【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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準備段階 —クニヒコ・アサカ—

 時を同じくして——

 一定のリズムを保つ足取りで、クニヒコとアサカは無言のまま無機質な床に足音を刻む。

 

 二人は同じ室内に放り込まれていた他の転生者たちと同様に目を覚まし、予め禁忌を知っていたため気絶しなかったシュレインとラースから事情を軽く聞き、戻ってきたシュレイン達と入れ替わるように、部屋を後にした。

 二人が今の今まで他の転生者たちと一緒に居たのは、何かあった時にいざとなれば戦う力の無い転生者たちを守れるように、シュレインの真相を知ろうという誘いを断って残っていたのだった。

 

 まあ実際は、転生者を害する気など第十軍の末端ですら欠片も思って無く、それ以外の危険事は彼らが事前に排除していたので、そもそも杞憂というものだったのだが。

 それでも、万が一に備えて警戒するのは、冒険者という職種の職業病なのかもしれない。

 

 そして、そもそも二人にとって世界の真実なんて、実はどうでも良かった。

 クニヒコは、部族の仇であるメラゾフィスしか眼中に無く。

 アサカに至っては、前世から友人兼恋人のクニヒコ以外、あまり興味を持っていなかったから。

 

 

 ——二人は今でも、あの災禍を良く憶えている。

 荒々しくも結束感の強い気風だった生まれ育った部族の全員が、血と炎で塗り潰され惨殺されたあの日の事を。

 

 移動式住居が火に呑まれ、大人たちの地鳴りのような怒号と悲鳴が、何度も響いていた。

 硬いもの同士を打ち付け合う音が聞こえ、その後に一つまた一つと悲鳴が上がった。

 災禍が訪れる前までは、外に出て世界中を冒険してみたいなどと、拙い夢を描いて未来に思いを馳せていたというのに、その幻想は一晩で木っ端微塵に砕け散ったのだった。

 

 それを引き起こしたのは、たった一人の男と地竜二匹。

 戦闘音が響く内は何が起こっているのか、サッパリ分からなかった。

 ただ暴風や黒影が走ったかと思うと、次々と冗談みたいに人が死んでいったのだから。

 そして気が付けば転生者二人以外は全滅していて、目の前にあの男が立っていた。

 

『子供、か』

 

 ゾッとするほど冷淡な声で語り掛けてきたのは、今にも倒れてしまいそうなほど不健康そうな顔なのに、目だけが炎を反射して妖しい朱色をギラつかせていた痩躯の男。

 そして何のつもりか二人を見逃すという発言をし、背を見せ去っていこうとした。

 

『待て! 名前はッ!?』

『……メラゾフィス』

 

 復讐の念に染め上げられたクニヒコは男の名を問い、彼はそれに答えた。

 クニヒコには何の為にこの男が部族を殺し、何故自分たちだけ見逃したのか分からなかったが、そんな事は全て仇討ちという想いで塗り潰されたのだった。

 

 対し、アサカは気を失いそうほど恐怖に震えつつも冷静だった。

 あぁやっぱり、消される時が来たのだと。

 能天気な幼馴染と違って彼女は、自分たちの部族の本質が、盗賊となんら変わらない野蛮極まるものだと薄々気付いていたのだ。

 大人たちが血気盛んに戦闘訓練に明け暮れている事、時々外から帰ってきた大人がちょうど人間の頭部くらいの革袋を携えていたり、それを持って街へ出ていったり。

 今日は何人魔族を殺しただとか、報奨金は幾らだとか、大人はそんな話ばっかり。

 そして、()()があった日の夜は毎回お祭り騒ぎ、戦利品と酒を掲げ朝までとても煩かった。

 

 だからこそ、聡明な彼女は嫌でも気付くというもの。

 野盗まがいの合法盗賊団な部族は、遂に邪魔だと結論付けられ排除される時が来たのだと。

 心の内で諦観に苛まれつつも、どうかお願いクニヒコだけでも逃げてと思いつつ、庇おうとする彼の背中に炎など目じゃないくらい熱い想いが湧き上がって——

 アサカがクニヒコの事を、どんな事があっても一生支えようと思ったのは、この時だった。

 

 そして、二人して穴を掘って遺体を弔い、残された馬車や家財を集めて、肩を寄せ合い寂しさと悔しさを噛み締めながら、途方に暮れつつ近くの街へと行くのであった。

 それからの二人は、当然身寄りも無いので教会の世話になり、親切な冒険者から手解きを受けて転生者のお約束かメキメキと実力を付けて、気付けば有数の実力を持つ冒険者となっていた。

 

 神言教が運営する孤児院は質素だけど穏やかで居心地良く、傷を癒やすことに専念出来た。

 街に入る時ちょっとした一騒動があって、その縁で知り合った日本人っぽい名前をしたお人好しの冒険者からは、師弟関係を結び戦いの基礎をみっちり仕込まれた。

 

 失ったものも沢山あるけれど……けれど、新たに始める事も出来た。

 二人三脚で修行と冒険の日々、風龍と雷龍なんていうS級魔物の討伐に参加して死にかけた事もあったが、どれも精一杯必死に取り組み、そしてお互い苦笑し合う事もあった。

 このまま復讐なんて止めて、ずっと二人で冒険を続けている方が、余程幸せなのではないのかと思うほど、満ち足りた時間だった。

 

 しかし——運命の糸車は、二人を舞台へと誘い込んだ。

 

 人魔大戦と呼称される、過去に類を見ないほどの大規模な戦争。

 それが、二人を因縁の相手に会わせたのだ。

 

 あの日、メラゾフィスを相当な実力者だと朧げながら認識していた二人は、そうであるなら魔族の将かそれに相当する存在として、大きな戦いなら必ず出てくるだろうと思った。

 実際、Bランク以上の冒険者は強制参加などと言われていたので、クニヒコは戦意を滾らせて、アサカはそんなクニヒコに付き合って、この戦争へと参加した。

 

 そして部族の仇であり所属が敵同士であり、偶然にも同じ戦場で出会ったのなら、後は言わずもがなだろう。

 二人とメラゾフィスは、戦場で刃を交えた。

 だがしかし、その差は二人が思っていたよりも余りにも隔絶していたのであった。

 

 剣を振る——余裕を持って防がれる。

 魔法を放つ——こちらを一瞥すること無く、易易と相殺される。

 そして相手の反撃は正確無比——全力で回避しなければ、次の瞬間には命が無いと感じていた。

 

 単純なステータスの差だけでは無い、磨き抜かれた技術こそが何より恐ろしいほど段違いで。

 またこれでも近中距離戦を仕掛ける二人の対応自体が片手間に行っている事であり、遠く砦からメラゾフィスに向けて飛んでくる超高威力の精密狙撃な魔法の弾丸を捌きながらの戦闘だった。

 

 流石に三方向からの同時攻撃を防ぎ続ける状況に苦しげな顔をしていたが、それでもまだ余力を残しているのを垣間見えるのが、彼のデタラメな化物度合いを示していた。

 一番威力が高く、彼に手傷を負わせられそうな狙撃を相殺するのに意識が割かれていなければ、冒険者の中で上位に位置する程度の二人では、瞬く間に返す刃か魔法で殺されていただろう。

 

 その均衡が崩れたのは、四人目の攻撃が加わったからだ。

 ローブを被った小さな子供から放たれる風の魔法。

 その援護でようやくメラゾフィスへと攻撃が届くようになり、即席の連撃が叩き込まれた。

 

 しかし、彼が血を流したのは狙撃だけであり、クニヒコとアサカそして小さな子供の攻撃では、傷一つ付かずに全て生身で受け切られたのだった。

 その事に絶望した次の瞬間——彼は周囲の状況を見てすぐさま撤退と叫んだ。

 

 戦場全域に聞こえたのではという大音量で魔族軍に撤退命令を下すと、メラゾフィスは背を向けて走り去っていったのだった。

 いっそ、惚れ惚れするほどの鮮やかな引き際。

 それを呆然と眺めた後、認識が追いついた事で二人は崩れ落ち、遅れて脳が疲労を訴えていた。

 

 二人の人魔大戦は、その一戦で幕を引いた。

 双方尋常では無い数の死者を出し、自軍が砦ごと壊滅するか逆に敵軍を壊滅させるかという極端な結末となり、どちらも再度の戦争など不可能だと感じる傷跡を両軍へ刻み込んだのだった。

 

 そして小さな子供の正体が、前世の担任である岡崎先生だと本人から明かされ、他にも保護している転生者がいると聞き、しばらく休養がてら先生の誘いに乗ってエルフの里へと赴いたが……

 

 

 

 

「まさか、こんな事になるとはな……」

「まったくね」

 

 ぼやく声に覇気は無い。

 実は星が危険な状態で? 若葉さんこと白さん達は救済の為に戦争を仕組んだ側で? 

 仇のメラゾフィスもそちら側だったと? 冗談も休み休み言って欲しい。

 

 だが、これは千載一遇の好機。

 この機を逃せば二人が、主にクニヒコが知りたいと思っている、あの日の真実は永遠に闇の中に閉ざされたままだろう。

 

「あー、にしても頭いてぇェ、気持ち悪ぃ……なんでアサカは平気そうなんだ?」

 

 歩いている最中、過去を振り返るのと同時に禁忌による不快感で頭痛が発生し、喉から搾り出すかのように、クニヒコの口から低い呻きが漏れる。

 

「まあ、慣れよ。————前にクニヒコが、大ポカやらかした時よりマシね」

 

 最後の方は隣には聞こえないように呟き、アサカはとても深々と嘆息して首を振っていた。

 ちょっとした不注意やミスをよくやらかし、毎回そのフォローで頭を悩ませたアサカにとって、この程度の不快感は耐えられなくも無い範疇であった。

 

 過去の回想を打ち切り、二人は歩く。

 エネルギー節約の為か仄暗い通路を歩き回りながら、教えられた区画の位置を確かめつつ目的の場所へと、クニヒコとアサカは(ようや)く辿り着いた。

 

「——此処か」

 

 目の前の扉が自動で開き、部屋の輝度の違いで僅かに目を細める二人の視界に映ったのは、この宇宙船に整備されたカフェテリア。

 そこに、目的の人物たちが居た。

 

「なんだか、奇妙な懐かしさを感じるわよね。そう思わないかしら?」

 

 入り口側を振り向きもせずに言葉を発したのは、白磁の指でカップを摘まみ上げ、優雅にお茶を飲むソフィア。

 如何にも蒼き薔薇といった貴種の気配を醸し出す彼女と、近未来的な内装の飲食スペースとでは何ともミスマッチ感が強いのだが、彼女はこういう感じの場所にも()()()()()()と、慣れた様子で飲食を楽しんでいた。

 

「まあ……同感だな」

「そうね」

 

 そしてその彼女に返事する、隠しきれぬ赫怒の滲む声と覇気の無き憂い声。

 何故ならソフィアの背後には、従者の鑑とばかりに洗練された隙の無い立ち振る舞いで控える、メラゾフィスの姿があったからだ。

 

「それで、そんな怖い顔して一体何の用かしら? まあ何となく予想はつくけれど」

 

 艶然(えんぜん)と外連味たっぷりに(うそぶ)くソフィアは、手に持ったカップを傾け上品に微笑する。

 それは綺麗でもあるが妖しく、転生前が二人と同じごく普通の日本人だと思えないほど、彼女は気品に満ちた風格を醸し出していた。

 あまりの色香に一瞬呆けるクニヒコだったが、すぐさま気を取り直し臆せず言葉を叩き付けた。

 

「用があるのは、メラゾフィス唯一人だけだ。あんたが十年くらい前に滅ぼした、人魔緩衝地帯の集落——俺たちはその生き残りだよ。まさか、忘れたとは言わねぇよな?」

 

 憎悪を宿した視線で射抜きながら、叩き付ける怨み返しの念。

 過去の罪過を取り立てに来たぞと、クニヒコは奥歯が割れんばかりの形相で睨んでいた。

 

「…………ええ、勿論憶えておりますとも」

「ふぅん……メラゾフィス、相手してやりなさい」

 

 その視線を、静かに噛み締めるように受け止めるメラゾフィス。

 対しソフィアは、何処吹く風と二人の姿を流し目で確認すると、これもまた一興と自らの従者に許可を出した。

 

「ですがお嬢様、宜しいので?」

「構わないわ。私は一人でお茶しているから、気の済むまで彼らを持て成すといいわ」

「……かしこまりました」

 

 そうして席を立ったソフィアは、併設されている厨房スペースへと軽やかな足取りで進み、何か興味を惹かれそうなものが無いか、にこやかな笑顔で物色を開始するのであった。

 

 妖艶さ匂う美人から一転し童女みたいな屈託の無さを見せ、その落差に驚き声が出ないクニヒコとアサカの二人。

 その様子に、メラゾフィスは無言を貫くものの内心では、小さなぼやきが零れていた。

 

 ——まあ、お嬢様も白様ほどではありませんが、外見と内面のギャップが激しい方ですからね。

 

「では、此方へどうぞ。お客人」

 

 内心をおくびにも出さず磨き抜かれた完璧な礼をもって、メラゾフィスは呆気に取られたままの二人を席へと案内するのであった。

 

 

 

 

「——どうぞ、ハーブティです。気分が落ち着きます」

 

 二人が席につくなり、メラゾフィスは空間収納が付与されているらしき白地の袋から新たな磁器を取り出し、手慣れた様子で芳しい湯気を立ち上らせる蜂蜜色の液体を注いで二人の前へと静かに差し出した。

 

「……あざます」

「頂きます」

 

 メラゾフィスの如何にも出来る男といった気遣いに、クニヒコは釈然としない気持ちを抱きつつ一応礼を言い、アサカは今更毒を入れるなど回りくどい事などしないと確信しており、素直に口を付けて風味を味わっていた。

 少し離れたところでは、探し出した合成食料や保存食を前に味見をして、表情を千変万化させているソフィアが居たが、そちらの方は意図的に無視して二人はメラゾフィスに向き合った。

 

 そして、どうして自分達の故郷は滅ぼされたのか真相について問うクニヒコに、メラゾフィスは思惟を巡らしゆっくりと口を開いた。

 

「あまり気分の良い話ではありませんが、エルロー大迷宮までの移動時間で答えられるだけ応えましょう」

「ああ、構わないぜ」

「では、少々長い話となりますので、さっそく始めましょうか」

 

 そうして、なるべく客観的に話すが魔族よりの視点である事を前置きして、メラゾフィスは語り始めた。

 魔族の内乱、反乱軍、裏から支援するエルフ、その中に交じっていた先生こと岡ちゃん、反乱の電撃的鎮圧、戦力の大半を喪失し安全な帰還経路を失って取り残されたエルフたち。

 残存した先生含むエルフが人族領に戻るためには人魔緩衝地帯を通る必要があり、彼らを無事に脱出させるためには、そこを縄張りとする盗賊もかくやな部族を先立って排除する必要があった。

 ——それが二人の部族であるとメラゾフィスは語った。

 

「マジかよ……アサカは知ってたのか?」

「当然、薄々察してたわ。うちの部族がどういうものか、ギルドに訊けば確証も得られたわよ?」

「何も知らなかったのは俺だけかよ……ッ」

 

 クニヒコは自分の部族が、そんな野蛮な存在だとは思ってもみなかった。

 しかしアサカは、最初から理解していたので平然と受け止め、話の続きを促した。

 

「何故、先生を捕虜なり何なりで確保しなかったの?」

「したくでも出来なかったのです。ポティマス・ハァイフェナスの他人の身体を乗っ取れるという支配のせいによって」

 

 そうして明かされる、ポティマスの悪辣さ。

 それを聞いて、星を滅ぼすに飽き足らず能力までもがえげつないと悪態を吐き捨てるクニヒコ。

 

 そして話は尚も続く。

 きっかけは先生だったが、君たち転生者があの場所にいた事も、あの時点での部族の壊滅を決定づけたと、メラゾフィスは言う。

 人魔の境界線であり、どのみち戦火に呑み込まれる危険地帯だった事。

 そうなれば未来において部族の壊滅は決定事項であり、その部族に所属しているとなれば二人を巻き込みかねず、また転生者を集めている先生に引き合わせる訳にもいかなかった。

 それゆえ、当時転生者について理解がありかつ転生者が顔を知らない、自由に動ける戦力として自身が実行役として選ばれたのだとメラゾフィスは締め括った。

 

 よもや自分達のせいでもあると聞かされ、転生者は疫病神か何かかと自嘲するクニヒコ。

 しかし、先程も言ったように遅かれ早かれ戦争に巻き込まれ滅ぶ運命だったと、メラゾフィスは彼を慰めた。

 

「あなた方から見れば、私の行いは到底許されざる事でしょう。ですので、私を怨む正当な権利は当然あります。……ですが、謝罪は出来かねます」

 

 相手の想いに理解を示し、復讐は何も間違っていないと言いながらしかし、メラゾフィスは罪の清算には答えられないと、驚くほど真っ直ぐに精錬された想いで返答した。

 

「私にも、軽々しく命を差し出す訳にはいかない理由が当然あるのです」

 

 そう言って、ちらりとソフィアの方に視線を遣るメラゾフィス。

 一瞬見せた態度に信念と忠義を垣間見て、何となく彼の芯というものを察してしまった二人。

 

「あなた方の挑戦はいつでもお受け致しましょう。しかし、その場合は我が忠義に懸けて今度こそ全力で排除させて貰います。——話は以上です」

 

 これが自身に出来る最大限の譲歩だと誠意すら窺える言葉に、苦々しい表情で顔を俯かせ、拳をテーブルに打ち付けるクニヒコ。

 

 そうして、メラゾフィスが席を立とうとした瞬間——新たな宣告が全員の脳裏へと響いた。

 

 

《ワールドクエストシークエンス3:神話の戦いに乗るか降りるか、祈りで以て答えよ》

 

「うぐッ!」

「今度は何なの……?」

 

 脳内で掻き鳴らされる不快な思念、それに表情を歪めるクニヒコとアサカ。

 対し、開示された内容を瞬時に読み解いたメラゾフィスは、未だ気持ちの整理がつかない二人に背を向けた。

 

「——では、失礼しますお二方。今後についてお嬢様とも話し合わねばなりませんので」

 

 静かに現状を理解したメラゾフィスは、何かの魔物肉を缶詰にしたものを味わっていたソフィアの傍へと控え、短く一言二言を交わすと彼ら主従は部屋を後にしたのだった。

 

 

 

 

 そして——取り残された二人はというと。

 

「どうしろってんだ、ちくしょうッ!!」

「…………」

 

 怒りと無念と困惑に、肩を震わせるクニヒコ。

 その彼に、無言で手を添えるアサカ。

 どうするべきか決める為に真実を聞きに来たのに、余計迷ってしまう体たらく。

 クニヒコは、もしこの復讐を成したところで得られるのは後味の悪い虚しさだけだと、軍人然と従者然と鋼の忠誠心を宿す好感の持てる男を完全に憎みきれないと——そして自分の復讐は真実を知って容易く揺らぐような、その程度のものだったのかと深く重く悩むのであった。

 

 空になったカップには、何も無い。

 彼ら二人の心を示すかのように、何処までも空虚な中身を晒していたのだった。




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