【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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前話の、称号「王」取得時に獲得スキルも追記しました。
魔物用の称号「王」の場合は、これらのスキルと独自設定。
ユーゴーも「王」持っているのにスキル全然無いから設定に困る。


19 人形遊び

 謎の少女がやって来てからしばらくして。

 

 蜘蛛らが引き上げて誰もいなくなったけれど、再び現れたり突然襲撃してくる可能性も考えて、私はコケダマたちと一緒に警戒を続けながら過ごしていると、私たちを訪ねてきた者がいた。

 

 ゆっくり一歩ずつ歩いてくる白い身体の人形。

 その背後には、同じく白色の巨大な蜘蛛が2匹。

 

 先頭を歩く人型には真っ白な旗が握られていて、他の腕には何も持っていないと示すように大きく腕を広げていた。

 背後の巨大な蜘蛛も敵意が無いことを示すためなのか、分厚い前脚の爪を上に向けて両手を上げているようなポーズだった。

 

 そして群れまで後少しのところで、そのポーズのまま微動だにせず立ち止まった。

 

 私たちは姿を見せてから最大限の警戒をずっとしていたけれど、何時間経とうとも一切動くこと無く、そこに立ち続けているのを見て、私は恐る恐る近づいてみた。

 引き留めようとするコケダマたちの制止を振り払って向かい合うと、目の前の人形はペコリとお辞儀をして、再び微動だにしなくなった。

 

 私は戸惑いながらも一切反応を見せない人形と蜘蛛を見て、しばらく警戒したものの結局何もしてこないことがわかり、仕方なくそこにいることを認めた。

 

 そうしてパペットタラテクト1人とアークタラテクトの2匹が、群れの隅に居着くことになった。

 

 

 

 

 人形と蜘蛛がやって来て数日。

 

 新たに加わった群れのリーダーにも名前を与えて、メリテ、イア、ロディア、カリロエ、それに副リーダーの子にも、メロ、ティケ、オキロエ、ロド、プルト、ガラク、パラス、アルテと、それぞれ突然脳裏に浮かんだ名前を元に付けて回った。

 

 アークのほうは片方ずつ時々起き上がっては離れていき、何か獲物狩ってきて食事をしていることがあるけれど、パペットのほうは食事すら一切せずに体育座りの姿勢のままで、何日も何日も動くことはなかった。

 

 それを見て私は空納にしまっていた食糧を取り出して近づいていく。

 特に何もしていない、ただ適当に切り分けただけの美味しくない魔物肉だけど、何も食べずにジッとしているのが、なんとなく不憫に見えたから。

 

 そしてお肉を抱えたまま羽ばたいて人形の前に浮かぶと、6本の脚で掴んでいたお肉を差し出した。

 

 それを見た人形はオロオロと戸惑っているように見えて、受け取るべきか迷っているような素振りを見せた後、長い時間を掛けてようやくちょこんと手を伸ばして受け取った。

 

 ……不気味なマネキンなのに、なんか可愛く見える。

 

 受け取ったのはいいものの、そこからどうしたらいいのか迷っている様子なので、食べてもいいと、お肉と口を交互に指差した。

 そうすることでようやく、これが自分に向けて贈られた食糧だと理解して、乱雑に切り分けた魔物肉を掴んで引き千切り小さくすると、人形の口に当たる部分を大きく分離するように開いて、その中にお肉を押し込んでいく。

 腕が喉奥深くまで差し込まれていて凄く変な光景なのだけど、なぜかコミカルでクスッとするような印象しか感じられなかった。

 

 感知能力を高めて内部を覗く。

 すると人形内部にいる本体の小さな蜘蛛——それでも地球基準だと大きめの蜘蛛が喉を通って本体まで届いたお肉を受け取るとチマチマ齧って食べ始めていた。

 

 自分の身体より大きなお肉にしがみついて少しずつ削り取って食べていく姿を見て、少し多かったかなと思いつつも、可愛いペットとかに餌付けをしているような気持ちになっていた。

 

 そして残すこと無く全て食べ終えたものの少し苦しそうに膨らんだお腹を抱えている人形蜘蛛の本体を見て、私は離れることにした。

 彼?もしくは彼女が、ふわりと羽ばたいて飛んでいく私の姿をぼんやりと眺めているのを背で感じながら、私は群れの中心に戻っていった。

 

 そして再び1人になった人形蜘蛛は、さっきと寸分違わない体育座りのポーズに戻ると、また同じ姿勢のまま動くこと無く停止し続けていた。

 その内部では、本体の蜘蛛がソワソワと群れの奥へ視線を向けていた。

 再びさっきの子がやって来ることに、心の奥底で期待をしながら。

 

 

 群れの中心に戻った私は、周囲の警戒を引き続き指示した後、瞑想に没入していった。

 いまだ「神仰」が教えてくれた入り口にすら立てていなかったけれど、ようやく1つの成果が表れようとしていた。

 

 息を大きく吸って集中する。

 空気の流れとともに、自分の内側、魂にある力を、自分本来の感覚で掴んでいく。

 そして揺れ動く力に触れると、それを乗せて言葉を吐き出す。

 

 トゥー……

 ——土よ。

 

 力を乗せて発した言葉は、形を成し組み上がり繋がりあって、世界に創造による変化を齎した。

 

 目の前の真っ平らな何も無い地面、それが僅かに盛り上がっていき小山を作っていく。

 ジワジワと土塊が動いていき、ほんの握りこぶし程度の土の塊が出来上がったとき、私の胸中に襲来したのは表現できないほどの、とても大きな歓喜であった。

 

 ……っっ!! やっっっ、たぁぁああああぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!!! 

 

 初めて、初めてスキルの補助なしでの魔法、いや魔術が成功した。

 今までは、スキルの補助つまりこの世界を覆うシステムから手助けをしてもらって魔法とかを扱っていたけれど、本来それは歪なもの。

 そこから真に迫るには、自力で魔力いや魂のエネルギーかな? それを操れるようになり、魔術という形へと昇華出来なければ、何の意味もないことを知ってしまった。

 

 だからこそ、この世界に転生してから獲得したスキルを封印し、ひたすら自分の魂を理解し把握するための拷問のような修行を行って、今その神秘に指が触れたのを感じたのだった。

 

 ハッ、ハァッ……、すぅう……、ふう、良しっ。

 

 高ぶった気持ちを落ち着かせて、再び自らの深淵に触れる、そしてそれを活動させる。

 もう一度もう一度と、同じような土塊を作り上げて、それが何十個にもなったとき集中力の限界が来て、前のめりにフラリと倒れ込んだ。

 

 土の小山の山脈に突っ込み土煙を巻き上げた私を、慌てて心配し寄り添うコケダマたちに包まれながら、私は緩やかな喜悦に浸りながらまどろんでいた。

 

 これで、ようやく進める……

 

 届いた神秘を忘れないように、思い返しながら自分の魂にそっと触れる。

 夢うつつでコケダマたちに運ばれていると、頭の中に声が響いた。

 

《熟練度が一定に達しました。スキル「神性領域拡張LV7」が「神性領域拡張LV8」になりました》

《条件を満たしました。スキル「神仰」の第二段階が解放されました》

 

 ……なんて酷いスキルなんだろう。

 

 安らぎに浸っていた心が強制的に追い立てられる。

 その内容を読んでしまった私は、再び覚悟を迫られた。

 

 ……それでも私はやるって最初に決めたこと。

 なら、そのための犠牲も全て背負って進むしかない……

 

 新たに示された使命に、どんよりとした気持ちが流れ出しながら私は想った。

 どうか、犠牲になった人にも救いのある未来を迎えられる、そんな世界を描きたいと。

 

 さっきまでの歓喜が一気に消え失せた心を抱えたまま起き上がる。

 

 急に雰囲気が変わった私を不安そうに見つめるコケダマたちに、何でも無いよと撫でて安心させると、私は飛び上がった。

 

 その身体にシステムが与えるものとは、別の力を纏わせながら。

 

 少しずつ、ゆっくりでも置き換えていかないとね……

 

 そして羽ばたきながら何度目かわからない念話を繋げようとする。

 

 ……また、繋がらない。

 いったい蜘蛛子ちゃんは何処で何をしているのだろうか。

 

 最初は応答しない感じだったけれど、今はそもそも繋がりすらしない。

 どうも距離が離れすぎて、今の遠話でも繋がらない距離にいるのか、もしくは異空間? 

 

 異空間や空間魔法に関しては、飛び抜けて上手い蜘蛛子ちゃんなら、可能なのではと思いついたことだけど、連絡出来ず確認しようもないので結局何もわからないまま。

 

 

 そうして群れの中央で魔術の感覚を高めている時に、再びあの少女が疲労と焦燥を顔に滲ませてやって来た。

 少女に気づいたパペットとアークは大慌てで彼女の元に向かい、背後に控えるように身を縮こませた。

 

 頭を抑えながらイライラした雰囲気を撒き散らしながら歩いてくる少女は、私の前に来ると、ドカリと荒々しく座り込んだ。

 そして何か語りかけてくるけれど、やはり内容はわからないので、言葉と念話の会話は成立していないまま。

 

 私は、頭を抑えながらブツブツ呟き続けている少女の前に降り立ち、土魔法で地面を柔らかな土質にして滑らかな平面を作った。

 それを見て警戒を見せる少女だったけれど、私がそこに無数の線を刻んでいくのを見て意図を察して、獰猛そうな笑みを浮かべた。

 

 頭痛が酷いのかギラギラと瞳を輝かせながら、私と少女は絵での会話を始めた。

 

 何度も何度も、描かれては消して、新たに描いていく。

 

 全て絵と簡単な記号しか使えず、微妙にこちらとあちらではニュアンスが異なる記号で意味が伝わっていないようにも感じたこともあったけれど、何度も何度も描き重ねていくとで、お互いに思っていること考えていることが理解し合えていく。

 

 そして……

 

 私は、この世界に転生してきた元人間であること、この下層で蜘蛛子ちゃんと出会い、一緒に過ごしてきたこと、いろんな戦いを経験して生き残り進化してきて今の姿があること。

 こうして再びコケダマたちみんなと出会って、私が主として王として祭り上げられたこと。

 禁忌でこの世界の真実を知り、憂いていること……

 そのほか言えるようなことは、色々と描いて全部話した。

 

 目の前の少女からは、彼女がクイーンタラテクトの親であり、彼女はクイーンからの助けを求める声に応じて動き、蜘蛛子ちゃんを殺そうとし一度は確実に蜘蛛子ちゃんを殺したこと。

 これには私も怒りがこみ上げて睨みつけてしまったけれど、彼女はそれを当然のことだと受け止めて流し、話を続けた。

 殺したけれど蜘蛛子ちゃんは何故か死んでいなくて——たぶん不死のスキルのおかげで、生き残り今もなおクイーンと配下の蜘蛛を襲っているらしい。

 

 それを確認しに来た彼女も、蜘蛛子ちゃんからの魂への直接攻撃を受けるようになってしまい、今もこうして凄く苦しそうに頭を抑えていた。

 

 何とか止めるために殺したい、けれどどんなに手を尽くしても捕まえられない。

 なら、一緒にいた私から蜘蛛子ちゃんを止められないか、連絡などが出来ないか、僅かな希望を掛けてやって来たみたいだった。

 

 目の前の少女の魂を見る。

 

 そこには限界ギリギリまで張り詰めた魂に無数のスキルが貼り付いており、その上を這いずる白い蜘蛛の姿が見えた。

 その蜘蛛は彼女の魂に取り憑き、今にも崩れそうな魂に虫食いと足跡を刻みつけていた。

 

 言葉でしか聞いていなかったからどんなのか知らなかったとはいえ、これは酷すぎる手段だよ、蜘蛛子ちゃん……

 

 彼女の魂に喰らいついた白い蜘蛛は、魂を貪り溶かしながらも蜘蛛自身も溶けていき、少しずつ彼女と蜘蛛が混じり合って境界線が崩れていくようであった。

 

 ——私の外道魔法では、蜘蛛子ちゃんを取り除けないし、彼女の魂を傷つけてしまう。

 

 目の前に見えるのに、何も出来ない無力さに打ちひしがれる。

 

 私が彼女にしてあげられることは何もなく、唯一出来ることは蜘蛛子ちゃんと連絡をとって、どうにか止めさせ和解させるしか方法がなかった。

 

 目の前の少女の悲痛な姿に悲しみを覚えていると、今まで何度も連絡しても繋がらなかった蜘蛛子ちゃんから念話が来た。

 

 それに応答すると、彼女は念話が来ていることを察知したのかムクリと頭を上げて、耳を澄ませていた。

 

『コケちゃん! 無事!?』

『そっちこそ、今まで何度も連絡したのに一切出なくて、どうしてたのさ!?』

 

 互いに怒鳴り合うように会話が始まる。

 

『すぐそこに魔王がいる! 早く逃げてコケちゃん!』

『何のことかわからないよ、蜘蛛子ちゃん! 何で出なかったの!?』

『いいから早く! ……いやまさか』

『蜘蛛子ちゃん……?』

 

 蜘蛛子ちゃんの言葉が止まる、そして。

 

『くそっ! 魔王め! コケちゃんに何をした!?』

『えっ、あの、蜘蛛子ちゃん……?』

『そこにいるんだろう!? コケちゃんを人質にしたって私は止まらないからな!』

『ぁ……』

『絶対、あんたを喰らいつくしてやる、絶対にだ! そのために人形蜘蛛、マザー、最後にはあんただ』

『蜘蛛子ちゃん……』

『首を洗って待っていろ、絶対に許さないから』

 

 そうして蜘蛛子ちゃんとの念話が途切れた。

 私から何度も何度も繋げようとしても、途中で絶ち切られて蜘蛛子ちゃんに届かない。

 

 どうして、こんなことに……

 

 失意に俯く私を見て、彼女は優しく私を撫でる。

 そこには憐れみとか同情など、一つの言葉で表現できないような悲しみを浮かべていて、彼女自身も泣きそうな顔に見えた。

 

 私がそっと彼女の頬に触れると、堪えていたものが溢れて崩れていく。

 

 涙は流していない、けれど噛み殺した嗚咽は暗い闇の中に静かに溶けていった。




色々と、コケちゃんの設定に絡む元ネタ神話伝説や原作の設定などがあるのですけど、それを作中で明確に匂わす前に当てられる人はいるのでしょうか?
まあ当てられても、答える訳にはいかないのですが……
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