私は、コケちゃんと似た特徴の人をもう一人知っている。
かつて掛け合わせた生物の種名を捩って、タラテクトと呼称されていた実験体。
そして、掠れ声で相手の名前を反芻して聞き間違えられたという些細な食い違いによる経緯で、アリエルという名を貰った少女は、遠い昔に失った過去を想う。
翠の髪に、飛ぶことは出来ない形だけの翅、半ば硬質化した皮膚の手足、茫洋とした瞳──
それが、私の知る
目付きがボンヤリとしていたのは、かなり目が悪いからで、そのせいで鈍臭くよく転んでは涙を浮かべる泣き虫な子。
その子のことを、ここ最近の数年間にて何度も思い出していた。
私の生い立ちは、少々どころではなくかなり特殊だ。
あのポティマスが、不死の研究のために行った事は多岐にわたる。
その内の一つとして作り出されたのが、私達キメラという、遺伝子から根本的に手を加えられた実験体たちが挙げられた。
あいつは長くとも精々百年ちょっとしか生きられない短命な人間という枠組みに、早々に見切りをつけたのだろう。
その試行錯誤の過程で、様々な種を掛け合わせたキメラが作られる事となった。
エルフという種族も、これらの知見と成果あってこその、ポティマスなりの最適解な人類の進化という奴なのかもしれない。
当然、そこに至るまでに夥しい犠牲と失敗の山があったのは間違いない。
私もその一人。
救助される前は、自由や人権など一切無く、チューブと機械の付いた実験用のベッドに縛り付けられたままの生活だった。
そして当時人間だったポティマスが国際指名手配された際、データを取り終えて用済みとされたキメラ達は、一々処分するのも手間と完全に放置されていたのだ。
点滴の中身は尽き果て生命維持に必要なモノが完全に停止する寸前、もはや風前の灯。
けれど、そんな薬品臭のする地獄の底から救い出してくれたのが、今も慕うサリエル様に他ならない。
──あのときは本当に心の底から、物語に出てくる慈愛の女神様のようだと思ったんだよ。
私を含む救出されたキメラ達は、生まれた時から今までずっと実験体生活だった事もあり、医療施設が併設された孤児院へと一箇所に集められた。
そこで初めて、私達キメラは人間らしい居場所を手に入れたのだ。
掛け替えの無い人達と過ごしていた、優しい日々。
私を含む、遥か昔にて同じ孤児院にて暮らした、キメラという共通の繋がりがあった家族たち。
ポティマスの実験によって作り出された、人に様々な種族の要素を混ぜ合わせ掛け合わせ出来たキメラの生き残りが、治療と延命を受けながら同じ家にて暮らしていた。
私自身には外見上それと分かるような特徴は無かったけれど、保護された子供の半数は、一目で普通の人間では無いと分かる特徴を持っていた。
耳が長く尖っていたりだとか、肌の色が緑色だったり、全身が毛で覆われていたり、頭髪の色がピンクだったり、人型の龍みたいだったり……
程度も形状も様々な一人ひとり特徴の異なる、実に個性豊かな同類であり私の家族達だった。
しかしキメラは、ただ外見が特徴的なだけの人間という訳では無い。
生まれながらにして抱える、身体機能や身体的欠陥も多種多様に千差万別で、優れた性質を獲得していた人もいれば、私みたいに欠陥ばかりの人もいた。
私の欠陥は、自分の体内で勝手に栄養を消費して、毒物を作り出してしまう事。
しかも生合成した毒に身体の方は一切適応していないので、そのまま中毒になる始末。
根本的に完治させようにも、文字通り身体を作り直すような、そんな不可能としか言えない手段でもなければ、私達キメラの身体はどうにも為らない仕様上の問題だった。
おかげで解毒と栄養剤の点滴は外すことが出来なかったし、内臓とかもうボロボロ。
食べられるものなんて、消化の良い流動食しか受け付けなかった。
毒を生成するのに栄養を使って、身体を治すのにも栄養を使って、慢性的な栄養失調だったものだから、身体は全然成長せず今も小さいままで止まってしまった。
白ちゃんやソフィアちゃんのような肉感的な身体になりたいと思ったこと、少しはあるさ。
とはいえ、見込みも既に皆無ならば仕方無しと、もう割り切ったけどね。
まあ、私のことは此処までにしておいて──その内の一人こそが、コレーちゃんだ。
コレーちゃんの場合はキメラらしいって言うのもアレだけど、外見からして分かりやすい特徴を宿していた子だ。
首裏から突起みたいに生える、飾りにしかならない小さな翅。
首周りや手足を覆う絨毛に、ちょっと硬い皮膚をしている四肢の末端。
手足が物理的に硬いから運動神経が悪く、私たちの中では下から数えた方が早い身体能力。
内臓器官の欠陥から食事は液体しか摂取出来ないけれど、宿した植物の特性から必要な栄養素は一応最低限自己生成できて。
けれど、余計な
けっこう異形ではあるけれど、それでも私達キメラの中では中程度の異形度合いと、色々と中途半端で不出来な少女だった。
だからこそ、保護された時はポティマスに使い潰される寸前で放置だったらしく、しばらく専用の集中治療室で眠り続け生死の境を彷徨っていた。
もし何かしら運命の歯車が少しでも掛け違っていたら、彼女はそのまま亡くなっていた事は想像に難くない、
そんなコレーちゃんだったからこそ──
だいぶ質感や差異はあったけれど、私が初めてコケちゃんの人化姿を見た時に、コレーちゃんの面影を重ねてしまったのも、まあ無理も無い。
運動出来ないのと食事制限されてる組という共通点から、まあまあ仲は悪くなかったし、記憶にある思い出も多いのだから。
向こうからは私のことを、親しみを込めた愛称で“アリィ”と呼ばれたりもした。
それに、システムが施行されてからも同じ陣営で──サリエル様救済の為に手段は問わない側で一緒に裏方やったりと、私が弱かった時期に過ごした時間が最も多かったのも彼女で。
少々倫理的にもとるが、
守られるだけの立場に、同じ歯痒さを味わったり。
怪我した仲間を、一緒に心配しながら手当したり。
行ったきり二度と戻らなかった仲間を想って、共に悲しみの涙を流したり。
笑ったり、悲しんだり、喜んだり、嘆いたり、満たされたり、失ったり──
いっぱい、たくさん、幾重ものの──忘れられぬ、忘れたくない日々が、そこにはあったんだ。
その、思い出の最期は──
『けほっ、ごふ…………あぁ……もうなんにも見えないよ……アリィ、そこに、居る?』
『結局、届かなかったけど……私たち、頑張ったよね……』
『先に、休むね……アリィ…………』
『また……みんなと笑えたら……もう一度、あの日々のように……いつの日か、きっと──』
『そうなったら、嬉しいなぁ────────ェル、ぁ、ま……捧げ、ま、す』
────どこまでも美しく鮮彩に、翠は灰色となって星へと散っていった。
「──っ、ぅ」
アリエルは瞼を開く。
視界に映ったのは、無機質な内壁。
少し疲労でボンヤリとする頭に活を入れれば、ようやく此処がポティマスの宇宙船の一室であることに、夢現な思考から認識が追いついてきた。
どうにも謙譲の副作用からか、上手く機能していないスキルが多い。
状態異常無効がきちんと働いていれば、数日間ほど徹夜したとしても、全く眠気に襲われること無いんだけど……
神言教と魔族、両方との交渉が終わってこっちに戻ってきた途端、電池が切れたみたいに眠ってしまったみたいだ。
どちらも今は、翠魔に対抗するため軍を移動させている真っ最中。
緊急事態という事で、各国の転移陣は何処も彼処も大忙し。
ダスティンが顔を顰めながら折衝に尽力しているのが、容易に想像つくなぁー、はははっ。
トップを繋いだ以上、私に出来る事は無くなったので少しばかり休憩をと思ったが、予想以上に疲れていたようで椅子に座るや否や夢の中へ、というやつだろう。
身体を預けていた椅子から立ち上がろうとしたが、思うように力が入らず再び脱力して背凭れに寄りかかる。
やけに身体が怠くて重くてしかたがない。
「はぁぁ……そういえば安静にしてって言われてたんだった。以前の感覚のようにって訳にはいかないかぁ────ん?」
ちょっとした違和感を覚えて、目元に指を添える。
指先にそっと染み込む水滴の粒。
頬に熱いモノが伝う感覚。
拭っても再び滲んでくるこれは、涙……? あぁ──
「…………もう一度、あの日々のように」
そう、誓って──頑張ってきたんじゃないか。
最後の一人になっても、一人ぼっちになっても──ずっと。
萎んでいた身体に意思を籠め直し、肘置きで身体を支えながらゆっくりと立ち上がる。
少しふらついて立ち眩みのような感じがしたが、数秒ほど深く呼吸を繰り返せば、ようやく炉に火が入って内側に熱が巡りだしてきた。
一人ぼっちになってしまった臆病な魔王に、期せずして再び紡がれた仲間たち。
擦り切れそうなほど長い人生からすれば刹那に等しい、心から楽しいと思えた時間。
これが私という生涯の、燃え尽きる寸前の輝きであるのなら、それで良い。
ならば最後の
私の願いと誓いは今も昔も変わらず、笑顔で笑い合える結末を迎えること。
だから──
「必ず、助けなくちゃ──今度こそ絶対、涙に濡れた灰色になんて、させないから」
あの日々の恩を返すためにも。
望んでいたものは叶ったんだ、なら
だからあともう少しだけ、私に力を──
そうして、弱体化した今でも使える、自分の手札について確かめていると。
前触れも無く室内に、静かな足音が響いた。
その憶えのある気配の主へと振り返ってみれば、予想通りの白い人物が──って。
「ちょっと、白ちゃん。どうしたのその服、ボロボロじゃん」
いつもの美麗な印象を与えるローブのような服が、まるで長年放置されて腐り落ちたかのように黒ずんで穴だらけな状態。
破けた布地から白い肌が覗け、力を籠めて引っ張れば完全にバラけてしまいそうなほど、かなりアブナイ格好に白織はなっていた。
「思ったより大迷宮の最下層はヤバイ状況になっててね。腐蝕の瘴気って感じのが充満しててさ、転移した瞬間すぐに対抗術式で本体まで被害が及ぶのは防げたけど、服はご覧の通り少しだけ間に合わずに瘴気に蝕まれてお亡くなりにって奴」
塵となって崩れる寸前といった様子の袖をヒラヒラさせながら、軽い調子で白ちゃんは言う。
「あーもー、聞きたい事も言いたい事も沢山あるってのに……取り敢えず着替えてこいっ! 話はそれからだ!」
「はいよ。────やっぱこの服だと、激しく動くには不便か。
そういうと、さして恥じらいも何も無く、傷んだ服を脱ぎ捨てていく白ちゃん。
入口からは死角になる部屋の隅にて、白ちゃんは手早く新たな装いへと着替えるのであった。
────
──
「……これでよしっと」
魔王に言われた通り、駄目になった服から新たな服装へと着替えた私。
今更と言えば今更だったんだけど、普段から着ていた服は袖口とかスカートとかがヒラヒラしている、実に運動には向いて無さそうな見た目と着心地重視の服だったんだよね。
神になり力が復活してからは、攻撃は邪眼か空間魔術ブッパで遠距離から安全に仕留め、移動と回避は転移でどうにかなる相手ばかりだったので、あの服装でも別に問題無かったのだ。
私の戦闘スタイル的に、知覚外からの暗殺か一方的な嵌め殺しが可能なら、そうするからね。
そういう場合だと、そもそも動く必要すら無かったり。
けれど、システム中枢での影戦しかり、エルフの里での暴走コケちゃんしかり──
そしてこれから向かう、私の
今後は大鎌を用いての近接戦闘も視野に入れた装備にしておかないと、インフレバトル感の出てきた熾烈さを増していく戦闘に、色々と対応出来なくなるだろう。
そういう意味では今着ている服装は、機能性も拡張性も含めて一級品な自信の一張羅だけど──
「おぉ……様になってるじゃん。格好良いし似合ってるよ、白ちゃん」
魔王が私の姿を見て、感嘆するように呟きを零す。
ふふんっ。
まあ、それもそうだろう。
この服装は、第十軍に私特製の衣服を支給するかって時に、試作として自分用に作った軍服風な衣装とそのセットなのだから。
首周りに余裕のある立ち襟を、指で整える。
青みを帯びた白銀のジャケットとズボンは丈夫な生地で縫製されており、内側には魔術的補強の精緻な刺繍も隙間無く施されている。
飾りボタンや飾り帯なども特別製で、光の加減で黄金にも蒼銀にも見えるそれらは、神格二人の複合素材で出来ている──要はコケちゃんの髪を貰って混ぜ込んだ高純度のエネルギー結晶体だ。
まあ他にも色々と細かい仕込みはあるけれども、大まかな外見はそれ。
総観して、金紗を差し色にしている純白の軍服っぽいものとなる。
これ一着作るだけで相当時間を掛けた代物であり、それに比例するように性能も折り紙付き。
魔術的防護が何重にも自動発動している、自分でも盛り過ぎたと思うほどの、大鎌とは別の意味での神器に匹敵する一着だった。
作ったは良いけれど、なんだか普段遣いには勿体無く感じてしまい、異空間に仕舞い込んで埃を被りかけていたそれを私はひっぱりだし、これからは本気である証も兼ねて着替えたのだった。
……ちなみに第十軍には結局、此処まで手の込んだモノを全員分作るとなると死ぬほど面倒臭いとなったので、シンプルな肌着を配るだけにしたんだけどねっ!
それでも充分過ぎるほどに強度や防御性能があるのだから、急所を守るにはそれで事足りるし、不要な手間を惜しんだともいう。
っと、そうだ最後に──
「これ付けてくれる? 魔王」
取り出したのは、純白の花飾り。
それはコケちゃんの持ち物だったモノであり、今は髪紐と合わさった形にしてある。
彼女のモノを勝手に改造するのもどうかと思うが、まあ許してくれるだろう。
それを私は、今の髪型を解いて魔王につけてほしいとお願いする。
「えっと、それは────うん、分かった、ポニテで良い?」
「ん、頼んだ」
これで装いも完成。
決意も誓いも新たに私は違う自分を掴み取り、真実最高の未来を織り上げるため、新たな姿へと変わったのだ。
「それじゃあ──白ちゃんも着替え終わったし、今の状況を確認し合おうか」
「了解。先に魔王から説明お願い」
「あいよ」
エルロー大迷宮から一旦戻ってきた理由も、現在の人類側の対応がどうなっているのか確かめにきたのだし、内心でふざけるのも止めて真面目に話を聴く。
余計な言葉を挿むこと無く、私たちは情報交換を始める。
神言教による各国への呼び掛け、魔族軍との共闘体制、混乱覚めやらぬ市井の人々への誘導──そしてワールドクエスト。
ざっくり要点を抜き出せば──Dの悪辣な遊びに全人類が参加を強制されて、自分だけ助かればいいと人類の大多数が逃げの選択肢を選べば、もれなく全員道連れで死ぬっぽいて事か。
まさにDらしい、甘さや優しさなど無く弱さをみせれば絶望の中で死ぬがよいとばかりの、クソみたいな難易度の試練だ。
生存ルートらしき選択にしたって、人類だけでは勝機なんて一切無いような極悪さで、うち一つは神殺し? 本当にふざけるなよッ、Dめッ!
そんな人類の総意を試される、決意表明。
現在の状況は、降りるを選んだ人類は二割に少し足りない程度。
どれくらいがボーダーラインなのか不明だけど、未だに先生が予告する結末が変わらない以上、このまま放置した場合での人類の末路は、滅び一択。
人類の末路なんて、実のところどうでもいい。
愚かな奴が多かったから死ぬ、それは自業自得だ。
だけど──コケちゃんが一緒に巻き込まれるかもしれないとあれば、止めるしか無い。
それ以外の選択なんて、私には無いから。
ならば──
「じゃあ、こっちも説明する。今のエルロー大迷宮の状況だけど──」
私が単独で行動していた出来事を、魔王に語る。
とはいっても、魔王のように煩雑な交渉事を色々やっていた訳じゃないし、言葉にすれば大して長くない説明ですむ。
分体がヤラれた事から、直接本体でシステム中枢に乗り込むべく大迷宮の最下層へ転移したが、既に最下層にも腐蝕の瘴気が充満していて生物が立ち入る事が不可能な領域になっていた事。
自分の周囲を結界で防御しながら奥へ進んだが中枢前の扉がロックされていて、見た感じ三体の上位個体な翠魔を撃破しないと封印が解除されない仕掛けを施されていた事。
強引にこじ開けようとしてみたが防衛機構が反応して、物量で押し流すように小型翠魔が大量に湧き出してきて、防護と解錠と戦闘を並列して行うには厳しい状況だったから一旦引いた事。
溢れ出した小型翠魔は、支配者的存在であるマザーも地龍もそしてコケダマも居なくなっていた最下層を一気に占領し、その物量でもって迷宮内の生命を駆逐しだした事。
そして、下層にいたベイビーズこと悪夢の残滓と邂逅し、翠魔が地上に出て来ないように無理のない範囲で戦えとアイツらに封じ込めを指示して、最下層から溢れてきた翠魔をある程度一掃してから此方へと帰還し、今に至る。
その一連の過程を、魔王へと順序立てて説くのであった。
「ふぅむ……やっぱり地上の翠魔は、私たちで必ず撃破しなくちゃ為らないみたいだね」
険しい顔で私からの情報を噛み砕いた魔王は思索も短めに、為すべき事を端的に示した。
大厄災の中核である翠魔レルネーを撃破するにしても、私がシステム中枢へ突入するにしても、どちらも三体の上位個体を撃破するのは必須。
翠魔レルネーと戦闘中に背後から襲われたら堪らないし、そもそも何もせず通すとは思えない。
仮に無視されたとしても、今度は力無き人々に向かうかもしれないと、そう語った。
「……私は手を貸さなくていいの?」
神は手を出すなって話だが、直接でなければ色々とやりようはあるはず。
Dのことだから、破った場合の罰則は想像の遥か上をいき、危ない橋かもしれないがギリギリの範疇で援護出来るのではないかと告げるが──
「いらないよ」
そうあっさりと、魔王は提案を断った。
「少なくとも地上の事は、私たちで何とかする。何もかも神頼みなんて、それこそ生きている意味なんて何一つ無いじゃんか。だから、これは私たちに任せて」
軽快に言う口調に、無理や抑圧しているような感じは無い。
魔王は本心から、これは自分達で立ち向かうべき問題であり私の手は必要ないと答えていた。
「白ちゃんは、白ちゃんにしか出来ない事をしに行って。私たちではシステムの事詳しくは分からないからさ……だからコケちゃんを救う役目は、白ちゃんに任せるしか無いんだよ。白ちゃんは、私たちを気にせずそれに集中して欲しいんだ。それが
──そう言われたら、反論できないじゃんか。
だから私は、何も言わず静かに頷くだけで返答とした。
籠められた想いを察してしまうからこそ、余計な言葉はこれ以上無用だった。
ありがとう、
出会いは最悪だったけれど、積み重ねてきた思い出は悪くなかったし何だかんだ楽しかった。
今では出会えたことが、心から本当に良かったと思うよ。
だけどさ、最後に一つだけ言うなら。
「死ぬなよ」
「──分かってるさ」
少し不安の交じる言葉だが、私が何を言っても魔王の決心は変わらなさそうだ。
それが心配と不安になりそうだと感じたその時──
「私はまだ死なないよ。サリエル様とだってまだまだ話足りないし、白ちゃんとコケちゃん二人の行く末を見届けてからでないと、死んでも死にきれないさ」
肩を竦めてカラカラと弾ける笑い声。
そしてそのまま、さらっと爆弾を放り投げてきた。
「だからさ、どうせなら私が生きている内に、二人の結婚式見せてよ」
「んなぁッ!?」
ちょっとぉ!?
それは色々と、段階すっ飛ばし過ぎではありませぬかぁぁ!!??
「おーおー顔真っ赤。白ちゃんもそんな表情できるんだねぇ」
「魔王っ!」
「怒んない、怒んない。…………約束だよ」
「──ッ、くっ」
それで魔王が最後の一線を越えるのを思い留まるのなら、仕方無い。
魔王にだって、死んでほしくないのは確かなのだ。
「…………約束する」
「ありがと、白ちゃん。いやぁー楽しみだなぁ、早々死ねないや」
くっそぉぉ、その朗らかに笑う顔に拳骨落としたいっ!
でもそれは、私の本心も否定するようなモノだから、握り締めた拳をプルプル震わせるだけしか出来なかった。
「肩の力、抜けた? 白ちゃん」
あぁ、張り詰めていた緊張は解けたよ。
感謝はしないけどなぁっ!
誰がからかわれて、ありがとうなどと言うものか。
「それじゃあ、頑張ろう白ちゃん。私たちの手で、未来を掴む為に」
「──私たちの手で、未来を掴む為に」
これで、嵐の前の静けさは終わりだ。
ここから始まるのは、世界の運命を懸けた最後の決戦。
私たちの手で、未来を掴む為に。
私には、私の大切な人だけで充分。
その為に世界を救わなければ為らないというのなら──いいさついでだ、星も人も纏めて救ってやるよ。
ならば生きよう、みんなと共に。
それが、私の願いなのだから。
憂いも迷いも、ありはしない──絶対に
「あっははははッッ!! いい、いい──実に良いッ!!」
「踊れ、踊れ、人間たち。選択肢は与えたぞ? 生きるも死ぬも、自分たちの選択次第」
「折角、少なくないエネルギーを使って舞台を用意したのです。存分に踊り狂うがいいッ!!」
「その果てに待つのは、勝利か破滅か──どれであろうとも、私は勇気も愚かさも希望も絶望も、全て纏めて愛でましょう」
「我が手にあるは、あらゆる生命の運命なれば──私を楽しませる為に、踊れ愚者ども」
「さぁ──私は此処です、白き神」
「あなたが来るのを、一日千秋の想いで待ち焦がれましょう」
「どうか──ですから、あぁどうか、我が
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