なのはにそっくりなマテリアルSがスクライア族の落ちこぼれに出会った話。   作:あおい安室

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三つ目の記録:S

 私はマテリアルS。理のマテリアル、星光の殲滅者とも呼ばれていた闇の書に仕込まれた防衛プログラムの一つ『だった』。

 

 だったが、私は少し前に自らと同じ姿を持つ少女――ベースになったというべきか――タカマチナノハと戦って敗れた。いずれ彼女と再戦することを誓ったことも覚えている。だからこそ、敗北して消滅したはずの私はここにいることがあり得ない。

 

 時間を置けば人ならざるプログラム体である私は復活するだろうが、それにしては早すぎる気がする。何かのエラーでこんな奇妙な世界に復活してしまったのだろうか?

 できることならばもう一度タカマチナノハに会って再戦を挑みたいが、デバイスが落下の衝撃で破損しているため私の戦闘能力は完全とはいいがたい状況だ。

 

 ……しばらくは、流れに身を任せることにしよう。

 

 ちょうど面白そうな男もそばにいることだから。スクライア。そう名乗った彼は年齢で言えば30歳手前くらいに見えるほどに老け込んでいる姿はどこか燃え尽きているが、タカマチナノハに関する記憶の中にあった相棒とでもいうべき存在、ユーノ・スクライアを思わせる青年だった。

 

 

 ……ユーノとやらのことは知らないが、親戚にあたるだろうから当然、と?うるさい男ですね。

 

 


 

 

 食料品のストックはそれなりにあるんだ。ただ、質は良くないが。

 

 そう前置きしつつもスクライアが振るまった食事は悪くはない。レトルトや保存食といった調理をあまり必要としない物ばかりだったが、混ぜ合わせたり調味料を振りかけたりとスクライアが一工夫加えるだけでまあまあ楽しめた。

 

「なかなか美味しいですね。実は料理人だったので?」

 

「安給の貧乏遺跡探索家だからなぁ。普段は行きつけのレストランでバイトしたりしてるよ」

 

「バイトでしたか。道理で味が安いと」

 

「食材が安いだけだからな?腕前はそれなりにあるからな?」

 

 からかうとそれなりに面白い反応を見せるところは少し気に入っている。

 

「……特別にデザート用意してたんだが、やめるか」

 

「ごめんなさい。少し調子に乗りました」

 

「キミからしてみれば不審者であることはわかっているが、もうちょっと優しくしてくれてもいいだろうに……ほら、アイスクリームだ。味はあんまり良くないが勘弁してくれよ」

 

 小さな保冷カップにみっちり詰まった白いアイスを受け取る。ほんのり冷たいが、溶けていないのは保存食のアイスだからか。味は悪くない、と思う。やけに甘ったるいがこれはこれでアリ。アイスの味に免じて食事中に私を見て笑ったことは不問にしましょう。どこを見ているのやら。

 

 

 

 食事を終えた頃、ちょうどこの星の太陽が顔をのぞかせていた。青白い光で世界を照らすあの太陽は不思議なものだ、と考えるのは私のベースになったタカマチナノハの思考由来だろうか。

 

「それで、マテリアルS。一つ質問したいことがある」

 

「なんでしょうか?」

 

「……キミはこれから、どうするんだ?突然空から降ってきたのは驚いたが、わたしみたいに事故に遭ってこの世界にやってきた次元漂流者なんじゃないか、とは思っているんだが」

 

「……ふむ」

 

 どう答えるべきか。

 素直に答えるのなら非常に危険なロストロギア闇の書に由来するプログラム生命体であり、この世界に出現した原因は不明である、と回答するのだがそれを言ってしまえば頭がイカれた女として扱われるか、怯えられてしまうということは子供でも分かるだろう。

 と、なれば……冗談交えてそれらしい設定を語るのが手っ取り早いか。

 

「ええ、そんなところだとみています、が。実は私はモグリの魔導士でして」

 

「モグリ?」

 

「はい。管理局には未登録、管理外世界でひっそりと暮らしているモグリの魔導士です。偶然ロストロギアを見つけたので封印して管理局へこっそりと届けようとしたのですが、それがどうも暴走したようで……気が付けばこんな世界にいたのですよ」

 

「あー、そういう魔導士か。割といるんだよな、管理局がめんどくさいからって関わろうとしない魔導士。そういう人に限って有力者だったりするんだが……依頼料、ぼったくられるのがなぁ」

 

 うまくいったようだ。そしてぼったくられていたのか。貧乏な原因はそれか?

 

「とまあ、そういうわけですので帰りたいのは山々ですが管理局に見つかると厄介です。なのでこの世界にいるという管理局には報告しないでいただけると助かります。そして元の世界まで連れ帰ってほしいな、と。おこがましい依頼であることは承知ですが、お願いできますか?」

 

「それ自体は構わないんだが……依頼料くらいは払えよ」

 

 スクライアの問いにはジト目で睨みつけることで返事をした。流石に戸惑った様子を見せた。

 

「な、何か間違ったことを言ったか?」

 

「あなたのその発言は間違ってはいませんとも。何かを求めるのであれば代価が必要なのは当然です、が。それを私に求めるのは些かどうかと思います」

 

「……なんで?」

 

「私はデバイス一つでこの世界に放り出されました。私服すらありませんからあなたに服をもらわなければただの裸の女の子と壊れかけのデバイスのみです。そんな私に支払いを求めるとなれば、私は体で支払うしかありませんよ?こんな私に欲情するとは、いい趣味をしていますね」

 

 一瞬で顔が赤くなった。くつくつ、と笑ってやれば手で顔を覆ってうめき声を上げ始めた。いい反応を見せる男だ、個人的には嫌いではない。

 

「悪い、忘れてくれ。体で支払いは求めてない」

 

「おや、よろしいので?」

 

「からかうのはやめてくれ。よくよく考えればキミの出身世界も聞いてないし、手を出せば性病のリスクがある。出身世界固有の性病を発症すれば治療方法がまずないからリスクも高い」

 

「……えっ。性病のリスクがなければ手を出すので?」

 

「うーん……10年後なら考える。今は色んな部分が足りてないしなぁ」

 

 ケラケラ笑いながら仕返ししてきた彼を殴った私は悪くないと思います。

 

 

 


 

 

 

 体の支払いはしないとはいえ、何もしないのは流石に私のプライドが許さない。

 

 できる限りの協力を申し出た私にスクライアは一つ提案をしてきた。申し訳なさそうに頼んできたがその程度は今の私でも造作もないことだ。彼が作成したこの星に関する資料を読み漁っていると、探査艇が目的地へたどり着いたことを知らせるチャイムを鳴らした。

 

「時間ですよ、スクライア。ルシフェリオンはどうですか」

 

「……期待はしないでくれよ?わたしはデバイス修理に関しては専門家じゃないからルシフェリオンのAIに従ってやるしかなかった。どこまで直ったかはわからないぞ」

 

「砲撃魔法を一回使用して自壊しないのであれば十分です。後は私の技術でどうとでもして見せましょう」

 

「すごい自信家だな」

 

 苦笑しながら紫色の宝石を受け取る。タカマチナノハのデバイス、レイジングハートを模しながらも細部は私に合わせてチューニングされている私のデバイス、ルシフェリオン。

 この星へ落下した時の衝撃で大破してしまったが、様々な世界でかき集めたというデバイスパーツのガラクタを用いて応急修理を行った。起動してバリアジャケットを身に纏うと搭載されたAIが現在の状況について述べていく。その大半は性能低下に関するもので、良く言っても通常時の7割程度しかなかった。が。それは私にとっては予想以上の状況であり。

 

「――感謝しますよ、スクライア。なかなかいい仕事をしてくれました」

 

「そう言ってくれるのはありがたいんだがな。本当にやれるのか、あれ」

 

 探査艇を降りて双眼鏡で目標を視認する。大きな砲台といくらかの機銃が見えるそれは不時着した戦艦に見えた。曰く、衛星軌道上を周回していた防衛兵器の一つが墜落したものらしい。

 

 スクライアの提案はそれの調査協力。内部の動力炉がまだ生きているらしく、防衛兵器も未だ健在と下手に近づけば探査艇ごとぶっ壊されるのがオチ、とのこと。オンボロ船ですから当然ですね。事実を言っただけなのでそんなにヘコまないでください、スクライア。

 

「あのような要塞とやりあった記憶はありませんが、私はどちらかと言えば砲撃魔導士です。相性から見て攻略するのは苦手ではないはずです」

 

「砲撃魔導士、か。派手な魔導士はうらやましいよ」

 

「おや、嫉妬ですか?」

 

「……まあ、な。わたしの魔力量は一般人以下だから砲撃魔法なんて使えば魔力切れで倒れる」

 

「それはそれは。お気に毒に、というべきでしょうか。その癖して墜落した私に回復魔法を使うとは中々に無謀な男です。嫌いではないですよ」

 

「無謀で悪かったな。大体今からキミがやることもそうじゃないのか?ここ以外にあった衛星を管理局が潰す時は複数人でやっていたんだが、キミ一人でやるんだぞ?無理なら正直に言ってくれ」

 

「無理ではありません。不可能とも言いません。それでは……そろそろ、行ってきます」

 

 星光の殲滅者の戦いをご覧あれ。魔力は体にみなぎっている。やってみせるとしよう。

 

 オレンジ色の魔力光を抜け落ちる鳥の羽のようにまき散らしながらマテリアルSは飛んでいく。青い光に照らされたその姿は流星のようにきれいで。

 

「あいつもやっぱり、天才の類なんだろうな」

 

 スクライアはそれだけをぼやくとライターでタバコに火をつけた。油臭いタバコの味が心地よかった。混じり気のない彼女と違い、落ちこぼれの自分にはこの不味い味がよかった。

 

 

 

「――以上の項目を満たした時、警告音を鳴らすように」

 

 上空を飛行しながらスクライアの資料から読み取ったあの人工衛星の戦闘能力をルシフェリオンに学習させる。彼のまとめた資料には各種砲台の射程、人工衛星の思考ルーチン、砲台の耐久度、そしてそれらの死角はどこにあるのかが記されていた。

 どうも私が来る前から自分一人、というよりは探査艇一隻でどうにか攻略できないかと試行錯誤していたらしい。無茶をする男だ。だが、そのおかげでこの戦いも。

 

「有利に進められそうです。後で礼の一つくらいは言っていいかもしれませんね」

 

 くすり、と笑みがこぼれた。さぁ、仕事の時間だ――STAND BY READY?

 

「行きます」

 

 ルシフェリオンの電子音声に応えると共に加速して砲台の射程へ入る。

 

・最初の砲撃は限界射程のおよそ8割に入ったタイミング。

 

 それ自体は私もわかっているが、念のためにルシフェリオンにも先ほど学習させていた。警告音を鳴らすと共に砲台が光線を放つ。体をねじって回転するように交わしながら魔力を込める。

 

「まずは、小手調べです。ファイアー!」

 

 砲台に搭載された照準機構はお世辞にも精度がいいと言えるものではない。他に強大な魔力があればそれ以下の魔力を持つ存在をとらえにくいとのこと。それは自らが放った砲撃も該当するというお粗末な設計らしい。相手の砲撃を背にこちらの砲撃を放つ、が。

 

「――ちっ。やはり届きませんね。タカマチナノハに比べると私は砲撃適性が低いのが痛い」

 

 タカマチナノハをモデルにした私の能力は当然彼女に似通っている部分が多い。しかし、タカマチナノハにはない炎への魔力変換資質が原因か射程が全体的に一段下なのだ。

 

「デバイスの不調であることも原因の一つでしょうが、ただの言い訳ですね」

 

 砲撃が消えた地点からこちらの有効射程を計算。射程距離まで接近することにした。

 もちろん、そう簡単は行くのなら苦労はしない。一射目は牽制砲撃であり、それで引いていくのなら追いかけはしない。だが、とどまるようなら容赦はしないようにプログラムされているというのがスクライアの分析だった。遠めに見ても起動している砲台の数が増えている。

 

 ――が、それがどうした?

 

 自分が笑みを浮かべていることがわかる。さぁ――行こうか!砲台への接近を再開する。有効射程に入った砲台が動きだし、空をうるさく飛ぶ虫を落とそうと各々の武器を放つ。

 

「……やはり未熟ですね。連携は取れていない!」

 

 スクライアの記録を見た時に何か引っかかりを覚えていたことがある。それぞれの砲台の射撃データを組み合わせて考えた時に何かバラついているようなものがある気がした。

 それを今、この空で実感した。あの砲台は全てバラバラに思考している。味方と連携して相手を倒そうという考えはなく、自分の手で倒せばいいと考えている。故に相手が貼る弾幕には私が逃げ込むだけの隙間が常に空いているのだ。高機動型ではない私でも十分かわせるレベル。

 

 未熟ですね。回避機動を続けながら誘導弾の展開を進める。

 

 3、2、1――今っ!!

 

 弾幕の隙間を縫ってさらに距離を詰めていく。誘導性能故に射程が短いそれを当てるために、少しでも距離をつめろ、マテリアルS!!

 

「ここっ!パイロシューターッ!!」

 

 誘導弾を放つと前転するかのように無理やり回転して回避運動に入る。

 

 放たれた誘導弾はいくつかは敵の砲撃で撃ち落とされたが、どうやら誘導弾を打ち落とすルーチンも組まれていなかったらしくそれなりの数の誘導弾が着弾した。ここまで来ると未熟を通り越して未完成ではないのか?耐久性にも難があったようで、誘導弾一発であっさり沈黙した砲台の姿は滑稽だった。

 

 苦笑しつつも広がった弾幕の隙を再計算し――笑い声をあげた。

 

「ふふふっ……!やはり、未完成ですね!」

 

 少女一人が入り込むだけの隙があっさりと生まれた。そこに入り込めば後は私の舞台の幕開け。

 

 やめてくれ、とでも言わんばかりに当たらない砲撃を飛ばすが一発たりとも当たらない。そばをかすめることはあっても驚くものか。当たらないことがわかっていれば警戒する必要はない。

 

「――全て、燃やし尽くして御覧に入れましょう」

 

 ルシフェリオンが魔力を帯びる。砲撃魔法はここの距離なら十分当たるだろう、連射性能が高い魔法を選択し狙いを定めていく。

 

「ディザスター・ヒートッ!」

 

 3連射の砲撃魔法が砲台を薙ぎ払い、沈黙させていく。完璧な状態とは言えないルシフェリオンが悲鳴を上げるが、冷却時間をおけば再使用もできる。予想以上に修復できたのはありがたい。

 

「――聞こえますか、スクライア?」

 

『っ!ああ、聞こえるとも。どうした、マテリアルS?』

 

 スクライアに念話をつなぐ。突然の連絡に驚いていたようだが、すぐに平静を取り戻して応答が返ってきた。

 

「当初の予定を変更しましょう。大型の砲台を破壊してそこから動力炉ごと破壊する予定でしたが予想以上に相手の抵抗が弱すぎる。これなら動力炉の破壊抜きで十分やれるかと」

 

『得られる物は多いに越したことはないが……やれるのか?』

 

「やってみせますとも。指示をください、スクライア」

 

『……わかった。やってくれ、マテリアルS。今晩の食事は豪勢にしてもいいかもしれないな』

 

「ほう。期待するとしましょう」

 

 さぁ、後もう一仕事。子供から玩具を取り上げるかのように、砲台を一つ一つ潰していった。

 

 

 

 

 私はマテリアルS。理のマテリアル、星光の殲滅者とも呼ばれていた闇の書に仕込まれた防衛プログラムの一つだったが、少しだけ心が変わった気がした。

 私一人がこの奇妙な世界にいるためか、私を縛っていた何かから解き放たれた実感がある。相手をただ破壊するだけの存在であった私の本質は変わってはいないが、誰かを傍において戦うというのも悪くはなかった。戦いの後にある喜びだけでなく、食事を楽しみにしている私がいることも理解していた。

 

 

 それがいらないものである、と言えないのは心が変わったからか。

 

 

 願うことならば、この時間が少しでも長く続いてくれることを。




没版ではマテリアルSの戦いを傍観していましたが、
自分との力の差を感じるスクライアさんがいました。

流石に色々とあれではないですが、
ボーイミーツガールとはちょっと路線ズレそうなので描写は没。
その晩、スクライアは一人で酒を飲んで泣いた。
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