打つ、射つ、撃ち続ける。
すでに制御を離れた泥沼は、瞬く間に強度を取り戻し、荒々しく隆起しては無数の尖塔となる。
そしてそれらは、カグナが一歩踏み出すごとに爆散し無数の飛礫となって空中にいる私に襲いかかった。
隙間なく迫る散弾の雨に対して私は魔法で迎え撃ち、弾幕を抉じ開けつつその奥にいるカグナへと何度も何度も魔法を叩き込む。
しかし序盤には効果のあった圧縮した魔法も、今では跳ね上がった耐性によってかすり傷程度にしかならず、ならばゲエレを倒したウォーターカッターの一撃を放っても動かなければ点の攻撃でしかないので身体を貫通されつつもジッと耐えて最小限のダメージで受け止められるし、急所を狙えば強引にでも避けてしまう。
何度も攻撃したことによって元々高かった耐性が更に上がり、このペースだとじきに貫通すらしなくなるだろうと、ひしひし予感する。
予想以上に苦戦を強いられている戦いだけど、すでに充分な戦果は上げておりカグナの平均速度能力なら、撤退しようとすれば逃げられるだけの余裕があった。
けれどそれでは煮え切らないにも程があり、そんな中途半端な結果などカグナも望んでいないように見えるし、私もそう思っている。
だからこそ今も意味のない攻撃を続けながら、突破口を模索すべく深く観察している。
どの属性の魔法も単独では効果がない。
その城塞のような巨体にダメージを与えられる複合魔法は、欠点に気づかれて有効的ではない。
なら新たにカグナに通用するだけの方法を思いついて、それを実行するしかないのだけれど、その方法がなかなか思いつかず戦況は硬直していた。
出来るだけ耐性を上げないように飛礫の迎撃だけに留め、カグナ本体には魔法を当てないように立ち回りを変える。
ダメージを与えなくなったことで全快までHPが回復されるけれど、無駄に耐性を付けさせて後々一切攻撃が通らない状況を避けるためには仕方ないこととして相手の回復に目をつぶる。
そして迎撃だけで逃げ回るしか選択肢のない私に向かって、ゆっくりと迫り大地に向かって爪を振り下ろすカグナ。
速度の高くないカグナでは決して私を捉えることは出来ないのだけれど、捲れ上がった岩を高速で弾き飛ばすことで、私が休む暇を与えない。
SPの総量としては私とカグナの間で大きな差は無いものの、常に飛び続けて回避する私と、あまり動かず要所要所で力を振るうカグナとでは、先にスタミナ切れになるのは私の方だった。
そうして延々と続くような鬼ごっこを繰り返していると、こちらに迫りくる強大な反応を感知した。
その速度は先程倒したゲエレより少し遅い程度であったが、流れるような身のこなしで曲がり角を曲がり難所であろう場所を軽やかに踏破する。
そんな動きの良さによって一切減速することなく疾走する存在は、あっという間にこの広間に辿り着く。
巨体をしなやかに畳むことで衝撃を逃して着地したのは、新たな3体目の地龍であった。
カグナのように巨体でもなくゲエレのように細身でもない、力と速度を両立した頑強な体躯の龍。
地龍フイト。
レベルやステータスなどは、カグナとゲエレの2体より低いもののバランスよく纏まっており、魔法に関する能力でいえば両者を上回っていた。
しかしカグナより脆くゲエレより遅いのであれば攻撃が通ると思い、一旦カグナへの優先順位を下げてフイトに相対する。
そうして放った魔法の槍衾だったけれど、フイトは殺傷範囲を見極めスルリスルリと通り抜けていき、私に向かってブレスを放つ。
多少様子見の一撃だったことは認めるけれど、それが掠りもしないで抜けられるなんて思っておらず、私は驚きながらブレスを避けてフイトを見る。
ブレスを放った後すぐさまカグナの側まで下がり、私を注意深く警戒する姿を見て、脅威度を大幅に引き上げる。
能力的には今は劣るものの、その動きが身のこなしがセンスが良い。
ほんの僅かな動き方の違いで、決して油断できない相手だと強く感じさせる。
そしてカグナが動くと同時に、私の隙をつくように飛礫の裏からブレスを放ってきたり迎撃して目眩ましされただろうタイミングで死角から襲いかかってきたりと、こちらがされて嫌な事を的確に狙ってくる。
その攻撃の全ては、視覚に頼らずとも詳細に把握できる高い感知能力のおかげで不意を突かれずに回避をしつづけることが出来ていたが、ただでさえ硬くて有効打を見いだせずにいた悪い状況から、さらに巧みな動きで翻弄する相手も加わって形勢はドンドン悪くなる一方だった。
反撃する隙が見当たらない……っ!
迎撃や牽制の魔法は問題無く操れるけれど、龍種特有のスキルである逆鱗の守りを突破できる魔法を構築する余裕がない。
いや正しくは構築できても、隙を晒す事になったり正確な狙いをつけられないと言った感じで使えないといった感じだ。
カグナに対しては牽制の魔法も、本命の強力な魔法すら確かなダメージを与えるのは難しい状況で、放つ攻撃には必殺の威力を含んでいる。
フイトに至ってはカグナを盾にするような動きすら見せて、確実に当てられる明確な隙を晒そうともしない。
それゆえ逃げ続けることは出来ても、勝機を見出すのはあまりにも苦しかった。
打つ手が……、なにも、ない……ッ?
高速で思考を加速させるも、焦りが焼き付いた頭では、全てをひっくり返す打開策を見つけるのは不可能であった。
そしてほんの一瞬、コンマ数秒にも満たない意識の空白が生まれると、その明確な隙を見逃さずフイトが迫り爪を振るう。
前方には鍛え上げた刀剣のような爪、背後に逃げようにも広間の壁が近くあまり下がることが出来ない。
なら左右に逃げようにも、それを狙うようにカグナがブレスを待機させて狙っている。
迫りくる脅威に思考速度がさらに一段上がって、世界の動きがより緩慢にスローになっていく。
すでにどう動こうが被弾は避けられない状況。
なら出来るだけダメージを抑える選択をするしかない。
右へ向かって全力で飛ぶ。
それによって斬撃の殺傷圏から抜け出すものの、その動きを狙ってフイトの背後からブレスが迫り避けられずに直撃する。
荒れ狂う大地属性と純粋なエネルギーの奔流に飲まれる前に、私はスキルを起動して衝撃に備える。
そして私は紫電を放つ閃光に飲み込まれていった。
カグナが全力で放つブレスは、空間を埋め尽くさんとばかりに広がり一部フイトを巻き込みながら放たれた破壊の嵐は射線のあらゆるものを砕きながら突き進む。
おなじ地龍であるフイトには大地無効のスキルを持っており、その威力の大部分を無効化していた。
それでも無効化しきれない純粋なエネルギーがフイトの身体を焼くものの、その程度の負傷なら龍種の生命力で耐えきる事ができた。
そして暗闇を照らし続けた光の線が消え、淡い燐光のみが空気中を漂い土煙が立ち込めて視界を塞ぐ向こうにて、私は重傷を負いつつも生き延びていた。
グッ……ゲホッ、ゴハっッ……、カヒゅッ……
衝撃が内臓まで通り酷く痛めた身体が、ドロドロの体液を吐き出す。
あまりにも不味い味を感じつつも、激痛で飛びそうな意識を繋ぎ合わせて鋭く睨む。
私の周りには炭化しボロボロに崩れていく苔が何層にも積み重なってブレスの威力を物語っていたが、私自身には身体の内側がズタズタになったものの、目に見えた傷は一切負っていなかった。
ブレスが直撃する寸前、私は身を包む苔を急成長させて幾重にも重ねることで身体全体を覆い隠し、ダメージの大部分を苔に肩代わりして貰ったのである。
そこに高い大地耐性と神霊苔の能力である魔法を阻害する効果、ブレスも魔法の一種であるためその威力を減少させる効果がある——を加えて威力を弱めていたが、それだけでなく魔神法と闘神法に龍力さらに激怒も一瞬使いステータスを大幅に高めて防御と抵抗を増やすことでギリギリのところで耐えきることに成功していた。
しかしそれでもHP半分は消えて無くなり、後ほんの少しだけブレスが長時間続いたのなら耐えきれずに蒸発していたかもしれなかった。
その事実に背中がゾワリとするけれど、今この瞬間に息をしているのが全てだった。
だけど、ああ……次は無さそうだと感じた。
全力のブレスで仕留めきれず私がまだ生きているのを認識した地龍たちは、すぐさま追撃に移る。
その攻撃は幾らか避けられるだろうけど、何手か先では詰む未来が見えた。
ダメージの残る身体では避けられず被弾してそのまま引き裂かれる。
上空に飛んでもブレスと魔法の弾幕を対処しきれず消滅。
逃げようにも反応が悪くなり飛んでいる最中の翅を消し飛ばされ墜落。
そんな光景が浮かんだもののまだ身体は動く。
なら最後までしぶとく足掻いてみせるとしよう。
痛む身体を押して残り少ない魔力を振り絞って、私は空へ羽ばたいた。
——あぁ、でも、蜘蛛子ちゃんとの約束、破っちゃうのかな。
そんなことが頭をよぎるが、迫りくる死の足音は止まりそうになかった。
せめて……、刺し違えてでも……
死力を振り絞って最後の一撃を放とうと準備し始めた時、無数の方角から甲高い鳴き声が響き渡る。
それは何度も反響して幾重にも折り重なり、高低様々な音色が合わさって輪唱しているように感じた。
突然の音に攻撃を止めて距離を取り、周囲を警戒する地龍たち。
私も驚きながらも、距離があいて攻撃が止まっているこの間に自分に治療魔法を掛けることで傷を癒やす。
そして十全に動けるようになるまで身体を修復する時には、この縦穴のある広間に繋がる大通路の全てから地響きが鳴り渡り、無数の影が津波のように迫ってきていた。
この声って……
響き渡る声の音色と移動する際の擦り合うような音は、ついさっき聞いたばかりであり、とても懐かしく憶えのあるものだった。
音色の違う鳴き声が響き渡る。
そのうちの1つは、聴いたことも無いはずなのに何故かとても切なくて、なのに嬉しいという気持ちが次々と湧き上がってくる。
そして暗闇の奥から土煙を上げて緑の大群がやって来た。
キュォォォオオオオォォオオォォォォンン!!
キュゥゥウウウウゥゥゥゥンン!!
クワァァァァアアオォォオオォォッッ!!
空気をビリビリ揺らす咆哮が広間に乱反射する。
大通路からなだれ込むように押し寄せて、相当広いはずの広間を埋め尽くさんとばかりに密集するコケダマたちの群れ、群れ、群れ。
そのなかには私が家主さんと呼んでいた、他の個体より一際大きな巨体をしているコケダマの姿もあった。
あっ……家主さん。それに群れのみんなまで……
コケダマの津波は私のところまでやって来て、その巨体で私の姿を隠すように広がり、それ以外は広間の中央にいる地龍たちを包囲するように並んで牽制し合っている。
そして広間の外周に並んだコケダマたちが集中砲火で地龍たちを攻撃する。
無数の魔法や状態異常の攻撃が四方八方から襲いかかり、逃げ場のない攻撃が地龍たちに叩きつけられていく。
しかし高い抵抗と耐性によって効果が無く、煩わしそうに振り払いながら弾かれていた。
だが釘付けにすることは出来ていて、その間に私の近くへと家主さんや他の群れのリーダーが集まってきて地に伏せる。
そして彼らコケダマの主たちから強い想いが伝わってきた。
……私に? それで、……いいの?
私は、その想いを受けとって答えることにした。
そう思った時、彼らの意思が明確な意味を持って伝わるようになった。
オウ!
ワレラガアルジ!
アタラシイジョオウガ、カエッテキタ!
言葉が、想いが、濁流のように流れ込んでくる。
それは確かな言語ではないものの、伝えたいことを想いに乗せて渡すことで言葉として認識できる、コケダマたちの言葉。
そしてそれを一身に受けた私とコケダマたちの間で確かな繋がりが生まれたのを感じた。
みんな、攻撃を目眩まし重点に——
そう願っただけで、地龍たちを攻撃していたコケダマたちが動きを変える。
地面に向けて魔法を撃つことで煙を立てる。
顔に土や水などの魔法を当てることで視界を塞ごうとする。
私が思ったとおりに彼らが動く。
それは自由に動く手足のようであり、自分と彼らの魂が深く混ざりあったような感覚。
その感覚に驚きと戸惑いを覚えていると、いい加減苛立ちが限界を迎えたフイトがブレスの予兆を灯した。
——口をふさいで!
その指示に魔法が得意なコケダマたちが同時に魔法を構築して、下からは土槍上からは空気の大槌で挟み込み、無理矢理口を閉じさせる。
暴発して周囲に散ったブレスは家主さんが前に出て、その巨体でみんなを庇い守った。
フイトのブレスは防げたものの、今度はカグナが全力のブレスを放つ溜めに入っていて、このままでは大きな被害が出る予感がした。
私はそれを見て、威圧系スキルを全開にして狙うべき相手は私だと主張し、他のコケダマたちは射線上から離れるように指示した。
比較的小さなコケダマたちは素直に下がってくれたけれど、今まで群れの主をしていた強いコケダマたちは離れようとしなかったので、強く命令してお願いした。
——他のコケダマたちを守ってあげて。
そのお願いに渋々受け入れて離れていく。
そして私とカグナとの間に何も居なくなった時ブレスが放たれた。
迫りくるブレスに向けて私は飛び込んだ。
コケダマたちみんなが来てくれたから、時間は充分すぎるほどあった。
だからその間に新たにスキルを獲得するだけの余裕も、魂を取り込むときの僅かな隙を埋めるだけの時間を稼いでくれた。
そして荒れ狂う破壊の光を突き抜けて、大きく口を開けたカグナの眼前まで辿り着く。
ダメージは負ったものの、その影響はさっきと比べてかなり少ない。
その理由は、新たに獲得した「龍結界」のスキルと「大地無効」。
龍結界は魔法を阻害する空間を作るスキル、そして大地無効はゲエレの魂を取り込んで手に入れた。
コケダマたちみんなが時間を稼いでくれたから戦闘中に取り込めた。
その効果を発揮して、ブレスの殆どを無効化してカグナに迫る。
そして大口を開けたままブレスの硬直で動けないカグナに飛び込み、口蓋から脳天に向けて魔法を放つ。
「水流」「引斥」、——ウォーター、カッター!! 六連!!
口内から叩き込まれた水流の針は、肉と頭蓋を貫通して脳を切り裂く。
それを少し威力を犠牲にして同時発動させた水針が連続して襲いかかることで、回復不可能なダメージを与える。
そして脳を破壊されて意識を失い崩れ落ちるカグナはそのHPを回復させることもなく死を迎えた。
一瞬の内にカグナがやられ驚きと怒りに染まったフイトは、無理をしてブレスを越えたせいで浮かぶのがやっとの私に向けて爪を振るおうとする。
それには避けられず剛爪で引き裂かれるかと思われたが、間に巨大な影が挟まり止まる。
分厚い苔の鎧を大きく切り裂かれつつも受け止めた家主さんは、そのまま体重を乗せた体当たりを行う。
それをヒラリと躱し、バックステップを何回か行って離れていく。
そして地に伏し崩れ落ちたゲエレとカグナの亡骸を悲しそうに見た後、私たちを苦々しく睨むフイト。
その睨み合いは数秒続き、フッとフイトの戦意が消えた。
そして2体の龍の亡骸へ深く頭を下げた後、大地を強く蹴って宙を駆けて迷宮の奥へと消えていった。
静寂が、岩と緑で埋め尽くされた広間に訪れる。
——勝った?
キュォォオオォォンン!!
キュゥゥゥゥウウゥゥゥゥ!!
クワァァァァァァアアアアッッ!!
オウガカッタ! アルジバンザイ! アラタナジョオウノ、ショウリヲイワエ!
歓喜の音色は、長く長く木霊して響き渡る。
新たな主を迎え入れた群れたちの喜びを伝えながら……
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