【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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23 殴りアイの大喧嘩

 あちこちで怒号と悲鳴が聞こえる街に突入した私たちは、この街の中心にある領主の館に向かって走っていた。

 

 一時は、この街を避けて別の街に行くか火事場泥棒でもして衣服などを拝借しようか考えていたけれど、アリエルさんが街の中に姿を隠して動くエルフの姿と領主の館に何故かいた蜘蛛子ちゃんを発見したことで、市街地と郊外を区切る城壁を飛び越え密集する建物の屋根を走りながら、街の中心部へと向かっていた。

 

「おまえたち、街にいるエルフを殺せ。いけっ!」

 

 アリエルさんが命令を下し、散開して街の中へ走っていく人形蜘蛛たち。

 瞬く間に建物や路地裏の影へと溶け込み姿を消していく。

 

 私はアリエルさんの背を追いかけながら質問をした。

 

「蜘蛛子ちゃんのことはわかるんですけど、エルフとは一体? どうして敵対するんですか?」

「ん? あぁそっか、まだあいつらのこと知らないみたいだね」

 

 足を止めること無く、大通りに差し掛かって足場が途切れた何も無い空間を軽々と飛び越える。

 そして屋根に敷き詰められた瓦を踏み砕きながら着地して、アリエルさんは答える。

 

「後で詳しく教えるから、今はついてきてっ! とりあえず敵だってこと!」

「……わかりました」

 

 頷く私は纏う布の端を風圧ではためかせながら、速度を上げたアリエルさんに追い縋る。

 

 そして大きく跳躍したアリエルさんは領主の館の柵も庭も飛び越えて、盛大に館を破壊しながら内部に突入した。

 

 大穴の空いた屋根から埃が吹きがって、白い煙の向こうに人影らしきものが浮かんでいる。

 

 私もその穴を潜り抜けようとしたけれど、庭の半分に差し掛かったあたりで突然風や重力の制御が出来なくなり高速飛翔のスキルも消失して、芝生や生け垣に顔面から突っ込みながら墜落した。

 

「ごふッ!!」

 

 速度が乗ったまま落下したことで、土を巻き上げながら庭園を転がる。

 髪の毛や肌に泥や枝葉が絡まってグチャグチャになり、叩きつけられた額が裂けて血がドロリと瞼の上に垂れてくる。

 

 ……あれ? 本来この程度ではかすり傷も負わないのに? 

 

 血を拭って立ち上がるけれど、身体能力を底上げしていた術式が乱れ深海の底に沈んでしまったかのように身体が重い。

 

 魔法、スキル、ステータスが正常に機能していない。

 システムの補助が消えた? なら……

 

 独力での魔力操作で術式を再現し掛け直すけれど、肉体の内側で組み上げた魔術は効果を発揮するが、大気中には身体の外部に対しては、術式での干渉が一切出来なかった。

 

 低下した筋力や強度を再現した術式で引き戻すけれど、それでも8割ほどにしか戻っていないように感じる。

 並列意思を総動員して8割までしか力が使えず、主力だった魔法も使用不可……

 

 この不可解な状況に関してよくわからないけれど、危険度レベルを最大まで引き上げて警戒し、落下した時にはだけた布を巻き直して正面玄関からドアを直接殴り飛ばして強引に乱入する。

 ……殴った衝撃で少し手の皮が捲れてしまった。

 防御力は外界に触れている表皮に作用するから、減少の影響が強いみたいだ。

 

「……アリエル、か? それに他にも新手……なっ!?」

 

 拉げてパラパラと木片が舞い散るドアの残骸の向こうには、決めポーズをしているアリエルさん、何故か頭が無いけれど蜘蛛子ちゃんらしき白い半人半蜘蛛、部屋の隅で赤ちゃんを抱えている血まみれの従者らしき人、そして私を見て驚愕の表情を貼り付けている金髪の男性がいた。

 

 その男性は右腕が巨大な金属の塊に置き換わっていて、表皮が削ぎ落とされた顔面からは金属で出来た骨格とレンズの眼球が見えた。

 エルフというよりサイボーグと言ったほうが正しい姿の男性がたたらを踏んで数歩さがり、目を大きく見開く。

 

「馬鹿な、その姿! ……いや違う、似ているだけか。とうとう寂しくて、こんなのすら作ったかアリエル」

「あんたには言われたくないねー。それにこの子に関しては私が関与した訳じゃ無いからね」

「ほう?」

 

 私を置き去りにして話は進み、エルフの顔がこちらを向いて機械の眼球がギョロリと私を値踏みする。

 その視線に言いようのない不快感と気持ち悪さを憶えながら、状況は進んでいく。

 

「なに視線逸らしてんのさ、こっちを見ろ」

 

 アリエルさんが、床を踏みつける。

 それだけで建物全体が崩れてしまいそうなほど強烈な、局地的地震を力技で引き起こす。

 吹き荒れる覇気と威圧は、冷たくその男に突き刺さり、余波を浴びただけで背筋が凍る。

 

「……こっちは本物か」

「当然、最初からわかってるでしょ? さあ、どうしてここにいるのか吐け、ポティマス」

 

 アリエルさんが、そのエルフの男性をポティマスと呼び、怒りを滲ませて睨みつける。

 空気が重く淀みドロドロとした重圧が室内を満たして、息が詰まるような錯覚を感じる。

 

「ふむ。そこの女には興味を惹かれるが、これではいささか分が悪いな」

「あんたの好きにはさせないし手を出すのを許すと思う? それより目的を吐いてもらおうか? それとも強制的に吐かされたい?」

「どれも断る」

 

 そしてポティマスと呼ばれたエルフがアリエルさんに襲いかかるが、無造作にアリエルさんが腕を振るうと、彼の胴体を吹き飛ばして頭部のみの生首にする。

 カーペットの上を転がるポティマスの首は、胴体がないというのに意識を保ったまま声を出す。

 

「このボディでも貴様には通用しないか。しかし惜しいな」

「いつかあんたの本体にも同じ目に遭わせてやるよ」

 

 深い憎悪と敵意を乗せて、呪いの籠もった声を吐き出すアリエルさん。

 そして首だけになったポティマスに歩いていき……

 

「出来るものならやってみるがいい、小むすッ」

 

 言い切る前にアリエルさんはポティマスの頭を踏み潰して、執拗に磨り潰した。

 

「ふんっ。……さて、その蜘蛛ちゃん」

 

 完全にスクラップになるまで踏み砕いたアリエルさんは、こっそり逃げ出そうとしていた蜘蛛子ちゃんを引き止めて、話し合いのテーブルへと引きずり込んだ。

 いつの間にか修復していた蜘蛛子ちゃんの顔は色彩が真っ白であることを除けば、前世で色々と有名だった若葉さんと同じ顔だった。

 

 そしてアリエルさんが蜘蛛子ちゃんに停戦と和解を申し込み、さらに踏み込んで手を組むことを提案して片手を差し出すと、その手を蜘蛛子ちゃんは握り返したのであった。

 

 私は……、それに口を挟むこと無く、ここでは何もせずにジッと大人しくしているのであった。

 

 

 

 

 遠くで燃え盛り、人も営みも何もかもが燃え尽きようとしている、死にかけの街が見える。

 それを小高い丘から眺めている私たちの姿が、そこにあった。

 

 エルフに襲撃されていた従者の人と赤ちゃんも一緒に並んで立っていて、その腕に抱かれている女児が実は私と同じ転生者で元クラスメイトの根岸さん、今はソフィア・ケレンという名前の彼女が、従者のメラゾフィスの腕に抱かれていた。

 

 ……クラスメイトだったことは憶えているのだけれど、あまり記憶には残っていない。

 んーと……、たしか……、あんまり目立たない暗い人だった……、ような……。

 

 記憶の彼方に溶けて薄れている前世の事を思い出そうとするけれど、とくに親しいわけでもなく深い関係があった記憶も無いので、無理に思い出す必要も無いと判断して思考を打ち切る。

 

 すでに遠い昔だと思えてしまう記憶から現実に戻ってきた私は、ソフィアさんが住んでいた屋敷から、サイズも合わないし身体の構造的にも無理矢理着た形だけど侍女の服を拝借してそれを纏い、同じ様に眼下の街を見下ろしていた。

 

「もういいのかい?」

 

 視線を逸らして街に背を向けたメラゾフィスさんにアリエルさんが声を掛ける。

 彼は覇気のない声で答えるけれど、瞳の奥にはギラギラした決意が見えた。

 

「ええ。……遅くなりましたが、助けていただきありがとうございました」

「いいってことよー。まあ蜘蛛ちゃんの事のついでに、ね」

 

 丁寧に礼を言って頭を下げるメラゾフィスさんだったけれど、疑念の気配を隠せていなかった。

 

「……失礼かもしれませんが、あなた方は何者なのでしょうか?」

「私は魔王アリエルぅ。で、こっちがこの頃君らが神獣様と言って祭り上げていた、蜘蛛の魔物が進化した姿だよー。そしてこっちが、最近知り合ったコケちゃんっ!」

 

 アリエルさんが私たちの事を紹介する。

 驚愕を浮かべるメラゾフィスさんとは対象的に、蜘蛛子ちゃんは話自体は聞いているようだけど表情を一切変えずに一歩引いた距離を保ったままジッとこっちを見てた。

 

「はじめまして? 今世ではコケって名前になりました?」

「……」

 

 若干疑問形になりながら答える私と、口を開かない蜘蛛子ちゃん。

 ……さっきから念話でも口頭でも、一言すら声を出していない。

 

 そしてアリエルさんが私たちの関係と、エルフとの因縁を語り始めた。

 

「……という訳でエルフと族長のポティマスは、この世界一のゴミクズだからね。見つけたら始末しとかなきゃ。見たでしょ? あの異質なモノ。尤も、さっき壊したあれは遠隔操作で操っている人形みたいなものだから、潰したところでまた湧いてくるんだけどねー」

 

 アリエルさんは、エルフと機械技術の関係、この世界の成り立ちの触りの部分を説明する。

 

 そう……、アレがこの世界を壊そうとした元凶なんだね……

 

 胸の奥に暗い怨嗟が燃え広がるのを感じながら、私はアリエルさんの話に聞き入っていた。

 そして話は転生者のことに変わり、私と蜘蛛子ちゃん、そしてソフィアさんに共通する前世の事をメラゾフィスさんに説明していった。

 

「では改めて、前世では苔森真理という名前でした。……喋らないみたいだから私が言うけど、そしてこっちが若葉姫色の記憶を持っている蜘蛛子ちゃん」

 

 蜘蛛子ちゃんは何も言わないので、私がかわりに紹介する。

 そして、まだ赤ちゃんなので声帯などが未発達で喋れないソフィアさんが念話を獲得したことで私たち全員に語りかけてきた。

 

『あなた、苔森なの……? その、雰囲気が全然違うし、顔の印象もちょっと違うから、すぐにはわからなかったわ……。でも、そうね言われればたしかに……』

「うん、そうだよ? まあ印象変わったなって、私でも思っているから気にしないで」

 

 メラゾフィスさんに抱えられたソフィアさんが驚いている。

 似ているところはあっても全てひっくるめたら別人に見える姿なのは私も感じていることだし、そんな反応だったとしても不思議ではない。

 

 そしてソフィアさんがメラゾフィスさんを吸血鬼にしてしまった事を懺悔して、それを彼は謝るのは私の方だと、むしろ守る力を貰えて感謝していると伝え、今後も変わること無い主従の誓いを彼は宣言したのであった。

 

「うんうん、いい話だぁー。君たち、私のもとに来い! 私が責任持って保護してやる!」

 

 スイッチが入ってしまったアリエルさんは、号泣しながら2人を勧誘して共に行こうと言う。

 そしてみんなで魔族領へ行くことに話が決まったところで、私はゆっくりと蜘蛛子ちゃんの元へ向かった。

 

「……」

「……っ」

 

 無言で見つめ合う、私と蜘蛛子ちゃん。

 視線を逸らすことも無くまばたきすら僅かに見つめる私と、視線が泳ぎ続ける蜘蛛子ちゃん。

 

「……蜘蛛子ちゃんとアリエルさんとの間で話が纏まったのなら、もうこれ以上喧嘩している理由は無いよね?」

『そう、だねー……』

「なんで念話?」

 

 人型の部分を得て口もあるのに、何故か念話で返事をする蜘蛛子ちゃん、

 

『や、ここには他に人もいるし……、なんか、ちょっと、ね?』

「まあ、いいけど」

 

 蜘蛛子ちゃんが、そういう性格なのは知っていたから軽く流す。

 

「じゃあ……、私たちも仲直りしよう?」

 

 そう言って私は、左手(・・)を伸ばして目の前に差し出す。

 ちょっと首をかしげながらも蜘蛛子ちゃんは手を伸ばして、私と握手するために手を握った。

 

 私と蜘蛛子ちゃんの手が重なった瞬間にステータス強化のスキルや魔術を多重起動して、蜘蛛子ちゃんを周辺への被害や影響が少ないだろう山奥へと力いっぱい投げ飛ばした。

 

 不意打ちで投げられた蜘蛛子ちゃんは、目を丸くしたまま抵抗できずに空高くに打ち上げられて、勢いよく飛んでいく。

 そして体勢を整えられる前に、私はアリエルさんたちに一言告げてから追撃に移った。

 

「ごめんなさい、アリエルさんは2人を守ってて。私は蜘蛛子ちゃんとオハナシしてくるので!」

「えっ、ちょッ!?」

 

 慌てて引き留めようとするアリエルさんの手を避けて、私は空中にいる蜘蛛子ちゃんに追いつき、勢いを乗せた蹴りで地面に叩き落とした。

 

 木々をなぎ倒しながら墜落した蜘蛛子ちゃんを追って森に着地すると、お返しとばかりに黒紫の槍が飛んでくる。

 

 それを避けること無く受けて、直撃した部位から血が吹き出す。

 ダメージに顔を顰めながらも、治療を掛けること無く進み続ける。

 

 急所となる攻撃だけは防ぎつつも回復もせずに血を流しながら歩く私に、驚愕と戦慄の表情を浮かべる蜘蛛子ちゃん。

 

 そして手が届く範囲になると、蜘蛛子ちゃんの顔を思いっきりグーで殴った。

 

「ごふッ!?」

 

 今はステータス強化を解いて通常時の筋力でぶん殴ったので、吹き飛ぶことはないものの蜘蛛子ちゃんの人間部分が大きく背を逸らして空を見上げる。

 

「——来い! 戦場での続きだっ! お互いハイ仲直りなんて、納得出来てないでしょう!?」

 

 両手を構えて、私は宣言する。

 それを聞いた蜘蛛子ちゃんは、瞳に闘志を宿して殴り返してきた。

 

「ぐぅッ!?」

「そっちがその気なら……、ヤッてやるよ、オラー!!」

 

 頭上から振り下ろすように拳が叩きつけられ、地面に膝をつく。

 蜘蛛型の足を払いつつ、回転の勢いを乗せてアッパーを顎に撃ち込む。

 強制的に上を向かされても蜘蛛子ちゃんは正確に私の位置を捕らえて、鳩尾に拳をめり込ませてくる。

 

「がッ、ぐぅ……、全然痛くないよ? それで終わりかーッ!!」

「どっちも痛覚無効持ってんだから、痛い訳無いじゃん!?」

 

 お互い声を枯らして叫びながら、殴り合う。

 

 遠心力を乗せた裏拳が耳と顎を揺らして鼓膜を破壊する。

 お返しの肘鉄は鎖骨にぶち当たり、ミシミシと嫌な音が鳴る。

 

「蜘蛛子ちゃんは、いつも話を聞かないッ!」

「しるかー! 向こうから勝手にやって来るのが悪いッ!!」

 

 打撃音で怒りを、身体が軋む音で悲しみを伝えながら、愚直過ぎる会話は繋がっていく。

 

 

「いっつもそう、私が待つか折れて合わせている。たまには周りのことも考えろ!」

 

「勝手に突っ走って、勝手に厄介事抱えて、何の説明もなく私を巻き込むなッ!!」

 

「言葉が少ないんだよッ! ちゃんと喋れ! このコミュ障めッ!!」

 

 握った手の骨はヒビ割れ、裂けた皮から血が溢れて真紅に染まるが、振りかぶる腕は止まらない、止めるとこなんて出来ないから。

 

 

「ふっざけんなァッ! なんだよそれ!? 全部私が悪いってか!?」

 

「勝手に騒いで、勝手に怒って、勝手に消える……、私からすりゃあ、あんたらの方が勝手だよッ!!」

 

「コミュ障なめんなッ! 私にだって、意地と誇りがあるっつーの!!」

 

 もはや何を言っているのかお互い理解せずに、叫びながら殴り合う。

 溜め込んでいた感情が、言葉が、想いが、制御できずに溢れて流れ出す。

 

 

「そうだね、面倒事はいつも勝手に、向こうからやって来る。……でも、それとこれは別! 訳も分からず置いていかれた私の怒りを思い知れェッ!!」

 

 より激しく、空気を引き裂く衝撃波を撒き散らしながら響く打撃音。

 

「悲しかったッ! 苦しかったッ! 隣に誰もいない1人ぼっちの絶望が、どれほどか想像出来るッ!?」

 

 悲鳴のような声をあげて、感情を乗せた拳を打ち付ける。

 その拳を、蜘蛛子ちゃんは正面から向かい合って受け止める。

 

「ぐぅッ……、クソッ、私が悪かったッ! でも、そう想っていたのが自分だけだと思うなァッ!!」

 

 ストレートの拳が頬を殴りつける。

 

「私だって、心配で不安で……、何も感じていなかった訳じゃなぁいッ!!」

 

 涙を溢れさせながら蜘蛛子ちゃんは慟哭する。

 

 ああ、そうだね。

 結局のところ、想いは同じなのはわかっていた。

 けれど、馬鹿みたいに一度ぶつかり合わないと収まりがつきそうに無かったんだ。

 だから——

 

「「こんのぉぉ、大馬鹿のわからず屋めっッ!!」」

 

 交差した拳が、お互いの顔面をぶち抜いた。

 どちらも本気の本気で殴りつけた一撃は、殴られた衝撃で爆発でも起きたかのように吹き飛び、地面に線を引きながら2人とも転がって脱力した。

 

 満天の星空のほかにチカチカとした閃光と目眩を感じながら、私は口を開いた。

 

「……あはは、引き分け……かな?」

 

 今までの激情が嘘のように、朗らかに私は言う。

 

「……いーや、私の勝ちだね。まだやれるよ私は」

 

 そう言いながら立ち上がろうとする蜘蛛子ちゃんだったけれど、脚はふらつき痙攣していた。

 

「負けず嫌いなんだから……もう」

 

 呆れた声で返事をするけど、私も限界で起き上がれないので反論できそうになかった。

 

「……満足?」

「うん、満足。ありがとう蜘蛛子ちゃん」

 

 仰向けのまま、感謝を述べる。

 全てが全て無くなった訳では無いけれど、今はとてもスッキリしていた。

 

 それを呆れた表情で見つめてくる蜘蛛子ちゃんの視線を感じながらも、私は笑った。

 

「ふふ、ははっ、あははははははっ!」

「…………くふ、ふふッ」

 

 痛めた内臓が軋みつつも盛大に笑う私に釣られて、蜘蛛子ちゃんも軽く吹き出して笑う。

 そして一頻り、2人して笑い合うと私は呟く。

 

「ねぇ、いい喧嘩だったね……」

 

 口角が自然と上がってしまう表情で、星空と覗き込んでくる蜘蛛子ちゃんを見る。

 

「私は、もうゴメンだね。全身ボロボロで泥まみれで最悪にも程があるつーの」

 

 ジットリとした目で、つれないことを言う蜘蛛子ちゃん。

 まあ、こんなの頻繁にやってたら色々とシャレにならないからね……

 

 なぎ倒されメチャクチャに荒らされた木々と地面を見て、尋常ではない周囲の被害を認識すれば、やっぱり喧嘩は良くないと、私もそう思った。

 

 そしてその後は、2人して仲良くアリエルさんに怒られ、急いでここから逃げ出すのであった。

 

 道なき道を大慌てで駆ける私たちの表情には、もう蟠りも不信も浮かんではいなかった。

 山脈の稜線から朝日が登り始め眩しい日差しに照らされながら、私たちは新たな同行者たちと共に、次なる旅へと走り続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 光差し込まぬ大迷宮の最下層にて、緑色の球体たちと、1人の少女が向かい合う。

 

「ごめんね……ッ」

 

 少女は手をかざす。

 すると、周囲にいた彼らの瞳から生気が失われて物言わぬ物体になっていく。

 

《条件を満たしました。スキル「神仰」の第四段階が解放されました》

《第四段階:器を満たし、流出させよ。それをもって神とならん》

 

《条件を満たしました。称号「味方の殺戮者」を獲得しました》

 

 少女は再び腕を振るう。

 すると魂を失っていた身体に命が吹き込まれ、再び以前と変わらぬ肉体と魂をもって動き出す。

 

 突然の意識の消失に疑問を浮かべる彼らに、少女は優しく抱きついて撫でていく。

 訳も分からずにいた彼らは、泣きながら強く抱きしめる少女に対して変わらぬ親愛の気持ちを伝えていった。

 

 それを大きな感謝でもって受け取りつつも、少女はひたすら内心で後悔と痛嘆に苛まれながら、謝り続けるのであった。




投票者50人でゲージ埋まって表示されるようになりました、とても感謝します。
今回キャラ数が多かったから、すごく難しかったです……

さーて、アニメで公開された内容までやったから僕は休むかー(初代怠惰支配者並感)

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  • やってみせろよ、マフティー!
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