乱気流を生み出しながら閃光が走る。
極光と滅光が交錯する。
躍動する大質量の高波を薄紙のように割り裂き、砕かれた大気が悲鳴を奏でるさまは、さながら世界の終わりのようだった。
災宴の中心たるこの地は、まさしく死の気配が満ち満ちる猛毒の沼底。
沸騰する海は魔女の釜めいており、その奥底は紛れもなく冥界の入口と繋がっているのだと感じられた。
けれども空は、そんな冥界らしい静寂と暗さとは真逆の、極彩の煌めきを描いていた。
聖なる光、業火の如き灼炎、清廉な蒼き雷轟。
それらが乱れ舞う。
そしてそれらを塗り潰すように、黒き滅光が閃く。
純粋な腐蝕属性の光線という、全てを消滅させる反物質砲。
ときに無造作に乱射して逃げ場を塞ぎ、ときに狙い撃つかのように放たれていた。
龍頭の一つから狙い澄まされ迫る光は、広域を消し飛ばしながら瞬き一つほどの時間もなく到来せんとし、たった一撃で彼ら全員を何千回も殺し尽くせる威力を内包しているのだと直感する。
回避しようにも、間に合わない──
「死力を尽くさなければ、勝機などありませんわ!」
凛とした声が、その展開を虚空へと逸らした。
「“親愛”こそが、我が美徳──対象フェイ、範囲拡大、腐蝕無効付与、純潔……展開ぃッ!!」
次の瞬間、光龍の巨大な全身を覆う城壁のような光壁が現れた。
光壁と滅光が、けたたましい轟音を立てて閃光を撒き散らす。
嫌な音を鳴らし僅かに撓んだ光壁だが、神龍結界をも超える絶対防壁の結界は滅光を耐え切り、腐蝕無効が付与されていることで滅光の最大の驚異である特性は完全に無力化されて、逸らされた威力が四方へと拡散する。
その驚愕に値する行為を為した術者は、少し肩で息をしながら堂々と胸を張りながら赤髪を肩へ払った。
「……ふぅ。さすがは当代一人しか取得できない支配者スキルと言ったところ。おかげでわたくしでも盾として役立てますわ」
術者を中心に不動堅固な結界を張るスキルというのが、純潔の効果。
その防御性能は、ステータスカンスト超えの攻撃を余裕で耐えきるほどであり、事実上システム内での攻撃では破壊不可能な耐久性を誇る。
そして今しがた起動させたスキル親愛。
それは本来、術者個人を中心とした半径数メートルにしか展開できない制限を取り払い、さらに結界そのものに追加で効果を付与でき、術者と所縁のある対象にも純潔の絶対防壁を付与させる力であった。
ゆえに、親愛によって授けられた純潔の加護によって、滅光は決してフェイに届くことはない。
『サンキュー、カティア。……能力聞いてたとはいえ、さすがにちょっと肝が冷えたわ』
「礼には及びませんわ。わたくしも出来ると理解していたとはいえ、ぶっつけ本番で少しヒヤヒヤしましたし」
お互いなんでもないかのように語る、フェイとカティア。
だが、その言葉には微かな震えも交じっていた。
開戦から僅かな時間で交錯した応酬は百を超え、死の気配もそれだけ数多く感じた。
何度も繰り返したからといって、慣れるなどありえない。
むしろ慣れて感覚が麻痺した瞬間、容赦なく死神の鎌は命を捉えるだろう。
なんとか死線を潜り抜けられているのは、死への恐怖や己は弱いと認識している臆病さこそが、精妙な回避を生み彼らの生命を繋いでいるのだ。
「ハイリンスさんの大盾のように……傾けて逸らすっ」
再びの衝撃が純潔の防壁に突き刺さった。
身の毛がよだつ咆哮と共に、ドス黒い滅光がいくつも照射される。
しかしそれらの凄まじい猛攻を、今度は傾斜をつけた結界で受け止め捌いていく。
カティアは極限域の術式制御によって脂汗を滴らせながらも、この絶死の光雨から守りきる傘を展開し続けていた。
「カティアっ、無理するな!」
「大丈夫ですわっ。それよりも──」
『掴まれッ!』
瞬間、天蓋が落ちてきたような龍頭の押し潰しが迫りくる。
それをフェイは空中で側転するように紙一重で躱し、その勢いのまま加速し踏み込む。
背に乗るシュレイン達は、フェイの重力魔法によって慣性の影響を抑えているものの、それでも肉体に掛かってくる負荷に必死に耐えてしがみつく。
「矛は僕が担う。そのまま進めッ!」
不安定な足場を苦ともせず、ラースが構えた。
鞘より二本の刀が抜き放たれ、灼熱と雷鳴の剣気が飛翔する。
魔力を溜めに溜めた斬撃は滅光に劣らぬ破壊力を内包し、今しがた避けたばかりのレルネーの首へと叩き込まれた。
龍鱗を焼き裂き、筋と骨を断ち切って、巨大な切創から黒い血飛沫が吹き上がる。
城に匹敵するような首を半ば以上斬り裂き、僅かな肉と皮で繋がっているだけの大きな傷を与えたが、誰もこれで首一つ無力化したとは思っていなかった。
そんな簡単に痛打を決められるなら、こうも苦戦などしていない。
斬られた断面から、悍ましい闇色の触手が伸びる。
それらが絡み合い結び合って、ほんの数秒ほどで焼失した欠損すら埋めて、斬った首を接合されてしまった。
それだけなら、まだ良い。
本当に危険で、迂闊に攻勢に出られない理由があった。
飛び散った血飛沫や肉片が、重力に逆らって宙に浮かび凝集しだす。
無形だったそれらは小さな龍頭へと変じ、此方へと牙を剥いて突撃してきた。
その数、ざっと二十。
「炸裂剣──ッ」
「援護するね。聖光魔法!」
空納より爆発する使い切りの魔剣を射出するラースと、錫杖を向け以前のそれとは数段も威力が上昇した光弾を連射するユーリ。
それらに撃ち抜かれ蜂の巣となり、小さな龍頭は中空で大爆発を起こし今度こそ消えていく。
あれらの接近を許せば、あの恐ろしい威力を至近距離で受けることとなり、腐蝕の属性を帯びた一撃は身体を大きく抉り取るだろう。
血や肉片を焼き切っているから自爆する龍頭はこれだけで済んでおり、彼らは知る由もないことだが、もし焼却や浄化以外の攻撃で傷を与えれば十数倍の数が襲いかかっていただろう。
それらはまるで、幾ら切り落とされようとも再生し新たに増える首のよう。
神話に語られるヒュドラの如く、迂闊な攻撃は死を招く反撃として返ってくるのであった。
「くッ──俺も」
「シュン君は待機してっ」
「そうですわ。あの怪物を仕留めるには、此処ぞという時までシュンを温存しなければならないのですもの!」
ユーリとカティアからの叱咤に、シュレインは歯噛みする。
そう、彼は分かっている。
彼ら彼女らの役割と、己の役割というものを。
フェイは、この死線氾濫する戦場を駆ける騎龍として。
カティアは、死を遠ざけるための盾として。
ユーリは、要所要所で攻めも守りも両方フォローする援護として。
ラースは、立ち塞がる壁を強引に砕くための矛として。
そしてシュレインは、翠魔レルネーに勇者剣によって止めを刺す、最も重要な切り札。
ゆえに、皆が道を切り開いてくれたその時まで、彼は何も出来ない何もしてはならないのだ。
しかし、そんな彼らを嘲笑うかのように、幽世の九頭龍は次なる絶望を作り出す。
全ての鎌首を持ち上げ、レルネーは大きく息を吸い込みだした。
同時に高まる凄まじい、物理的な振動さえ伴う魔力の波動。
その様子に、全員の危機察知がけたたましく警鐘を鳴る。
「不味いッ」
『止めないとヤバイって!?』
魔法が、ブレスが、剣閃が、剣林弾雨と叩き込まれる。
生半可な攻撃では鱗一つ剥げず、のちに猛悪な反撃が来ると分かっていても、これは何としても阻止せねばならないと直感していた。
けれども全力の抵抗も数手遅く、音だけで圧殺するような大音響が全方位に炸裂した。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────!!!!』
空間すら磨り潰す激しき大震に、フェイの飛翔が止まる。
空間全域を対象とした攻撃であるがゆえに純潔の結界でも完全には防げず、通り抜けた衝撃波に身体内部をめちゃくちゃに掻き回され、全身の穴という穴から血を吹き出してシュレイン達は呻き苦悶に喘ぐ。
「がああああああァッ──!?」
夥しい量の吐血をするシュレイン。
内臓全てが液状化して吐き出しているのではないかと錯覚するような勢いと量であり、仲間たちも同程度の重傷に襲われていた。
ギリギリで耐えれているのは、人外ゆえに身体強度が段違いなフェイとラースだけであった。
そして、人体を崩壊させる振動波は未だ鳴り止まない。
皮膚はめくりあがり、手足がひしゃげ、内臓は飛び出し、全身から血液が噴き上がる。
細胞一つ一つ分解するような猛毒の波動が、彼らを粉微塵に解体しようとしていた。
「ぐぅぅ──、みんなは死なせないっ!」
自身も血涙を流し、眼球も鼓膜を潰れて何も周囲を認識できないというのに、このままでは皆が危険だと理解して、ユーリが血泡でくぐもった声を上げる。
そして──究極にまで高められた癒やしの波動が全員を包み込んだ。
「“真摯”こそが、我が美徳──奇跡魔法・
優しげな燐光が広がり、襲いかかる破壊により失われる生命を補填していく。
赤いペースト状にも成り果てた肉体が刹那のうちに再生しては繋ぎ合い、壊れた身体を回復していった。
その回復速度は、瞬き以下の時間で一点の瑕疵なく身体を修復するほど。
当然、奇跡魔法は本来ここまでの能力ではあらず、ユーリの技量が度外れているからでもない。
異常とさえ言えるほどの癒やしのからくりは、たった一つ。
今の彼女は、己の全てのリソースを奇跡魔法に注ぎ込んでいるからだった。
それはただ魔力や集中力を束ねているのではない。
他の全てのスキルを捨てて、単一のスキルのみしか使えない縛りを受け入れたがためである。
勤勉の特殊スキル、真摯。
勤勉で指定した取得しているスキル一つを、さらに超強化させるスキル。
それをユーリは、勤勉の対象スキルを聖光魔法から奇跡魔法へと瞬時に切り替え、攻防の両面に適したスキル構成から、回復に極限特化した構成へと組み替えたのだった。
無論のこと、そんなものはノーリスクで出来ることではない。
特殊スキル共通の魂を削られる負担は基本として、この真摯というスキルには他には無い特性があった。
一度発動すれば指定したスキルそれ以外は一切使えなくなり、またこれは任意に解除できるようなものでもない。
死ぬまでずっとこのままなのだ。
つまり他のスキルや魔法などは今後一生、代償として二度と使えなくなるということだった。
「けれど、そんなのどうだっていい。聖女として、みんなの仲間として──絶対にやらせはしないからっ!」
皆を想う気持ちを籠めて、今代の聖女の祈りが宣される。
その清廉な想いは、血に染まった鬼人の背をも押した。
「義を見てせざるは勇無きなり──あぁそうとも、僕に必要だったのは君らのような勇気だった」
物寂しげな苦笑を湛えながら、ラースは一歩踏み出す。
射出寸前の弓矢のように、二刀を構える。
崩壊と再生の繰り返しによる激痛を制し、逆境を覆すために雑念を捨てていく。
今必要なのは、ただ鍛え上げて染み込ませてきた己の技のみ。
そう決断すれば、ラースの顔から表情が抜けた。
代わりに双眸に宿ったのは、澄んだ無想の極致。
「シィィッ──!!」
鋭い擦過音を吐き出しながらの剣閃。
流れる星のような二連の斬撃は、空に紅と蒼の細い軌跡だけを残す。
その次の瞬間、斬線の延長線上にあったレルネーの首四つが、音もなく切り飛ばされていた。
万物を原子まで磨り潰さんとする咆哮が、痛みに悶える悲鳴へと変わる。
それによって、破壊振動の檻から彼らは解放された。
「今だッ、突っ切れ!!」
『言われるまでも無いっつーの!!』
ラースの怒声一喝に、悪態混じりに言い返すフェイ。
あと僅かな距離となったレルネーへと、彼らは勇気をもって突撃していった。
荒れ狂う腐爛した龍頭を躱し、のたうつ首を潜り、逆立つ龍鱗を通り抜け、遂にシュレイン達は幽世の九頭龍の中央の首へと到達する。
一つだけ──折れたり欠けたりしていない、禍々しくも完全な二本角を持つ中央の首へと。
「フェイ!! 抑えろ!!」
『了解ッ』
シュレインの指示に、九頭龍に抗せるほどの巨大な光龍であるフェイが応えた。
二本角の龍頭に肉迫しては組み付き、動きを封じる。
巨龍二体がもつれ合うさまは、まさに怪獣大決戦のよう。
進化による変化でフェイは以前の何十倍もの巨躯となったが、それでも九頭龍と比較した体格差は大人と子供よりもなお広い。
それでも、ほんの少しの間だけ止めるだけなら問題無い。
『ぐぅぅ──あぁぁッ』
当然、そんな行為を見逃すはずもなく、未だ無事な四つの首がフェイへと鋭利な牙を剥いて噛み付いた。
右腕に、左脚に、翼に、胴に──
直接牙が喰い込んだことで流し込まれる死滅の毒に、言葉ではあらわせぬ激痛が襲いかかる。
『けど、そうくると思った!』
身体を致命的に崩壊させる死毒と、ユーリが揮う癒やしの再生が拮抗している苦悶を堪えつつ、フェイは全身に光を伝導させて纏わせる。
『全力全開っ、ウオォォラアアアアアアアアァッ!!!!』
そして、羽の一枚一枚、鱗の一枚一枚から、数万もの白桜の結晶柱がレーザーの如く迸った。
圧縮した光の刃が乱れ舞い、レルネーの龍頭らを口腔内から突き破って串刺しにする。
半身腐りし龍を浄化し焼き尽くす、光輝を纏いし龍の煌めき。
それはまるで荒廃した大地に、生気溢れる桜の大樹が花開いたかのようだった。
『さぁ、ぶっ潰せぇッ!』
フェイの身を挺した拘束により、レルネーは身じろぎ一つロクに出来ない。
全ての頭部と顎を封じて、回避する余地を一切無くした。
「僕から行こうッ!」
そう言うやいなや、ラースは空へと舞う。
何もない空中を魔力の足場で駆け、爆発寸前の大砲のように全身に力を漲らせ引き絞る。
「封印解除──憤怒ッ!!」
瞬間、彼の視界と意識は、深紅に染まる。
殺せ、壊せ、生きとし生けるもの全てを滅ぼし尽くせと、眼前の翠魔と同じような衝動が体中を駆け回る。
それは抗い難く、思考が鼓動が、細胞一つ一つに至るまで殺意を訴える。
今世、親兄弟を無惨にも殺され、妹の肉を喰わされた。
あのとき自分が理想と思えた小さな世界は、理不尽な因果と暴力で砕かれて何処にもない。
そんな現実がフラッシュバックし世を憎み、呪い、滅ぼせよと自我を跡形もなく焼き尽くさんとばかりに憤激する。
違う──
この身体を震わせる血の滾りは、そんなものでは無い。
「グッ……ガアアアアアアアアァァァァァァ!!!!」
彼は確たる己を描いて、怒りの誘惑を断ち切った。
肉体の隅々まで乱流する、はち切れそうなほどの熱量の手綱を握りしめた。
渦巻くそれを乗りこなすのは当然ただでは済まず、ラースの全身は鉄板に置かれた生肉のように水疱が浮かんでは弾け焼け爛れていく。
まるで体内を巡る血液が全て、炎にでも変わってしまったかのように。
けれども彼は一切の躊躇もなく、その痛苦を甘んじて受容し認めていた。
熱く燃焼する血、研ぎ澄まされる精神。
煮え滾る激情を真正面から見詰め、悟っていく。
己の怒りを。
──あぁ僕は何よりも、こんな世界が許せなかったんだ。
ラース、いや笹島京也が最初に抱いた夢想は、必ず“セイギ”は勝ち、“ワルモノ”は打ち倒されるべきだということだった。
前世の幼き頃から、間違ったものは許せなかった。
それは物語の人物がそうであるように、正しくないと思えば、どんな状況だろうと過ちを正したくてしょうがなかった。
平和や人道を守ると誓った者ほど、悪の非道や醜悪さを認められないと、心の奥に消えぬ憤怒の炎を宿している。それが自分にも当て嵌まっていたのだった。
そんなときに訴える手段は、いつも暴力。
当時それしか知らないし出来なかった餓鬼だったとはいえ、現実ではそれでは通らない。
ただ怒りのまま殴ってしまえば、悪いことだ。
“ワルモノ”でも殴ればその時点で相手は被害者で、自分の方が“ワルモノ”になってしまう。
“セイギ”など、結局は立場や視点で如何様にも変わってしまう、曖昧なものだと気付かされた。
暴力と正義感。
それは前世の社会通念では容認されぬものであり、万事するりとまかり通る無敵の印籠なども、ハナから存在しなかった。
燻った想いを抱えたまま過ごしていた前世の日々。
その問いについて答えを見つけられる前に、己はこの世界へと転生していたのだった。
そして地獄を経験し、守りたかった温もりも信念も彷徨いの渦中で血と炎に埋もれ、残ったのは燃え堕ちた己という残骸の灰だけ。
もはや、己に正義を語る資格などない。
ただ惨めに理不尽に負けて砕け散った、人でなしが一人いただけだった。
けれど、目を醒まし世界の真実を知ったとき──まだ終われない、そう思えたのだ。
こんな灰となった自分であろうとも、この世界は間違っていると声高に言える。
それはかろうじて残されていた、正しきを希求する怒りの感情であった。
「正義とは“怒り”であるのだから」
焼き尽くすべき罪と共に、こんなくだらない茶番を終わらせなければならない。
振り返る権利すら、もう己には尊すぎる代物だと知っている。
誰かが生きられるために、その土台である星のため──人を薪木にすると決めたその時から。
「僕は、その
なら、進むしかあるまい。進むしか、ないんだよ。
ただ僕は、その独り善がりな免罪符のために、何もかも貫き通すと決めたんだ。
──だから僕は鬼でも人でもない、贖罪という正義に身を捧げた鬼人であろう!!
憤怒の殺戮衝動をラースは柳のように受け流し、けれども力だけは乗りこなし充填していく。
元が数万もあるステータスに、さらに数万もの数値が加算される。
けれども、これでもまだ九頭龍の核には届かないだろうと確信した。
「“閻魔”となり裁けよ、我が原罪。消えぬ業火にて我が身を浄火し給え──罪業消滅」
ゆえに、もう一手。
左の雷刀は納刀し、両手で上段に炎刀を構える。
範囲と手数の二刀流から、真に鍛え続けた威力と技の一刀へ。
赫々とした焔に包まれていくラース。
その熱量は、まるで罪人を裁く業火のようであり、それが全て一つの刀身へと集っていく。
烈火のように激しい怒りと、それを越えた先にある義の心が籠もった刃が、眩いほど白熱した。
『■■■■■■■■■■■■■!!』
苦し紛れの抵抗とばかりに、拘束を強引に振り払い、顎を開こうとするレルネー。
しかし全身全霊を懸けたフェイの両爪による圧迫は、大地の如く不動であった。
その濁った黄色い眼球が捉えたのは、仄暗い闇を真昼のように変える白刃の形をした太陽。
それが今まさに振り下ろされんとする、凄烈な閃きだった。
「──絶刀・
彼が願う、祈りの宣誓。
音も光も置き去りにした一振りが、狂える龍を根本まで切り裂いたのだった。
23/05/16 カティアの純潔あたりの文章を改訂。