なのはにそっくりなマテリアルSがスクライア族の落ちこぼれに出会った話。 作:あおい安室
わたしの名前は、スクライア。名前はあるが、苗字の方で名乗ることを好んでいる。
わたしの苗字であるスクライアはこの体に流れている血の由来を示すためのものではなく、スクライアという一族その物を示す特別な名前である。遺跡発掘、出土品の解析、そこから得られた情報を基に失われた歴史そのものを復元することだってある優れた能力を持つ少数民族。
それが、スクライアであり。私はそこに至るための能力が欠けていた。
スクライアの血を引きながらも魔法を扱うためのリンカーコアに欠陥があり、サイズが生まれつき小さく使うことができる魔法の種類、回数、規模、全てに制限がかかっていた。
たったそれだけか、と笑う奴がいるかもしれない。しかし、たったそれだけで私の運命は決まったようなものだ。どれだけ知識を蓄えようと、どれだけ技術を磨こうとスクライア一族が発掘、あるいは研究する物には魔法が絡んでいるため私の評価は一段落ちる。
年を重ねるごとに、私の評価は伸び悩んだ。
年を重ねるごとに、若きスクライアの血を引くものが超えてゆく。
年を重ねるごとに、魔法が使えない私の居場所はなくなっていった。
いつしかスクライア一族の落ちこぼれと呼ばれる頃には両親がすでに事故で命を落としており、スクライア一族へ残り続けることに意味はなくなっていた。
そして、少ない金を握りしめて旅に出たのは……一体いつのことだったのだろう?
「――スクライア。スクライア。起きてください」
懐かしい夢を見ていた。ただ、懐かしい夢を見たからと言って胸の気分が晴れるとは限らない。今回見た夢ははっきり言ってあまり好みではない夢だった。
「……ゲフッ、ガフッ」
『警告。喉の渇きを検知しました。水分の摂取をお勧めします』
「だ、そうですよ。水です、飲んでください」
起き上がって呼吸しようとしたが、やたらと乾いていたせいで咳き込んだ。デバイスの警告を聞き流しながらマテリアルSからボトルを受け取り、中の液体を絞り出す。
「――プハッ。すまない、マテリアルS。助かった」
「昨晩からやけにうなされていましたよ。それが気になってはいましたがまさか口を全開にして眠っているとは。みっともない眠り方であると共に、下品な眠り方ではないかと」
「夢見が悪かったのかもしれない。何か寝言を言っていたか?」
「いいえ。……何を探しているのですか?」
「ん、タバコ」
朝から喫煙はやめなさい、と叩かれた。キミはわたしの母親か何かか。
「強いて言うのであれば居候ですね。さぁ、早く食事を作りなさい」
……依頼主と請負人とかそういう仕事関係じゃないのか。居候とまで言うとは正直言って慣れすぎではないか、と思うがそれを言うとねちねち文句を言われそうな気がしたので黙っておく。
今日の朝食は柑橘系の果汁を生地に練りこんだ保存食、イエローケーキとするどい苦みにほのかな甘みを隠したマクラウド、と呼ばれるドリンクだ。ただし、イエローケーキは酸っぱくて食えたものじゃないので特殊な砂糖を振りかけ、マクラウドには昨日食べたフルーツ缶の汁を混ぜる。
これで多少は食べられる味に仕上がったはずだ。ほんの少し味見をして問題ないことを確認すると、探査艇の甲板上へ持ち出す。
「マテリアルS。できたぞ」
「できましたか。ありがとうございます、スクライア。こちらはお返ししますが食事中は流石に控えていただけますか」
放り投げられた小さな紙箱のタバコを受け取る。残りが非常に心もとないが、いつまで楽しめるだろうか。
「それは当然だろう。いくらタバコが好きと言っても煙で食事がまずくなるのは流石に勘弁だ」
わかっているのならよろしい。そういって食事を受け取ると、まずはケーキに齧り付いた。酸味が完全に消えていなかったのか少しだけ顔をしかめるも、味は悪くないようで食べ進めていた。
「……味、落ちていませんか?」
「ありものを切り崩してるんだ、仕方ないだろう。この惑星には食用に耐えうる生物や植物もなくはないが数が少ないし味もさほど良くない。持ち込んだ食料しか食えるものがないんだ」
「そういうことでしたか……懐に入らず、出ていくだけということなら仕方ないですね」
「諦めてくれると助かる。それにしても意外と健啖家なんだな、キミは」
「食事とは縁が遠い生活を送っていたもので、何を食べても新鮮ですから。強力な敵がいるわけでもないこの世界で楽しめる物はそれくらいしかないのですよ」
少し前の墜落衛星攻略以降、他にあの様な物はないのかと問い詰めてきたりとどうも戦闘狂の疑惑がある。しかし、管理局への申請の手間などから攻略は絶対にやらない、と断言したら渋々とだが受け入れてくれた。わたしのデザートと引き換えに……
「なら、書類仕事でもしてくれないか。管理局に色々と申請しておかないとただの盗掘になるから資料をちゃんと残しておかないと後々面倒なんだよ」
「ならば遺跡が自爆したことにしましょう。幸い動力炉は一部の機関を取り出しましたがまだエネルギーはありますし。私たちはそれを目撃して残骸を回収した不幸な被害者ということで」
「そうなると船に臨検が入るぞ。何か不審なものを拾ってないか検査されることになるんだがそうなると君が見つかってややこしいことになる」
「……もういっそ、回収したものは全て置いていきませんか?何もしなかったことにするのが一番楽かと」
「それはごめんだ。何も得られずに骨折り損のくたびれ儲けって言うのは何度も経験したことはあるが今回はようやくモノにできそうなんだ。どうにかして成果をまとめておきたい」
「そう、ですか……はぁ、わかりました。どうせ暇ですから手伝いますよ」
溜息一つつくと、彼女は少しだけ微笑みながら協力を申し出てくれた。それに感謝しているとマテリアルSの手が私の手元に伸びる。そして、タバコを奪い取った。
「待つんだ、マテリアルS。まさか禁煙しろというのか」
「そこまで厳しいことは言いませんよ。ただ、私も吸いたくなっただけです」
「……は?」
「あなたが楽しそうにこれを吸う姿を見て味が気になるのは自明の理でしょう?」
コンコン、と箱を叩いて一本取り出すと口に咥える。慣れた手つきで魔力を使って着火する動作は私の真似だろうか。マテリアルSはすぅー、と大きく息を吸い込んだ。
「っっ!ゲホッゲホッゲホッ!!」
そして、むせた。吸いなれていなければ当然だ、馬鹿。
「待て、やめろマテリアルS!不味かったのはわかるが全部燃やそうとするなーーっ!!」
必死に静止されたこともあってタバコとやらを処分することはできなかった。あんな代物を美味しいと感じるスクライアの味覚はどうなっているのだろうか?見た目だけ同じだが中身は普通の人間とはかけ離れた――と。そこまで考えて自分がプログラム体であったことを思い出した。
今行っている仕事がプログラムいじりなのだから、何か手軽に片付ける手段はないものか、と分割した思考で考えながら作業を進める。マルチタスク、と名付けられた技能だ。
「スクライア、墜落衛星、もとい遺跡に関する攻略資料は完成しました。砲撃の隙を縫って探査艇で無理やり死角へ入り込んだ、という体にしておきましたので後で確認をお願いします」
「ん、ありがとう。こっちも回収した物のレポート作ったからチェック頼む」
隣のテーブルでスクライアは回収した機械や魔道具を分解、それの性質についてチェックを行っていた。ある程度調査してから引き渡すと評価が高いし、提出後に戻ってくることもあるのだとか。
「まだまだ数はあるんでしょう?報告は後でいいからさっさと手を動かすべきです」
「了解。それにしても書類仕事得意だな、マテリアルS」
「こういうのは事務仕事というと思うのですが、まあいいでしょう」
タカタカタカ、とキーボードを叩く手を休めない。電子上に管理局への提出資料の作成が私の仕事であった。私が関与した証拠を消しつつギリギリ現実的に考えられる範囲に収めた事実を書いていく作業は割と面倒だったが、これでも理のマテリアルを名乗る身。
これくらいは難なくこなせなければ後で――――――に叱られる。いや、―――に馬鹿にされるだろうか?あるいは―――に心配されるのかもしれない。
「……?」
今、何を考えていた。私でもない、スクライアでもない、タカマチナノハでもない。もっと別の誰かについて短時間だが思考していた。それを思い出そうとすると指先に痛みが走った。
「――っ!」
息を飲む。叫んでスクライアに気付かれなかったのは奇跡だろう。
指先が崩れていた。ポロリ、と皮がはがれて内側のガランドウな部分が見えていた。
もう片方の手で指先を覆い隠し魔力を込めると指先は無事に復元できたが、脱力感を僅かに感じつつあるこの状態には覚えがある。私が、マテリアルSが消えようとしている。
一体なぜだ、タカマチナノハと戦った時に様に致命的なダメージを受けた記憶はない。ルシフェリオンが完全に壊れてもいないい。ならば、なぜ今になって消えようとしているのだ。まさか……私のリンカーコアは、壊れているのか?魔力を使いすぎると存在そのものを危うくするのか?
だとしても、今はまだ消えたくない。
もう少し。後一日だけでもいいから。持ってください、私の体。その願いを叶えてくれそうなものは残念ながらここにはない。頼れるのは私だけだった。