【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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蜘蛛6 人形遊び()

 生きてるって素晴らしい……

 

 魔王が襲って来て粉々に粉砕されてから、何日経過したのかわからないけれど、少なくとも意識が戻ってから数日が経過した頃。

 

 不死の効果でHPが0になっても死ぬこと無くHP高速回復によって、海に飛び散った破片からジワジワと修復されていき、なんとか頭だけ復活したことで私は意識を取り戻した。

 

 それからは大挙して襲いかかる水竜を返り討ちにし、それらを全て倒していると水龍までやってきて、なんとか逃げ回りながら引き撃ちすることで撃破しレベルアップ。

 それによって、ある程度身体がニョキニョキ生えてきて修復されたことで全身の復活に目処が立ち、残りの部分には治療魔法を掛け続けることで少しずつ再生させて、ようやく身体が元の状態に戻ることが出来たのだった。

 

 身体が元に戻った私は長い海での漂流を経て、何日かぶりの陸地に足をつける。

 

 やっと動けるようになった、地に足がつくって大事だったんだなー。

 

 頭だけ海に浮かび、自由に動くことも出来ず漂うのみの生活は充分すぎるほど味わったから、もう一回体験させられるのはノーセンキューで。

 

 それにしても、だいぶ流されちゃったなー。

 

 叡智様のマップ機能によると、私は波に流され続けてエルロー大迷宮から遠く離れた場所まで漂流していたらしい。

 そのせいで、遠話の通話可能範囲を越えてコケちゃんと連絡が取れないまま過ごすことになり、コケちゃんの方は無事かどうか気が気じゃなかった。

 

 一応マーキングしておいた反応は消えていないから生きてはいるのだろうけれど、現在何をしているのかとか、細かい情報までは把握出来ないのが叡智様の限界だ。

 それでも充分すぎるほど便利なので文句は無いんだけど、今この状況では不安しか感じられなかった。

 

 バラバラに粉砕して私を殺したと思った魔王は、その後マザーの様子を確かめるためにエルロー大迷宮に向かった。

 そしてマザーの様子から私がまだ生きていることに気づくんだけど、その後の行動が問題だった。

 

 なんと魔王は迷宮の下層にいたコケちゃんの元に向かっていき、直接接触をして来たのだった。

 

 その時の私は、なんとか頭が復活して意識を取り戻したばかりだったから、転移して駆けつけても何も出来ない状態だったし、念話も届かなくて大いに焦った。

 

 結局は何もコケちゃんに危害が加えられた様子はなく、そのまま魔王は離れていったけれど、しばらくしてからコケちゃんの周囲に人形蜘蛛の反応が増えていた。

 

 私を追いかけ回していた個体の奴が、常にコケちゃんの周囲に離れること無く居座っていて、どうにもコケちゃん自身もそれによって動くことが出来無さそうな感じだった。

 

 危険がそばにいるものの一応は無事であることが確認できたので、私はそのまま漂流しながら身体を修復し、魔王とコケちゃんの動向に注意を払いながら遥か遠くへと流されていき、転移先の候補を増やしていくのであった。

 

 そして今、身体が完全復活して自由に動けるようになり、海の方も私が暴れすぎたのか水龍に執拗に狙われるようになってきたので、追い立てられるように陸地へと上がっていた。

 

 さーて、魔王は今何処にいるのかなーと。

 ふむ、現在は海上を移動中と。

 

 私を吹き飛ばした現場を調べて海に逃げたと確信し、そこから海上を虱潰しに探し回っているようだった。

 そこから私が何処に流されたかはわからないようで、地道に足を使って探している。

 

 まあその足が、音速を軽く突破して走り回っているんですけどね。

 

 しかし、今なら迷宮には魔王はいないし、人形蜘蛛もコケちゃんについているから安全にマザーの配下を潰し回れるチャンスだった。

 

 よーし、一刻も早くコケちゃんを解放するために、私、張り切っちゃうぞー。

 

 そして迷宮に転移した私を待っていたのは、私が一度も見たことも鑑定もしたことがないマーキングされていない人形蜘蛛の集団だった。

 待ち構えていた人形蜘蛛らは、武器を手に襲いかかる。

 

 ぐわー! なんでー!? 

 

 そして私はコケちゃんに連絡する暇なく、命からがら逃げたしたのだった。

 実際不死がなかったら死ぬレベルの怪我を負いつつも、なんとか全員を鑑定してマーキングを施し、意識が無くなる前に転移で遠く離れた海上に逆戻りしたのであった。

 

 ああ、また首だけになっちゃった……

 

 ときに森のなかを、ときに再び海を漂い、魔王からの追跡から逃れながら、再び蜘蛛のゆっくり生首生活を送ることになる私。

 2度目の生首にも慣れたもので、治療用と迎撃用のMPの振り分けも上手く見極めて運用し、比較的早くに身体の修復を終えたのであった。

 

 ……ゆるさん、ゆるさんぞー、人形どもめ、お前らなんか私の経験値にしてやる! 

 

 そうして私は人形蜘蛛を倒す方法を考え、そのための準備をするのであった。

 ……コケちゃんのことを忘れるくらいには熱中して。

 

 

 追跡する魔王と人形蜘蛛4体から逃げ回りながら、マザーの配下をちょっとずつ削っていきアークやグレーターの撃破数は相当の数に上った頃。

 

 私はわざと袋小路の小部屋へと追い込まれていた。

 

 ここに追い込まれるまでに私は人形蜘蛛の近くを走り抜け、それに釣られて複数の人形蜘蛛が追いかけるように仕組み、結果コケちゃんのとこにいた人形蜘蛛は引き付けられなかったものの、迷宮の防衛に回っていた5体と、それに迷宮入り口周辺を捜索していた1体が私が追いかけっこを演じている間に戻ってきて加わり、合計6体の人形蜘蛛が私を追いかけて、まんまと罠に誘い込まれたのだった。

 

 ふふふ、そーれ! 大地魔法! 

 

 唯一の出入り口を塞ぐ。

 それによって私も出られなくなったけれど、それは人形蜘蛛らも同じこと。

 これにより小部屋は分厚い岩壁によって密閉された。

 

 さあ? 海水浴はいかがかな? 

 

 人形蜘蛛らが行動を見せる前に、私は空納に仕舞い込んだ膨大な量の海水を解き放った。

 津波のように水を吐き出しながら、空気は吸引することで小部屋を減圧し気圧などが変わらないようにしていく。

 それによって瞬く間に水位が上昇し、小部屋全体を海水で埋め尽くしていく。

 

 大量の海水に飲み込まれた人形蜘蛛らは押し寄せる水流と高すぎる浮力によって、まともに泳ぐことも出来ずに、洗濯機に入れられた洗い物のように藻掻いていた。

 

 前に海で泳いだときに気づいたことだけど、私の身体はものすごい浮力がある。

 水に潜ろうとしても簡単に浮き上がってしまうほどの、中身全部空気なのではってくらいに、水とは相性が悪い。

 なら他の蜘蛛の魔物もどうなのか調べてみた所、案の定浮き上がった。

 

 となれば私よりも小さい人形蜘蛛の本体も浮いてしまうだろうと考え、今回の作戦を仕掛けたのだった。

 

 内部にまで海水が浸透して、本体が呼吸も出来ずに藻掻いている。

 水に濡れてしまい糸の操作も鈍くなり、精細な動きは見る影もない。

 常に水流を操ることで、体勢を整えようとしても目まぐるしく変わる上下に平衡感覚を失って、ロクにバランスを取ることも出来ていない。

 

 それを私は小部屋の水底から魔法を人形蜘蛛らに放ちつつ眺めていたのであった。

 一応高いコストを払って遊泳のスキルを獲得していたけれど、今私が水底に貼り付いていられるのは、あらかじめ仕込んでおいた糸を自分に絡ませて浮かないようにしているからだ。

 床に薄く張られた糸に自ら踏み込み、触れた瞬間にその部分だけ粘着力を復活させて貼り付く。

 踏み込むときに浮き上がってしまうけれど、それは遊泳のスキルでカバーして底から離れないようにして自由に水中を歩けるようにした。

 

 強制的に天井に貼りつかされて、水流によってもみくちゃにされた人形蜘蛛らは手に持った武器が味方に当たって同士討ちも起きていたが、それだけでは決定打にはならず、私に向けて反撃の魔法を放ってきた。

 

 それも予想済み……あいたっ、ちょっ、痛いってば! 

 

 いくら水底を動けるからって、全て避けきれるほど自由に動けるわけではないから、何発か貰ってしまう。

 けど、これでいい。

 このまま私を狙ってパニックになってもらい、小部屋からの脱出を忘れてもらう。

 

 そら、流木と軽石の追加じゃー! 

 

 私はさらに空納から、水に浮く物体を取り出して渦巻く水流の中に投げ込んだ。

 水流に乗った障害物は勢いよく人形蜘蛛らに当たり、何度も何度も姿勢を崩させて対処させるべきことを増やし思考力を奪っていく。

 

 完全にパニックに陥った人形蜘蛛の本体らは、空気を無駄に消費して吐き出しながらメチャクチャに暴れまわる。

 それによって人形のほうも手足をデタラメに振り回すけれど、その動きは緩慢で力が上手く伝わっていなかった。

 そんな動きでは、天井や壁など小部屋の破壊もままならず、周囲も確認せずに振った武器は味方の身体に叩きつけてしまうのであった。

 

 そして溺れ苦しむ人形蜘蛛らの姿を眺め、抵抗が弱々しくなっていても容赦なく追撃を撃ち込み、ピクリとも動かなくなるまで攻撃をし続けた。

 

 レベルアップの通知が鳴り響き、念の為6体全部を1つずつ鑑定してみて、全て死体となっていることを確認した。

 

 ステータスが高くとも、実力を発揮できなければこんなものか。

 

 あれだけ厄介だった敵が、こうもあっさり殲滅されてしまうのを見て、相性や戦術によるハメ技の強力さを改めて理解した。

 今回は私が嵌めた側だけど、それを相手にもやられる可能性もあるわけで、魔王や他の相手に対しても油断しないように気をつけねば。

 

 残りの敵は、人形蜘蛛4体に、マザー、魔王。

 もう少し、もう少し待っててね、コケちゃん。

 

 魔王が引き返してくるのを感じ取り私は、長距離転移でその場を後にした。

 

 

 

 

「***……!!」(クソッ……!!)

 

 

 

 転移先を増やすべく迷宮の外を散策していると、整備された街道に出てしまい他に避けようもないので、仕方なく人目につかないように街道沿いを進んでいた。

 

 多少人に目撃されるかもしれないけれど、魔王から逃れるための避難先候補は増やすに限るので、ヒッソリコソコソと歩いていた。

 今までは人気のない山や森ばっかりだったから人の多い場所に潜伏しているなんて、魔王もすぐには思いつかないかもしれないし。

 

 んー? 前方で何か起きてる。

 

 人通りが少なくて発見されることなく進んでいたけど、ついに人と出会ってしまった。

 馬車と、それを囲むように複数の人がいるんだけど、どうにも様子がおかしい。

 

 あれ、護衛じゃなくて盗賊? 

 

 馬車の周囲を取り囲む人たちは、4人が護衛で6人が盗賊のようで、馬車の内部にも3人ほど乗っていた。

 こう見ると人数としては馬車のほうが多そうに見えるけど、1人はいかにも夫人って感じで戦いの経験なんて無さそうだし、もうひとりは赤ちゃんだ。

 

 なので、実質戦えそうなのは馬車にいる男性も含めて5人だけであり、人数的にも戦力的にもかなり不利な状況だった。

 

 あー、護衛やられた。

 

 仕方ない、助けるとするか。

 あんな赤ん坊が襲われているのに、見て見ぬ振りするなんて気分が悪い。

 助けるのは面倒だと感じるけどさすがに可愛そうだと思うし、人間って経験値美味しいから悪いことしているやつを殺っても文句は無いよね? 

 

 私は経験値が美味しい、相手は迷惑な犯罪者が消えてハッピー。

 よし、理論武装完了、いくぞー。

 

 そして盗賊を軽く殲滅して、ついでに護衛の人にも治療魔法を掛けてあげたところで、馬車の中なら出てきた存在に目が点になった。

 

 この赤ちゃん、私と同じ転生者だー!? 

 

 そして再びの転生者格差に打ちのめされて、私は逃げるように走り出した。

 スキルとかスキルポイントとか生まれとか、どうしてみんな私よりいいもの持ってるのさ、ずるくなーい!? 

 

 強がりながら、私は再び街道を走り抜ける。

 しばらく心で涙を流しながら進んでいると、大きな街に辿り着いていた。

 ……とりあえず近くの森に潜みますか。

 

 

 

 再び私は迷宮に戻ってきた。

 人形蜘蛛の半数を殺ったことで人手が足りなくなり、いまだ私の居場所を捕捉出来ていない魔王は見当違いな所を捜索していた。

 残りの人形蜘蛛らは全てコケちゃんの周囲に配置し、各個撃破されないように連携を取りつつ、持ち場から一定距離離れないように立ち回っていた。

 

 このせいで人形蜘蛛を殺ることは難しくなっていたし、コケちゃんにも近づけなかった。

 

 もたついている間に魔王も戻ってきて転移で逃げ出したけれど、その魔王がコケちゃんの元に向かっているのを見て、私は長らく大事なことを忘れていたことに気づいた。

 

 ……あっ、コケちゃんと一回も連絡とってない。

 

 最初に連絡しようと迷宮に来た時は待ち構えていた人形蜘蛛に追い詰められて、連絡なんて取る暇なくボロボロにされて逃げ出し、その後は人形蜘蛛を殺るためにあれこれ策を考えながら身体の修復をしていたから、念話圏外をずっと彷徨っていた訳だしね。

 

 人形蜘蛛を殺った後も連絡する余裕はあったとはいえ、魔王が引き返してきていたから直ぐに転移して離れちゃったし、私元々長らくボッチだったから会話しないのが普通なのでコケちゃんがいない状況にも慣れてしまい、わざわざ連絡するということが億劫になってしまっていた。

 

 再び魔王がコケちゃんに接触していたので、私は気になり念話が届くギリギリの位置に転移してコケちゃんに繋げた。

 

『コケちゃん! 無事!?』

『蜘蛛子ちゃん!?』

 

 念話は何の問題もなく繋がった。

 けれど、コケちゃんの様子がおかしく感じた。

 なんか、やけに苛立っているような……? 

 

『そっちこそ、今まで何度も連絡したのに一切でなくて、どうしてたのさ!?』

 

 怒鳴るように返事が返ってくる。

 そのことに不審に思いながら、私は伝えるべきことを言った。

 

『すぐそこに魔王がいる! 早く逃げてコケちゃん!』

『何のことかわからないよ、蜘蛛子ちゃん! 何で出なかったの!?』

『いいから早く!』

 

 鈍い反応にイライラが募る。

 私が伝えたいことは理解せず、質問ばかりが飛んでくる。

 

『……いやまさか』

 

 私はふと頭を過ぎった悪い予想に取り憑かれた。

 

『くそっ! 魔王め! コケちゃんに何をした!?』

『えっ、あの、蜘蛛子ちゃん……?』

 

 コケちゃんが戸惑っている。

 けれど、私は脳裏に浮かんだ予想を真実だと思い込み、激情のまま叫んだ。

 

『そこにいるんだろう!? コケちゃんを人質にしたって私は止まらないからな!』

『ぁ……』

『絶対、あんたを喰らいつくしてやる、絶対にだ! そのために人形蜘蛛、マザー、最後にはあんただ』

『蜘蛛子ちゃん……』

 

 コケちゃんの声が途切れていく。

 

『首を洗って待っていろ、絶対に許さないから』

 

 一方的に宣戦布告を叩きつけて私は念話を切った。

 コケちゃんから伝わるのを阻止するために念話のパスも繋がらないように完全に断ち切って。

 

 そして私は、より苛烈に蜘蛛を殺り続け、魔王が不在の隙にマザーまでも魂を喰らい尽くして滅ぼしたのだった。




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