なのはにそっくりなマテリアルSがスクライア族の落ちこぼれに出会った話。   作:あおい安室

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二つ目の記録

 マテリアルS。わたしよりも明らかに年下の少女である彼女の身分には不審な点が多かった。元々わたしが外界に疎い生き方をしてきた、というのもあるかもしれないが話しているうちにどこか胸の奥が痒くなる気がする。わたしが失った若さがあるから……か?

 

 本人にそれを言うと「まだまだあなたも若いですよ」と言いそうだが。

 

 ……そういえばわたしは今何歳なんだろうか。20は超えているとは思うのだが誕生日を祝うこともすっかり忘れてしまったから正確な年齢は不明である。パスポートに記した記憶もなかった。

 これはあまりにもズボラすぎるし言わないでおくか。言えばまた小言が飛んできそうだ。

 

 やれやれ、生まれ変わったとしてもきっと変に真面目なんだろうな、あの子は。

 

 あの子との会話を思い返しながら瞳を閉じる。さて、今夜の話はどこから始めたものか。

 

 


 

 

 デバイスが鳴らす無機質なアラーム音で目が覚めた。最近のわたしにとっては日課ともいえるそれに重い目蓋を開きながら反応し、アラームを切る。操縦席で寝たせいか体からパキパキと嫌な音がする。少しばかり痛むが魔力を使い切って寝たせいか体力は程よく回復しているのは救いか。

 

「マテリアルSの様子はどうだ?」

 

『マスターの魔法と救急キットによる治療で体力は大分回復しており、命に別状はない模様です』

 

「わかった。少し様子を見に行くとしよう」

 

 安物かつ小型の探査艇だが個人用の部屋と倉庫、キッチンといった生活に必要な設備は最低限だが揃っている。問題は大人数の使用を想定していないためほぼ一人用という点だが。

 マテリアルSが眠っているわたしの部屋の前に立つと、ドアをノックした。

 

「起きているか、マテリアルS?開けてもいいか?」

 

『あ……大丈夫、です。問題ありません』

 

 応答が聞こえたため部屋に入った。ノックせずに入って着替えを覗くとかそういう古典的な真似はするつもりはない。部屋に入ると、老朽化した電灯に照らされてベッドに腰掛けるマテリアルSの姿が目に入り──即座に目をそらした。

 

「……マ、マテリアルS?」

 

「なんでしょうか?」

 

「服は、どうした?」

 

「申し訳ありません。元々着ていなかったもので、バリアジャケットしかありませんでした。ですが、ルシフェリオンが不調でして上手くバリアジャケットを維持できず、仕方なくインナーだけでも、と」

 

 いや、それは下着というのでは?赤い上下の下着に黄色いラインがアクセントに入っているのが見えたあたりで目をそらしたが、この子の羞恥心はどうなっているのか。ひとまずシーツを羽織るように指示した。

 

「?はぁ、かまいませんが……それで、いくつかお聞きしたいことがあります。私がどうしてこんなところにいるのか全く理解できません。直前の記憶から判断するに、あなたが何かしたのではないかと考えているのですが、説明していただけますか?」

 

「わかった。そうだな、まずは──」

 

 名前でも。そう言おうとしたタイミングで電灯が消えた。

 

「……何事です?」

 

「電球が切れたか……はあ、少し待ってくれ」

 

 デバイスを操作して簡易的なライトを出す。そして部屋の棚から使い古したランタンを取り出し、ロウソクをセットした。ライターで火をつけようとしていると、傍で息づかいを感じた。

 

「失礼します」

 

 マテリアルSが隣にいた。彼女が人差し指を振ると指先に炎が灯っていた。どうやら魔力を炎に変えることができる変換資質持ちらしい。ロウソクに火をつけて部屋が暖かい光で満ちると、彼女は再びベッドに腰掛けた。

 

「それでは、質問を始めますので正確に答えるように」

 

 そう言った彼女はどこか得意げだった。

 

「質問1、あなたの名前は?職業があるのであればどうぞ」

 

「スクライア。遺跡探索、発掘を生業とするスクライア族の人間で、一応わたしもフリーランスの遺跡探索家だ」

 

「では、質問2。苗字はわかりました。名前は?」

 

「──―」

 

「ふむ。平凡な名前ですね」

 

 やかましい。ずいっ、と指を突き付けられた。その先には炎が灯っている。心の中で文句を言っても気づくのか。そして怒るのか。二、三度振って火を消すと話を続けた。

 

「質問3、ここはどこですか?なぜ私はここにいるのかの理由もご存じであればどうぞ」

 

「ここはわたしが所有している探査艇の一室で、今はとある辺境の惑星を調査している。昨晩君が空から降ってきたから治療して寝かせていた」

 

「……最後の記憶と一致しますね。質問4、世界名をお答えください。第97管理外世界であることが望ましいのですが」

 

「97?残念ながらここは管理外世界だが番号が大きく異なる。ここの世界名は第2764管理外世界だが、世界に対する正式名称は今のところない」

 

「名称がない?どういう意味ですかそれは」

 

「……文明がすでに滅んでるんだ、この世界は。今は次元犯罪者が隠れ家にする可能性を恐れて管理局員が何人か駐在しているが、それだけの世界だよ」

 

 首を傾げると、小さく笑った。

 

「なにをおっしゃっているのやら。そんな馬鹿げたことを本気で言っているのですか?」

 

「事実だよ。泣きたくなるがな」

 

 うんざりしながら、吐き捨てるように呟く。本当なら今頃は寝床にしている安いアパートで今回の調査報酬を元手に上手い酒を一本くらいちびちびと飲んでいるつもりだったのだから。

 

「……さきほど、フリーランスの遺跡探索家、と言っていましたね。となればあなたはこの世界を探索目的で訪れたものと推測します。何がこの世界に起きたのか聞かせてもらえますか?」

 

「別に構わない。だが……信じるのか?」

 

「文明が滅びている、といった子供らしい話をですか?ええ。信じはしますとも。作り話だったとしても暇潰し程度にはなります」

 

「ひどい少女だ……」

 

「失礼ですね。女、と言ってください」

 

 変なところでこだわりを見せるんだな、キミは。

 

「女、と言ってください」

 

 わかったわかった。だから指を近づけないでくれ。心なしか熱いぞ。魔力込めてるな?

 

 


 

 

 数日前の話だ。

 

 管理局がとある世界に向けて定期的に派遣していた船団が転移魔法の座標をミスした。大事故にも繋がりかねないミスだったが、幸い何もない別の世界に出たことで次元漂流船になることは避けられた。が、無事だったのはその船団のみで、それ以外には被害が出た。

 

「港に停泊していた船団は空間ごとえぐり取られ、民間の関係ない船も何隻か巻き込まれ、その中にわたしの船もあった。あの時私は船の中で休憩していたんだが……」

 

「転移魔法に巻き込まれて、気が付けばこんな世界にいた、と」

 

 その通りだ。被害にあったのはおよそ300人ほどで、負傷者はいたが幸い命を落とした奴はいなかった。寂れて誰もが忘れ去った管理外世界の一つに放り出された、というだけなのだから。

 

 この管理外世界は10年くらい前に発見された世界だ。

 

 発見当時は現地の人々と交流を図り新たな管理世界として登録されるのか、そうでなかったとしても新しい文化が発見されるのではないか。わたしも当時の新聞を読んだことがあるが、当時の人々もそれなりに盛り上がっていたのを覚えている。が、人々の期待は裏切られた。

 

 

 発見時点でその世界は滅んでいることが発覚したのだ。

 

 

 管理局が調査した範囲で発見された生物が住む惑星は一つのみ。それだけなら別に珍しいことではないが、他の惑星がみられなかったのだ。唯一の惑星からは文明の後らしき代物はいくらか発見されたが、正直言って新しい見どころがあるほどではない。既にこの世界は行き詰まっている。これ以上進化や発展は見込めない滅び行く世界である、と結論付けた。

 

「……なるほど」

 

 だからといって価値が全くない、ということもない。

 既に滅びつつあるのなら、なぜ滅びつつあるのかという理由があるはずだ。その理由を今後の教訓にすることができるし、そこにロストロギアが関与しているのであれば回収する必要がある。

 故に管理局は年に一度定期的な調査を行っている。

 

「……そして、去年の調査の結果わかったのは、この世界は惑星規模での戦争があった、ということだ。その過程で他の惑星が破壊されたことが判明している」

 

「戦争、ですか。歯止めの聞かなくなった暴力が全ての生き物を殺しても止まることなく、星すらも砕いた、というところでしょう」

 

「大体その通りだ。発見された記録によるとこの世界における人類が全て消えた後にも、人類が作り出した兵器が行動を続行。その果てにこの世界は滅亡した、と推測される」

 

「それはそれは。そこまで強力な力だと一度みてみたくもありますね」

 

 クスクス、と笑う彼女に少し引いた。可愛らしい見た目に反して中身はなかなかにバイオレンスだ。

 

「これらの調査結果から管理局はこの世界を管理世界にすることを中止、めぼしい兵器をぶっ壊した後全員帰還することになった、が」

 

「が?」

 

「……最後の最後で一杯食わされたそうだ。巨大な大砲みたいなやつを破壊した時にどうも次元が乱れたらしく、月に一度次元が落ち着いたときしか転移できなくなったんだ」

 

 巨大な大砲が爆散した時は、突然空間ががゆがんで地表に残っていたわずかな建物、森、海水──あらゆる物を吸い込み始めていくという奇妙な光景だったそうな。恐らく破壊した敵諸とも自爆するような仕掛けだったのだろうが、次元まで壊さないでいただきたい。

 

「なるほど。そんな世界に事故で来てしまった、と。それであなたはここで何をしているのですか?」

 

「転移事故の被害にあった人は管理局の基地付近に集まって一時的な集落みたいなものを形成してるが、やることがなくてな。暇潰しに自前の小型挺に乗って本業を、遺跡調査をやってるんだ」

 

「ふむ……まあ、筋は通りますが。それにしてもこの船はオンボロですね。眠るときも心なしかすきま風が冷たかったものです」

 

「ひどい言われようだな。オンボロオンボロと……否定はできないんだが」

 

 探査艇を止める。目的地についたことを確認すると、エンジンを調整して出力を上げる。操縦席から見える建造物にマテリアルSは少し驚いているようだった。

 なお、流石にマテリアルSは服を着ている。倉庫においてあったがらくたに紛れて子供サイズの服があったのでそれを渡した。色は好みじゃないらしいが我慢してくれ。

 

「これは……長い柱ですね。タワーですか?」

 

「そんなところらしい。外壁をこいつでのぼっていく、ベルト絞めとけよ」

 

 サブの操縦席に座らせた彼女がベルトを絞め直すのを確認し、高度を上げる。そのままタワーの外壁を垂直に上っていく。

 

「お、お、おおおっ……なかなかパワーがあるのですね」

 

「探査艇、だからな。スピードはともかくそれ以外の航行能力はまずまずあるのが自慢だよ」

 

「……人工重力機能は?今、背中から押し付けられてるんですが」

 

「あるけど倉庫とキミが寝てた部屋でしか使えない」

 

 やっぱりポンコツじゃないですか、この船。その言葉は否定できない。というか、正確に言うと直す金がないのだが。

 

 ある程度走らせてちょうどいいところまで来たのを確認すると、船を外壁に貼り付けた。

 

「……よし、ここでいいか。船外に出るぞ」

 

「出て大丈夫なんですか?」

 

「何度も確認してる。それにこの辺は無重力と特殊だからこの惑星の数少ない観光スポットだよ」

 

 ベルトをはずす。少し椅子を押すとその反動でぷかぷかと浮き始めた。調査の結果、このタワーの上部には重力中和装置、とでもいうべき代物が備わっており宇宙空間に出ることなく低重力、あるいは無重力空間を形成している部分があることがわかっているのだ。

 なんのためにそんな機構を組み込んだのかは……管理局が調査禁止を命じている。恐らくロストロギアが絡んでいると見た。やれやれ、触らぬ神に祟りなし。興味はあるが放置しておこう。

 

「約束通りここがどういう世界なのか説明するにはここがちょうどいいと思ってね。さ、行くぞ」

 

「ええ。こちら、ですね?」

 

 同じようにベルトをはずして浮遊するマテリアルSが天井にあるハッチにとりつく。そうだ、と返すと彼女がハッチを解放した。私たちは船外に出ると何ヵ所かに設けられた窪みや取っ手で体を固定しつつ夜空を見上げた。

 

「……なるほど。これはなかなかに絶景ですね」

 

 小さく笑みを浮かべながらマテリアルSは空を見上げる。

 

 見渡せば広がる少ないながらも光が浮かぶ空の景色に彼女は少しだけ満足している様子だ。

 

「……おお。良く見ればどの星も動いているような……不思議な星空ですね」

 

「景色だけは、悪くないんだがな……あれ、全部ここの住民が残した遺産、防衛兵器だから動いてるんだ。惑星から出ようとすると集中攻撃でボカン。この小型挺じゃどうしようにもない」

 

「その割には数がまばらですね。この空を埋め尽くすほどの光があってもいいと思うのですが」

 

「ほとんど管理局が破壊したが、生き残りがこの空に浮かぶ星もどきになってるんだ。それとさっきから薄々思ってたんだがどうしてキミはそんなに物騒なんだ」

 

「ふむ。わたしがそういう存在だから、ですね。意味を求めることはナンセンスです」

 

 どういう存在なんだ、それは。呆れるしかない。

 

「……とまあ、この世界は色々と訳ありな感じだ。次元の壁は不安定、物理的にも出られないということで探索できるのはこの惑星だけと寂しい世界だよ。わたしにはこれくらいの知識しかないし、キミがどうしてこんな世界にいるのかは知らない。これでいいか?」

 

「……ええ、これくらいで十分です。多少の無礼を働いてしまいましたが、ご教授いただきありがとうございます、スクライア」

 

「礼を言うなら部屋の片付け手伝ってくれないか。どうせ部屋の中ぐっちゃぐちゃだ」

 

「こんなところにまで連れてきたあなたの自業自得でしょうに」

 

「奇麗な景色が見られる場所がある、と言ったら行きたいといったのはどこの誰だったかな」

 

「さて、どこの誰でしょうね」

 

 面白そうに笑う彼女は可愛らしかったが……まあ、文句はこれ以上言わないでおこう。気持ちを貼らそうと空いている片手をポケットにつっこみ、タバコを咥えた。あれ、そういえばライターはどこにやったか。

 

「動かないでください」

 

 ポケットをゴソゴソと漁っているとマテリアルSが反応した。思わず振り向く。

 振り向きながらタバコの先と頬をオレンジ色の魔力弾が掠めていった。頬が熱を感じた頃にはタバコに火がついていた。なお、頬が熱くなったのは照れではない、と念のため言っておく。

 

「な、なにするんだ!?一歩間違えば火傷したぞ!?」

 

「動いたあなたが悪いのですよ。火を提供しただけではないですか」

 

 キミは理不尽な女だな。タバコの煙とともにため息を吐き出した。高給取りでなくその日暮らしな自分でも買えるくらいの安物のタバコの味を噛み締める。いつもよりも美味しい気がした。喫煙量をしばらく減らしていたから久しぶりのタバコに体が喜んでいるのか?

 

 ……いや、ちがうな。着火方法の違いだろう。

 

 マテリアルSの顔を見つめる。彼女が用いる魔法とは逆に冷たさを感じる無表情のまま首を傾げられた。

 

「なんですか、タバコを焼きすぎとでも?」

 

「いや、魔力由来の着火方法だからライターの油臭さがない分いつもの一本よりもずっと美味しくてふと、ね」

 

「でしょうね。世界で一番美しいライターの火ですから、味も格別に決まっています」

 

「自分で一番美しいとか言うか?」

 

「この世界はまともに人がいないと聞きました。ならばこの世界にいる人で一番美しいのは恐らく私でしょう」

 

 キミは自信家だな。きっと、この世界で一番の。どこか得意げな彼女を見て笑った。タバコの煙を吸ってむせた。逆に笑われたのが屈辱である。少女の様でありながら、大人びた女のような──いや、それを模しているというべきか。マテリアルSはとにかく奇妙な少女だった。 

 

「それで、お礼の一言はないのでしょうか?」

 

 ……追記、少しだけ生意気だと思う。

 

 

 

 マテリアルS。怪しいところはあったが、そういう奴には仕事柄何度も会ってきた。彼女もそんな連中の一人だろう、と思っていたし実際そうだった。ただ。他の連中よりはほんの少しだけ、心を許していたのだろう、と今になって思う。

 

 わたしは彼女にスクライアと呼ばれることを好んでいた。スクライアと呼ばれる間はかつて落ちこぼれと呼ばれた私にも何かがある時がしたから。

 無機質な名前の割にどこか自由に生きていた彼女がうらやましかったのだろう。そんな彼女に、スクライアと呼ばれるのはわたしがスクライアであることを認めてもらえた気がしていたのだろう。

 

 ……それを彼女に謝罪するには、時間が経ちすぎていたのかもしれない。




没版では部屋に入ったスクライアの背後でルシフェリン構えて脅しつつ
杖でぶん殴って気絶させて身ぐるみはがすシュテルさんがいました。

流石に色々とあれかつボーイミーツガールしてくれそうにないので没。
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