【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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警告:ド直球に叡智な表現アリ。


翠の芽吹く星

 翠が揺蕩う──

 

 私は、私の原点について振り返る。

 自らの本質。

 その在処を探して。

 

 ──まず、最初に挙げるべきなのは、この世界へと転生した事だろう。

 それは不運な事故であり、自分では避けようもなかった必然の出来事。

 

 哀しくもあるし、怒りだって当然ある。

 けれど、もし過去を変えられるとして、転生する切っ掛けとなった爆発など発生せず、そのまま地球の日本で暮らせるとしたら、どうだろう? 

 

 私は……拒否すると思う。

 この世界で、得たもの感じたもの。

 それを何もかも無かった事には、したくは無いから。

 

 絶望した、激憤した、狂気に堕ちてしまった。

 知る必要のない、抉られるような魂の痛みを知ってしまった。

 

 だけど──それだけではない事も、また知っているから。

 

 贖罪と死が支配する世界でも、孤独では無いと教えてくれた。

 この世界にも家族が居て、文字通り私たちみんなは共に生きている事に気付き。

 各々が想う世界のために、命を懸けて抗う者たちの輝きに魅せられて。

 

 あぁ、どれも大切なモノ。

 忘れたくない、消えてほしくない。

 

 この輝きを守りたい。

 誰もが健やかな星で平穏に過ごせる世界ならばと、切に切にと希う。

 

 私が犯した最初で最大の罪は、今世での家族たちを殺してしまった事。

 彼ら彼女らの血肉を喰らい、魂を奪ってしまった事。

 極限状況下での過ちだとしても、あの時はそれ以外に選択の余地がなかったとしても、間違いは間違いなのだから。

 

 家族という柘榴を喰らい、死に穢れてしまった私は、罪を贖うために生命の光に焦がれていく。

 言い換えれば、自罰の意識が生んだ代わりに()()へ尽くしたいという想い。

 

 それが都合良く、星の危機というお題目があったから飛びついただけのこと。

 代償に、さらに罪を重ねて重ねて……負債は膨れ上がって、世界を巻き込んでしまう罰となる。

 

 なんて愚か。

 救いたかったものを自分で滅ぼすなんて、本当に愚かとしか言い様のない。

 そして、そうなってしまった後に、本当の気持ちに気付いたのだから。

 

 だからこそ祈る。

 もう叶わないからこそ、祈りは深く重く、より強固に。

 ──破滅()を迎えようとしている世界ならば、救われた自然(セイ)が満ちる世界にしたいのだと。

 

 でなければ、犠牲となった全てが報われないから。

 そのためなら、私は……私は、もう…………

 

 

 

 新たな中核装置を認識しました。

 セットアップ中です。

 

 実行:中核装置の同調。

 実行中、実行中、実行中、実行中……

 

 チャンネルを変更します。

 接続:白織。

 実行:新世界のシミュレート。

 

 冥界の底に眠りし、翠の乙女。

 愛しい光を胸に抱きながら、優しい夢の中で微睡んでいる。

 白き太陽が昇る、その時を──

 

 

 

 白き光が浮かんでいる──

 

 人の心とは、過去の積み重ねにあるらしい。

 今までに体験してきた事、誰かから与えられたもの、それらが乱反射する万華鏡だ。

 

 優しい家庭で生まれ育てば、思いやりの心を持つ存在に。

 暴力や虐待が日常的であれば、荒んだ素行を繰り返してしまうように。

 これは、そういう話。

 

 だからこそ──私の心とは何なのだろうか。

 自分の記憶だと思っていた前世は偽りで。

 今世でも、植え付けられた記憶と思想に従い、振り回されるかのように生き抜いてきた。

 

 この世は総じて理不尽だ。

 どうあがいてもままならないことは数多くあるし、到底敵わぬ存在も実在している。

 抗おうと戦う先にいずれ待ち受けるのが、地獄と絶望の類だと理解している。

 

 なら私は、与えられた配役をなぞる不格好な人形か? 

 何処までいっても必死に抗っても、神様の娯楽を満たす玩具でしかないのか? 

 ならばどうする──諦めるのか? 

 

 違う、否だと、そう思いたい。

 他人に救いを求める奴は、嫌いだ。

 自分の足で前へ進めない奴は、もっと嫌いだ。

 そして結局、最後まで何も信念も何も持たずに、虚ろに生きている奴が大っ嫌いだ。

 

 ──だから、私は自ら選ぶ。

 

 始まりは人形でも、それでも私自身が選び、積み重ねてきた思い出があるから。

 他の誰のものでもない、私だけの思い出。

 

 それがあるから、私は私になれる。

 貴女のことが好きな、私になれたから──絶対に諦めない。

 

 ──シミュレーションを開始します。

 

 何と聞こえたのか分からないまま、意識が漂白されていく。

 まっさらな世界。

 何も無くて、なんでもある。

 何処までも果てしないキャンバスに、二人の思い出を絵の具に色彩が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ちゃん、白ちゃん」

 

 誰かが私を呼んでいる。

 いや、誰かなんかじゃない。

 この声は──

 

「うぅ……」

「おはよう、白ちゃん。もう日の出から何時間も経っているよ」

 

 暗闇の底から浮上するように、意識が覚醒しだす。

 困ったように苦笑しながら覗き込む大切な人(コケちゃん)の姿に、なぜだか全く分からないけれど大きな安堵が胸中を埋め尽くすのであった。

 

 不思議と涙さえ浮かびそうな気分。

 寝起きだとはいえ、ちょっと私らしくない感慨に浸っていた。

 最近の定番のやり取りのはずが、どうしてか凄く新鮮で嬉しく思う自分がいた。

 

「おは、よう……? あれ? どうして?」

「まだ寝ぼけているの? ほら起きて。早くしないと朝ごはん冷めちゃうから」

 

 思わず首に手を当てる。

 ちゃんと繋がっているし、押し当てた掌には力強い脈動が伝わる。

 そのまま首を捻っても、おかしなところは見当たらない。

 見下ろした自分の谷間は今日も邪魔なほど立派なお山で、その内側にある心臓はあいも変わらず新鮮な血液を送り出すべく規則正しいリズムを刻んでいるのだった。

 

 いつも通りの健康体で、絶好調。

 違和感なんて欠片も無いのに、脳内によぎった感覚だけが謎だった。

 

 まるで──目の前の■■■■を■■られずに■■れたような。

 

 どうにも脳内がグチャグチャして纏まらないものだから、顔を顰めて唸ってしまう。

 そうこうしている内に、温め直したのか美味しそうな匂いが風に乗って流れてきた。

 

「ほらほら。今日は帝国を抜けて、魔の山脈まで行くんでしょ? 早く食べて出発しないと、到着する前に日が暮れちゃうよ」

「──そうだったね、ごめん。企画した主催者がこんな調子じゃあ、コケちゃんも失望するよね」

「ううん。全然っ」

 

 朗らかに、そして少し照れくさそうに、彼女は笑顔を浮かべる。

 つられて私も、頬が熱くなりながらはにかんだ。

 

「見聞とハネムーンも兼ねた、世界一周旅行。こんな企画に了承してくれたコケちゃんには感謝が絶えないよ」

 

 この世界に転生した私たち転生者。

 同じ場所に生まれ、同じ地獄を乗り越え、同じ苦難と喜びを分かち合った二人。

 そんな境遇の者同士が、ずっと()()()()で支え合い助け合っていれば、ただならぬ関係へと発展するのもさして時間が掛からなかった。

 

「白ちゃん……そんなことないよ」

 

 手を取られ、そっと小さな手に包まれる。

 ほどよい暖かさと柔らかさが密着し、それから彼女の心が伝わってくるようだった。

 愛おしさに満ちた、とろけそうな熱量。

 

「これが私の気持ち。嫌なんて一つも無いですし、私自身愛されてるなぁって思えて嬉しかった。だから……ありがとう、白ちゃん」

 

 言い終わるや否や、林檎みたいに顔を赤く染めて俯いてしまったコケちゃん。

 私自身も、心がポカポカして嬉しいけれど気恥ずかしくて視線が泳ぎだす。

 

 そうとも、私たちは()()()()

 私こと白織と、コケちゃんこと翠星は、この過酷でけれども美しい翠の芽吹く星にて、お互いがお互いに唯一無二の伴侶なのだった。

 

 ──あれ? なんで私たち、そんな名前だったんだっけ? 

 ────まあ、いいか。

 

 

 

 

 こうしてこの世界に生まれ落ち、旅をする日々も既に十六年目になるのか。

 

 魔物に生まれ、生まれ故郷である大迷宮を出て、そして文字通り血を吐く苦労の末ようやく人型にもなれるようになった。

 今は世界を巡る私たちだけど、此処に至るまで数年に一度の頻度で予期せぬ騒動に巻き込まれたりと、ずいぶん波乱万丈な旅路をおくってきたものだと回顧する。

 

 ──軽い頭痛と共に、様々な()()が脳内を巡る。

 

 エルロー大迷宮を脱出した私は()()()()()()()()()()()()()()、入口の周辺地域の偵察を終えて帰還した。

 そのあとは、ひたすらレベリングと訓練の日々。

 人型になれるだろう進化、アラクネとマステマを目指して、魔物を狩り強さを身に付けることを繰り返した。

 

 時間は掛かったものの、私たち二人は特殊な進化に到達し、念願の人らしい姿を手に入れた。

 ……とはいえ服装次第で誤魔化せるコケちゃんとは違い、私は一目で人外なのがバレる身体構造だったので、当時はガッカリ感が否めなかったけどね。

 

 それでも一応目標にしていた進化を達成できたので、完全な人型は今後の課題として、私たちはこの世界のことをもっと深く知るために旅に出ることにしたのだ。

 

 宗教戦争が理由で、最近戦火に呑まれた街を遠目に見たり。

 異形な私たちは人目を避けれる場所を通らざるをえず、そういった細道を進んでいるとき避難民らしき人を目撃したこともあった。

 元は身なりの良さそうな青年が、自身がやつれてでも腕に抱いた赤子を懸命に守っている姿は、戦争の虚しさを感じずにはいられなかったね。

 

 そんな彼らが無事に逃げられるといいなーって治安維持に貢献をと、旅の道中ついでとばかりに盗賊狩りをしたり。

 人知れず旅路の平穏を守る、見目麗しき異形の影。

 なんて、世直し道中気取りで心の赴くままに旅をしていたのさ。

 

 そうして辺境秘境を主に巡っていれば──

 

「まさか、SFじみた太古の遺跡を発見するなんてね」

「防衛機構であるロボを撃破していった奥に、まさか神格に至れる馬鹿げた劇物があるなんて誰も思わんって」

 

 正確には、炸裂すれば星ごと粉砕させられるGMA爆弾というものが不発弾状態で遺跡の奥底に転がっていたのだ。

 しかも、私たちがロボを蹴散らしながら進んでいたせいか、防衛機構が暴走を起こしGMA爆弾の起爆カウントダウンが始まっていた始末。

 

 よもや私たちのせいで、世界の危機。

 このままでは世界を巻き込んで、私たちは盛大な花火の中に消えるのかと焦りに焦って、咄嗟に選んだ行動は──

 

「食べて爆発のエネルギーを取り込もうだなんて、いったいどんな発想をしたら閃くの?」

「その破裂寸前な私にキスをして、口移しで過剰なエネルギーを吸い出そうとしたのは、どういう直感からなのかなぁ?」

「あのときは、二人で分け合わなければ生き残る道はないって思ったから……そのお陰でこうして偶然にだけど二人とも神に至れたのだから」

「ついでにシステムの頸木すら超えてしまい、見た目通りの小娘二人に成り下がったんだけどね」

 

 奇跡的に驚異となる危険な魔物とかが遺跡周辺には居なかったから良かったものの、当時はもう絶望なんて言葉じゃ済まなかった。

 見た目通りの貧弱な少女二人、ステータスもスキルも使えなくなり、神化の影響か完全な人型になっていたせいで人外の強みさえも失っていた。

 

 どうにか魔力を自力で感知できるようになり魔術が使えるようになるまで一年もの間、私たちはあの遺跡でサバイバル生活を強いられることとなったのだ。

 

 大幅な弱体化で、体力も力も貧弱な少女二人。

 荷物は空間魔法に全て仕舞っていたから、取り出せなくなって着の身着のまま。

 しかも私は今までシステムの恩恵によって問題が噴出していなかっただけで、その恩恵を失えばアルビノによる日光への脆弱性が露呈したもんだから、日中には活動できないという制約まで。

 ──そうして、牢獄のような日々が幕を開けた。

 

 鑑定した時の記憶を頼りに食べられるものを探し、前は容易く蹂躙していた魔物や盗賊の存在に怯えながら身を潜める生活。

 遺跡が雨風を凌げ内部の気温も安定しており比較的清潔だったとしても、そんなの何の慰めにもならない。

 今まで当たり前に出来ていた事が出来なくなった苦痛と、日々の糧食を得るのも一苦労な日々は順当に私たちの心身を擦り減らしていった。

 

 過酷な生活に身体も心も疲弊していった私たちは、ついに限界を迎え、そして──

 友という一線を超えて、荒んだ心を慰め合う一夜の過ちを犯してしまった。

 

「なんとまあ、ひっどい馴れ初めですこと」

「けれども、ああして不健全とはいえガス抜きが出来ていたお陰で、諦めたり自暴自棄にならずに済んだとも言えるし……あぅ、思い出すのも恥ずかしい」

 

 歴史にも置き去りにされた遺跡での、少女二人の蜜交(インモラル)

 身体をしっとり密着させ、抱えた傷を吐き出しながら口付ける。

 容赦なく、優しく、激しく──甘い切なさに、二人の体力が尽きるまで。

 

 不安を吐き出し、弱さを晒し、傷を舐め合う行為を、夜ごと重ねては互いの熱で埋め合うのが、あの二度目の地獄を生き抜くために必要なものだった。

 でなければ、とっくの昔に些細な事から殺し合いに発展し、共倒れの末路を迎えていただろう。

 誰も彼もが目を覆うような、救いようのない悲劇だ。

 

 けれど、そんな壊れかけの心を癒やすために淫蕩を貪り溺れる日々が、皮肉にも魔術を取り戻す切っ掛けになろうとは思いもしなかったけれどね。

 

 ほら、古来より神秘を感じ取るには、酒と麻薬と(ピー)行為とか言うじゃん? 

 思いっきり偏見だけど、あながち間違いでもなかったという。

 

 気が付いたら、二人とも内に渦巻くエネルギーを自覚できるようになってて、自覚さえ出来れば感覚を掴むのも早かった。

 

 死にたくない一心と、早く人らしい生活がしたいと焦がれて。

 常に感じる生命の危機も合わせて死にもの狂いで努力すれば、完全にとはいかなくても僅か一年で能力の大半を取り戻せたのだった。

 

 ──そういう()()みたいだ。

 

「それはともかく。なんとか脱出した後は白ちゃん念願の、文明薫る人族の街へ行ったんだよね」

 

 そうそう──

 後は遺跡より無事脱出を果たし、人族と偽っての冒険者稼業。

 実力さえあれば、身元不明で怪しさ満点の私たちだろうと日銭を稼げるのだから、そういう組織構造を作ってくれた人には足を向けて寝られないね。

 今では二人とも、Aランク冒険者。

 そこに昇格するまで様々な事件や大騒動もあったけれど、これ以上無い気楽で自由な生活を満喫しているのであった。

 

「辛いことも沢山あったけれど。今では笑い話に出来るくらい、充実していたよね」

「まったくだよ。運命を描いた神様は、どんなに性格悪いんだか」

 

 二人して、互いに笑みを交わし吹き出した。

 整備もまばらなデコボコとした街道を行く私たち。

 

 荷物も持たず武装すらしていないような格好だけど、それらは異空間に収納してあるし、莫大なエネルギーをシステムの上限縛り無しに扱える私たちは、そんじょそこらの相手に負けることなど天地がひっくり返るほどあり得ず、何ものにも縛られない旅人であった。

 

 あるがままの風光明媚な自然。

 この過酷で厳しい世界だからこその、綺麗な景色。

 森や山脈の稜線などを遠くに眺めつつ、気ままに道草を楽しみながら、並んで歩き続けて。

 日が暮れかけた頃、ようやく麓街の城壁が見えてきた。

 

「今日は、この街までだね」

「予定通りにいかないのも旅の醍醐味。門を閉められる前に入るとしよう」

「じゃあ、競争っ」

「ちょ──ふふふ、待てぇ!」

 

 ちょっと駆け足、けれど普通の人からすれば全力疾走よりも速い速度で数キロメートルもの道を踏破し、お互い息一つ切らすこと無く麓街の城門までふざけ合いながら辿り着くのであった。




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