書きかけの文章が置いてある……
《迷宮の悪夢および迷宮の亡霊に関する報告書》
迷宮の悪夢(以下、悪夢と呼称)とは、推定危険度神話級とされる蜘蛛の魔物のことであり、同じく迷宮の亡霊(以下、亡霊と呼称)も、推定危険度神話級とされる蛾の魔物である。
悪夢の最初の目撃情報は、王国暦841年エルロー大迷宮にて目撃された。
エルロー大迷宮にて魔物の活動が活発になる事変が発生し、オウツ国は同盟国であるレングザンド帝国に事態の解決を依頼。
その要請を受け派遣された帝国の騎士団が、調査中に分厚く張られた蜘蛛の巣を発見。
これを焼却しようとしたものの蜘蛛の巣は燃えることなく通路を塞ぎ、また塞がれた通の奥から恐ろしい気配と戦闘音が聞こえたため、一時調査を断念し撤退。
後日、再度確認しに向かうと悪夢と遭遇。
その場にいた騎士団長と案内人の判断により、交戦せずにすぐさま撤退した。
この時点までは亡霊の直接の目撃情報は無く、それからしばらくして不可解な事件が迷宮上層にて発生するようになった。
探索中の冒険者が危険を感知すると同時に昏倒させられ、目が覚めると何故か通路の隅などに移動し、荷物の一部が無くなっているという報告が多数上がるようになった。
この現象に対し、迷宮には姿の見えない亡霊がいるという噂が広がり、亡霊という呼び名が生まれた。
そのころ悪夢と接触した同騎士団長は、すぐさま本国に応援を要請。
帝国は要請を受け、召喚士ブイリムス含む精鋭部隊を派遣した。
精鋭部隊は蜘蛛の巣を焼き払い、さらに深く探索し悪夢を発見交戦するも、部隊はブイリムス氏と■■■■氏を残して全滅。(文の一部が塗りつぶされている)
その悪夢と交戦中にて、中層へと続く方向の通路から亡霊が出現する。
騎士数名が対処に当たるが原因不明の昏倒で近づくことすらままならず、その後亡霊が放った魔法により死亡した。
このとき確認された姿から蛾の魔物であることが判明し、また鑑定を行い得られた情報によると、この蛾の魔物はコケダマ種に属する魔物であることが判明した。
今まで不明だったコケダマ種の成虫形態が判明したものの、何故エルロー大迷宮に現れたのか何故悪夢と協力するような行動をしていたのか一切不明であり、未だ亡霊には謎が多い。
その後、悪夢と亡霊は、エルロー大迷宮の外に出現。
オウツ国のエルロー前砦を破壊し、しばらく行方をくらませる。
︙
降り注ぐ太陽、澄み渡る青空、鮮やかな自然の色彩、……そして煙を上げる建物の残骸。
慌ただしく走り回る人の喧騒と怒号と悲鳴を無視して走る。
今、私と蜘蛛子ちゃんは全力で自らのやらかしから逃亡中です。
しばし時間を戻して迷宮の下層にて……
それぞれ宿敵の地龍と戦い勝利を収めて数日後。
私は地龍カグナ・ゲエレとの戦いで共に戦ったコケダマたちと親睦を深め、それぞれの群れの主や配下のコケダマたちと交流して改めて彼らのことについて理解し、それぞれの群れ全てを一つにした新たな群れの主として、私が担ぎ上げられ就くことになりました。
その事は別に嫌という訳では無いけれど、予定していた迷宮の外へ行くという目的を実行しづらくなったのは確かで、彼らに外に出たいと伝えると何度も引き止められて、なかなか離れることが出来ずに戸惑っていた。
そうしている間に蜘蛛子ちゃんもやって来て、それを敵だと判断したコケダマたちが殺気立ち、あわや一触即発といった雰囲気にもなったりしたけど私が間を取り持ち、お互い顔合わせをして敵じゃないと理解して貰えてなんとか一段落。
そして私が離れるのをなかなか諦めない彼らに対して、なんとか妥協案を模索した結果、何日かに一回ここに転移で戻って来て様子を見ることで、漸く納得してくれました。
地龍戦後のレベルアップでようやく空間魔法の長距離転移が使用可能になり、蜘蛛子ちゃんに頼らなくても自力でこの場所に戻ってくることが可能になったので、なんとか受け入れられた様子。
それからは下層で狩りをしつつ、元リーダーたちに転移用のマーキングを施した苔を植え込んだり、彼らの名前を考えて名付けてあげたりと、色々することに。
頭を悩ませて名前を考え、家主さんにはレウキ、他の群れの元リーダー三人にはそれぞれファイノ、エレクトラ、イアンテと名前を付けてあげた。
その結果「命名」なるスキルを獲得することになり、名前を付けたコケダマたちが特に何もしていないのに少しだけステータスが強くなっていたり、より深く強い魂と魂の結び付きが私とコケダマたちとの間に結ばれたりもした。
それらから命名スキルの有用性を理解し、なんとか群れ全員に名前をつけてあげたいけれど、生まれたばかりの子も含めると何百と数がいるので全員にちゃんとした名前を与えるのはかなり時間が掛かりそうである。
とりあえず中核の子たち数十名には名前をつけてあげたけど、そこで名前のネタが切れてしまい、とりあえず他の子には待ってもらうことに。
必死に名前を考えているけれど変な名前や手抜きなどはしたくないので、結果的に凄く悩むことになっているのは自業自得かもしれない。
しかもエルロー大迷宮に生息するコケダマの群れは、他にも四から五ほどいるみたいで、いずれ彼らと接触した場合そのまま私たちと合流することになって、その際にも再び名前をつけてあげなきゃいけない未来が高確率で予想されていたのだった……
そうして私が頭を悩ませている間、蜘蛛子ちゃんがマーキングしていた上層の拠点を襲った騎士らが迷宮から脱出したらしく、その結果外に出るための道順を理解したとのことで、ようやくこの迷宮から外に出られる目処が立ったらしいとの事。
それにしてもいつの間にそんなことを仕込んでいたのか。
空間魔法のマーキングは、結構手間を掛けないといけないというのに、戦闘中に仕掛ける余裕があったとは。
改めて蜘蛛子ちゃんの凄さと空間魔法の適性に驚きを感じて尊敬する。
そう言ったら、何故か目を逸らされたけれど。
照れている? いやなんか違うようにも見えるけれど……
そうして迷宮の外に出た私たちは、降り注ぐ日差しを浴びるのと同時に迷宮の出口を取り囲む高い砦と、武器を向ける衛兵らの熱烈な歓迎を受けることに。
砦の上から飛んでくる攻撃に対して、蜘蛛子ちゃんが反射的に撃ち返した一発の魔法で、頑丈そうな砦が原型を留めないほどの大爆発が発生し、砦が次々と崩壊して土煙がモウモウと立ちこめる廃墟にしてしまうという、結果的にとんでもない大惨事を引き起こしまったのであった。
迷宮での日常から考えると手を抜きに抜きまくった攻撃で阿鼻叫喚の地獄絵図となり、二人してポカーンと呆然、その後顔を見合わせて『とりあえず逃げよう』で意見が一致したので、現在人目につかないように全力で犯行現場から脱出して、人気のない場所を選んでひた走っていた。
『いやー、あれは事故。私何も知ーらないっと』
『事故って言うには、大事になりすぎていると思うけど……』
緩やかな起伏の山々と、その森の中を進む私たち。
砦跡の周囲には平原が広がっており、一方には中世っぽい作りの人間の街、もう一方には森と山があった。
魔物の姿である私たちでは街に入ってもあまり意味がないので、自然の恵みに期待できる山のほうに進み探索していた。
『攻撃されたら、つい反撃しちゃうよね? 当たり前のことだもん、私悪くないもん!』
『まあ、わかるけれど』
『なので、私は犯人ではありません! 勝手に砦が崩壊したんです!』
『……それは無理があるんじゃないかなぁ』
蜘蛛子ちゃんは決して認めようとしないので、これ以上の追求をしても何も良いことがないので話題を変えることにする。
『ようやく外に出られたんだし、色んな所を探索してみない?』
『賛成! 美味しいもの食べたい!』
即刻返事が返ってくるけど、内容は食べ物に関しての欲求に塗れていた。
『山の幸、山菜、キノコ、果物、ジビエ……』
『あるといいねー』
前にも思ったけれど、蜘蛛子ちゃんは本当に食事に関しては情熱というか掛ける熱意が凄くて、美味しいもののためなら何でもするような覚悟を感じられる。
その証拠に定期的なナマズ狩りを実行したりとか、私が拾って集めてきた冒険者の食糧を盗み食いすることに執念を燃やしたりなど、変な方向でアグレッシブな時がある。
『うおぉぉー! 美食が私を呼んでいるぞー!』
『んー……、こっちに果物っぽいの。向こうにキノコがあるよ。動物は……、逃げていくね』
『なんだって!? こうしちゃいられん逃げられる前に今すぐ狩るぞ、コケちゃん!』
『あっ、待って速っ!?』
一瞬で姿を消した蜘蛛子ちゃんを追いかける。
そして私たちは人の気配がない山奥へと進んでいった。
そのころ崩壊した砦跡にて。
無事だった衛兵が救助活動を行い崩れた城壁を片付けている時、迷宮の地下深くに潜む怪物が重すぎる腰を上げて動き出そうとしていた。
『とったどー!』
『やっと追いついた……』
この山に住んでいた動物が遠くに逃げる前に1万近い平均速度能力と感知能力を駆使して追いかけ、なんとかイノシシみたいな生き物を仕留めた蜘蛛子ちゃん。
その追跡劇は凄まじく、すでに全力で逃げ出して泡を吐きながらも足を止めなかったイノシシに追いつくと両手の鎌を居合のように構えて一閃。
勢いのままイノシシを通り過ぎて残心を決めると、イノシシの頭と胴体の位置がゆっくりとズレていき、頭が地面に滑り落ちても残った胴体だけで数メートル走り抜けた後ようやく崩れ落ちた。
綺麗に切断された断面から大量に血を吹き出して土を真っ赤に染める中、蜘蛛子ちゃんは硬派な雰囲気を作るとこう言った。
『ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった……』
『……』
ツッコまないからね。
『一応途中で果物回収してきたし、少し早いけど食事にしようか』
『おにくー! くだものー!』
蜘蛛子ちゃんは手際よく解体すると、食べやすい大きさにカットする。
私は中層の魔物から獲得した火攻撃を付与した苔を並べ、土魔法で作った鉄板モドキを上に敷いて即席のホットプレートを作る。
そして青空の下、血が滴るほど新鮮なお肉を使った野性味溢れるBBQを始めた。
『はふっ、はふっ。うまー!』
『臭みはあるけど、ジューシーでおいしいねー』
淡白なナマズと違いガツンとくる臭みと旨味の暴力は口内を蹂躙し、粗食に慣れた舌をメタメタに蹂躙する。
こってりした味に飽きが来ても、瑞々しい果物を頬張れば爽やかな甘さとともにサッパリ洗い流され、再びお肉に食指が伸びていく。
『ねえ、蜘蛛子ちゃん』
『んー、なーにー?』
次々とお肉を焼き、それを食べながら私は、蜘蛛子ちゃんへと問いを投げ掛ける。
『システムって、どう思われているんだろうね』
『システムと言っても……、禁忌に書かれている役目こそが、真実なんじゃ……』
『その禁忌を知らない人から見て、どう思うのかって話だよ』
『それは……』
数ある雑談の一つとして、この世界に住む存在が禁忌から教えられる真実について何も知らない場合、どういう風にシステムとか、スキルやステータスについて考えているのだろうかと、小さな疑問を呈した。
それに対し蜘蛛子ちゃんは、こう答えた。
『やっぱり、このアナウンス的な天の声。これについて何かしらの伝説とか宗教とか、あるんじゃない? これが神の声だー、なのだーって。あと他には、レベルとかスキルとかも、神の恩恵だの何だの言ってると思う』
『確かに、ありえそう』
不思議な声と、力がある。
なら、それを崇める何かが出来ていてもおかしくないは無い。
『私たちには、鑑定というスキルがあるから自由にステータスとかを確認出来るけれど、普通なら聞こえてくる声頼りになってしまうし、その重要性と信仰具合は非常に大きいと、私も思うよ』
それこそ、その神の声を聞くためだけにある、宗教とかも……
『私としては、ステータスやスキルとかで個人の能力が可視化出来るってとこに注目するよ。数値によって優劣がハッキリと示されるし、能力主義とか実力主義とかが流行っていそう』
それと、数値で明確に示されるって事は、努力の可視化もしているって事。
私だって魔法を鍛えて、その成果がスキルのレベルアップで返ってきた時には、物凄く達成感や世界から認められているという承認欲求が刺激された事が、数多くあるから。
『なーるほどなー。確かにメチャクチャ強い奴とかは、崇められてそう。それこそ、勇者とか魔王とか』
『居ない……とは言えないんだっけ』
『うん』
その二つの役は、システムからも特別らしいというのは、私も禁忌を見た以上知っていた。
『会ったことも無い奴、考えても仕方ない。食べよ、食べよっ!』
『うん、そうだね……食べよっ、蜘蛛子ちゃん!』
そうしてイノシシ一頭分のお肉が残り僅かになる頃、小さな地震を感じた後ゾクリと心臓を鷲掴みされるような特級の危険を感知した。
それに直ぐ反応した体は、考えるよりも先に行動を起こした。
すぐさま食事を放棄して飛び出す。
蜘蛛子ちゃんも少々名残惜しそうにしながらも全て置いてきて、私たちは一目散に逃げ出す。
だけど危機感は増々強くなり、背後の遥か彼方から強大な力の高まりを感知した。
反射的に方向転換し全力で真横に高速飛翔すると、数瞬のちドス黒い激流が通り過ぎ、それが消えると森と山が跡形もなく消し飛んでいた。
あれは地龍も使っていたブレスと同じ攻撃、だけど威力が桁違いに高い!
感知範囲を拡大し、遥か遠く何十キロメートルも離れた場所にいる存在を認識した。
そこにはかつて中層を進んでいた時遭遇した最強の蜘蛛の魔物、クイーンタラテクトの姿があった。
なんでこんな所に!?
強くなった今でも到底敵いそうにない相手を認め、急いで逃げようと考えた時ふと気づいた。
あれ? 蜘蛛子ちゃんはどこ?
いつの間にか隣に蜘蛛子ちゃんの姿はなく、一人で長い距離を飛び続けていたことに今更ながら気づき、慌てて蜘蛛子ちゃんの反応を探す。
すると、私とは正反対の方向に蜘蛛子ちゃんは退避しており今なお走り続けてドンドン距離が離れていく。
反転して蜘蛛子ちゃんを追いかけようとしたとき、再び危険感知が騒ぐ。
クイーンタラテクトの行動とブレスの予備動作を認識し、未来視で見えた光景を瞬時に理解すると、全力で空中に飛び上がり急上昇して退避する。
二度目の破壊の奔流が光る。
横薙ぎのブレスが山ごと消滅させ一筋の線を刻みつける。
それを遥か上空で見ていると、ジャンプしたクイーンタラテクトが蜘蛛子ちゃんが逃げた方向に着地し、大地に降り立った巨体が局所的な地震を発生させた。
そして追いつくのも難しいスピードで蜘蛛子ちゃんとクイーンタラテクトの鬼ごっこが始まった。
蜘蛛子ちゃんを狙って数えるのも億劫になるほどの魔法が降り注ぐ。
それをなんとか回避し続ける蜘蛛子ちゃんだけど、速度差から距離が刻一刻と縮まっていく。
必死に飛ぶけれど距離が遠すぎる。
なんとか注意を引こうと攻撃を放つものの、最初から眼中に無いと無視され相手にされない。
なんとか念話圏内まで近づくと蜘蛛子ちゃんから念話が飛んでくる。
『転移で! 逃げる! 大丈夫! 逃げて!』
とぎれとぎれで、必死さが滲んだ叫びが脳内に響く。
その直後、クイーンタラテクトが三度目のブレスを放つ。
そして蜘蛛子ちゃんのいた場所にブレスが炸裂し跡形もなく消し飛ばした。
『っ!? 蜘蛛子ちゃん!?』
ギリギリのところで転移したのを感知していたものの、ブレスに飲み込まれていく景色を見るのは、あまりにも心臓に悪い光景だった。
蜘蛛子ちゃんがなんとか逃げ切るのに成功したけれど、今度は私が最大級のピンチに陥っていた。
ゆっくりと巨体が向きを変え、無機質な無数の眼が私を見る。
そして目についた邪魔な虫を追い払うように乱雑に魔法が放たれた。
2022/03/22:改訂・加筆。
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