【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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蜘蛛13 死へと堕ちた乙女

 ああ、懐かしいな。

 嫌になるほど、いつかの記憶とダブって既視感を憶える状況だ。

 

 いつもこうだ。

 私たちの関係と運命は、戦いたくないのに、戦わざるを得なくする。

 

 笑えるよね。

 友達だって思っているのにさ、こうしてお互い傷付け合う状況でしか、素直になれない自分が、本当嫌になるよ。

 

「アはハハはhaハハハhahaハハッッ!!」

 

 嬌笑を上げながら襲い掛かってくるコケちゃん。

 振り下ろされた闇の魔槍を、大鎌の拒絶の刃で受け流して回避する。

 

 遠心力と突進の勢いが乗った一撃は重く鋭いけど、触れるわけにはいかない。

 触れたら最後、あの槍の攻撃はそういうものだから。

 

 一種の外道攻撃のようなもので、あの槍が纏うエネルギーは此方の魂を侵蝕して汚染してくる、ヤバめの性質を帯びているのが、解析に特化した邪眼によって把握していた。

 

 神同士の殺し合いにおいては、大別すると二つの戦い方がある。

 即ち、削り切るか、魂を砕くか。

 

 削り切るとは、神が持つ膨大なエネルギーを全て消費させる事。

 エネルギーが無くなれば神だって、ただの生物と変わらなくなってしまう。

 その状態になってしまえば肉体の再生も魂の保護も出来ず、煮るなり焼くなり好き放題な貧弱な状態に追い込まれるだろう。

 

 魂を砕く方法の代表例が、外道魔法と深淵魔法。

 神を倒しうる手段をサラッとスキルとして仕込んでいたDに痺れないし憧れない。

 そんなもの神でも何でも無い、ただの人々に使わせるなよ。

 それらの魔法は、神になってシステムのサポートを失った私には、構築難度が高すぎて組むことすら出来ず再現不可能な代物だ。

 

 魂っていうのは生物の核そのもので、神にとっては本体であり動力炉。

 幾ら神でも、これを砕かれたりすれば生きてはいけない。

 本体なんだから、当然と言えば当然なんだけどね。

 

 神々の戦いでは、こっちが主流。

 魂を砕く手段を持ち、それを防ぐ手段を持つ。

 如何に必殺の一撃を当てるか、そして防ぐかが重要なんだと、神の基本講座とやらにあった。

 

 魂を砕くなんて、つい最近まで私には出来なかった。

 裏技で神になったようなもので下積みも何にも無い私には、魔術に関する知識や経験値の絶対量が足りていないからだ。

 

 それを引っ繰り返せるのが得意属性というか、権能っていう自身に適した法則ってやつ。

 私個人が空間の支配で、半身たる大鎌が因果拒絶の法則だ。

 その拒絶の法則を直接叩き込めば、それなりに魂を砕ける必殺の一撃にはなると思う。

 

 なんで元が同じ私だというのに、別々の法則を司っているのかは知らない。

 多分、空間の素養が本体に残り、闇とか腐蝕とかの因子が大鎌に移ったとか、そんな単純な理屈だと思う。

 

 つまるところ、私本来の力は大鎌と合わせた時にこそ、完全に発揮出来る能力だ。

 大鎌抜きの私は片手落ちどころじゃないくらい、能力を扱えていなかった。

 そりゃあ、今迄ただの道具としか見ていなかったんだから、大鎌の力を使えなくて当たり前か。

 

 現に、大鎌の能力を発動していなかったら即死してもオカシクないほど、この周辺の空間は危険極まる状況だ。

 

 

 終末の法則に汚染された大気が、暗雲となって周囲を漂っている。

 これを吸い込んだり皮膚に触れたりしてしまえば、たちまち肉体が崩れ落ちて塵となるだろう。

 

 そのコケちゃんが支配している空間に全力で抗っているのが、拒絶の法を重ねた空間の鎧だ。

 どこぞの目隠しクズ野郎の無限を作る空間じゃないけど、支配下の空間内では私に対し害となるものは何であろうと因果から拒絶されて排除している。

 これによって無秩序にバラ撒かれる呪詛は、完全にシャットアウト出来ていた。

 

 ……ただ、この鎧があったとしても、闇の魔槍のように圧縮されている攻撃を喰らうわけには、いかないのが現状で、防戦一方だった。

 

「チィッ!?」

「遊ボう? 遊ぼうヨ、白チャん!」

 

 こんの!? 

 その顔で、その声で、コケちゃんが絶対やらないだろう事をするな! 

 

 互いに重力だの何だのを操作して、空中を滑るように疾走しながら斬り結ぶ。

 闇の魔槍も、拒絶の大鎌も、どちらも当たれば必殺を宿しながらも、虚しく空を切るばかり。

 

 この大鎌をコケちゃんに振るえだって? 

 出来る訳無いだろッ、そんな事!! 

 

 まるで出来の悪い茶番みたいな私たちの争いは仕組まれたモノであり、その原因についても既に理解していた。

 

 今のコケちゃんは、操り人形だ。

 中身が、魂が違う。

 あの身体を操っているのは、別の意思だ。

 

 拒絶して作り変えた邪眼、その眼には今もコケちゃんへと流れ込む闇の力の源泉を捉えていた。

 Dから押し付けられ、コケちゃんに渡したあの怪しげな本。

 あれが、コケちゃんが豹変した原因で、狂気に駆り立てている異常の根本だ。

 

 思えば、そう都合良く強くなれる手段を何の対価も無しにあのDが渡すとは思えないと、気付けそうなものなのに私は見過ごしていた。

 最初から仕組まれていたんだろう。

 あの詠唱が完成すれば、Dとのパスが生まれる。

 其処から力を引き出せば、魂はDの力に穢され、勝手に暴走し始めるって寸法に違いない。

 

 畜生ッ……、悪辣なDもムカつくけど、何も考えず渡した私自身にも腹が立つ。

 

 よく考えれば私もDの影響をモロに受けた存在だし、何か仕込まれてたりで危ないのではと思うけど、現時点では問題になりそうなモノは排除されている感じだった。

 それは悪影響を及ぼしそうなDの因子が大鎌に集中したのと、それが因果拒絶という外部からの影響を排除するのに特化した能力に進化した事によって、実質的に無害化しているからだ。

 

 決定的に分岐したのは、システム中枢で大鎌を覚醒させた時からだろう。

 あの時から私は、以前の私とは別人となった。

 大鎌という、もう一人の自分を受け入れ孤高を捨てたその時が、呪いを断ち切る起点となった。

 

 変わらなかった私という存在があるとするならば、そいつはきっと寂しい奴だろう。

 多分きっと、コケちゃんに出会えなかった世界での自分だ。

 

 自分の心に他人を入れるなんて、正気じゃないって言うでしょうね。

 でも、本当に大切な人なら、邪魔じゃない、痛くない、苦しくないんだ。

 温かい、安らぐ、幸せ。

 そんな小さな想いが、心を満たしてくれるんだ。

 大切な人は、拒めない。

 向こうの私からすれば、無駄と呼ぶようなモノを受け入れたから、得られた温かさもある。

 

 だから私は、そんな愚かで白痴な私が嫌い。

 もしも、コケちゃんを知らなかった私では、自分しか愛していない空虚な生き物だろうから。

 

 以前の私に中身が無いのも当然だよね。

 だって私は、あいつの身代わりだし。

 

 元が元だからね、世界最悪の邪神なんて名乗る奴よ。

 まともな精神性なんて、最初からあるはずが無い。

 それの写し身である私も、最初は心の中身が一人で自己完結していたし。

 

 疑問にすら思っていなかったもの。

 自分が一人でいることに。

 自分が何よりも上で、その他大勢は見下すのがデフォルトな、その傲慢な考え方に。

 

 あれが、Dの地金に近しい部分。

 力の差がありすぎて何もかもが格下だから、見下すのが当たり前な思考。

 

 私が無意識に驕ったり油断してピンチになったりしてたのは、こういう根っこの考えが染み付いていたからだと思う。

 最弱の魔物だったと、その苦労や辛さを自覚しているはずなのに、何度もピンチになったのは、きっとそういう事。

 

 癇癪起こしたガキか、見るに耐えん。

 いきあたりばったりだし、考えが甘い。

 ストレス少なく何事にも気楽に行けるのは、それはそれで良い点だろうけど、あんな状態じゃあ薄っぺらいにも程があるぞ、私。

 

 あいつの呪いともいえる性質を、完全には抜けきれなかった。

 だから、それを拒絶する。

 私はDの人形じゃないんだって、証明してやる。

 

 

 

 

「ドウしテ? どウシテ白ちゃんハ邪魔ヲするの?」

 

 喜悦に染まり狂乱しつつも、その言葉には偽りなき真摯な想いが籠められていると分かる声で、コケちゃんが問い掛けてきた。

 

「どうしてって……ッ」

「コンナ事してイる連中、生キテいる価値なんテ無いでショウ!?」

 

 一瞬、コケちゃんの視線がブレる。

 その先には、残骸と化したつよロボやウニの姿。

 

「許シがたい。白ちゃんハ血肉を吸ワレ蝕まれタトして、恨ミを抱かナイと言えル?」

 

 ……ああ、何となくコケちゃんが言いたい事が分かってしまった。

 

 星もまた大地という、巨大な肉体と魂を持つ生命体だ。

 コケちゃんは常々、星のことを気にしていた。

 それは、私たちが生きる環境に大きく影響する重要な土台だからってのもあったけど、どうにもそれだけでは無い理由もあった気がする。

 

 それが、これか——

 

「酷イ、なんて酷い。コンナ死ぬ寸前にまで星ヲ追い込ンデ、ドウして知らヌ顔デ愚かにも暮らしていらレルのか」

 

 悲痛に吼える、コケちゃんの隠れていた想い。

 続く言葉は私でも考えざるを得ない、この星全ての住人に向けた訴えだった。

 

 真実を失伝させられていたというのは、知っている。

 神言教が禁忌の取得を制限し処罰してきたからこそ、耐えきれずにヤケに走る人間が出ないようにして、今の社会が出来上がったのだろう。

 

 異常気象などは、星が行う免疫反応。

 不調に対し環境を変動させて排除する大掛かりな、星が生きている証。

 今はそれすらも出来ないほど、死に体な状態の星なのだと声を枯らして叫ぶ、そして——

 

「デモ、それでも思ってシマう。ナンデ生きてイルのかと(・・・・・・・・・・・)

 

 罪を償え、せめて苦悩しろ。

 システムは罰だというのに、恩恵だけ享受しているのは、許せない。

 コケちゃんの怒りとは、それだった。

 

 

 粘つくような赫怒が空間を充満し、それと共に速度が上がった猛攻を凌ぐ。

 流星のように彗星のように、目にも留まらぬ速度で空を突き抜ける私たちだったけれど、戦いの場所はエルフの里上空の範囲に留まっていた。

 

 途中でUFOみたいなのが出てきたけど、私たちの戦いの余波によって装甲板が大きく抉られて大穴が空き術式も砕かれ墜落したので、たぶんポティマスの最終兵器とかなんだろうけど、そっちを気にしている余裕がない。

 その大穴から魔王が突入していったのがチラッと視界に映ったから、元凶の始末は魔王が着けてくれるはず。

 

 問題はこっちだ。

 まだコケちゃん本来の意識が残っているのか分かんないけど、帝国軍や魔族軍が撤退している方とは別の方角へと、少しずつ移動しているのを知覚していた。

 それに僅かな希望を見出し、少しの安堵を感じるが、戦況は悪くなる一方だ。

 何故なら、撒き散らされた闇の濃度が上昇し始めているからに他ならない。

 

 この仄暗い闇は、終末を齎す汚染された大気であるのは知っている。

 それを支配力を高めた空間によって遮断しているけど、これが高まっていけばどうなるか分からない。

 

 突破されるか、押し潰されるか。

 向こうのエネルギーに干渉するのが悪手な現状では、強固な空間で影響を拒絶するしかない。

 

 今のコケちゃんが纏うエネルギーは、触れた相手を穢して崩壊させる呪いに満ちた代物だ。

 暴食の邪眼でエネルギーを喰らってしまった分体が次々と崩壊した事からも、その凶悪な性質は明らかである。

 それは空間の支配範囲を広げようと、空気中に漂う残留した闇のエネルギーに干渉した時にも、容赦無く発揮されていた。

 自分の周囲だけを、不可侵の領域として保つだけで精一杯。

 性質のえげつなさだけで、私の手札の多数を問答無用で潰していた。

 

「つぅ……ッ!?」

 

 空間の鎧に掛かる負荷が増大した。

 ジワジワと、拒絶の法を越えて侵蝕されてきているのが分かる。

 

 どうすればいいのかは、最初から分かっている。

 あの本を破壊すればいい。

 

 だけど一瞬たりとも気を緩めることが出来ない状況では、コケちゃんの腰に吊り下げられている本だけを、大鎌によって破壊するのは厳しいとしか言えない。

 

 せめて、刹那だけでもいい、動きが止まれば……

 

「あぁ、アァ……コンナ瀕死の重病人な星に対シテ、癒やすコトもせず鞭打つような存在、死ンダほうがマシ。救えない、救えナイ、救エない……」

 

 譫言のように、喋り始めるコケちゃん。

 その内容は、先程の怒りと同じものによるものだったが、今度のは深度が違った。

 

「モウイイ、糧になっテヨ。ソレだけしカ、期待シナイし望まナイから……」

 

 許さない、認めない。星を穢させてなるものか。

 そういう狂気に汚染されて高まった負の感情が爆発しようとしていた。

 

「自然ニ還って……。星に沿って生キ、星のタメに死ヌ。滅ンデしまえ、全テ何もかモ(・・・・・・)。——他の生命なんテ、死んでシマえばイい!!」

 

 激発した破滅を願う慟哭に、私は思わず叫び返していた。

 それは、この戦いの中であるものを視界の隅に映していたから——

 

「ならッ! あれ(・・)も、死んでしまえと言うのか!? コケちゃんの言うみんな(・・・)、大事じゃないって言うつもりなのかッ!? 答えろッ!!!!」

 

 隙を晒すと理解していたが、大鎌を大振りで叩きつける。

 それを難なく防ぐコケちゃんだが、籠められていた重みまでは止められず姿勢が流れる。

 そして視線が私から別の方に移る、その先には——

 

「——っ」

 

 魂の繋がりによって、過剰に注がれる闇に苦しみ悶えるコケちゃんの眷属たち。

 それを認識したコケちゃんが、息を呑んで表情が固まり、体の動きが止まる。

 

 それと同時に、闇に染まっていたコケちゃんの魂に光が戻ろうとしていた。

 小さな、だけど本来のコケちゃんの輝きが。

 

「——ッ、今だああァッ!!」

 

 拒絶の法則は最大強度、呪いの因果を断ち切る想いを籠めて、大鎌を振り抜く。

 それを認識したコケちゃんだが、精彩を欠いた動きで泥の中にいるよう。

 先程までの超反応は見る影もない。

 

 闇の意思と、本来の意識が対抗し合っているんだろう。

 この奇跡を逃すわけには、いかない! 

 

 ——◇◆◇△▲(私は訴える)◇◇◆◇■◇▲◆■■◇◆■□(大切な人を救うために競わせろ)!! 

 

「打ち砕けッ! 死滅鎌理ィッ!!」

 

 暗黒天体のような、全てを呑み込み破壊するような黒色の刃が、呪いの本に突き刺さる。

 

 ——バキリと、罅が入って割れるような音が。

 大鎌に穿かれた本はコケちゃんから引き剥がされ宙を舞い、僅かに震えると次の瞬間には粉々に砕け散って微細な塵となり消滅した。

 

 コケちゃんが纏っていた闇と術理が、力の源泉を失った事で霧散して溶けていく。

 もう——、終末を齎す法則は描かれてはいない。

 

 闇の中から、元の色彩に戻ったコケちゃんが現れる。

 崩れ落ち地面へと落下しようとする彼女を、慌てて抱き留めた。

 

 ……軽い、見た目以上に軽く感じる。

 こんな小さな身体で、あんな怒りを溜め込んでいたのかと、気付いてやれなかった自分に怒りを憶える。

 

「……うぅ」

「目は覚めたかい?」

「ごめんね……、白ちゃん」

 

 ほんとだよ。

 エネルギーをかなり無駄遣いしたんだから……あれ? 

 

 予想より、減っていない。

 さっきの戦いで消費したにしては、残っているエネルギーの量が多い。

 

 まるで、戦いの最中にエネルギーが増えた(・・・・・・・・・・・・・・・)かのよう。

 

 周囲の環境などにあるものからエネルギーに変換したり、魂そのものから湧き上がるエネルギーもあるが、この上がり幅は可笑しい。

 

 思わず大鎌を見る。

 私自身に変な影響や呪いなどは、絡まっていない。

 

 なら、このエネルギーは何処から来たんだろう。

 

 釈然としない疑問を抱えつつも、これは悪いものでは無い。

 そう感じていて、今は腕に抱いたコケちゃんの事を気にするべきだろうと意識を切り替える。

 

 闇の残滓が残っているけど、コケちゃんの魂は光を取り戻した。

 狂わせた源泉である本も壊した事で、今のコケちゃんにDとの繋がりらしきものは無い。

 再び、コケちゃんの魂が穢されるような事は無いだろう。

 

 けど、絡んだ繋がりはもう一つある。

 システムとの呪縛、それは断ち切れなかった。

 この繋がりの強度は、全力で干渉してもびくともしない。

 それは決してシステムからは逃げられないと言っているような、偏執的なまでの恐ろしい執念が籠もっているようだった。

 

「うぅっ……ッ、そういえば、機械兵器は?」

「しばらく寝てていいよ、コケちゃん。もう終わったと思うから」

 

 ……ポティマスを倒すという、大仕事は終わった。

 なら次は、システムを終わらせるのが、最後の仕事だ。

 

 

 それが……大切な人を救う、唯一の方法だから。

 さあ、女神の意に沿わないとしても、私のエゴのため犠牲になってくれ、人類よ。




調子が戻らず、ペースは遅めで進行中。
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