葬送のフリーレン:幕間   作:Paul.P

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1級試験を終えた受験者。すぐに前に進む者もいるが、その場にとどまる者もいる。
これは、氷の魔法を得意とする3級の少女と道具屋の店主の幕間の物語。


<序章>「岩穿つ氷、氷解かす岩」

魔法はイメージの世界だ。

色鮮やかに、手で触れられるほど鮮明に思い描くことが出来たなら、それは実現可能だってことだ。

 

そしてあたしは、目の前のおっさんをイメージの中で何度も倒しているはずなのに……

 

氷の矢を放つ魔法(ネフティーア)は当たっているはずなのに……

 

「だーっ!!なんで勝てないんだよ!!」

大の字になって倒れているのはあたしだった。

 

「お前のそれはイメージではなく妄想だからだ。今の魔法学校は魔法実現のためのイメージと妄想の区別も教えていないのか?それともお前はいまだに妄想から卒業できないガキだからか。いかにも身の程知らずな3級魔法使いといったところか」

相変わらず、おっさんが濁った眼であたしを見下してくる。

 

「っけ!いやだねぇ、年を取ると説教くさくなってさ」

 

「ふん、説教されるのが嫌ならそれなりの実力をつけることだな。雨の日なら俺に勝てるお前のお友達のほうが聞き分けも実力もあったぞ」

 

「……うるさい」

 

 

さて、うら若き乙女な美少女ラヴィーネ(あたし)と白髪を気にし始めた道具屋のおっさん(リヒター)が戦っているわけを説明しよう。

 

1級試験に落ちてしまったあたしはちょっとだけセンチメンタルになってしまったけど、すっかり立ち直って3年後の試験に備えてまずは今度行われる2級試験に合格しておこうという計画を立てた。

優秀な兄貴たちに稽古をつけてもらうように頼んだのはいいものの、座学以外の実践ではかわいい妹に手心を加えてしまってどーしても実践的な実力がつかない。

で、兄貴たちはこの魔法都市オイサーストの中で実力もあって性格も悪い、つまりは実践練習にちょうどいい相手として、おっさんを家庭教師に雇ったわけだ。

あたしは見事におっさんを倒して2級試験に合格して、そのまま3年後の1級試験で魔法史に名を連ねる立派な魔法使いになるって算段だった。

 

んだけど……

 

「はぁ……ラヴィーネちゃん1級魔法使い成功譚も序章はしんどい物語だぜ……」

 

「なら打ち切られないうちにさっさと次章に進むことだな」

 

結局あたしは一度もおっさんを倒すことが出来ていない。

 

その日はそれでお終いだった。日暮れ前に兄貴たちが迎えに来てくれた。

兄貴たちの前では礼儀正しいおっさんが、あたしの実力について話していた。

あたしと接するときの態度とまるで違う。いかにも裏表のあるいやぁーな登場人物だ。こんなやつは読者もあたしも嫌いだし、さっさと次に進めてしまおう。

 

家に帰っての夕食時、話は試験の話題になった。

 

「さて、ラヴィーネ、愛しの妹よ、リヒター先生はどうだい?うまくやっていけているかな?」

「最悪。あの人あたしと兄貴達の前だと全然態度違うんだよ。見ての通り、毎日生傷が絶えないよ。それにさ……」

 

あたしの愚痴を聞き終わったあと、兄貴たちは微笑みながら言った。

「ふーむ……愛しの妹が傷つくのは心苦しいが、なるほどやはり我々の見立て通りリヒターさんはいい先生だ」

 

あいつがいい先生?

とてもそうとは思えないけど、兄貴たちが言うならそうなのかもしれない……のかな?

 

その日はもやもやしたものを抱えて眠った。

 

次の実践もその次の実践もあたしはあいつにまるで敵わなかった。

指導試合形式でなら、息を切らさせるくらいに追い詰めることはできるのに、いざ実践形式になると全然相手にならない。

そうこう倒れているうちに、おっさんがまた説教を始めた。

 

「おい、いつまで俺に子守をさせる気だ?」

 

「……」

おっさんがうるさい。2級のくせに。

 

「いつまで箱庭にいるつもりだ?」

 

「……」

うるさい。

 

「イメージをしろと言っているんだ。都合のいい妄想を捨てろ。カンネを見習え」

 

「あーもうっ!いちいちうるさいんだよ!おっさんはあたしたちに雇われてるんだから黙って働きゃあいいんだよ!」

ついカッとなって叫んだ。

自分でも大人気ないのはわかっている。

ただおっさんにカンネと比べられたくはなかった。

 

無意識のうちに、杖を抜いていた。

 

ただ、

 

そのあとの記憶はない。

 

気が付いたときは家で手当てを受けていた。

 

体中が痛い。

これはいつものことだ。

 

青紫のあざが脚にも腕にも出来ている。

これもいつものことだ。

肩に出来ていない分まだましな方だ。

 

涙が出る。

これもいつものことだ。

痛くて、悔しくて、情けなくて一人になったらいつも涙が出る。

 

 

兄貴達から話を聞いた。

しばらくあいつは来ないそうだ。

これはいつものことじゃない。

これはいつものことじゃない。

 

外に出た。

 

止められたけど散歩したくて外に出た。

 

やっぱり体中が痛い。

 

いつもは頬を優しくなでるそよ風さえも、今日はあたしを傷つける。

 

 

 

「だから今だけは一人でいたかったんだけどな」

いつの間にか隣におっさんがいた。

 

「お前みたいなガキにはわからないだろうが、ガキ一人の家庭教師だけで生活できるほど金は貰っていないんでな。本業帰りの通り道にお前がいただけだ」

 

「だったらそのまま通り過ぎろよ……」

たぶんこれはあたしの強がりだ。なんとなくそう思う。

 

少し息を入れて、おっさんが喋った。

「今度編纂される魔法史には、零落の王墓の件が載るそうだ。攻略した全員の名前が載るらしい。つまり、お前のお友達やデンケンの名は載るが、俺やお前は数いる攻略失敗者の一人として注釈にも載らないそうだ」

 

その情報はぼんやりと聞いていた。はにかんだ顔のカンネが、何も知らないと誤魔化していたのを覚えている。

「……なんだよそれ、そこからあたしをどう慰めるんだ?」

 

「何を考えているのかしらんが、おれは払ってもらった金以上の働きはするつもりはないぞ」

やっぱりあたしはこいつが嫌いだ。

 

 

「お前はフリーレンを知っていたか?」

 

「どうだろうな。試験に必死だったからな。知っていたかもしれないし、知らなかったかもしれない」

知らなかったというより、わからなかったが正確かもしれない。

 

「きちんと知っていたのはデンケンだけだ。魔王を倒すという大偉業を成し遂げた勇者のパーティーですら、たった80年でみんな忘れる。俺のことも、お前のことも80年後に覚えてくれる人間なんていやしないのさ」

 

「それが今の状況にどうつながるんだ?」

年寄りの話は回りくどくて嫌いだ。

 

「ガキはせっかちだから嫌いだ。いいか、世の中は魔法史の中に記される人間だけで回っているんじゃない。俺やお前のように、町から一歩外に出たら、誰にも気にかけられないような、そんな人間が世界を作っているんだ。遠くばかり見ていると、目の前のものを失うぞ」

 

「ああ、友達少なそうだもんな、おっさん」

 

「死んだよ。いいやつはみんな」

 

「っ!………」

 

「冗談だ。全員生きている」

 

「~~!!今、冗談言う雰囲気じゃなかったろ、絶対!」

肩透かしをくらい、あたしはようやく顔をあげておっさんを見つめた

 

「そうだ。冗談を言う雰囲気ではなかったな。だがな、フリーレンという幸運がお前らになかったら、あの試験でお前ら2人は仲良く死んでいたぞ」

 

……確かそうだ。フリーレンがいなければあたしたちは死んでいた。それに……

「なぁおっさん、あたしはガキだから、ちゃんと言ってくれないとわからないんだ。あたしに1級を諦めろって言いたいのか?」

そうだとしても、今なら受け入れられるかもしれない。

 

「ラヴィーネ、お前は本当に生意気なガキだ。反抗的で大人に対する素直さのかけらもない。人の言葉も聞かないで、自身の力を過信して死ぬようなくだらんガキだ」

おっさんの眉がハの字になった。

 

「そうだよ、あたしがカンネを試験に誘ったせいで、命の危険にさらした。脇役として一生を終えろと言うならそう言えよ」

 

「あの時の言葉を聞いていなかったのか?『3年後もある』と言ったんだ。俺はお前が嫌いだが、努力と才能は認めている。3年後、お前はもっと強くなっている」

 

そう、言い切ったおっさんの顔は、おっさんの顔じゃなかった。

 

あたしは子供でこいつは大人。

 

家庭教師につけてもらいながら、しっかり見てすらいなかった顔をようやく見た。

 

仕事終わりでくたびれた顔、目の下が少し黒い、肌もかさかさで若さなんてとっくにどこかに行っている。

 

だけど、これがこの人なんだな。

 

道具屋の仕事終わりに鍛えて、あたしの家庭教師もして……

 

そんなことを考えていたら、たぶん、試験が終わってから久しぶりに、あたしは笑った。

 

「マシな顔をするようになったな。今のお前なら、2級試験くらいなら、受ける資格はあるだろうな」

 

それ以上の言葉をくれることもなく、この人は帰っていった。

 

後日、あたしは2級試験の申し込みを済ませた。

 

空は晴天。

 

隣にカンネはいない。

 

もしかしたら試験場で会うかもしれないけど。

 

 

魔法はイメージの世界だ。

色鮮やかに、手で触れられるほど鮮明に思い描くことが出来たなら、それは魔法でなくても実現可能だってことだ。

 

あたしの魔法譚の挿絵に地に伏したあいつのことは大きく描けるし、

 

まぁ……その、隅の方に小さくだけれど、ほんとに小さくだけど、おっさんとの特訓のことも、少しだけなら描いてやってもいい。

 

序章の題名は「3級の少女と2級のおっさん(仮題)」だな。

 

 

後日談その2

 

「リヒター、ツンデレ過ぎ」

「ラオフェン!見ていたなら見ていたとさっさと言え!」

 

 




あとがき
主人公だけが生きているのではない。物語には主人公がいて、それを中心に展開されるけれど、脇役たちにも悩みがあり課題があり光がある。
誰もかれもが不死なるベーゼを相手にするわけではなく、名もなき魔族を相手にしている人もいる。
村人Aとしてしか認識されない人がほとんどだ。
今回は悩みの多い時期の少女が地に足をつけて進み始める物語をイメージしました。
本文最後の序章には(仮題)とついていますが、題名の序章には(仮題)がついていません。はたして成長した彼女が書いたのか、書かれる人になったのか、あるいはまた別の何かか?それは一読者たる自分には妄想することしかできません。

長いあとがきは活動報告にて。
おやすみなさい。今日も明日もいい夢を。
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