さぁ、翠白の報恩譚は此処から始まる。
天に廻れ、私たちの星──太陽のように彗星のように、遍く
「 私は訴える、大切な人を救うために競わせろ。 」
告げるは、叛逆の宣誓。
未来を願い、神にさえ抗う蜘蛛の詩が織られていく。
「 諦めなど要らない。何故避ける? 何故、この私から逃げるのか?
優しき光を仰ぐ私は、決して砕けぬ無窮の栄光しか認めない。 」
それは、闇より生まれし不朽の太陽。
自身と大切な人、その二つの魂が融合し──迷える蜘蛛は白光放つ恒星となる。
「 私には、私の大切な人だけで充分だから。
懲罰さえ跳ね除け、傲慢にも神さえ越えんと胸に誇ろう。
神が私を否定すると言うのならば、いいとも自ら首を括って抗うのみ。 」
大切な人を守りたいがゆえに叛逆を願う言霊。
その祈りを核に、闇に喰われたはずの身体が再構築されていく。
白光で織られた髪がなびき、エネルギーの結晶が物理的な質量を紡ぎ出す。
同じ真理を宿し、されど異なる魂同士による反応現象。
それにより白織の魂は、まるで星核のように高圧高温で無限に密度を高めていく。
膨張、収縮、加速、加圧、加熱、集束、凝縮、爆縮──空間圧縮された人間大の輝恒星。
魂による核融合反応は上限知らずの永久機関となって、白織を内から焼き尽くさんとするが──
「 けれどお願い、愛しき貴方よ──どうかその輝きを支えさせて。
絞首の糸は燃え尽きた。ならば貴方が再誕するは、優しく穏やかな大地の温もり。
私達の
それを受け止め包み込むのは、太陽に救われた翠の乙女。
膨張してく熱量は天文学な数値に上り、急激な変化は魂が耐えきれるようなものではない。
それを翠星が、魂を繋ぎ留めて癒やしていく。
まるで──有り余るほどの大きな愛で、世界全てを包み込むように。
互いを想い合う相互作用が、不朽の理として二人を遥かなる高みへと押し上げていく。
「 ならば生きよう、翠の
死滅の光が此の身焦がそうとも、先導せよ
自壊すら覆した白織に、もはや常識という絞首の糸は溶け落ちる。
詠唱にともなう自己の進化は、あらゆる
存在密度が世界の許容量さえ上回り突き抜けて、ついに物理法則さえも超越した。
祝福するように、砕かれたはずの大鎌も幻想的な音を共鳴させ、光の讃歌を奏でゆく。
「 ──白き
ならばこれは、蜘蛛へと貶された機織りでもなく。
虚無に嘆く闇の迷い子でもあらず。
そう、彼女は──
「
再誕する、新たな太陽。
愛すべき真理に至った
『────────ッ!!!!』
刹那、氾濫する光の糸。
魔神ペルセポネの内部から光が溢れ出し、悲鳴すら上げられぬまま斬り刻み裁断する。
微塵切りにされた闇の中から、彗星のように飛翔する光雨が飛び出し、闇を祓いてシステム中枢を白く染め上げる。
恐るべきことに、その一つ一つの星は太陽に匹敵する隔絶したエネルギー量を内包していた。
しかし如何な理屈か、躍る白光は内包した熱を維持したまま外部に放散することなく、穏やかな春の陽射しのように照らすだけ。
凍えるほどの冷気と闇の瘴気が、熾烈であり優しい光によって浄化される。
埒外の力を宿した眩き光子、それらが集い虚空に太陽を創造していく。
燦然と光り輝く白き恒星。
光の結晶と化した煌めく大鎌を手に、白織は光輝の中より舞い降りた。
その背に旋回する八つの光刃。
まるで天体図のように、白織という太陽に従い重厚なエネルギーを宿して公転する。
そして、淡き燐光が人の輪郭を形作っていく。
質量を持ったエネルギー体と化して、翠星は共に再誕を果たす。
麦穂のような黄金の髪をなびかせ新緑の衣を纏い、翅翼を悠然と広げながら白織の背後に浮かび愛おしげに腕を首に回して頬を寄せていた。
『──ァ、ジジzi、ギ、ッ!!』
狂気に蠢く闇が、ありえないと戦慄する。
肉体を跡形もなく喰い尽くし、魂を穢して強固にシステムに縛り付けたというのに、より激烈な高次元の存在として復活を果たしたというのだから。
しかも、魔神の核だった生贄の少女さえも奪い取った状態で。
システムの呪縛は、そんな甘いモノではない。
星一つ分の全ての生命活動を制御する仕組みの中核装置は、厳重なプロテクトと何重にも掛けられた拘束術式で、本来は決して分離できないように出来ているのだ。
まして、予備として繋がれていた白織ならまだしも、大厄災と魔神ペルセポネの太源として複雑に絡み合って接合していた翠星には過剰なまでの絶大な縛鎖があったというのに。
理解不能、解析不能の現象を前に、機能崩壊寸前のシステムは自己防衛機構のままに眼前の神を取り込むべく、まだ完全な機能停止には陥っていない魔神を強制的に蘇生させる。
『──ァアアaaァ゛ァ゛■■■■■■■■■■■■■■■■!!』
核を失った魔神ペルセポネの成れの果てが、断片を掻き集めて無理矢理再起動し襲いかかった。
その姿は、もはや何と形容していいのか分からないほど醜悪な化物。
触手と獣毛をこねくり回した、不定形に蠢く悍ましい肉塊としか言いようが無い。
一度完膚なきまでに壊された魔神の成れ果てとして、搭載されていた機能の大部分が使用不可になっているが、壊れているからこそ出力は規格外の高まりを見せていた。
地底に轟く《枯死》の闇の波濤。
自壊すら厭わない出力と、システム本体から制限無しのエネルギー外部供給を受け、純粋な威力だけなら魔神ペルセポネのときより成れ果ては上回る。
その顔の無い頭部から、昏い光が溢れ出す。
翠魔レルネーの九本同時滅光よりも強力な、大陸さえ消し飛ばす死の暴威が解き放たれた。
人体など粒子一つで消滅させ神さえ物理的に屠れる闇を前に、二人は避ける素振りさえなくただじっと見続ける。
その術式構成と引き起こされている物理現象を、四つの瞳は正確に見定めて──
「────それは
『■■■■!!?』
ゆらりと片腕を持ち上げ差し出すように大鎌を掲げれば、ただ置かれているだけで刃に触れさえせぬまま闇の波濤は無に消えた。
空間さえ粉砕する威力は余波として衝撃波も纏っていたが、それさえも無効化されて二人の髪の一つも揺らせていない。
世界そのものが異なるかのように、白織と翠星の周辺は穏やかな光で包まれていた。
『■■!!』
原理は不明だが、遠距離からの砲撃が効かぬというのなら直接殴りつけるまでと、触手を束ねた爪腕を振り下ろすが──
「効かないよ。その程度では私たちは揺るがない」
速度と質量を乗せた一撃は、陽射しを遮るような軽い動作で小さな掌が受け止めていた。
蟻と象とさえ形容できる圧倒的な体格差。
その矮躯側である翠星が小揺るぎ一つせず宙に浮かんだままという、目を疑うような光景が展開される。
体勢からして明らかに衝撃を逃がせないはずであるが、爪腕は何故か
エネルギーの集束体ゆえに、輪郭が緩やかに揺らめく翠星の見た目からして、決して硬そうには見えぬと言うのに、現実は不動の光に砕かれ浄化されていく。
あらゆる生あるものには特効である闇も効かず、純然な物理攻撃も弾かれた。
しかし、この密着したポジショニングの優位を保ち続けるため、成れ果ては様々な魔術を用いて通用する手段を探ろうと夥しい種類の災禍をブチ撒けていく。
獄炎、蒼海、嵐天、地裂、氷獄、天雷、聖光、暗黒、深淵。
猛毒に、麻痺に、昏睡、強酸、呪怨、重力、空間……システムが記録している全ての攻撃方法が実行される。
それらを無防備に佇立したまま、白織と翠星はじっと受け続ける。
しかし、それでも──二人には一切の影響を与えられない。
攻撃が当たる瞬間にオーロラのような翠緑の光が生まれ、同時に全ての威力が虚空に相転移したかのように消失してしまうのだ。
溢れた極星光も、翠星が瞬時に支配下に置いて集め、白織へと還元されて二人の間を循環する。
まるで天女の薄絹のように、二人を優しく包む煌めく光。
それが、あらゆる猛威と破壊から遠ざけている。
「甘いよ!」
「私たちをどうこうしたいのなら、最低でも
跳ね上がる光輝の大鎌で、かち上げられる魔神の成れ果て。
何百トンもありそうな巨躯が、それでも軽いとばかりに冗談みたく吹き飛ばされた。
更に追撃として、天廻する光刃が巨躯を鋭く縫い留め拘束する。
「これで充分理解した」
「
「あぁ、そろそろ此方から行かせてもらおう!」
瞬間、鳴動する魂の炉心。
胸の奥で爆発的に増幅していく白き閃光は、まるで太陽の如く。
それも、優しさなど欠片も無く自壊すら厭わないと加速していく様は、あらゆる因果も不条理も焼き滅ぼすと滾り狂う、破滅と進化の陽恒炉。
「螺旋を紡げ我が魂、共に光の果てまで往くために! ──
総身に噴き上がる白金の煌めき。
あまりのエネルギー量で電離する原子の悲鳴が、甲高く弾けながら絶叫している。
それを大鎌に乗せて解き放つ。
穢れさえ飲み込むように白の光輝は光速を纏い、空間ごと一直線に斬り裂いてみせた。
光の奔流に裁断される成れ果て。
その身体が、原子核ごと浄化されるように解れて分解される。
ただのエネルギーとして、あまりにも煌びやかにシステムへと戻されてゆく。
成れ果てを構成する、あらゆる物質と術式が因果や理屈も越えて、強制的に解体されては純粋なエネルギーへと変換され、システムへ眠るように静かに帰る。
故にこれは、因果裁断の死滅光。
常識という絡まる螺旋を断ち切り、自在に捻じ曲げ組み直す強制再編の光であった。
「さぁ、帰るといい」
「あなたも私の大切な世界の一部だから……今はおやすみ、私の影」
溢れかえる光の中。
淡く儚く消えていく魔神の成れ果てに、二人は優しく触れる。
そしてすかさず、システムへ逆干渉を開始した。
接触箇所から双方向に伝導する、膨大な情報粒子とエネルギー。
それらを、白織と翠星は微笑みながら掌握していく。
核たる中枢装置の喪失、システムに貯蔵されていたMAエネルギーの急激な減少、過負荷で焼き切れた術式回路、システム中枢という物理的な要石へのダメージ……
数多の要因により維持する力を失い崩壊寸前だったシステムを、二人で分担しながら相互に補修していく。
そのたびに起きる、二人の
情報処理速度が足りない? ──なら足りるように進化する。
エネルギーの伝導が遅い? ──なら満たせるように進化する。
まだまだまだまだまだまだまだまだ──もっと高くもっと強くもっと先へ。
白織は翠星を進化させ、翠星は白織を進化させる。
お互いがお互いを、より高次の存在へと生まれ変わらせる様は、まるで次世代への転生。
世代を幾度も重ねることで新たな性質やより良い機能を獲得するように、二人は最適な形で改良と再編を刹那の内に実行する。
お互いにエネルギー生命体とも言うべき存在だからこその、生きたままの超進化。
脱皮、昇華、変革、覚醒──
進化、進化、進化、進化──
限界を超えて呼応し、何処までも飛翔する比翼連理──果てなき銀河を往く綺羅星の如く。
それらの一連の戦闘を、深淵の底で冥王は驚嘆と共に喝采を叫ぶ。
「あっはははははははははは──ッ!!
至ったのか。あの状況から、これほどの神髄へ!」
浄化されていくシステム。
干渉する権限さえも剥奪されてあの世界を覗き見る無数の視点が断絶しながらも、Dには欠片も嘆きやしてやられたといった感情は無かった。
あるのはただ、喜悦の一色のみ。
神髄とは、神格として最高位に至るには必須の権能。
魔術を越えた真の魔法、己独自の異界法則、世界そのものへ刻みつける神の星。
それが使えるだけで最低でも上位に位置し、発現した権能によっては最高位とも渡り合える力を手にすることが出来る。
しかし、当然ながら至るのは容易ではない。
そもそも神格の資格ですら希少であり、実際に神へと至るのは更に少ない。
その上神髄に目覚めるなど、確率を表記するのも馬鹿らしいほど絶無である。
Dが翠星に行っていたのは、力の譲渡による位階の引き上げだ。
いわゆる擬似的な神髄到達をさせていたに過ぎず、真の意味では覚醒には程遠かった。
しかしこれは──
「二人で一つの神髄! そんなやり方、机上の空論だと思っていましたのに!」
互いに足りぬところを補い、共鳴し合うことで魂の限界を越えたのだ。
ゆえに、ひよっこにも満たない成り立ての下位神が、上位の神でも習得している者が少ない神髄へと、真実到達していたのだった。
「基礎性能として……単独の個体として星さえ超える霊的質量、卓越した空間制御による超圧力の常温核融合、因果裁断による事象の改変に、あらゆる状況へ適応する相互進化などなど、色々ありますが……本質は別」
星さえ超える霊的質量を獲得し、星を破壊する威力でもなければ傷一つ付かない防御能力も。
不朽ゆえに際限なき出力捻出を実現している、永久機関である魂の炉心も。
それが力場を持つ存在であるならば、因果の糸を切っては繋ぎ直す干渉能力も。
極限環境や異なる法則にも適応できる存在へと進化する、強化転生能力も。
全ては、一つの法則によるもの。
「──
電界から磁界、磁界から電界へ。
あるいはエネルギーの増減で、物質が相転移により様々な状態変化を起こすように。
あらゆるエネルギーの相互作用と相転移は、万物に共通して存在する絶対の繋がりである。
それはもはや哲学や概念的な面も含み、共に生きる誰かが居るという相互承認によって死という事実すらも塗り替え、それらを自在に操り事象さえ編纂し越えうる権能となって現れる。
それこそ、本来は不可能な力の流れであっても。
空間という場にあるかぎり、この世の通常法則全ては白織の権能からは逃れられない。
惑星の運行すら手中とする太陽となった彼女は、恒星を物質転換させ惑星に、惑星をエネルギー化させて恒星にすることも、望むなら不可能じゃない。
その手は、あらゆる因果の糸を自由自在に好きな形質へと織り上げるのだ。
この世の全ては、繋がりで出来ている。
繋がり、流れ、永遠に続く不滅の理。
その恩返しと感謝の連鎖こそが、世界に光をもたらすと掲げた二人の答えだった。
「なぁ、見ているんだろうD?」
「これが私たちの答え、私たちの真理」
システムの中核を完全掌握し、一時的な安定駆動状態まで復活させた白織と翠星。
システム中枢はあるべき姿へと回帰し、界の位相が本来の場所へと戻る。
そして、穏やかに輝く白と翠の光が、虚空を照らし始めた。
掴み取った星の玉座と共鳴し、更に深い高位次元への道を開く。
「今度は、お前の番だ」
「私たちから出向いてあげる」
翠と白のエネルギーが渦を巻き、真なる冥界の底へと干渉する。
システムと繋がっていた底知れぬ闇の気配。
それを辿って、Dの居場所までの経路を確立するのだ。
全てを観覧し、愉悦と嘲笑で運命を弄びながら、悪逆非道を極める邪神の元へと。
「えぇ、来てください! 白織、翠星! あなた達が此処まで至るのを待っていました!!」
そして遂に開く、冥界の門。
最後の戦場へと続く道が、今この世界へと顕現する。
遥かな過去より続く、贖罪の輪廻。
その要を担った、闇黒の遊技盤の創造神へ──ありったけの想いをぶつけるために。
「「そう、全ては──此処から始まったから!」」
祈りを抱きながら翔ぶ、二条の流れ星。
特異点の更なる向こう側へと墜落を開始した。
創生──