時は変わらず流れ続ける。
昨日も、今日も、明日も──星は廻っていく。
闇に包まれながら、そして光に照らされて、私たちを乗せながら終わりなき旅路を続けていく。
ただ、自然の在るがままに。
健やかに生き生きと、星の鼓動は力強く巡っていた。
もうこの星は、星の半分が崩壊したままな死にかけの星では無くなった。
砕けた地殻は一つとなり、新たに生み出された大陸と海が、星の全面を覆っているのだから。
星はついに、再誕を遂げたのだ。
かつて小さな大陸二つにしか生存圏が許されなかった姿を知る者としては、今の星はとても広大な新天地が手付かずのままとなっている。
そのほとんどが岩だらけで生き物がまだ居ない荒野だとしても、長い永い時間を掛ければ其処も生命の気配に満ちていくだろう。
可笑しな宿命や贖罪を課されることもなく、争いを強要されることも無い。
そのためにどれだけの生命が失われ、どれだけの魂が磨り減り、そして消滅したのか言うまでも無いこと。
余計なことは語らない。
なぜなら彼ら彼女らは、魂まで捧げた英雄達なのだから。
だから私は、ありがとうとだけ告げる。
あなた達のお陰で、このときを迎えられたことに感謝を捧げます。
いつ崩壊するかも分からぬ、星の滅びとは無縁のままに。
当たり前に生まれて、当たり前に死ぬ。
きっと、生命本来の姿はそんなちっぽけなことで良いのだから。
けれど、あの日から季節が一巡りしても、私たちの仕事はまだまだ終わっていない。
新米の神様で、こんなちんちくりんなのに地母神となったわたし苔森真理こと翠星は、今日も星の各地で奇跡をやり遂げた者として日々動いております。
この星の住人の一人として、私たちが勝ち取った未来と共に。
「よし、これで此処の分は完了」
腐葉土を山型に掛け戻しながら、軽く叩く。
その小さな山の頂点には、可愛らしい苗木が青々と枝葉を伸ばしていた。
周囲を見渡せば、これと同じような光景が幾つも作られてある。
様々な種類の樹木や草葉などが、荒廃したままの大地へと植えられていた。
「いつもの植樹? 今日くらいは休んでもいいのに」
「まだまだ、此方側の大陸は生物が住むには厳しい環境だからね。少しずつ改善していかないと。それに転生してからは、やる暇がなかったけれど土いじりは趣味だったし。字面通りの
植物だけではなく、土と水も撒いていく。
微生物などもまだまだ充分とは言えないので、此方側の環境調整は凄まじく面倒。
だけど、とてもやり甲斐のある作業だった。
此処は、便宜上私たちが新大陸と呼んでいる場所。
外洋航海の技術も失われた今の人類では、あと数十年は到達するのに掛かりそうな、遠い距離の場所でもある。
海域は水龍の縄張りだったことから、造船技術も内陸や河川のみで使う小型中型だけに衰退しており、人類が海へと進出するだけでも、まだまだ先の事になりそうだ。
「しかしまあ──星を救って、はいめでたしとは行かないのが現実の世知辛さかな」
「そんなものだよ白ちゃん。物語はハッピーエンド後も登場人物にとっては続きがあるのだから、私たちも続きを生きていくの。それに──個人的にも世界を変えた責任として、変えられる
土や泥に汚れようとも嫌な顔せず、一つずつ一箇所ずつ丁寧に。
星と同期していれば、未だボロボロな状態が分かってしまうからこそ、居ても立っても居られないから、だから私は今日も今日とて緑化活動に励んでいる。
「
システムあらため惑星環境調整システム、
ここ一年で不要な機能を取り払い、今の私たちのために改変した新たなシステムから、この土地が今の状態からどのような植生や気候となるのかを予測演算する。
それを確かめて、私は頷いた。
「…………うん、大丈夫そう。時間が経てば此処も翠に覆われるよ」
「コケちゃんの神髄でパパッと出来れば、こんなに苦労しないんだけどなぁ」
「仕方ないよ。魂の籠もっていない無機物とかを変えるならともかく、生きているモノを書き換えてしまうのは色々問題になるから。生命力を増やし成長を早めてあげるくらいしか出来ないって」
実際、苗木がほんの数ヶ月で巨木に成長できる生命力が
当然ある程度軌道に乗れば徐々に減らしていき、自然に環境が循環するようになるのが最終目標ではあるけれど、今はこうして地道に自然環境の復活を私たちは目指しているところだった。
それに、既に自然が出来上がっている場所もある。
環境調整が完了した地域では、移住させて来た魔物と動物の、大自然の楽園となっていた。
新たな土地で新たな生態系が築かれて。
その環境に適応した魔物や動物たちの営みが生き生きと紡がれ、生命と自然の流転は確かに回り始めていた。
「それよりコケちゃん。もうすぐ時間だよ」
「え、もう? ……本当だ。教えに来てくれてありがとう、白ちゃん」
確認してみれば、だいぶ時間が過ぎていた。
土汚れを落として、着替えてと──皆を待たせる訳にはいかないし。
「……………………それじゃあ、また後で……ね」
「ん、あぁ……」
少し頬が赤くなりながら私は転移で、
一人その場に残る白織は、周囲を見回す。
「まだまだ、これからか」
星も、私たちも──
万里眼でざっと世界を観察すると、自身も帰るかと白織は転移を発動させるのであった。
私とコケちゃんが中核となった新たなシステム。
それについて、太陽神などという分不相応な肩書きを得てしまった私、白織は考える。
それは私たちの性質と能力が影響してなのか、少し変わった法則がこの星へと適応されるようになっていた。
これはステータスやスキルとは、まったくの別のモノであった。
なにせ、そちらは現在機能停止中だ。
最初の計画で予定していた強制回収こそしなかったものの、今ではステータスとスキルの機能は徐々に衰退していくだけの、過去の遺物になりかけていた。
既に取得しているものは変化しないけれど、新規での獲得や成長は出来なくなっている。
システムが今までのように魂を管理していないのだから、当然スキルなども順次剥がれていく。
残ったとしても、当人に適したスキルなどが一つか二つ、システム無しでも魂が覚えているから使える程度だろう。
百年後を目処に、魂に貼り付けられた術式は完全に消滅していく。
そして新たな法則はシンプルに言えば、恩返しをすると上手くいく世界と言える。
思い遣りや感謝など、他者愛に属する気持ちを抱くと、健康的になり能力や才能を発揮しやすくなるという、他を想う者ほど報われる世界。
これは人だけではなく動植物や魔物にも適応される、この星に住む全生命に与えられた祝福。
別に、そうなるように法則を弄った訳では断じて無い。
気がついたらそういう仕組みが組み込まれていて、
……これがもし害あるものだったのなら再びシステム解体をしててでも停止させただろう。
けど、現状問題は起きていないし方向性もそう悪くないものだから、出力を制御するだけでそのままに留めていた。
じきに旧来のシステムは、こちらの法則に置き換わる。
まだまだ荒削りで微調整していく必要はあるだろうけど、今後はこの法則がこの星を満たすこととなるだろう。
そうなるのは確実だ。
実際──星にとっても人の世にとっても、この程度の些細な恩恵で充分過ぎる。
殺し合うことが目的の血腥いシステムよりも。
逆に何でも願い事が叶ってしまう魔法のランプのような代物よりも。
そんな極端な世界だと、絶対歪なことになってしまうから。
感謝と恩返しの環で、みんなも自分も少しだけ良くなれる。
現実の厳しさはあるけれど、ちょっとだけ甘い楽園なんて──素晴らしいとは思わない?
「──とっ」
「ちょっとご主人様!? 主役が二人共いないなんてどういうことよ!」
「ごめん
「──ッ…………はぁ、調子狂うわホント。中身まで完璧になられたらますます立つ瀬が無くなるじゃない」
転移した先に居たのは、前は吸血っ子と内心で呼んでいたソフィア。
その彼女が普段よりやや着飾った格好で、唇を尖らせながら不満顔で睨んでくる。
──昔は他人のことをあだ名で呼んでいた私。
それは一種の無関心や、自他を線引きして無意識で見下していたがゆえの行いだった。
今でもその気質がないとは断言できないけれど、自覚したからには改善していかないと。
コケちゃんとの約束でもあるし、まずは名前からということで。
「それで? 彼女は先に来たはずでは?」
「そっちは急ぎ準備中よ。いくら魔術で手早く出来るとしても、微調整やメイクには時間掛かるのだから一時間なんてあっという間よ。…………ご主人様は、大丈夫そうね」
「そりゃあ、この一張羅をそのまま使うんだし、先に着替えて準備したもの」
白い軍服調の袖口を、もう片方の手で掴む。
大厄災でコケちゃんを助けにいった時の服装。
それがもはや私の正装としての格好となっており、私たちが出張らなければならない案件のときはいつもこの姿を着込むのだから。
──それに、想定はしていなかったけれど
「それじゃあ、少し挨拶でもしてきなさい。ご主人様に話がしたい人が何人か居たわ」
「分かった。ソフィアもまた後で」
「えぇ。実質身内だけなものだし、細かいことは気にせず楽にやればいいわ」
「それがいい」
普段より華美に仕立てられた純白の外套を翻し。
含み笑いを交わして、私とソフィアは別々の方向へと歩き始めたのだった。
此処は、システム中枢のあったエルロー大迷宮から星の正反対の地。
そこに出来たオーストラリア大陸のような巨大な島が、今の私たちの拠点である。
何故わざわざ昼夜逆転するほどの場所に居を構えたのかというと、この場所が星を管理するための要所だからである。
その効果範囲を制御し効率良く循環させるためには、対となるもう一箇所が必要だった。
それで選ばれたのがこの島、エレウーシス。
第二の中枢となるからと実に安直に、
この島周辺は真っ先に環境を整えたので、今いる白亜の城みたいな拠点の周囲には雄大な大自然が広がっていた。
野を犬系の魔物であるハウンドが駆け、森の樹木を勢い良く登るのは猫型魔獣の姿。
兎が軽やかに藪に潜り込めば、それを狙う狐が忍び寄る。
虫系魔物も、蟻とか蜂とか蟷螂なり蠍なり蝉だったりと、繁殖力が強いぶん多種多様。
木々の隙間や暗がりでは、既に普通の虫となったタニシ虫とかワーム系の魔物とかが森の掃除屋を行っていた。
それとコケちゃんとは関係の無い普通の森に暮らしていたコケダマ達や、因果は不明だけど原種回帰した魔蛾などが伸び伸びと過ごしている。
私の眷属とも言える迷宮の悪夢らも希望者が一部移住して来ているので、暗影に白い残像を走らせたりすることも。
そして生態系の上位にはステータスなどを失っても尚、王者として君臨する龍らが居る。
ギュリエを介して募った、新大陸への移住希望者たちだ。
地下や洞窟では地龍が、海や水辺では水龍が、火山地帯では火龍が、空や地上にはそれ以外の龍が渡ってきており、その系譜から派生した新たな龍も生まれようとしていた。
ずんぐりむっくりとした二足歩行の龍、蛇のように身体の長い龍や、巨大な翼の龍など、進化の模索中で性質も形状も様々な龍達が、大地を踏み締め大海を泳ぎ、大空を翔ぶのであった。
この星で、もっとも生命力に溢れた場所であり、もっとも祝福された土地であり、もっとも神と近い聖域。
……などと、その神様本人が言うのも何だけどね。
まあ──そんな場所が今の家で、ソフィアの他にも同居人は何人か居るわけで。
未だきちんと完成しているのは居住区域だけの建築途中な我が家。
建物を管理している、コケちゃんの眷属が独立して一つの種族となった翅の生えた小人のような姿の
「お、白ちゃん」
「体調は平気? アリエル」
少し歩いた先に、
傍らには
「もちろんっ! ……と言いたいけど、まあ少し辛いかな」
あの戦いが終わってからというものの、アリエルは急激に衰えだした。
老化しない体質だったけど、魂を酷使しすぎて限界を越えてしまったのだ。
刻一刻と筋力を失い、日が経つにつれ白髪も増えている。
終わりが近づいている光景を見るのは、やはり私も寂しく思う。
「でも今日だけは何としてでも出席するからね、
「あぁ、
だから、
「うんうん。実に果報者な孫を持てて、おばあちゃん嬉しいよ」
「……まだまだ、生きててほしいよ」
「無理言わない。アリエルの冒険は終わったの、これ以上は望まない。それに、もし向こうで転生せずに報告を待っている家族がいたとしたら、教えにいかないとね」
「いると、いいな」
「うん。待ってるさ、きっと」
消えかけの蝋燭みたいな儚い笑みに、涙が出そうだったけれど堪えた。
今日は、その涙は似合わない。
「ほら、次いったいった」
「ちょッ」
「私はまだ大丈夫。あいつら千年近く待ってるんだから、数年なんて誤差だと笑ってるとも」
「アリエルっ、押さなくていい! 車椅子乗ってるそっちの方が危ないだろう!?」
アリエルから小突かれながら、私はその場から押し出された。
じゃれつくように、悪戯好きのフィエルや不思議ちゃんなリエルらも纏わりつく。
それを苦笑して見守るアエルに、今も昔も変わらず慌てふためくサエル。
騒々しくも遠慮のいらない、私とアリエルたちとの関係。
なぁアリエル──私はあなたに恩返し出来ましたか?
「──当然だろう。こちらこそありがとう白ちゃん」
「で、アリエルに追い出された先が我らか」
「お久しぶりですね、白織」
今度はギュリエとサリエルの二人だ。
「たしか、人道支援組織を立ち上げようとしているんだっけ?」
「そうだ。システム稼働前にも、サリエルはそうしていたからな」
「肯定。救いを求める人は絶えません。まして時代の転換期であれば特にです」
私たちが星そのものを見守るとするならば、この二人は人を見守るつもりらしい。
これから旧システムの影響が消えれば、その必要性は増々高まるだろう。
星を治さないといけないのに、人の世まで面倒みるなど、流石に私たちも手が回らない。
だから私たちとは担当分野が違うからこそ、こうして良好な共存関係を結んでいた。
「──んで、いつ告白すんのさ。ギュリエ」
「むッ!?」
そっとギュリエだけに聞こえるように耳打ち。
まだお酒も飲んでいないのに、ギュリエも場の雰囲気にちょっと浮かれている様子。
さっきからやたらサリエルに熱い視線を送っているのがバレバレだ。
「いや、そのだな……俺とサリエルとは、いまだ……すべきことが……」
「呼びましたか? ギュリエディストディエス?」
「いや! なんでもないぞッ!」
「? ……そうですか」
私も、女神があんなだなんて知らなかったわー。
あのタイプは、絶対自分からは自覚せんぞ。
だから、お前の方から行けと背中蹴っ飛ばしてやってるのに、こりゃまだまだ掛かりそうだ。
ヘタレめ。
「ゴホン! 向こうに連れてきた転生者が居る。会いに行ってやれ」
誤魔化すように咳払いをしながら、ギュリエは一方を指差した。
「ん? 二人だけ?」
「シュンたちとユーゴーはそれぞれ自国で忙しくて来れないそうだよ。久しぶり白さん」
「お久しぶりです、白さん。真理ちゃんは元気ですか?」
そこに居たのはラースと、勇者パーティで聖女だったユーリの二人だけだった。
「うん、彼女は元気だよ。今日も精一杯土いじりってね」
「ふふ。此方も大変だけど、そっちも大変みたいだね。星全てとなればそうなんでしょうけど」
コケちゃんの前世からの友達だというユーリ。
元聖女で、今はなんと私たちを祀る新宗教《翠星教》を立ち上げていた初代教皇様である。
……初めて聞いたときは意味が分からなくてコケちゃんと共に開いた口が塞がらなかったよ。
なんでも、神言教が崩壊するのに合わせて革命を起こして基盤を引き継ぎ、新たな神話をもとにした宗教を作り上げたらしい。
──大厄災は、我々不甲斐ない人類に下された最後の審判だった。
女神は狂気に堕ちて、我々を裁く魔性を解き放ったのだ。
かつての人は自然への畏敬を忘れ星の悲鳴も顧みず、星より生命を奪い取った。
己の寿命のために、己に都合の良い世界のために、浅ましく欲した罪業を裁くために。
ゆえに勇者は立ち上がった。
兄より継いだ蒼銀の聖剣を携え、勇士たちと共に大いなる魔性に立ち向かったのだ。
そして勇者たちは想いを示し、狂気に曇った女神の目を醒まさせた。
さらに、女神の想い人である白き太陽が単身地の底まで降り、闇から女神を解放したのだ。
そして知っての通り、世界中の人々が新たな神話を目撃する。
星を覆った、翠の光。
それこそ、生まれ変わった女神が齎す慈愛の祝福に他ならない。
今や、我々は贖罪に囚われることは無い。
今や、この星は美しい姿を取り戻した。
今や、女神の愛は全てを包んでいる。
さあ新たな女神と自然へ感謝を捧げましょう──我々が生きる翠の星へ。
……というのが、翠星教の聖典第一節らしい。
サリエルとコケちゃんのことが混同されているけれど、分かり易さ重視で混ざったらしい。
空恐ろしきは、友情と狂信者メンタルが融合しトリップした結果できあがったこの怪文書よ。
私たちの神名とか性質、話したことないのに何故か当たっているの、本当に意味分からん。
コケちゃんも怒るべきか嘆くべきか言葉に出来ない、すっごい複雑な表情してたなぁ……
けど、教義としては実に真っ当だから止めろとも言い難いのが、なんだかなぁ。
「今日のことも、きちんと聖典に書き記さないと! なにせ──」
「やめよ」
「あいたっ!?」
狂信者もまた、物理的に止めねば。
変な方向に全力でブッ飛んでいく手合に、遠慮はいらん。
「なにを!」
「まあまあユーリさん。そういうのは当人に迷惑掛からないようにね」
「そっちはどう? ラース」
「おかげさまで、シュンたちと居ると退屈しないよ」
ラースは今、第四王子という身分を活かして各国を渡り歩き、国家間の関係改善に勤しんでいるシュレインの護衛をしている。
元勇者くんもまた、自分の立場だから出来る平和を一歩ずつ模索している途中なんだとか。
「シュンは、やろうとしている事が事だから敵も多い。けど、僕が襲撃者を止めるために振るったなまくらより、暴走したカティアとスーレシアを制止するために落とした拳骨のほうが多いとか、いったい僕はどうすればいいんだろうね」
「私に聞かれても困るんだが……」
そう口では愚痴を言うが、ラース本人はそこまで困っている様子ではない。
むしろ昔日を懐かしむような、朗らかな苦笑を浮かべるのだった。
彼の女性関係については、私はノーコメントで。
いつ
「先生は、シュンたちに同行しながら各地のハーフエルフ達に呼びかけて、残されたエルフの里の復興を目指しているようだけど、まだまだ人手も賛同者も集まらないみたい」
「……私たちの手助けは必要ないって言っていたけれど、やっぱり心配だな」
かつて里からは排斥され人族からは長寿ゆえ疎まれて、ハーフエルフはどちらの社会からも浮いている存在。
ゆえに一部では迫害されていることもあるらしく、先生ことフィリメスはそうした人達の保護をしたり結束を呼び掛けているみたいだ。
先生のことはこっそり見守っているが……本当にどうしようもない時は手を貸すつもり。
前世の命の恩はこんなのでは返しきれないほどだが、余計なお世話との線引きも大事だから。
「それと……あっちで怪しげな
「あぁー、分かった
「それじゃあ白さん、また後で。ほらユーリさん、行きますよ」
「また後で」
「なんで居るのさ」
「おや? あなたは実質私の子供のようなものですし、子供の晴れ舞台には親は必ず参列するものでしょう」
そうかもしれないけど、へんてこな仮面を被った
「ご安心を、この駄女神が何かやらかそうとしましたら、わたくしが責任を持って止めますので」
「今回ばかりは、真面目に祝福しに来てますのに……」
「信用というものを、ご理解していますか?」
黒い艶のあるドレスに身を包んでいるのは最狂最悪の邪神ことD本人だった。
そしてやたら棘のある言葉でDを
「それにしても、この星なかなか良いですね。
私の陣営に所属している神たちの、保養地にしてもいいですか?」
知らん。
せめてコケちゃんにも話を通せ。
一応神々の常識を学ぶために、教師役が来たときに再び冥土さんとは顔合わせをした。
それから多少お世話になっている冥土さんならともかく、あんたが来ると大抵傍迷惑な大事件になるから簡単には頷きたくないんだよ。
「よよよ。あのときの友達宣言は紙風船よりも軽かったのですね」
「来るなとは言ってない。面倒事起こすなって言いたいの!」
「私に呼吸するなと!?」
「は っ た お す ぞ」
一応顔は笑顔のままだが、青筋が立っている気がする。
ほんとうもう、この捻くれ者は迷惑掛けまくらないと気が済まないのだろうか。
「ぅぐッ!?」
「……すみません、白織」
「いえ、あなたもお疲れ様です」
「────分かってくれますか」
「ちょ、首が締まってますってッ」
黙らっしゃい。
このDに対処できる存在が冥土さんくらいしかいなくて、毎回結構苦労してきたとか。
ちょっとした親近感──それと、この人も戦闘以外ポンコツらしく、そこにも共感が。
「では白織、また後で」
「ええ冥土さんもまた。──それとD、あんたはいつか必ずぶっ殺してやる」
「ふふふ、やれるものなら。楽しみにしてますよ」
冥土さんには会釈をし、Dには親指を下に突き立てながら。
私は冥界と地獄の神たちから去るのだった。
そして最後には──
「あっ」
「あら?」
ある部屋の扉から、一人の女性が出てきた。
肩口に切りそろえられた黒髪に黒目。
だけど、顔立ちと体格はとてもコケちゃんと良く似ている人。
そう──彼女は、コケちゃんの前世でのお母さん、苔森
何故こちらの世界に居るのかについては、詳しく語ると長くなるけれど──
半年ほど前に地球へ行ったとき、照さんが自殺しそうになっていたから思わず助けて連れてきてしまったから。
今の心から幸せそうな様子からは考えつかないが、助けた当初はそれはもう酷い状態だった。
薬の
違う星で照さんは目覚め、そして娘とどのような再会をしたのか──言うだけ野暮だろう。
娘と居られる生活こそが一番で、ずっと此処に居たいとコケちゃんに縋り付いていたのだから。
向こうの星を管理しているDからは色々文句を言われたが、知らん。
私は私のしたいようにするさ、今回のは問題あったとしても間違いだとは思わない。
その後Dから──『仕方ないですね。ご褒美代わりと貸し一つで、手を打ちます』
と言われ、貸し一つってのが怖いが母娘の感動の再会を行えたのなら、まあ安いものさ。
「ちょうど良かった。さあ、どうぞ。準備は出来ていますので」
物腰柔らかに微笑む照さん。
その様子はかつての不健康さは微塵もなく、血色の良い細い手で私を部屋へ誘った。
花の香りが鼻腔を擽った。
扉の隙間からは、細やかな意匠の調度品が目に映る。
純白の部屋には色とりどりの花が生けられ、この部屋をまるで花畑のように見せている。
少しだけ緊張しながら一歩ずつ進み──その中には。
「──えへへ、どうかな白ちゃん。似合って、いるかな……?」
純白のふわりとした衣装に身を包み。
たくさんのフリルがあしらわれた清楚で可憐な
「良く似合っているよ。とても……とっても綺麗だよ」
気恥ずかしさを感じながら感想を口にすると、嬉し恥ずかしといった顔で笑みを返した。
互いに少し赤くなりながら、そっと傍に寄り合う。
手が触れる距離に、紡ぎ出した愛と未来がある。
「やっぱりちょっと恥ずかしいかも。なんだか子供が憧れてウエディングドレス着ているような、微笑ましい感じとかじゃないかな?」
「そんなことないよ。もしそんな茶々入れる奴がいたら、直々に海のド真ん中に落としてやるさ」
「ふふふ──ありがとう」
何でもかんでも背負い込みがちで、いつも無理しすぎな。
だけど、とっても優しくて、健気でひたむきな──私の大切な人。
貴女の花が咲いたような無垢な笑顔が、なにより愛おしいから。
「こちらこそ、ありがとう。
私と出会ってくれて、私と旅をしてくれて、私と一緒に未来を目指してくれて」
「ううん、私も白ちゃんと出会えて良かった」
「だからこれからも、ずっと傍にいてくれますか?」
「うん勿論、喜んで」
私も頷きながら、花冠とベールから覗く髪を優しく梳く。
ふわふわとした柔らかい髪が指先へと絡まり、慰撫するかのように包み込んでいた。
「貴女を愛しています」
膝を付き、懐から取り出したのは小さな化粧箱。
それを上下に開けば、翠の石が嵌った白に輝く指輪が光を反射して煌めいた。
「はい…っ、私も貴方を愛しています……っ」
涙腺が緩み瞳を潤ませ、より愛おしくて可愛らしい笑顔が花開く。
その最高の幸福を感じるだけで、心同士が確かな糸で繋がっているのだと間違いなく思える。
胸に湧き上がる、この暖かい感謝を抱きしめながら。
生きていこう、二人で。
生きていこう、この星で。
生きていこう、みんなと共に。
これからも続く、星の未来に包まれながら。
「「さあ、一緒に行こう。どこまでもっ」」
翠白の報恩譚は、悠久の果てまで紡がれ続けるのだから。
──うん?
この星の未来はどうなっているのか、だって?
それはさっきまでの説明で分かるはず──いや、そうだな。
それはきっと──
コケダマですが、なにか? なんてね。
此処まで読んでくださった方々に感謝を。
そして、まだ行っていない方は感想・評価を残していただけると嬉しいです。
次話:あとがき。