えた。

 

「1級試験を受けるもの達は、たとえ不合格になろうともそれぞれの町で、村で一番に優秀な者ばかりだ。町の期待を一身に受けてはるばる来るものも少なくはない」

 

期待か…ばあちゃんの言葉を思い出すな。

 

「そんな彼らの勇気の結果を魔物に食わせるわけはないだろう。我々は魔法を使う人間だ。魔族ではない」

 

ゲナウの後ろで、遺体が棺に納められていく。

 

「少しいいか」

デンケンが棺に近づき、俺たちを呼んだ。

 

「リヒター、約束の魔法を教える。よく見ておくんだ」

 

そういうとデンケンは魔法を唱えた。

 

「見た目を整える魔法(アウスゼーンオードゥヌング)」

 

あたたかな光が遺体に降り注ぎ、傷がふさがり穏やかな顔になっていた

 

俺たちはみな祈った。

そうだ、彼らにも家族、友人、恋人がいたのだ。

 

「大丈夫。彼らは今、魂の眠る地(オレオール)にいるよ」

 

「…そうか、伝説のエルフが言うんなら、きっとそうなんだろうな」

 

 

 

 

「私はもう帰るよ。あんまり遅いとフェルンが不機嫌になるからね」

じゃあね

そう言うとフリーレンは飛んで行った。

 

「さて、わしらも帰るとするか」

「ありがとうデンケン」

「………」

 

 

 

 

そうして俺たちは町に戻って来た。

 

「爺さん、また明日な」

「やっぱり完全に孫じゃねーか…」

「気を付けて帰るんじゃ」

「完全におじいちゃんじゃねーか…」

 

「さて、儂の宿はこっちじゃな…」

 

 

 

 

ラオフェンと別れて少し歩くと、婆さんに見つかった。

「リヒター、あんたこんな夜遅くまで出歩いて。疲れてるんだろ、早く休みな」

「よしてくれよ婆さん。もういい年したおっさんだぜ」

 

普段ならここで終わる会話だったが、婆さんは話を続けた。

「リヒター、気負わなくていいからね。あんたがすごい魔法使いになろうがおっさんになろうが私たちにとっちゃあかわいい子供のままなんだから。怪我だけはしないでおくれよ」

 

「………」

 

「リヒター、お前もなかなか慕われているな」

「いや、ここのみんながお人好しなだけさ」

「じゃあな、爺さん。またな」

 

 

 

 

魔法はイメージの世界だ。

イメージできたものが全て実現できるわけではないが、イメージできないものは決して実現できない。

 

 

 

 

参ったな…デンケンどころか、ラオフェンを倒すイメージも出来なくなった。

 

 

 

 

二次試験へ続く

 




一次試験の遺体について、勇者ヒンメルならそうしただろうということを想像して書きました。
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