【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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54 死に掛けの星

 先程まで、喧騒が留まることを知らずにいた広場。

 

 私たちの目的、エルフを滅ぼした理由。

 泣き崩れ、これまでの本音を曝け出した先生の事。

 

 それらの出来事が立て続けに起き、受け止めるにしても何にしても、無言とはいかなかった時間もある程度の落ち着きを見せ、現在は次の説明に戦々恐々としつつも期待しているような雰囲気となっていた。

 

 白ちゃんから耳打ちされた感触を誤魔化す為に、私は帽子の位置を調整する。

 その広い鍔を持つ魔女帽で、少し顔を隠すようにしながら。

 

 人の気も知らないで……、まったく…………

 

 よくよく考えると、普段から距離感は非常に近かったと思う。

 話せる話せないの壁が白ちゃんにはあるように、口が動かなくなる相手には距離を取ろうとするのに対し、気を許した相手には物理的にもグイグイ来るようになるからだ。

 

 なので、先程の白ちゃんの行動は、特段いつもと変わった行動では無いけれど……

 自覚をしたというだけで、こうも気持ちを揺さぶられてしまうようでは、隠そうとしてもすぐにバレてしまいそうだった。

 

 今はまだ、白ちゃんが気付いたという様子は無いから大丈夫だと思う。

 けれど、普段通りという自己暗示も何時まで持つか分かったものではないと、そう感じていたのであった。

 

 

 

 

「話を戻して……今ならまだ、あれらの事を記した研究資料なども確認しに行く事が出来ますよ。あまり気分の良い内容とは言えませんけれど」

「いえ……結構よ。それが真実なのね……」

「私は……」

「俺たちも、いいか?」

「……では、先生たちは午後にでも私たちのところに」

「はい」

「ああ」

 

 壊れた機械の残骸を見ながら、脱線してしまった話を引き戻すべく声を出す。

 中断された説明の補足として裏付けになる証拠について触れると、エルフの里に閉じ込められていた転生者たちは、纏め役の工藤さんが動かなかった事から全体としても動かず。

 

 先生とシュレインたち勇者パーティは、自らの眼で真実を確認したいと意思を示しているので、一先ず他の説明を優先してから後ほどと告げる。

 

 そして——

 

「次の話に移る前に……あなた達は何処まで知っていますか?」

 

 外界から隔離されていたにしては、ある程度の情報を知っている様子の彼ら彼女らを見て、話を擦り合わせるために、基本的な部分について何処まで理解しているのかを問う。

 

 そこからは意気消沈している工藤さんに代わって、シュレインたちが話し始めた。

 

 此処に来る経緯となった、王国の叛乱騒動。

 その一件に関わっていたユーゴーが率いる帝国軍が、エルフの里へと進軍している情報。

 

 そして、システムから教えられた禁忌について。

 その禁忌から、星が崩壊しかけている事について知り、先生が語ったエルフの情報との食い違いに気付いて疑惑を覚え、保護されていた転生者たちを里から逃せないかと探っていた事。

 

 システムの存在意義と神言の正体に、犠牲となった女神について……

 

「——大まかには合っています。どれも基本的には、間違ってはいません」

 

 彼らの話を聞き終えて私は、欠け落ちている情報について説明する。

 

 王国の叛乱騒動は、里以外に存在するエルフを殲滅する作戦の一環にて起こしたものである事。

 その際、国の上層部にポティマスの洗脳が施されていたので大掛かりな作戦となり、様々な事件が巻き起こったのは、私たちが引き金を引いたのだと認識して構わないと告げた。

 

 その説明に、最も渦中にいた当事者であろうシュレインは口を挟むことも無く、只々静かに耳を傾けている。

 事前にラースくんやユーゴーから話を聞いているとしても、不自然なほど反応が無いことが気になるけれど、話の進行を優先してその点には触れずに話を続けた。

 

「禁忌から教えられる情報についても、一部禁忌では語られていない話もあります」

 

 星が崩壊しかけた原因が、ポティマスそして当時の人間たちにあり、そして現代のそれとは違う神格としての龍が星の生命力を奪って脱出し、滅亡へのカウントダウンが始まったという、歴史の闇へと消えた真実を語る。

 

「……どうして、その情報を知ったんだ?」

「信じがたい話だと思われますが、システムが稼働する前から生きていた人が私たちのリーダー的存在であり、私たちみんなの恩人なのです」

「その人って?」

「今代の魔王、アリエルさん。世界の崩壊を目撃した生き証人で、遂に星の寿命が危険域に達した事から、魔王という役を担ってでも戦うことを選んだ人です」

 

 魔王という言葉に、ざわめきだつ。

 それは外で暮らしていた転生者以外も同様で、このような場所に囚われていても、魔王ひいては魔族に対する恐怖観が浸透しているのだと察し、強引にだけど流れを変えさせる。

 

「そもそも……。勇者と魔王の関係性について、シュレインはご存知ですか?」

「え? いや……どちらもシステムから任命された人物が勇者と魔王になり、魔王は勇者によって討たれる。そういう戦いが繰り返されてきた事くらいしか」

「なら、もっとシステムの根幹に踏み込んだ話から説明します」

 

 そうして告げるのは、人族と魔族の役回り。

 恐れられている魔族の正体が、MAエネルギーを使って進化した人間であり、星の崩壊を早めた人類の子孫である事。

 その魔族は贖罪の為に人族と争い続け、システムにエネルギーを注ぐ宿命を背負っている。

 それを主導するのが、任命と同時に禁忌を与えられる魔王という存在である事。

 

「でも、それは過去の人類が悪いのであって、今の魔族の人達には関係無いことじゃッ!」

「確かに、そうです。けれど世界の仕組みとして、そうなっている事をまず理解して下さい」

 

 そして魔王は、基本的に魔族の中から選ばれるので、人族よりも長い寿命から能力的にも優れている事が多く、普通に戦っては勝負にならない。

 なので、人族から選ばれる勇者には、対抗手段が用意されている事を説明する。

 

 勇者は必ず、魔王と同等の実力まで引き上げられるという事。

 その力の源泉は、システムに貯蓄されたMAエネルギーであり、今代の魔王と勇者が対峙すれば莫大な量のエネルギーが消費されてしまう事を告げた。

 

「なら、勇者であるユリウス兄様が亡くなったのは……」

「勇者とアリエルさんを戦わせない為に。……そして勇者ユリウスを殺したのは、私です」

「——ッ!? そん、なッ」

 

 絶句するシュレインを無視し、勇者剣という特効武器についても説明する。

 その説明の間にショックから復活したシュレインが、剣を見ながら茫洋と呟く。

 

「この、剣が、か……?」

「ニーアさんレイセさんから、あなたの事は聞いています。出てきたらどうですか?」

『……やれやれ、ふて寝すら出来ぬか』

 

 私の呼びかけに対し、やや古風な言い回しの念話が、全員の耳へと響いた。

 それと同時に現れたのは、小さな体に膨大な力を秘めた、白き龍だった。

 

「あなたは……」

『我は光龍ビャク。この勇者剣の守護者にして、先代勇者を見守ってきた者だ』

「ユリウス兄様を?」

『然り。我と勇者剣を見つけ出したのは、お主の兄じゃ』

 

 勇者剣の装飾から浮かび上がるように出現した白龍はゆらりと宙を舞い、シュレインの首巻きと重なるようにその細長い体を巻きつけ、彼の肩に足を乗せた。

 

 新たに現れたビャクに対し、色々と聞きたそうなシュレインだったが、それをグッと堪えて此方へと向き直る。

 

「……続けてくれ」

「分かりました」

 

 その瞳には、隠しきれない怒りと悲しみが滲んでいたが、口には出さずに何処までも平坦な声で話の続きを求めた。

 

 そして、そんな魔族と人族、魔王と勇者の関係性は、システムによって定められたものであり、この関係は星が再生しシステムが不要となるまでは永遠に続く、呪われた法則なのだと告げた。

 

「星の状態がどれほど危機的な状態なのかは、実際に体感して貰う方が理解して貰えるかと」

 

 どうにも言葉だけでは、現在の状況がどれほど深刻なのか理解しきれていないようだと感じる。

 私は座り込んで休んでいる白ちゃんの傍に寄ると手を取り、先程の意趣返しも兼ねてやたら耳元の近くから呟く。

 

「白ちゃん、万里眼で宇宙から見た星を映して欲しいのだけど……」

「うへッ!? ……あーはいはい、了解ですよー」

 

 肩をビクリと跳ねさせ奇声が漏れた白ちゃんは小声で返事をすると、瞼を開いて紅い瞳を空へと向けた。

 そして白ちゃんの手に直接触れている私は、魂同士での感応によって感覚を共有し、白ちゃんが見ている景色を私が中継して、転生者たち全員へと共有させた。

 

「なっ」

「うお!?」

「こんな、嘘でしょ?」

 

 唖然、驚愕、戸惑いの声。

 

「これこそが、現在この星が置かれている実情なのです」

 

 今全員が見ているのは、宇宙空間に視点を置いた白ちゃんの視界。

 そこに映っていたのは、今もなお星の半分が崩壊したままの光景だった。

 

 自らの暮らす地が死に掛けの惑星であることに、まさかとか、そんななど、様々な声が上がる。

 

 事前に知っていた私たちの側を除いて、この場に居る全ての人が顔を強張らせ目を見開く。

 禁忌から先に情報を得ていたシュレインも、この光景を目の当たりにして驚きを隠せておらず、肩に停まった光龍のビャクもこうして見るのは初めてなのか低く唸り声を上げていた。

 

 そうして、一分にも満たない感覚共有だったけれど与えた衝撃は計り知れない時間が過ぎれば、真っ先に立ち直った先生が、私に質問をしてきた。

 

「……苔森さん。さっきの光景が、この星の本当の姿なんですね?」

「はい。間違いなく」

 

 続けて来た質問はこの星が後何年持つかという話で、その問いに少なくとも人族が寿命を迎える程度の期間では、星が崩壊したりする事は無いと説明した。

 

「——しかし、私たちにとっては別なのです」

 

 人族の寿命では問題は起きない、けれどエルフの先生のように長命だと、そして不老な吸血鬼のソフィアちゃんに魔物から進化したラースくん、最後に私と白ちゃんにとっては、他人事ではいられない。

 

 右手を人の形から苔の集合体へと変え、威圧感は抑えるようにしながら光輪と翅を展開する。

 それでも熾烈に青白く輝く光に、転生者たちは気圧されたような或いは魅入られたような顔で、私を見詰めていた。

 

「人族とも魔族とも違う、人外に生まれた私たちは不老とも呼べる寿命を持っていました。だからこそ星の危機には他人事ではいられず、まだ取り返しがつく今こそが、行動を起こす最初で最後のチャンスだったからなのです」

 

 だから今こうして、私たちはエルフを滅ぼし戦争を引き起こしてでも、星を救う為に戦い続けているのだと、深い覚悟を声に乗せながら全員へと語りかけるのであった。

 

 解放していた光を閉じ、右手を元に戻して人外らしい特徴を収める。

 その私の宣言を聞いて、再び黙り込んでしまうシュレイン。

 反論したい、けれどどう言っていいのか分からずに悩んでいるようだった。

 

 代わりに前へ出てきたのは、同じく魔物生まれで光竜から人化した姿が前世の容姿と非常に良く似ている漆原さんことフェイルーン。

 

「あー……予想なんだけど。あんたらって、あたしと同じ魔物生まれ?」

「はい。私と白ちゃん、そしてラースくん……あぁ笹島くんは、魔物から進化して現在の姿になりましたので。ソフィアちゃんは魔物では無いですけれど人外なのは一緒です」

 

 ソフィアちゃんの場合は、生まれながらの吸血鬼という出自であるが、人外で不老なのは一緒であるので、同じ範疇にある。

 唯一ユーゴーだけが、ごく普通の寿命しか持っていない人族ではあるけれど。

 

「……そっかぁ、マジかー。あたしも何か違っていたら、そっち側に居たかもしれないって事?」

「それは分かりません。私たちが集まれたのは、アリエルさんの御陰でもありますから」

 

 色んな事があったけれど、私たちが一つの場所に集う事が出来たのは、アリエルさんという旗印があったからこそ。

 

 アリエルさんが居なければ、私と白ちゃんは二人で旅を続けていただろうし、ソフィアちゃんも白ちゃんが見つけたという切っ掛けはあるにせよ、アリエルさんが保護しなければあの戦争後どうなっていたのか予想も付かない。

 そしてラースくんは、私たちがアリエルさんと一緒に旅をしなければ出会うことすら無く、今も雪山を彷徨っているか戦いの中で死んでいただろう。

 

 真後ろから、……いや、私の方は殺され掛けたんだけどなぁというボヤく声が聞こえたけれど、そちらの方は話がややこしくなってしまうので無視する。

 

 ——あれは、白ちゃんの自業自得の面も多々あるので。

 

「じゃあ……俺たちは、どうすればいい? こんな事を知って俺たちに何が出来る?」

「それは……」

「あーすまん。真剣な話してるとこ悪いんだが」

 

 顔を上げたシュレインが、悲壮な想いを宿した目で問いかけてきたところ、今の今迄すっかりと存在を忘れられていたサジンが、明るい調子のまま口を挟んできた。

 

 荻原くんと抱き合うような形で縛られたままという、なんとも言い難い状態であるけれど顔だけは真剣そのものといった表情で、如何にも重要な事を話すように言葉を紡いだ。

 

「漏れそうなんだ。トイレ行ってきていい? さっきので玉ヒュンして、もうマジ限界なんだわ」

 

 一瞬、力が抜けたのは不可抗力だと思いたい。

 密着して縛られている状態の荻原くんの方は、呆れ顔から驚愕へと激しく表情が入れ替わって、言葉にすればまさしく、嘘だろ!?と言っているような顔をしていた。

 

「良いんじゃないかしら? どうにも考えが纏まってないのも居るみたいだし、小休止って事で」

 

 そう言うが早いか、さっさと背を向けて離れていくソフィアちゃん。

 あまり興味がなさそうで、つまらなさそうな顔を隠しもせずにいた彼女は、その態度の通りに早々と立ち去っていった。

 

「じゃあ、ドロン!」

 

 サジンが叫びながら姿を消し、縛っていたものを失ったロープが一拍遅れて静かに落ちる。

 残された荻原くんは、大きく安堵の溜め息をつくと周囲を見回し、誰か僕のも外してくれないかと近くにいた男子へ訴えていた。

 

 

 それぞれ、姿勢を崩したり休憩したりする転生者たち。

 

 一転して緩い空気に変わったのを感じ、この状況では説明しようにも誰も身が入らないと察した私は、暫く白ちゃんと共にこの場から離れようと考える。

 

 私たちが居ては話せない話。

 そういうのもあるだろうと考えての行動だったけれど、背後から私に対し呼び掛ける声が——

 

「真理……ちゃん」

「ユーリ……いいえ、結花ちゃん」

 

 そこに立っていたのは、前世で友達だった長谷部結花が生まれ変わった姿。

 靡く銀の髪と翡翠の眼が深く、私を見詰めていた。

 

「ん」

「……わかったよ」

 

 白ちゃんからは私の事はいいからと示され、誰かに話しかけられる前に逃げるように、さっさと離れていった。

 そして遠ざかっていく白ちゃんに眉を下げながら目を細め、胸の内で燻る感情に蓋を落とすと、表情を元に戻し振り返った。

 

 今更、友達だとは心から名乗れはしないだろうけれど、せめて誠意を持って答えよう。

 それが、関わる必要の無かった友達を巻き込んでしまった側の、責任だと思って。




説明会が、全然終わる気配を見せない……
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