【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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再会する転生者たち
52 黎明の始まり


 ……ポティマスが逝ったか。

 

 結局私は、他国の王とも呼べるDにみっともなくも頭を下げて、どうかサリエルと彼女が愛した世界を救ってくださいと、何もかも擲って泣き付き頼み込んだ事くらいしか、自ら選択して結果を残せたモノは存在しない。

 それすらも、正しかったのかと聞かれれば何も言えなくなってしまう体たらくだ。

 

「私たち管理者がするのは、監視と調整です。実に神らしいではありませんか。ですから、特定の誰かを殺そうとしたりは、してはいけませんよ? サリエルもそれは望んでいないでしょう??」

 

 Dにそのように言われては、私が彼女のために出来る事は殆ど無くなってしまった……

 奴にとっては、ポティマスは生きている方が面白い人材だったのだろう。

 盤面を賑やかにする悪役として、玩具にしているこの世界を混沌に掻き混ぜるための存在としてアイツは見られていた。

 そして私自身も、盛大なただの娯楽のために利用する、便利な駒の一つでしかなかったのだ。

 

 Dの考えについては奴と話した事がある、この世界に新たに誕生した神たちから聞いて、以前と全く変わっていないのだと改めて認識した。

 ……ああ、翠の方からな。

 白いのは特定の相手以外には無口で喋らんから、まず会話が成立せん。

 

 Dの玩具になったからこそ、この世界は他の神々の手出しも無かったと言えるが元より崩壊寸前の星だったのだ、Dの影響が無くても誰も見向きもしなかっただろうな。

 

 誰が旨味の無い絞り滓の星に、態々手を伸ばすというのか。

 あのDの縄張りに手を出す奇矯な神などいないとしても、こんな辺境の星、探せばそれこそ星の数ほどあるだろうから、目に見えて負債を抱えた代物など誰も欲しがりはしまい。

 

 もはや、怒りも擦り切れて保ち続けるのも難しいほど、気の遠くなる長い時間が過ぎた。

 罪を犯して今もなお罪を償う宿命であるはずの人間に対して、幸せを願うほどにな。

 ユリウス……ハイリンスとして生きている私の分体から見ていた彼は、本当に良い奴だったよ。

 何の含みもなく、あいつには幸せになって欲しかったと言えるほどだ。

 

 もはや悩んでも後悔しても、何もかもが遅すぎた。

 大事な時に選択の機会を逃してきた私は、この手で何かを掴めた事など一度もありはしない。

 空回りばかりで、そこらの大衆と変わらないような、大きなうねりに流されるだけの存在。

 

 ……そんな私にも、決断の時が来ている、か。

 

 なに、敵対はしないさ。

 既に彼女らは、僅かな時間で私よりも神として上の存在となっている。

 魂を保護する術も満足に使えん今の弱体化した状態では、勝算など欠片もありはしない。

 そうなった経緯は不明だが、突如始まった彼女ら同士の戦いを見て、それは疑いようのない事実だと思い知った。

 

 龍は先に生まれ長く生きている者から術を教えられて、力を付けていく。

 その指導してくれる龍の長老たちが全員星から逃げて居なくなったのでは、力を磨くことも成長させる事も出来んからな。

 停滞、いやエネルギーを世界のために捧げ続けたのだから、退化か。

 所詮、張りぼてで無駄に時を重ねた龍でしかないのだよ、私は。

 

 サリエル、アリエル……

 私が幸せを願う者たちは、悉く貧乏籤を引いてきた。

 孤児院の者たちも皆命を擲ち、人生も魂も全て、世界に捧げていた。

 

 ……彼女に似た翠の少女もまた、自分を犠牲にしようとしている可能性が高い。

 人の世に分体を放って逃避に耽っていたこんな私でも、管理者なんだぞ。

 気付くさ、普通。

 

 犠牲になる順番があるというのなら、彼女より私の方が先だ。

 自分の後始末は、自らが方を付けるしかあるまい。

 

 不安は、残る。

 彼女らも、Dの駒から抜け出せておらぬのか、妙な宿命が絡んでいるように見える。

 でなければ、お互い命を奪い合う技を使ってまで、戦う事になどなるまい。

 

 あぁだが、白い方だけでも翠の方だけでも不安だが、きっと二人が共にあるのなら、この想いも託せるだろう。

 どちらも極端な考えの持ち主だが、お互いの意見を合わせる事でバランスの取れた答えを導いてくれるはずだ。

 

 頼むぞ、この世界を救ってくれ。

 俺が居なくなった世界でもな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どんな非日常の後でも、朝は何も変わる事は無くやって来る——

 

 太陽の動きに関して非常に精確な体内時計が、朝日が登り始めた事を知らせて私を起こす。

 体の調子を確かめながら目を開けると、すぐ近くには白ちゃんとアリエルさんの顔があった。

 

「すぴぃ……くかぁ……」

「んん……」

 

 少し驚いたけれど、理由を思い出して一人で納得する。

 二人の顔をぼんやりと眺めながら昨日の記憶を振り返って、こうなった経緯がまあ大体私のせいだという事を思い出して、寝起きなのに重い溜め息をつくことになった。

 

 

「二人がまた無茶しないように、今夜は全員一緒に寝ること、いいねっ!?」

 

 SFに登場する移民船のような巨大さの宇宙船から外に出て、開口一番白ちゃんが発したのは、そんな言葉だった。

 

 そして、戦いに巻き込まれないよう撤退した事により、被害が少なかった外縁部で野営地を設営している魔族軍の本陣まで転移で連行されて、このエルフの里にまで来る時に使用していたアークタラテクトが背負う籠の中に押し込まれた、私とアリエルさん二人。

 白ちゃん自身も連戦の疲労によって体調が万全とは言えないはずなのに、有無を言わさずに実行された分かりにくい気遣いに対し、私とアリエルさんは苦笑するしかなかった。

 

 嫌な訳では無い。

 ただ、白ちゃんらしいなぁと、思っただけ。

 

 私たちが暴れに暴れたせいでエルフの里に無事な家屋などは一つも無く、しかも急遽戦闘を中止させられ撤退すると、背後の戦場が消滅していくという状況に置かれた兵士たちの混乱は著しく、そんな彼らを尻目に勝手に暴れたのに勝手に休むという事に多少の罪悪感を憶えながらも、私たち三人は一度休息を取るために、一緒に横になって寝ていたのであった。

 

 

 ……さて、これからどうしよう。

 先に起きてしまったとはいえ、二人を起こしてしまうのは忍びない。

 けれど、このまま何もせずに居るのも少し退屈で、今もまだ外で忙しそうに動いている人が結構居るのに怠けているのも、なんだか落ち着かない感じだ。

 

 状況把握のため周囲一帯に薄く意識を向けていると、感知範囲に見知った相手を見つけた。

 その姿を確認した私は横にしていた体を起こして伸びをし、外で活動することを選んだ。

 

 まずは、此処から出る事からかな? ……あぁ、一応書き置きも残しておこう。

 白ちゃんが起きた時に私が居なかったら、また大騒ぎになりそうだからね。

 

 現在この籠の内側は糸で覆われていて、外部からも内部からも出入りが出来ないように入口や窓などが堅牢に塞がれていた。

 一時的に弱化している私たちの安全のために、マイホームなるものを作っているのは理解出来るけれど、こうも過剰防衛な光景が目に入ると白ちゃんは過保護だの心配性だのと思い、呆れつつも何だか温かく感じる気持ちが浮かんでくる。

 

 メモ書きを置いた後、私は換気用に空いている小さな空気穴に、そっと手を伸ばす。

 そしてその向こうが籠の外に繋がっているのを確認して、自らの体を苔へと分解した。

 

 ——外側から見た籠、その一点の隙間から苔が溢れ出す。

 その苔は、瞬く間に膨れ上がり人型を模ると、その中から一人の少女が姿を現した。

 少女は数度自分の体や服装を確かめると、伏せて微動だにせずにいた大蜘蛛を優しく労い、更に護衛として待機しているパペットタラテクト四人にも礼を告げてから、静かに歩き出していくのであった。

 

 

 

 

 

 

「確かこの辺りに……、あっ居た居た」

 

 まだ早朝の時間。

 魔族軍の各軍がそれぞれ幕営を建設し、テントが居並ぶ広場を眺めながら私がやってきたのは、第十軍に割り当てられた区画だった。

 

 気配を殺しながら行き交う、白装束の団員たち。

 そのスキルによって隠された存在感の無さによって、一見し誰も居ないのでは無いかと錯覚するような一角だけど、認識しづらいだけで行き交う白影の数は結構多い。

 

 その中から、目当ての人物を見つけ出すと声を掛けようとしたけれど、それより先に相手の方が気付いて向こうから声を掛けられた。

 

「お目覚めになられましたか、副団長」

「おはよう、フェルミナちゃん。私たちが居ない間、問題は無かった?」

「緊急のものでしたら、特には」

 

 駆け寄って来てピシっと折り目正しく直立する、第十軍の団長補佐フェルミナ。

 といっても白ちゃんよりも私と接する機会が多いから、実質副団長補佐とも言えるけれど。

 

 若干の焦げ臭さと死臭が風に乗って流れてくる道を歩きながら、私はフェルミナちゃんから現在の状況を聞いていく。

 

 魔族軍と帝国軍の損害状況については、おおよそ予想していた通り。

 

 ソフィアちゃんやラースくん、ユーゴーやロナントという魔法使いなど、強者が配置されている一部の部隊を除いて、前線に出ていた部隊は壊滅的な損害を被っていた。

 あの量産品の機械兵器ですら実際の強さは下位の龍を上回っていて、本来なら一般的な兵士では対処出来ない脅威であり、それと対峙してしまった帝国軍の部隊とかは文字通りの意味で全滅してしまったところが多数とのこと。

 

 魔族軍の方は、正面衝突をしている帝国軍を避け横合いから殴りつける戦術を取っていたため、部隊の損害自体はそれほど多くは無く、機械兵器の相手を主にソフィアちゃんやラースくんたちが受け持った事によって、何も出来ずに壊滅するといった状況が少なかったのも理由だろう。

 

 初期では、帝国軍の背後から不意打ちで襲撃する魔族軍という案も出されていたけれど、それは裏切りじみた策略を嫌った私とラースくんによって反対され、挟撃こそしないものの協力して戦うことなどしないし普通に巻き添えも見殺しもする程度の、中間案で作戦が敢行されていた。

 

 なので各軍の損耗は、先に戦端を開いた帝国軍全体では、壊滅判定寸前の四割。

 魔族軍では、全体の損耗率は一割程度。その内訳はラースくん率いる第八軍の人員が殆ど。

 そして、身内となる第十軍の面々やソフィアちゃんメラゾフィスさんラースくんなどは、全員が戦いを切り抜けていた。

 

 途中で戦闘を中止して引き上げた事も影響し、本来ならば敵わない相手との戦いにも関わらず、結果全体としての人的被害は、そこそこで終戦したのだった。

 

 

 夜通しで戦後処理に奮闘していたであろう、疲労が色濃く浮かぶフェルミナちゃんから話を聞き終えた私は、大丈夫かと聞くと——

 

「私たちより他の軍団や帝国軍の方が、遺体の回収とかで忙しいですから」

 

 そう言いながら皮肉げに作り笑いを浮かべ、フェルミナちゃんは肩を上げて下げるのであった。

 

「エルフの方は?」

「それがいつの間にか、死体も何もかも戦場から消失していたようで……」

「……あぁ、分かった。何も問題無い、それでいいよね?」

「承知しました」

 

 つまりは白ちゃんが片付けた、そういう事だろう。

 その方法については、詮索しないのが身のためだと思う。

 

 エルフについて、そう言えば新たに分かった事があった。

 ポティマスの複製体であるクローン、外部から拉致されエルフに改造された人、それらの子孫を含めたものが、エルフと呼ばれる種族である。

 遥か昔からポティマスが自由に使える手駒として、時折外の血も混ぜ合わせながら作り出されたエルフという種だけど、そうなっていた最大の理由は、勤勉とそれに組み合わせた眷属支配スキルのために、であるらしい。

 

 私たちが想定していた、勤勉による肉体乗っ取りと、魂の移動による不死についてだけど……

 

 これまで何度も目撃した分体が示すように支配下にある存在を乗っ取る事は可能であるけれど、本来の肉体から魂を移し替えて擬似的な不死を成立させる行為までは、実はポティマスには出来なかった事らしい。

 本来の勤勉には其処までの効果など無く、実際は他のスキルを一つだけ選び、それを超強化するだけの、元々魂を操作する事とは一切関係が無い支配者スキルだった。

 

 それをポティマスは眷属支配のスキルと組み合わせる事で、己の血縁で被造物に当たるエルフに対し、絶対的な支配権を確立していたらしい。

 それこそ、相手の魂ごと肉体も完全に乗っ取れるレベルで。

 

 本体が延命装置の中で浮かんでいようとも、それがある限り自由に動かせる体には困らない。

 だからポティマスは、保身のためでもあるが外部の事は全て完全支配した分体で活動し、本体は極限までの延命処置を施されて、エルフの里深奥に安置されていたとのこと。

 

 白ちゃんが出来るからといって、ポティマスまでもが同じ事が出来る訳では無い。

 つまり私たちがポティマスについて最も頭を悩ませていた、本体の魂が分体へと逃げ込まれ生き延びるという事は、全て杞憂という訳だった。

 最後の悪足掻きとして、先生ことフィリメスを人質にされる可能性もあったけれど、それは彼女がエルフの里に入る直前、密かに接触した眷属を通してコッソリと魂保護の魔術を仕込んでおいたから、結局のところ逆転の隠し玉はポティマスにはもう無かったという事である。

 

 あんなに苦労した大陸中のエルフ殲滅も、実は必要無かった事については考えない。

 一応エルフの暗躍を阻止していた可能性が高いのだから、決して無駄な事では無かったはずで、それだけでも充分やる価値はあったと思いたいから。

 

 

「それで副団長。朝食は取られますか? 既にソフィアさんが、勝手に(・・・)、一人で食べていると思いますが」

「……いや、必要無いかな。お水だけでいいかも。ちょっと食欲無い(・・・・)から」

「用意させましょうか?」

「いいよ、自前のがあるから」

 

 非常に便利故に再現した空間収納の魔術を使って、異空間から水筒を取り出す。

 中身は果汁や蜂蜜などを混ぜた、この世界で自作したスポーツドリンクのようなもの。

 それを飲みながら他の報告などを聞き、丁度撤退を始める直前に突如第十軍が待機していた場所のど真ん中に出現し保護した転生者たちの今の様子とか様々な事に耳を傾けていると、とある人物がこちらに向かって来ているのを、先んじて察知した。

 

 同じく気付いたフェルミナちゃんが剣呑な気配に切り替わるが、それを制して私は、やって来た老人の方へと向き直した。

 

「何か御用ですか? ロナント老」

「いえ、ただの挨拶で御座いますれば。帝国の改革以来、お久しぶりで御座います、苔様」

 

 やたら仰々しく、狂信じみた熱を宿しながら深々と頭を下げているこのお爺さんは、先程話題にした帝国の魔法使いその人で、筆頭宮廷魔道士のロナント・オロゾイ。

 そして、ユーゴーに手を貸して腐敗した帝国の立て直しに奔走していた時に、一目見るなり弟子にしてくれと、やたら気持ち悪い動きで土下座し縋り付いてきた変態でもある。

 

「魔法……いや魔術とは何と難しく、そして奥が深い。下賜された教えの少しですら満足に熟せぬ非才の身でありますが、日々精進を重ねて簡易な魔術であれば行使出来るようになりました」

 

 ……驚いた、もうそこまで出来るように。

 

 当時、私を発見するとあまりにもしつこく纏わり付いてくるので、彼の望み通り魔法の本来の姿である魔術の初歩を、ざっくりと教えては追い払うのを繰り返していた。

 

 スキルを使わずシステムにも頼らない、己個人のみで行使する魔の術理。

 その使い方と学び方については自分も通った道なので少しは解説出来たので、そう簡単では無いことを理解しつつも、この魔法狂いの老人が講義中は静かにマトモになるので続けていたところ、こうなっていた。

 

 その結果として、変態から狂信者に進化してしまったのは、頭が痛い事実ではあるけれど。

 

「此度の戦い。苔様と白様が振るうお力に、儂は畏怖で体が震えました」

 

 そして如何に素晴らしかったのかを、難解で普段の会話では使わない美辞麗句を並び立てて熱く語りだすロナント老を冷ややかに眺め、トリップに入っているのを良いことに認識阻害も合わせて発動させて静かに気配を殺し、フェルミナちゃんも連れて抜け出すのであった。

 

 ……相手にしたくない人種というのも、色々ある。

 疲労を感じているときには、それは顕著に現れるだろう。

 

 ——背後で奇声じみた賛美を唱え続ける、変人(ロナント)のように。

 

 

 

 

「——はっ、苔様はどちらに!? ま、待ってくだされ! もっと、もっとお話をぉぉっ!!」




勤勉と眷属支配についての設定は「独自設定」です。そうした理由は後ほど。
そして学園編で爺が居なかった理由が、アレです。
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