激突する神という名の天体と天体──
白光に翠を纏う恒星と、際限なき闇の暗黒天体は止まらない。
特異点が大質量同士の争いに悲鳴を上げ、次元ごと震撼している。
元が同じ闇よりいでし者である白織とDは異常な共鳴をみせ、世界を圧砕する魂の波動に空間のほうが耐えきれない状況だった。
行き着く果ては自壊か、それとも諸共消滅か。
漲る戦意と轟く殺意の大合奏が、最終決戦を奏であげた。
「そしてDさん──長々とお喋りしていた訳は、さっきの事を言いたかっただけじゃない!」
「くぅ、らぁぁ、えぇェェ──ッ!!」
ただ長話をしているだけとは、当然思っちゃいないよな?
私たちの性質上、時間を掛ければ掛けるほど強くなるのは此方の方なんだよ。
「理解したぞッ!」
「相互進化、
直に接触し、空間に干渉し、未知法則を理解することでDの攻撃を掌握していく。
こと、
白織は空間という同一次元上の面から、翠星は魂という別次元の視点から。
感知の制限を取り払い、過剰に流れ込む情報を処理するために、さらに進化を重ねていく。
身体よりも脳の神経回路が融解しそうな超速演算をしながらの戦闘。
相互進化の成長率を頭脳面に集中させて、思考と反応速度は人間の域をとっくに凌駕し、光子が飛び交う思念伝達は擬似的な量子コンピュータ化して、未知を解き明かす。
燦然と輝く太陽のように、白金の光が闇を蒸発させていく。
もはや触れぬ影を持ち上げようとするような、虚しく空回りする攻撃では決して無い。
光の流星雨が猛弾幕を張れば、それを濃い闇が尽く消滅させる。
瞬時に懐へ飛び込み、放つ大鎌の閃撃。
闇黒の守り全てを叩き斬るが、此方の動きを読んで仕掛けられていた細剣に防がれ、反撃の鋭い剣閃が表皮を撫でる。
離脱しては撃ち合い激突しては斬り合う、そんな攻防を幾度も繰り返している。
その中で、見えてくるものがあった。
Dが一度に展開している未知法則は数種類程度までであり、それ以上を纏うことはしない。
手を抜いている訳では無いのだろう、それが上限なのかもしれない。
そして一度切り替えれば、再度変更まで幾ばくかの時間を空ける必要があるようだ。
未知なんていうからには、もしかしたらD自身にもあの神髄は完全には扱いきれてはいないのかもしれない。
未知は未知であるがゆえに性質上、理解しすぎれば性能が落ちてしまう。
その縛りからはD自身も逃れられず、展開上限数という形で影響を受けてしまうのだろう。
電子機器の内部構造を知らずとも扱えるように、何となく出来るから使っているのか?
それが付け入る隙となるかは──Dのことだ、甘く考えるのは愚考だろう。
それ以前に、あいつの総体としてのエネルギー量が桁違い過ぎて削り切るなんて不可能だ。
普通に正面から打倒し、討ち滅ぼすなんてことは絶対に出来そうにない。
だから──
「では、こんなのはいかがでしょうか」
Dの雰囲気が変わる──
遂に遊びではなく、本気の威力を籠めた魔技が繰り出されようとしている。
目を凝らせ。
あらゆる法則を瞬時に見抜き、刹那で対応してみせろ。
「消し潰れろ、反粒子装填。──
私たちの全周囲を囲むように突如発生した、正負真逆の性質である反物質。
それが対消滅反応を起こしながら莫大な熱量を生み出し、中心点に向けて空間砕震を伴いながら圧縮して殺到する。
対消滅と原子核崩壊によるガンマ線の大嵐が、檻に囚えた獲物を焼き潰そうと迫りきた。
だが──攻撃の初動を認識できている!
今まで接触してから察知できていた攻撃が、出現した瞬間に空間異常や力場変調から一瞬で解析して、不明瞭だった攻撃の姿を正確に捉えることが出来ている。
それはつまり、Dが読み込み展開している未知法則に、追いついている証拠であった。
そして忘れていないか──エネルギーの操作は私たちの十八番であるとなッ!
未知法則を解き明かしていればそれはただの現象。
散った光に干渉し再増幅、集束させて敵対者を絶滅させる極光へ。
相互作用の完全操作にて運動エネルギーを留めたまま、威力まるごと後背の光刃に充填させる。
「集束完了っ!」
「──お返しだッ!」
束ねた八本の光刃を発振装置として共鳴させ、惑星すら裁断する閃光として解放させる。
対消滅の威力を何倍にもしながら、輝照する白焔の奔流をDへと薙ぎ払う。
「微温いです!」
闇色の細剣が閃けば、光の大瀑布も微塵に斬られて消滅させられる。
Dが纏う未知法則──それを突破しても、あの細剣には届かない。
あれだけはDが周囲に展開している神髄とはまた別なのか、纏う未知を解明しているしていないにも関わらず、絶対に破壊できない。
解析不能、理解不能──無理に読み取ろうとすれば逆に此方が情報量の密度で死んでしまう。
無尽の未知という闇の結晶体。
それが、Dが持つ細剣というものについて分かる範囲での正体なのだろう。
一応、細剣は不可知にはならず目視で捉えられることが幸いか。
「年季が違うのですよ、年季が」
「はッ、そんなの知るか。拗らせババアめッ!」
「ちょっと、それは聞き捨てならないですよ──っと!」
だが、まだ此方の攻撃は終わりでは無い。
さらに重ねて一つ言わせて貰おう、出力勝負なら私たちだって負けていないんだよ!
「いくよ──!」
「うん、合わせるよっ」
それに未知法則をバンバン晒しているってことは、それだけ私たちも異次元の知識を得ている。
ならば今まで出来そうもなかった事さえも、それらを用いて可能になるって事である。
「
自身の全身を炉心と薬室に見立て、八本の光刃に煌めく大鎌を合わせて砲身とした、全開出力の指向性を持った白金に燃え盛る太陽フレア。
余波だけでエルロー大迷宮の最下層から地表までを吹き飛ばし、太陽系全域に電磁波障害を引き起こせる大火力は、文字通り宇宙を焼き穿つ絶光の彗星。
そして閃光が駆け抜けても残留する裁断光線。
蜘蛛の巣の如く張り巡らされた光熱線が、闇を切り裂き幾条にも枝分かれし無数の軌跡を描く。
それは空間圧縮されて次元を歪めた域にある、太陽風の灼光。
空間に絡みつき侵蝕して、発動させた術者が解除しない限り残り続ける光子の蜘蛛糸だった。
このような周辺被害を気にしなくていい場所でなければ使えない技は、星さえ細切れにして削りさる一撃となってDを欠片も残さず灰燼にするような光景だったが、しかし──
「このくらい最上位神の争いでは小手調べなんですよ! 銀河まるまる一つ潰した戦争と比べれば種火にも等しい!」
闇黒の細剣で防ぎながら、Dは五指を此方へ向ける。
掌に集うのは完全な闇として、光全てを呑み込みながら重苦しい淀みを外側に垂れ流している。
「虚無の彼方に落ちるがいい。──
顕現した、無限大重力の底無し沼。
著しく歪んだ時空間が世界に孔を開けていた、そして無間の暗闇に吸い込まれる太陽活動。
入れば二度と戻れぬ虚無の空洞が、万象を超重力で絡め取り遍く光を深淵に沈めゆく。
「邪神かく在れかし。絶対的な悪、相容れぬ敵、ならそう在るのが全てでしょう!
儚き子羊よ、暴威と悪意の試練に抗うがいい。この程度、容易く越えてみせろッ!」
崩壊星──つまりはブラックホール。
物質だけでなく光さえ脱出することができない闇の天体が、そこにはあった。
それは異界法則も混じっているのか、異常な発生原理を構築しながらあらゆるモノを事象地平線の向こうへと引きずり込もうとする。
光を轢殺しながら迫りくるそれは、まるで世界を暴食する怪物の口腔。
食い荒らし無慈悲なまでの滅びを齎す黒孔に、私たちは既に射程圏内へと収められている。
退避可能な束縛力ではないし、閃撃を撃ち込んでも重力に呑まれるだけ──なら。
「法則解明、制御開始──重力場掌握、次元歪曲と重力極点との接続完了っ」
「宇宙の底から、そのままひっくり返してやる──吹き飛べ!」
Dの回避不能絶対縛鎖の暗黒天体。
それに対し、力場への干渉から圧縮し続ける重力場の底を三次元上に繋ぎ直す。
全てを呑み込むブラックホールなら、事象の地平面に消えた質量を放出する孔もあるはずではと考えられた、数学的解釈の仮定上での架空現象──ホワイトホール。
それを超常の法則で実現させて、暗黒の向こう側へと消えた質量とエネルギーを撃ち返した。
取り込まれ保存された加速度が反転し、Dへと業火の如くに叩き込まれる。
得意分野なんだよ、私にとって空間操作は。
それを彼女の演算補助も合わせ、現象改変能力に秀でている神髄も行使すれば、こんな訳の分からない事だって不可能ではない。
あぁまったく……自分自身でもやっている事がトンデモ過ぎて訳わからんよ。
しかし──
『扱う未知法則が高度になってきている』
『解析が追いつかなくなったら、それこそ終わりだよ』
私たちがDの技を見て強くなればなるほど、あいつが闇より引きずり出す未知法則が、より難解で複雑なものばかりへと切り替わっていく。
ただでさえ瞬時に解析しなければ封殺されるという状況で、頭脳には甚大な負担を掛けるのに、処理能力を越えられる法則を出されれば、致命的に対応が間に合わなくなる。
際限なく威力と規模が高まっていく戦闘に、先に限界が来るのは此方側だと明白だった。
『ならどうするか』
『そうだね、白ちゃん。それなら……────』
『──あぁいいとも、今度はこっちに任せて。やってやろう!』
もとより、すべき事はそれしかないんだ。
なら、とことん足掻き抜いて輝いて魅せるさ。
「だから──」
「あぁ、まだまだ行けるともッ!」
奇跡だって幾らでも起こしてやる。
あいつの予想を遥かに超えた、最高のヒカリってものを示してやらねばならない。
私たち二人だからこその煌めきを。
「反応制御、
「そう簡単にやられるなんて思うなよ。──
反応条件の不足を空間制御の加圧と重力で賄い、炭素の核融合燃焼を暴走させて引き起こした、恒星の終わりに煌めく大爆発。
解き放たれた火力は一連の戦闘にて最大級を叩き出し、虚空に燦然と光り輝く。
しかしそれでも──最狂最悪の邪神であるDの前では、燭台の火のように消されてしまう。
決して届かぬ格の差が、何度も何度も如実に示される。
きつい、けれど──
──まだ、諦めてなるものか。
冥王は徐々に戦いの趨勢が傾き始めていることに気付いた。
それは──光が弱まり、闇に呑まれ始めているという無常な事実。
「まあ……こんなものですか」
僅かばかりに失望したような表情を覗かせ、Dは独りごちる。
こういう結果になると、最初から分かっていた。
むしろ良くここまで食らいついてきたと、称賛すらしている。
けれど、数十回程度の覚醒では埋められぬほどに──差がありすぎた。
地力が違う、技量が違う、経験が違う──圧倒的上位者であるDにとって、宇宙戦争が如き先程までの争いも、彼女たちが何処まで跳べるかというテストに過ぎない。
ゆえに惜しい。
見惚れるほど眩しくて素晴らしかったが、だからこそこの結末は避けられない。
「結局、彼女たちも求める水準には届かないですか……」
ついに失速を始めた白織と翠星の様に、深い落胆を覚えてしまう。
D自身、せめて魂と引き換えに太陽系の一つや二つ跡形もなく消し飛ばせる程度の実力が欲しいと考えているあたり、基準点が可笑しいと自覚はしているが、それでも妥協は出来ないのだ。
ここで戦いを止め和解をしてから二人の囲い込みをし、時間を掛けて更に育てていくという案も無くはない。
実際もともとの計画では、システムに取り込ませた翠星は限界寸前で引き揚げる予定だったし、白織もどのような結末であれ、捕獲してから自身のペットかメイドのどちらかをさせようと、そう考えてはいたのだ。
希少な神格、二人も増員できる機会など滅多にないのだから。
けれど、そうしてしまうと今発揮されている輝きの瞬間風速というものが失われてしまう。
絶望的な状況からの逆転劇を起こしたからこそ、魅せられている面もあるのだ。
そうでなければ、彼女たちもただの神の一柱にしか見えなくなってしまう。
有象無象と、何ら変わりない星屑に堕ちてしまうがゆえに──
「せめてもの手向けです。全霊の一撃で散ってください」
必死に足掻く、みっともない姿を見てしまうまえに思い出にしよう。
輝きを曇らせて最後は無様に這いずる光景など、この二人に対する侮辱とすら思えたから。
「
半分に砕け散る細剣。
滲み出るように黒い闇が、一点に滴り集う。
己が振るう未知法則の神髄が凝縮した存在である細剣を半分捧げ、止めの一撃を創造していく。
最硬の神と呼ばれる龍王神でも傷を負うほどの絶技は、白織と翠星の両名を一切痕跡残さず消滅させてくれるだろう。
なに、今回は諦めよう。
己には世界の終焉まで続く、長い永い時間があるのだから。
また似たような盤面から、二人のような煌めきが生まれるのを待てばいい。
だから──綺麗なまま逝ってください。
さようなら、白織、翠星。
「我が未知たる闇の狭間へ堕ちなさい。──
炸裂する、未知法則の極超新星。
夥しい未知を注ぎ込んで創星された、究極の暗黒天体。
原初の闇黒に白織と翠星は抵抗すら出来ずに──無限と虚無が混じり合い、正値も虚数も混沌とした不確定の極致へと、二人は溶けていくのだった。
「大丈夫」
「そうとも、まだ私たちは──」
・