なのはにそっくりなマテリアルSがスクライア族の落ちこぼれに出会った話。   作:あおい安室

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色々と微調整していたら遅れて申し訳ない……


五つ目の記録

 どんな旅にも、どんな冒険にも、どんな生命にも。いずれ終わりは訪れるものだということをわたしは知っている。

 

 故にスクライアとマテリアルSの冒険、いや、探索、あるいは調査、か?

 

 とにかくわたしとマテリアルSの物語は間もなく終局を迎えようとしていた。先に言わせてもらうが、その終わりはマテリアルSが私の目の前で消滅するというある意味では残酷な結末だったが、そこに至るまでの過程は、決して残酷なものではなかった。

 

 それでは、最後の記録について話を始めるとしよう。あの時は少しだけ変わった一日の始まりを迎えていたと記憶しているし、記憶にも残っている。そうだな、時刻は昼頃だったはずだ。

 

 


 

 

 墜落衛星という名前の遺跡の調査が終了し、マテリアルSの協力もあって管理局への提出資料も無事に完成。さらに探索の過程で入手した動力炉やAIの思考回路パーツ等売れば高値で──ゲフンゲフン。もとい、この世界の歴史を解き明かす助けになりそうな資材も積み込み完了。

 

 今は探査艇を操縦して山岳地帯を走ってとある場所を目指していた。

 

「ふむ……応急処置の名目で組み込んだ外部パーツは没収されにくいから、あの衛星のパーツを探査艇にも組み込んだわけだが。性能の方はどんな感じになっているんだ?」

 

『速度は約90%ほどですがこちらはエンジンの整備不足です』

 

「金がなくて悪かったな」

 

『私の整備も暇があればお願いします』

 

「厚かましいなおまえ」

 

 コツン、と操縦パネルに取り付けたデバイスを小突く。やっぱりこのインテリジェントデバイスはどこか生意気だ。メンテ不足で思考回路がおかしいんじゃないんだろうか。

 

『ですが、船体の安定性については初期の想定スペックの120%は出ており燃費も18%の改善が見られました。フレームの強度さえ見直せば安定性が上がったことによって最高速度もさらに向上するものと思われます』

 

「ふむ。金が大きく入ったらしっかりと改造してやるかな」

 

『しかしいいことばかりではありません。加速性能については想定外のパーツを組み込んだ影響によって23%低下。さらに水道ユニットに異常が発生しており──』

 

「待て、水道ユニットの異常だと!?なぜそれを速く言わなかった!」

 

『想定以上の高温を出さない限り問題にはなりませんので優先度を落としていました……が。残念です』

 

「なにがだ」

 

『たった今、シャワールームにいるマテリアルS様が想定温度を超えて使用しました。パイプが破裂して水漏れが起きていますね』

 

 ボコン、と鈍い音が後方から聞こえると共にマテリアルSの悲鳴が聞こえた。ポンコツデバイスを一発殴って手を痛めつつもこれからどうしたものか、と頭を抱えた。

 

 

 

 

 

「……ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 

「気にするな。報告が遅れたわたしのデバイスが悪い」

 

 一旦自動運転に切り替えることで手が空いたので、その間にびしょびしょになったマテリアルと同じ部屋にいた。目の前でパイプが破裂したため激しい水圧で吹っ飛ばされたマテリアルSは頭を強く強打して気絶していた。そんな彼女を起こして今は髪を拭いている、というわけだ。

 

「ありがとうございます。後は体に魔力を流して熱を高めることで乾かせます」

 

「おいおい、そんなことをすれば体がもたないんじゃないか?下手すれば体から出火するぞ」

 

「ふふっ、冗談ですよ。私だって命は……惜しいですから」

 

 少しだけ口ごもりつつも返答したマテリアルSはどこか眠そうだった。頭を打った影響か?

 

「いえ、そうではありません。なんというか……疲れているのです」

 

「疲れ?いや、それも当然の話か。例の衛星攻略といいガンガン魔力を使っていたからな。マテリアルSほどの実力者なら回復しきっていないのも仕方ないか。リンカーコアも大きいんだろう?」

 

「……まあ、そうですね。今の残量は恐らく4割あればいい方かと」

 

「あれからしばらく経っているのに4割か。よっぽど大食漢なリンカーコアをお持ちで──」

 

 うらやましいよ。そう言いながら髪の毛をぐしゃぐしゃにかき混ぜてやろうとして口をつぐんだ。頭から頬へと手をまわして気になったことを確かめる。

 

「なんですか……燃やしますよ」

 

「……待ってくれ、マテリアルS。体温が大分低いぞ」

 

 触れた体の体温は人のものとは思えないほどに低かった。破裂したパイプから噴き出したお湯を浴びていた彼女は普通の体温だと思い込んでいたが、触れてみればこんなにも冷たかった。少し前に触れた時は普通の人の体温だったというのに、一体何があった。

 

 それを口にして問いかけようとするも、頬を叩かれて静止させられる。

 

「レディの個人情報について触れようとするとは失礼ですね。早く操縦席に戻ったらどうですか」

 

「いや、しかし……」

 

「も ど り な さ い 。さもなくばタバコごとその腑抜けた顔を燃やしますよ」

 

 それだけは勘弁してくれ、と慌てて立ち去ることにした。去り際に何か異常があれば言ってくれ、と言い残すとマテリアルSはひらひらと手を振って返してくれた。

 

 

 

 ……それが私の限界だった。

 

 

 体をよろよろと動かしながらベッドに倒れる。マテリアルSの魔力不足は深刻なレベルだった。

 魔力を完全に使いきる、あるいは大幅に消耗しても人間は疲労するだけで済むが不安定なプログラム体であるマテリアルSにとってそれは致命傷となりうる。

 

 指が崩壊した時から自然に流出する魔力が出始めて、今ではそれなりの魔力が失われている。

 

 4割の魔力が残っているといったがあれは嘘だ。実際の魔力は既に二割を切っており身体能力も低下している実感があり、今は崩壊しそうな体を気力で押しとどめている状態だ。残り1割。そこまで落ちれば恐らく体の崩壊は止めることはできないと感じている。

 

「で、も……頑張った方、ですよね」

 

 3日。指が崩れた日から3日も持ったのだ。我ながらよくやったとほめてやりたい気分である。それを称賛してくれる誰かがいれば文句はないのだが、残念ながらここにいるのは私一人。

 

「……ほんの少しだけ、私のことが分かった気がします」

 

 瞳を閉じればノイズ交じりに誰かの姿が浮かぶ。白い髪の過度に偉そうにしている王様の様な少女。そしてそれに従っている青い髪の無駄な元気に満ち溢れた少女。

 イメージした二人が不当な評価だ、やり直せと抗議してくるあたり私の中での二人のイメージは大分鮮明なものらしいが正直なところ実感はない。例えるのなら誰かが作った映像を見ているだけであり、二人と出会って一緒に会話をしたことはないといったところか?わかりにくいか。

 言い換えるならば、記録としては知っているが、記憶にはない。ふむ、まだこちらの方がわかりやすそうだ。彼女たちのことを知っているがどんな人だったか聞かれると反応に困る。

 

「肝心なところを思い出せない、というよりは……バグで不必要な記憶まで覗いたといったところでしょうね」

 

 タカマチナノハと戦った時の自分を回想する。あの時の私は白髪の少女と青髪の少女のことを知らなかったし、私が果たすべき破壊の役目も自分一人で果たすものと思っていた。

 

 ……しかし、それは間違いだった。

 

 実はあの時の私は完全とはいい難い状況であり、どうやら他の二人の少女と協力、および連携してとある目的を果たすことこそが本来の目的だったようだ。

 

 胸に手を当てると、ぐにゃり、とヘコんで指を胸の奥へと誘い入れるどころか、コリ、と内臓まで触れることができた。皮膚の強度すら落ちているようで、最後を迎えた時はヒト型を保っているのだろうかと少し不安になった。

 

 これほどに私は壊れつつあるが、そのためにあの時は思い出せなかったことを少しずつ思い出せているのはせめてもの救いだろうか、と苦笑していると。船の揺れが止まった。

 

「予定より……到着が早い。何事でしょうか?」

 

 揺らつく体を抑え込みルシフェリオンを握りしめて万が一に備えていると、部屋のドアが開いてスクライアが顔を出す。どうした、何があったのかと力なく彼に尋ねると。

 

「ちょっと変わった温泉にたどり着いたんだ。予定までは時間があるし、入らないか?」

 

 そんな、奇妙な提案をしてきた。

 

 

 

 

 この惑星にはごくごくわずかだが、温泉地帯があることが確認されている。

 今日の目的地にたどり着くまでにはまだ時間的に余裕があったのでそこに立ち寄ると、マテリアルSを入浴に誘った。文句を言ってくるかと思ったが、何も言ってこなかったので逆に怖かった。

 

「……あの、マテリアルS?」

 

 それどころか。

 

「ふぅ……なんですか。ボディーソープを切らしていたスクライアさん」

 

 一緒に入浴することを提案してきて本気で焦った。私を犯罪者にするつもりかと、慌てて問い詰めるも疲れていて体に力が入らないのでどのみち介護が必要だといい返された。当初は全裸で入ろうとしていたが流石にやめてくれと懇願して、せめてバリアジャケットのインナーは着てくれた。

 もちろん私も股間は下着で隠している。水着があればよかったのだがそんな金はないしあってもダイバースーツくらいだ。入浴には大げさすぎる。

 

「……いや、なんでもない」

 

「そうですか。それにしてもいい湯、というのでしょうかこれは。体に優しい温度ですね」

 

「噂によるとこの星の地熱はだんだん下がっているらしい。昔は人が入れない温度どころか有毒なガスすら出ていたそうだが、地殻の運動が減ったこともあって安全になったそうだ」

 

「なるほど。これで座りごごちが良ければ文句はないのですが」

 

「贅沢はあまり言わない方がいいぞ。世界には底がない温泉なんかもあるから、下手に入浴しているとあっさり命を落とす危険な場所もある」

 

「それは入浴者の入浴方法に問題があるのでは……?」

 

 否定はしない。ここの温泉地帯は岩の隙間に温泉が湧き出ており、全身を浸けるのも一苦労な場所もあれば足湯レベルの深さの場所もあるが、どちらにせよゴツゴツした岩だらけなのでまともに座ると痛いのだ。整備する観光業者がいればいいのだが、こんなところに来るはずがない。

 

「……で。どうだ、マテリアルS」

 

「どう、と言われましても。お湯の心地なら悪くないですが。強いて言うのならにおいが少し鼻につく、というよりは胸の奥でもたれるような感じがしますね」

 

「そうか……なら、多分利いてるって証拠なんだろうよ」

 

「利いてる?」

 

「察しが少し悪いな。まだ体調は戻っていないのか?」

 

 何を言っているのかわからない顔をしているマテリアルSを横目に、着替えの上に置いていた白い箱を掴む。タバコを取り出して口に咥えると、ようやく見つけたライターで火をつける。

 

「……こんなところで喫煙ですか。あなた本当にダメ人間ですね」

 

「そうだろうよ。むしろ、そうやって生きてきたのがわたしなんだよ」

 

「ああ、そうですか。そもそも火なら私がつけるというのに」

 

「ここではやめておいた方がいい。魔力であたり火の海になりかねないぞ」

 

「……は?」

 

 砂粒程度に小さい魔力弾を作って撃ってみろ、と指示をする。首をかしげながらもマテリアルSは指示通りにする。すると指先に出現した魔力弾が砂粒から一瞬で小石サイズに変化する。

 

「──っ!?」

 

 慌ててマテリアルSは射出する。最終的にそれは球技用のボールサイズ程になって空へと消えていったが、予想外の規模にマテリアルSは困惑していた。

 

「な、なんですかあれは!?」

 

「この温泉には特殊な効果があることが発覚していてな。一定条件下にある魔力の塊に湯気が反応して魔力塊に定着。塊を肥大化させつつ威力を高めるらしいんだ。管理局曰く、射撃、砲撃魔法の威力向上に使えないかと研究しているそうだ、が……まあ、無理だな」

 

「どうして使えないので……いや、そうですね。推測してみましょう。温泉その物にではなく湯気にしか効果はないが、人工的に加熱しても魔力増大効果が出ない特殊な性質があると見ました」

 

「筋がいいな。大体はそれであっていると思う。で、だ。ここなら魔力不足も治るかと思って連れてきたんだが……効果はあったみたいだな。口が良く回っている」

 

 うんうん、と頷いているとお湯をかけられた。タバコの火が消えた。

 

「あーっ!?お、おまえ何をするんだ!?」

 

「すみません。タバコの煙がうざったかったのでつい」

 

「絶対今のは八つ当たりだろ、ええ!?こんのぉ!」

 

 バシャン、とこちらもお湯をかけかえす。起用に魔力を展開して炎の壁を作るとこちらがかけ返したお湯を全部かき消した。嘘だろおい。

 

「残念ですね、スクライア。コツは大体熟知しました。少ない魔力でもこういった遊びができるのはなかなかに面白い温泉ですね」

 

「……ちっ」

 

「舌打ちしながらもかけ続けても無駄ですよ」

 

 クスクスと笑いながら面白そうに魔力の壁を展開していくマテリアルSは完全に墜落衛星を調査していた時の調子を取り戻していた。……やれやれ、ほっと一息といったところか。

 お湯をかけるのにも疲れてきたところだ。肩を下ろして全身を浸けこむ。魔力量が少ないわたしはそんなに恩恵を感じないがお湯につかるだけで疲労がある程度薄れるというものだ。

 

「……スクライア」

 

「なんだ」

 

「……ありがとうございます」

 

 礼は別にいらないんだけどな。らしくないし。それを言うとまた怒られそうな気がしたので、湿ったたばこを手に取って二、三度振って見せた。それを空に向かって放り投げる。

 

 マテリアルSが魔力弾を放ってそれを跡形もなく焼き払った。

 

 灰皿いらずだな、というとお湯をぶっかけられた。しまった、余計な一言だったか。

 

 

 

 

 

 スクライアはいつものように笑っていた。そんな彼につられて私も笑い返すとニヤニヤと笑い返された。この人、私が笑うのを楽しんでいないか。いや、楽しんでいるな。

 

「……スクライア。一つ、気になることがあるのでそのニヤ付き顔には文句を言わないでおきましょう」

 

「え、ニヤついてた?」

 

「割と。普通の女性なら迷わずビンタしているところですが私は寛大なので許します」

 

 なので拝むのはやめてくれませんか?温泉に沈めますよ。展開したルシフェリオンを構えると流石に黙って両手を挙げてくれた。ええ、わかればいいのです。

 

「それではお聞きします。初めて会った時に聞けばよかったのですが今日この日まで聞き忘れていたことです。質問5。どうして、私を助けたのですか?」

 

「……それは、まあ。偶然だよ、偶然。墜落した時にそばにいただけだ」

 

「そこで見つけた重傷の女を放っておけなかった、とでも?」

 

「そんなありきたりの理由だよ。言わせないでくれ、恥ずかしい」

 

 そっぽを向いた彼の頬は赤くなっているのだろうか?いや、案外そんなことはないのかもしれない。口が笑みを浮かべるのを感じつつ、とある一言を口にした。

 

 

 ──タカマチナノハ。

 

 

 その言葉を聞いた彼の表情が消えかける。寸前で踏ん張って、あきれ顔に戻した。

 

「……どこでその言葉を聞いた?」

 

「言っておりませんでしたね。私は元々あるデータ集積端末のようなデバイスから生み出された存在でして、タカマチナノハについてもある程度理解があるのですよ」

 

「なるほど、な。妙に詳しかったり知識人ぶったりしてたのはデータ集積端末由来だから、か」

 

「ええ、そうです。そしてもう一つ付け足すと、それらの事件を解決した人物、タカマチナノハに由来する存在でもありますから彼女についてはそれなりに詳しいですよ」

 

「そうだったのか……なるほど。となれば──」

 

 

 君は高町なのはではなかったのか?

 

 

 彼の問いに頷いた。私はマテリアルS。タカマチナノハをベースにしたコピーだから。

 

「最後に聞きたいことがいくつかあります。答えてもらいますよ、スクライア」

 




種明かし、エピローグ、後日談セットの次の話で、終わり。
夕方くらいには投稿できるかな……

追記:夕方過ぎます。申し訳ありません。
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