《条件を満たしました。称号「竜殺し」を獲得しました》
《称号「竜殺し」の効果により、スキル「生命LV1」「竜力LV1」を獲得しました》
《条件を満たしました。称号「恐怖を齎す者」を獲得しました》
《称号「恐怖を齎す者」の効果により、スキル「威圧LV1」「外道攻撃LV1」を獲得しました》
《熟練度が一定に達しました。スキル「魔王LV1」を獲得しました》
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《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV6」が「禁忌LV7」になりました》
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火竜を倒した私たちは迷宮脱出のため、上層に向けて移動を続けていた。
あれからというものの、私は使えるときには強欲を発動させて、少しずつだけど魂を蓄えるようにしていた。
強欲は発動できる距離に制限があるみたいで、距離が遠くなればなるほど奪い取れる魂の力が減っていくみたい。
そして強欲を使うと蜘蛛子ちゃんに経験値が殆ど入らなくなるみたいでもあるから、使用出来るタイミングは限られていて、近い距離で私が倒した魔物にのみ強欲のスキルを使っていた。
……とはいえ、それもなかなか上手くいっていないのが、現在の状況で。
新たに獲得した称号「恐怖を齎す者」。
周囲に恐怖の効果をバラ撒いてしまう、ONOFFの切り替えが出来ない称号。
これを私と蜘蛛子ちゃん両方で獲得したため、中層の魔物が私たちを見ると、いや私たちを目視する前から逃げ出してマグマの海に潜ってしまうので、殆ど狩りが出来ないでいた。
どれだけ隠密を行っても近づけば気づかれて逃げるので、運良く陸上に上がっている魔物に対し超遠距離から狙撃して、気づかれる前に仕留めるのが最近の私たちの狩りの内容である。
おかげで、私も「暗殺者」の称号を獲得したし、確実に当てるため予見から未来視に進化したりだとか、高速演算がカンストしたりだとか、先に気づくため感知できる距離に特化した森羅万象の運用法を編み出したり等々、必要に迫られたことで様々なスキルの活用方法を編みだす事に、頭を悩ませていた。
そのぶんスキルのレベルはドンドン上昇していくので、少なくとも悪いことばかりでは無いのが救いなのかもしれない。
蜘蛛子ちゃんは、獲物が減って悲しんでるように見えるけど、主に食べられる相手が減った事に大きく悲しんでいるような気がしていた。
前世のイメージからは思いつかないような、食い意地張った生き方しているからねぇ……
……前世か。
私も大分、魔物としての自分に染まってきているのを感じていた。
転生した初期のころは、慣れない身体に四苦八苦していたけど、今は人じゃない身体に拒否感や違和感を覚えなくなってきている。
それに生々しい血や死骸を見ても気持ち悪さを覚えず、それが食料にしか思えなくなったのは、確実に前世から私が変質していってる証明だと思う。
たまに自分が自分で無くなるような強い衝動に襲われて、気持ちが暴風のように荒れ狂う時もあって、平静を保てず無性にイライラしちゃう時もある。
その時私は、すぐに念話を切って魔法の操作に集中する。
じゃないと、蜘蛛子ちゃんにイライラをぶつけてしまいそうで怖かったから。
私がしていることは、触れたくないものに蓋をして先送りにしているだけで、決してこの気持ちが消えることは無いと理解しているけど、今は理解したくなかった。
——前世の記憶が薄れてきていることを。家族の顔がボヤケていることを。
進行方向に大きな縦穴を感知して、そこに近づいていたとき。
その縦穴の上方から、正気を失いそうなほど恐怖を呼び起こす気配が降りてくる。
——息が詰まる。胸が痛い。心が悲鳴を上げている。寒い。感覚が消えていく。
なのに、意識を逸らせない。
注意を逸した瞬間に死が迎えに来るようで、一瞬たりとも気を抜くことを許さない。
『と、止まってッッ!!』
絶叫するような念話に、不思議そうに足を止める蜘蛛子ちゃんだけれど、遅れてその気配に気づいたのか、その身体がガクガク震え身を縮こませる。
そして縦穴から姿を顕したのは、途方も無いほど巨大な蜘蛛のバケモノだった。
その脚は高層ビルの如く、太くて長い。
そして重量が想像できないほど肥大化した胴体と頭部。
蜘蛛子ちゃんと同じ種族の魔物だとは思えないほど、そのバケモノは圧倒的に恐ろしい存在感を纏っていて、意識を向けられていないというのに近くにいる事実だけで、ただただ逃げたくて自殺する事が助かる方法なのだと考えてしまうほど。
縦穴の壁面を砕きながらゆっくり下へと進んでいく巨大な蜘蛛は、広大なはずの縦穴をその巨体で殆ど占領している。
一メートルを越えていそうなツルっとしたレンズのような眼球は、ただ大迷宮の下層へと向いていて、私たちに気付いていないのか目を向ける価値も無いと捨て置かれているのか。
私たちは目をつけられないように息を潜め岩陰で怯えているというのに、そのバケモノに対して喧嘩を売りに行くような存在がいた。
今まで中層で見た中で、一番大きな身体に大きな翼をした火竜、いや火龍。
骨を翼膜で覆うコウモリのような翼で飛行しながら蜘蛛のバケモノに近づき火球を浴びせ、背後に無数の魔物を率いて援護射撃をさせながら無謀にも襲いかかっていた。
火龍の巨体が高速で宙を駆け、無数の火球が弾幕を作りその全てが直撃しているにも関わらず、攻撃に曝されている蜘蛛のバケモノからすれば、どの攻撃にも大した痛痒を感じてはいないように見えた。
そしてたった一度の反撃で、争いが終わった。
一筋の黒い閃光、そして一拍遅れて衝撃波が吹き荒れた。
小柄ゆえ魔物としては体重が軽い方である私たちは目が潰れるような光量の爆発に押し出され、ゴロゴロと転がりながら何メートルも弾き飛ばされる。
そのままマグマに落ちることはなかったものの、ただの余波だけでHPが減っている。
ひっくり返った体を起こした蜘蛛子ちゃんが爆発の中心地に目を向けると、そこには途方も無いほど巨大なクレーターが広がっていた。
そこにいたはずの魔物の大集団は跡形もなく消え去っていて、何も無くなったクレーターには、少しずつマグマが流れ込んで新たなマグマ溜まりになろうと流動している。
目障りな相手を消滅させたことに満足したのか、再び縦穴の奥へと降りていく蜘蛛のバケモノ。
その姿に、私は恐怖で気が狂いそうになりつつも、安堵と同時に怒りも感じていた。
運良く巻き込まれずに済んで生き残れたことに、安堵を。
何も出来なくて弱い自分に嘆きを、遥か高みにいるバケモノの強さに憤懣を。
恐怖を塗りつぶすような暗い怒りに、意識が蝕まれていく。
柔らかく脆い心を溶かして、深い奥底へと引きずり込んでいく。
それは、弱い私を守るため。
それは、弱い私が生き延びるため。
——それは、弱い私が壊れてしまった最後の悲鳴だったのだろう。
蜘蛛のバケモノが縦穴の奥底へと消えて気配も薄れた頃、悲痛な咆哮が響き渡った。
新たに出来たマグマの海から姿を現したのは、蜘蛛のバケモノと対峙していた火龍の姿であり、その片翼を完全に潰されながらも大爆発を生き延びて怒り狂っていた。
傷だらけの体が急速に修復されていき、根本からボロボロになった片翼を除いて傷一つ無い肉体に戻っていく。
そして近くにいた私たちに、怒りの矛先を向けてきた。
威圧の力を乗せた咆哮。
その轟音を耳にした私たちは覚悟を決めて、スキルを全力で起動させていく。
蜘蛛子ちゃんは、邪眼と魔闘法・気闘法に竜力を。
私も魔闘法・竜力に加えSPを消費する理由から避けていた気闘法まで起動し、森羅万象の感知能力を最大まで高めて、些細な情報も見逃さないように思考を高速で回転させていく。
レベルが上ってLV4まで高まっていた並列意思を全て同調集中させていき、より高度な魔法構築に専念していった。
そして戦いの火蓋が切られる——
《火龍レンド LV20
ステータス
HP:3520/3701(緑)
MP:2744/3122(青)
SP:3698/3698(黄)
:1634/3665(赤)
平均攻撃能力:3281
平均防御能力:3009
平均魔法能力:2645
平均抵抗能力:2601
平均速度能力:3175
スキル
火龍LV1 逆鱗LV8 HP高速回復LV3 MP回復速度LV6 MP消費緩和LV6
魔力感知LV5 魔力操作LV4 SP高速回復LV1 SP消費大緩和LV1
魔力撃LV4 火炎攻撃LV9 火炎強化LV7 破壊強化LV6 斬撃強化LV2
貫通強化LV2 打撃大強化LV2 連携LV10 指揮LV2 立体機動LV4
命中LV10 回避LV10 確率大補正LV5 気配感知LV10 危険感知LV10
熱感知LV3 飛翔LV7 高速遊泳LV10 火魔法LV4
斬撃耐性LV1 貫通耐性LV1 打撃大耐性LV1 炎熱無効 状態異常耐性LV1
身命LV5 魔蔵LV4 瞬身LV5 耐久LV5
剛力LV5 堅牢LV5 道士LV4 護符LV3 縮地LV5 飽食LV2
スキルポイント:30050
称号
魔物殺し 魔物の殺戮者 率いるもの 龍 覇者》
戦いは避けられないと感じた時点で鑑定した相手のステータスは、私たちより格上でスキルの数も今までの魔物より遥かに多かった。
火龍の平均速度能力が蜘蛛子ちゃんを上回っているため逃げるのも難しく、高い平均抵抗能力とより強力な魔法阻害効果を持つ逆鱗によって、私の魔法攻撃も殆ど通らないかもしれない。
けれど、ここで逃げる訳にはいかない。
生まれながらの強者に、持たざる者の絶望がわかるはずがない。
無力に嘆き、影に怯え、渇きに苦しむ人生など知りもしないだろう。
——だから私は奪う。
より強き者から奪い喰らうことで、私はもっと強くなれる。
だって私は、
この手に力を握り絞めないと、怖くて仕方がないから。
だからね、恨めしい龍さん。
あなたの全て、私にちょうだい——?
火龍が炎の弾丸を吐き出す。
軽めの様子見な攻撃として繰り出されたものであっても、私たちには致命の一撃になり得る攻撃を、蜘蛛子ちゃんは全力で跳躍して回避する。
私も魔法で火球を迎撃するものの、威力が弱い魔法では打ち消せずMPを多量に使わなければならないので、ジワジワとだけどMPが目減りしていく。
そして弾幕を張り私たちの視線を塞ぐことで隠した、次の一撃が来る。
距離を詰めてきた火龍の巨大な尻尾が、炎を纏って鞭のように叩きつけられた。
これも蜘蛛子ちゃんは何とか躱すものの、掠めた炎が私たち二人を焼く。
すぐさま水魔法と治療魔法で、消火と回復を行うけれど、その分MPの消費が加速する。
しかも攻撃はこれだけで終わらず、叩きつけから回転しての振り回し、回転からの爪の横薙ぎ、振り抜いた体勢からの体当たり、密着した位置からの振り払いと振り下ろしの剛爪の連撃。
その悉くを辛うじて回避する蜘蛛子ちゃんに、余波を防ぐことで精一杯になる私。
しかし全ての攻撃を回避したことで、火龍は手強い相手だと警戒したのか、距離をとって此方の様子を窺う。
その隙に回復を行うものの、現在の状況はジリ貧へと追い込まれていくようだった。
近距離攻撃は火龍の火炎纏によって、全身が燃え上がっているので触れることが出来ず、蜘蛛子ちゃんがすれ違いざまにカウンターを仕掛けることも不可能で。
遠距離からの魔法も、逆鱗のスキルと纏う火炎で大きく威力が減衰してしまい、僅かなダメージしか与えられない。
僅かに通ることに希望を掛けて、術式の強度を高めた麻痺魔法を連続して発動し続けるけれど、状態異常耐性と種族柄の抵抗力によって掛かる気配は、未だ手応えすら感じられない。
距離をとっていた火龍は片翼が潰れているというのに、その巨体を空中に浮かばせようとする。
そして空中に浮かび上がった火龍の口から、漏れ出る光。
蜘蛛子ちゃんが膨大な毒液の球体を作るのを見て、意図を察した私はさらに毒液を包み込むように水球を重ね合わせ、大質量の液体を作り上げると、二人してその液体の中に潜り込んだ。
極大のブレスが大地を這いずり回る。
恐ろしいほど広範囲に広がった灼獄のブレスは、地面を全て溶かし尽くして岩盤をマグマの海に作り変えていく。
それは毒液と水の塊にも襲いかかり、一瞬で蒸発させていく。
しかしその一瞬の時間を確保したことで、私たちは天井まで移動することで危機を脱することに成功した。
眼下は火の海、私たちを追いかけて飛翔する火龍に、逃げ場が無くなる私たち。
しかし、まだ諦めるには早すぎる。
『足場は私が用意するっ! 飛んで蜘蛛子ちゃん!』
火龍の炎弾が襲いくる。
背後で爆発を感じながら、落下先を予測する。
そして噛み付いてきた火龍の顔に魔法を連射することで、目眩ましして回避し交差する。
交差した先にはマグマの海しかなく、それ落ちる前に水魔法が進化した水流魔法と重魔法を組み合わせて、崩れること無く空中に浮かぶ水鏡の足場を作り上げる。
重力で加速した体重を撓むこと無く支えた水鏡を、私は空中に大量に作り上げる。
火龍が爪を振るうだけで体当りするだけで崩れてしまう脆いものだけど、壊されるたびに新たに作り直して足場を絶やさせない。
そして第二ラウンドの空中戦が幕を開けた。
火龍が水鏡を砕きながら、私たちに迫る。
それを蜘蛛子ちゃんは、ときに飛び跳ね、ときに糸を伸ばして自身を引き寄せたりと、縦横無尽に駆け回ることで、速度は高いものの小回りが利かない火龍を翻弄する。
しかしこのままでは地上での戦いの焼き直しで、未だ火龍に有効な一撃を与えられない。
それに焦りを感じ始めた時、蜘蛛子ちゃんは目の前に小さな毒の球体を作る。
そしてそれを何度も火龍にぶつける。
効果が無いにも関わらず、毒液は火龍の纏う炎にぶつかり蒸発していく。
それを見て、私は蜘蛛子ちゃんが何をしてほしいのか察した。
『……わかった! 特大のを作るよ。けど足場が作れなくなるから、気をつけて』
私の声に頷く蜘蛛子ちゃん。
限りのある足場を壊されないように、ギリギリまで火龍を引き付けてから回避するようになった蜘蛛子ちゃんを見つつも、私は特大の魔法の構築に集中し始めた。
生成する量は最大。
ただただ莫大な質量で洗い流すための魔法を。
それを確実に当てるために、極限の集中で火龍の動きを予測する。
火龍と蜘蛛子ちゃんの動きがゆっくりとなる。
けれど私の思考と構築は高速で駆け回り、敵が避けようの無いタイミングで魔法が発動する。
——潰れろ
まるで津波のような水魔法が発生した。
溢れ出した津波は火龍を飲み込み、その身体を膨大な水圧と質量で押し潰していく。
火炎纏が押し寄せる水を蒸発させるものの、燃え盛る炎では津波には対抗できないように、その身に纏う炎を引き剥がす。
そして大量の水が全身を強かに打ち据えたことで、体勢を崩し動きが硬直したまま火炎を纏っていない火龍が水の中から現れると、蜘蛛子ちゃんは足場を蹴って飛び降りる。
危険を察知するも衝撃が抜けきらず僅かに身じろぐしか出来ない火龍に、死を纏った鎌が振り下ろされた。
腐蝕属性が付与された一撃は、火龍の顔面を大きく消し飛ばして両目と角までも潰す。
失明し平衡感覚を失った火龍は、ゆらりと錐揉みしながらマグマに落下していった。
頭部が消し飛んだものの火龍の生命力は凄まじく、今の一撃ですらHPを完全には削りきれず、ギリギリで踏み堪えている。
即死しなければ、龍は生命変遷によって急速に回復を行える。
だからこそ確実に仕留められる追撃の準備を始めようとしたけれど、それより先に蜘蛛子ちゃんの魔法が発動するのが早かった。
深淵魔法、——地獄門。
私には適性がない闇の魔法の最上位魔法で、魂ごと破壊する威力を持つ恐ろしい魔法。
超高難度のそれを空中戦を行う以前から構築を続けていて、いつでも発動できるように待機していたらしい蜘蛛子ちゃんは、火龍がマグマに落ち動けないでいるこのチャンスまで機を待ち続け、今発動させたのだった。
火龍が落下した場所に、ポッカリと黒い穴が空く。
それはあらゆる光を飲み込み、そこだけ落とされた染みのように景色を歪ませる。
世界に空いた黒は、マグマを空気を光さえ飲み込み、急速に周囲を引き込みながら広がったと思ったら突然収束して跡形もなく消え去った。
後に残ったのは陥没した地面、そして肉が削げいたるところで骨が露出しているズタズタの火龍だけだった。
まだ生きてる……ッ!
けれど、耐えきるだけで限界だったのかHPMPSPどれもが底をついている火龍は、一歩足を踏み出したものの、そのまま崩れ落ちた。
もはや死ぬのは時間の問題となった火龍に対して、私たちは近づく。
私たちが近づいてきているのを感じ、最後の最後で肉体の限界を超えて動き噛みつきを繰り出すものの、ヒラリと避けてその顔に止めを撃ち込む。
蜘蛛子ちゃんは腐蝕攻撃を。
私は圧縮した魔法を。
死にかけで守りも無くなっていた火龍に連続で叩き込まれた一撃一撃は、その頭部が跡形もなく消し飛ぶのと同時にHPが0になる。
そして——
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《経験値が一定に達しました。個体、マユ・マリがLV19からLV20になりました》
《条件を満たしました。個体、マユ・マリが進化可能です》
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《条件を満たしました。称号「龍殺し」を獲得しました》
《称号「龍殺し」の効果により、スキル「天命LV1」「龍力LV1」を獲得しました》
私たちは生き残った。
今度は逃げるのではなく、その生命を引きずり落とすことで、私たちは一つ絶望を乗り越えたのだった。
アハハッ。また生き延びれた、また強くなった。
また——
マタ——
まだ——、マダ————————強クなレる。
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————————————————————アハハッ♪
《熟練度が一定に達しました。スキル「禁忌LV7」が「禁忌LV8」になりました》
2022/01/21加筆修正。