【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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メインヒロイン()回。


新たな世界へ
R1 悪夢と亡霊


「いやー、実にいい戦いでしたねー。

 これには、なにかご褒美を考えないといけませんね。何にしましょう悩みますね」

 

 ︙

 

 

 

 暗闇の中。

 光る物といえばヒカリゴケの仲間か発光する性質を持つ鉱物しか存在しない、僅かな光源が点在するのみのエルロー大迷宮の上層にて。

 ランタンや松明を手に持った、兵士や案内人などの熟練の気配を感じさせる40人ほどの集団が、周囲を警戒しながら暗闇の中を進んでいた。

 

「ブイリムス~、ちょっと休まんか~」

「さっき休憩したばかりではありませんか」

 

 儂ら帝国から派遣された部隊を率いることになったブイリムスとかいう若造が、儂の火急で非常に重要な提案を、取り付く島もなく切って捨てさる。

 

「もう1時間前じゃ~」

「たった1時間前です」

 

 髪も白く染まり皺も増えた老骨には、代わり映えのしない洞窟を1時間も歩き通すのは、身体にこたえるのじゃ。

 いやはや歳は取りたくないのぅ。

 あいたたっ、昨日痛めた右足がっ。

 

「昨日は左足を痛めたとおっしゃってましたよ」

「うぐっ?」

「いきますよ、ロナント様」

 

 後続の兵士達も疲れておろうと、わざわざ儂の名演技を披露して休ませてやろうと思ったのに、容易く看破しおって。

 可愛げがない。

 ならば、次はこうじゃ。

 

「やっぱ、あれか? 早く帰って生まれたばかりの我が子の顔が見たいんか?」

「そういうわけでは」

「あ、それにあれか、カミさんにも会いたいか?」

「ロナント様!」

 

 流石に身内のことをイジられると、我慢できず反応したか。

 儂の知り合いは多いからのぉ、色々と入ってくるのじゃ。

 それに顔を合わせた後に本人からも聞いたしの。

 

「そう怒るでないわい」

「もう少し緊張感をお持ちください! 我々に命じられたのは、ただの探索ではありません!」

 

 眉を顰めて鋭い目つきになったブイリムスは、語気を強めて皆に言い聞かせるように叫ぶ。

 

「最近、このエルロー大迷宮内の多くの魔物がその生息域を離れ、出入り口に押し寄せてきているため大陸の危険度が増している。原因はおそらく、いくつかの冒険者のパーティの報告にある蜘蛛の魔物と姿を確認出来ていない何か。その危険度はAもしくは最悪のSランク」

 

 儂は事前に調べておった知識とブイリムスから聞いた説明を、記憶の奥底から引っ張り出して思い返す。

 

 幼体と大して変わらぬ大きさの蜘蛛の魔物、しかしその脅威と強さは比べ物にならないモノを持っているだろうと言われておる。

 一目見ただけで全滅の未来が見え死ぬことを覚悟したという、それほどの恐怖と脅威を感じたと言われておるの。

 しかし、あくまでそこいらの冒険者の力量で全滅を覚悟したと感じただけであろうし、儂ならばどうとでもなろう。

 他には、どうやらその蜘蛛の魔物、気まぐれで人を助けたこともあるようじゃの。

 目撃は最初、運悪くエルローバラドラードというでかい蛇に見つかり逃げ回っていた冒険者が、突然その蜘蛛の魔物が現れて大蛇を仕留めた後、怪我を負っていた冒険者を治療して去っていったという、なんとも馬鹿らしい話じゃ。

 

 魔物というものは大抵考える頭なんぞ持っておらず、恵まれたステータスにかまけて魔法のマの字も知らんような奴らばかりじゃ。

 そのような輩が、人助けじゃと? 

 冗談にも程があるわい。

 

 もう一方の何かは、そもそも目撃した人が欠片もおらず危機感を感じたときには意識を失って、いつの間にか迷宮の隅に寄せられて倒れていたという話ばかりじゃ。

 気づいたときにはすでに遅く、身体が動かなくなると同時に強制的に眠らされる。

 そして目覚めると通路の死角や隅で転がっていて、いくつか荷物が無くなっているのだと言う。

 主に、食糧の類が少しばかり減っていて、中には財布が無くなっていたと報告していた奴もおるらしいの。

 それに意識を失う前に怪我を負っていた冒険者が目覚めた時、どこにも傷跡がなかったとも言われておる。

 

 こちらも人助けする魔物なのでは? と囁かれているが真偽は怪しいのう。

 

 じゃが、もし2体ともその話が真実なら、相当賢いと言えよう。

 魔法の真髄も理解していないような存在じゃが、伝説に名を連ねる魔物に相当するのは違いないじゃろう。

 ならば儂の偉業に新たな歴史を加えるのも悪くはないか。

 

「わかっとる、わかっとる。それを討伐しろと言うんじゃろ」

 

 どんな魔物であろうと、帝国一と言われた儂の力ならば勝てる。

 儂はキリっとした表情を作り、不安にかられておろう皆に向けて言った。

 

「何が来ようと儂がいれば安泰よ。大船に乗ったつもりで構えておれ」

「ロナント様……」

 

 ブイリムスが強張った表情を緩める。

 気を許した今この瞬間こそ、チャンスじゃ! 

 

「だから、ちょっとは休まんか?」

「だめです」

 

 またもや切り捨ておった。

 

「……うぅむ、ケチじゃのう」

 

 そうして案内人の先導のもと、騎士を率いて先に進みおった。

 

 

 

 しばらく歩いて、目撃情報があったという場所に辿り着いた儂らじゃが、そこには分厚く張られて道を塞ぐ蜘蛛の糸があった。

 

 一目見てわかるほど幾重にも乱雑に重ねられた網の目は、ここから先へ進むことを拒んでいるように見えた。

 

「運が悪いとはこのことです。我が子が生まれたと知らされたのに、その子の顔を見る暇もなく、こうして暗い洞窟の中にいるんですから」

 

 そうブイリムスが愚痴っておる。

 その意見には賛成じゃが、ならもう少し皆を労ってくれんかのぉ。

 

「ふむ。話に聞いておった場所はここで間違いないんじゃな?」

「はい、その通りです」

 

 目の前に広がる大通路の一角を覆い隠す蜘蛛の巣は、端が焦げたように変色していたり剣が貼り付いたまま宙に浮いているものの、大半が頑丈さを保っていることを示す純白の色合いをしていた。

 

「蜘蛛の巣を燃やそうとはしなかったんですか?」

「それが松明程度の火力では燃えなくて、焼き切ることも叶わず」

 

 なるほどのぉ、燃えぬ糸か。

 

「では火力を上げるのはどうかの」

「ロナント様?」

 

 いざ、我が炎の真髄。はぁぁっっ!! 

 

「ちょっ、待っ、ロナント様!」

 

 手始めに下級の魔法で焼いてみたが、なるほど燃えんな。

 ならもう少し強火ならどうじゃ? 

 

「ふんんんっ!」

「うわっ!」

 

 火力をさらに上げた魔法は蜘蛛の糸を焼き溶かしていき、一度火がついた糸は次々と燃えて大穴を広げていく。

 その勢いをドンドン強くして通路を塞いでいた糸が跡形もなく燃え尽きるほどに。

 

「あちゃあ、強くしすぎたわ」

 

 幸いなことに、その奥に蜘蛛の魔物の姿はおらんかったので、いきなり戦闘とはならずにすんだがの。

 

「やってしまったの」

「ええ、しかしどうやらここは放棄されていたみたいですね」

 

 燃え盛る火炎で照らされた通路の奥には、食い尽くされた残骸が転がっているのみで、そこの主の気配は欠片もなかった。

 

「これは地竜の死骸か? こっちはエルローバラドラードの牙?」

 

 火が着いて巣の状態が変わってしまったが、内部には食べられず残したと思われる硬い部位の残骸以外には何も無いように見えるの。

 

「見事に何もないのう」

 

 残骸の劣化具合から、長いこと使われていない形跡が見受けられる。

 

「ええ、どうやら巣の場所を移したようですね」

「そうか。では、虱潰しに探すしかないのう」

「ですね」

 

 放棄された巣の跡を隈なく調べた後、儂らは探索を再開した。

 

「むぅっ?」

「ロナント様?」

 

 なんじゃ、今の気配は。

 

「どうかなされました?」

「……いや、なんでもない気の所為じゃ」

 

 そうして儂らは、奥へと進んでいった。

 

 その背中を見つめる黒い双眸に気づくこともなく。

 そして音もなく羽ばたき影に紛れて飛び去っていった。

 

 

 

 数日を掛けて周囲を探索したものの手がかり1つ掴めずにいた儂らは、中層に続く道のある場所へ向かっていた。

 

「蜘蛛の魔物というと火に弱いはずです。ですがあそこまで燃えにくい糸を作る個体なら、中層でも活動できてもおかしくありません」

「なるほど」

 

 エルロー大迷宮の中層といえば、マグマが溢れる灼熱の地獄と言われておる。

 さすがの儂も、中層で長時間活動など不可能であろうな。

 

 そうして中層に続く道を進んでおると、先頭を歩いておった案内人が不自然な格好で藻掻いておった。

 

「なんだこれ、動けないっ?」

「待て!」

 

 儂は光に反射した僅かな兆候を見逃さず、近づこうとしたブイリムスの肩を掴んで止める。

 

「光を当ててよーく見よ。非常に見えにくいが、糸が張り巡らせておる」

 

 さて、巣を見つけたのならやることは一つじゃな。

 

「かなり熱いかもしれんが我慢せよ?」

 

 先程の巣で必要な火力は理解しておる。

 故に丁度燃えるギリギリで焼き払おうとしたが、どうやらこちらの糸は更に燃えにくいようで、なかなか火が着かんの。

 

「もう少し火力を上げるか」

 

 ほんの少し力を込めて火炎を噴き上げると、糸に次々と火が着いていき、一度燃えると連鎖して燃え広がる性質なのか、通路の奥までどんどん延焼していった。

 

「あちゃあ、またやってしまったの」

「……ロナント様」

 

 呆れた表情でブイリムスが儂を批難する。

 

「仕方なかろう、細かな調整は難しいのじゃぞ?」

「わかりましたから、警戒して進みますよ」

 

 

 そして奥へと進み中層の入口付近まで来た時、それを見つけた。

 

「あれはアークタラテクトの死骸? それにこれは何だ?」

 

 無残に食われた跡が残る危険度オーバーSの魔物の死骸とその取り巻きと見られるタラテクト種の死骸が複数。

 それに一緒に延焼に飲まれて殆どが灰になっていたが、柔らかな緑色の何かが広場の中央に敷き詰められていた。

 運良く燃えなかったそれを拾い上げると、極上の手触りを持った苔であることがわかった。

 

「ほう。鑑定石か」

「ええ、ロナント様も鑑定を?」

「そうじゃ、レベルは8じゃな」

 

《神霊苔:コケダマ種が纏う極上の質感を持つ極めて希少な苔。魔力伝導性と貯蓄性に極めて優れ、魔法薬の素材としては最上級のものとなる。生成できるコケダマ種の数が極めて少ないため、入手は極めて困難。品質Sオーバー》

 

 なんじゃこれは!? 

 蜘蛛の魔物の巣にはあるはずの無いものが無造作に転がっておった。

 隣にいるブイリムスも驚愕しておる。

 このような素材、見たことも聞いたこともないぞ。

 

 儂は燃えなかった分を集めるのを兵士に指示して、周囲を警戒する。

 この神霊苔なる物も気になるが、アークタラテクトの死骸がある以上、ここの主はそれ以上の存在であるのは確実となった。

 

 であるならば、まともに対応できるのは儂か、そこのブイリムスだけで、それ以外の兵には荷が重すぎるだろうて。

 せめて、無駄死にはせんよう気をつけて欲しいものじゃ。

 

 そして集まった一袋に収まる程度の苔を受け取ったとき、今回の異変の元凶が転移してきおった。

 

「ブイリムス……家主のおかえりじゃ」

 

 全体的に白いという印象を受ける蜘蛛の魔物で、背中にはまるで髑髏のような黒い模様が蜘蛛の巣のように広がっておる。

 その魔物が8つの赤い瞳をギラつかせて儂らを威圧しておった。

 

「ありえぬ……なんじゃこれは」

 

 あの魔物、自然体でとんでもない量のスキルを常時多重発動させておる。

 ありえぬ!? 

 ならば鑑定を……

 

「お、ぉおおぉぉ????」

「ロナント様!?」

 

 なんというステータス、なんというスキルと魔法の数々。

 なんと、ま、魔導の極みっ!? 叡智じゃと!? 

 す、素晴らしい。なんと素晴らしいっ! 

 むむっ、なに? 鑑定の妨害じゃと!? 

 

「ま、待ってくだされ! もっと、もっと見せてくだされ!」

「ロナント様! 正気に戻ってください!」

 

 まだ、まだ足りない。儂に魔導の極みを見せてくだされ! 

 

 ブイリムスに引きずられ一発キツく殴られて正気に戻ったときには、すでに兵士の半数がやられておった。

 

「すまん、もう大丈夫じゃ」

「撤退しようにも通路を塞がれてはっ」

「であれば、大規模転移で逃れるしかない!」

 

 ブイリムスの召喚した魔物と兵士達が時間を稼いでおる。

 その間に、儂は人族で数えるほどしか使えん転移の魔法を構築する。

 

 じゃが、遅い。

 これまで誰よりも速く美しいと言われた儂の魔法が、こんなにも頼りないとは。

 

『*****! ***********! *****!』

 

 なんじゃ? 念話? 誰に? なんだこの言語は? 

 

 甲高い女性のような声で、なにかを叫んでいる蜘蛛の魔物。

 それに疑問を持っていると、突如背後から恐ろしい気配が近づいて来ているのに気づいた。

 

 中層から、なんという気配じゃ!? 

 

 目の前にいる蜘蛛の魔物と同等、いやそれ以上の恐ろしさを感じさせる魔物がこちらに向かって移動しておる。

 

 その速度はあまりにも速く、こちらが大規模転移を完成させる前に気配の主は、ここにやってくるだろう。

 

 そうなれば前後から挟まれて下がれる場所も無くなる。

 

 儂に出来るのは一刻も早く転移を完成させることのみ。

 逸る気持ちを押さえつけて、術式の構築に集中する。

 

 じゃが、好奇心が勝ったのか儂は振り返って見てしまった。

 暗闇に浮かぶ亡霊のような影を。

 

 背後から魔物が現れたことで、残り少ない兵士の何人かが新たに現れた魔物に立ち向かっていった。

 しかし、ただそこに浮かんでいるだけだというのに近づいた兵士達がバタバタと倒れていく。

 死んではおらんようだが、近づくと訳も分からず倒れる以上回収も出来ん。

 

『****!! **********! *******!?』

『*****! *****! ******!』

『****……**************、*****!!』

 

 なにやら念話をしているのを傍受すると、今まで動けなくするだけで命は奪わなかった背後の魔物が、一瞬で魔法を構築し兵士達を刈り取っていく。

 

 なんと恐ろしい速度と密度で魔法を構築するのだ!? 

 

 瞬く間に、高度な魔法を組み上げて射出する。

 その速度は蜘蛛の魔物に引けを取らず、一発一発に込められた魔力と威力は桁違いで、高く圧縮されておる。

 

 蜘蛛の魔物が芸術的な完成度で魔法を組み立てるのだとすれば、こちらは圧力と熱で精錬された宝石のよう。

 限界まで高められた魔法が開放されるとき、その弾丸はどんな守りも容易く貫くであろうという気迫を感じ取れる。

 

 そして暗闇の奥から羽ばたいてきたのは、見たことのない蛾のような魔物であった。

 緑色の体毛に全身を覆われ、柔らかく丸いシルエットをしておるが、その気配は決して可愛らしいものでは無い。 

 鳥の羽のような触覚の下にある眼は光を全く反射せず、そこだけ世界から塗りつぶされたような虚無を感じさせる。

 全く音をたてずに羽ばたく翅には怪しげな模様が走っており、まるで魔法陣のような複雑な図形を描いておった。

 

 そして転移が完成する直前、ブイリムスが身を挺して蜘蛛の魔法を反らしてくれたおかげで、儂の空間転移が完成する。

 

 そして転移で飛ぶ寸前、儂は背後にいた蛾の魔物に好奇心ゆえ鑑定を掛けてみた。

 

《モフ・モス LV21

 ステータス

 ︙

 

《鑑定が妨害されました》

 

 こやつもかっ! 

 

 蜘蛛の魔物と同等、いやそれ以上のスキルを持っておった蛾の魔物も途中で鑑定が妨害される。

 しかし僅かに見れたスキルには、無数の上位の魔法スキルが並んでおり蜘蛛の魔物より多彩な魔法の数々を高度に操れることを示しておった。

 

 それに神霊苔のスキル。

 まさかこやつの物か? 

 

 腰に括り付け、一緒に持ち帰ることに成功した革袋1つ分の苔。

 それは、この探索隊唯一の成果であったが、その対価はあまりにも大きかった。

 

 これが、人族で最強の魔法使いと言われた儂が何も出来ず逃げ帰り、あまりにも苦すぎる苦渋を味わった事件じゃった。

 

 儂が持ち帰った情報から、あの方々の情報が広まり。

 それぞれ、迷宮の悪夢、迷宮の亡霊と名付けられ、恐れられるようになったという。

 

 

 結局、儂は全ての責をブイリムスに押し付けて1人のうのうと罰にもならん軟禁をされることになったが、その間持ち帰った苔の研究をしておった。

 それによって出来上がった代物はとんでもなく、なんと若返りの薬とMPの最大値を増加させる薬が出来ておった。

 

 正直、これを公表するととんでもない事態が巻き起こることが簡単に予想できたので、研究資料は破棄、実物も一部を除いて儂自ら飲み干して処分した。

 

 衰えていくばかりであった魔力が滾り、あれだけガタのきておった腰や足が軽やかになったのは驚いたが、若返った肌質を誤魔化すのが大変じゃったわい。

 

 じゃが、これで若い頃と同じように動ける。

 待っていてくだされ、お方々! 

 今、儂が参りますぞ!




未来のある方々
『『こないで』』
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