【完結】コケダマですが、なにか?   作:あまみずき

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旅の始まり
24 よい道連れは、悪魔の所業


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 ……みんなのためにも、私が死ぬわけには、いかないから。

 

 ︙

 

 

 

 

 お昼寝日和だと言わんばかりの穏やかな光と空気に満ちた道なき道を進む私たち。

 

 見上げた空は木々の枝葉によるカーテンで包まれていて、その隙間からは澄み切った空の美しいセレストブルーが顔を覗かせていて、心地よい日差しが私たちを包んでいる……はずだけと。

 

「ひゅー、ひゅぅー……ッ」

 

 約1名、その幸せを享受することが出来ずに、地獄のような責め苦で死にそうになっている幼子が強制的に地面を歩かされていた。

 

『こけ、もりぃ……たすけ……』

 

 本来親の腕に抱かれて庇護されるべき赤ちゃんが、私に助けを求めて悲痛な念話を繋げる。

 その声に対し、私は自分の熟練度上げも兼ねて、そっと奇跡魔法で体力を回復させてあげた。

 

『ちっ、がぁぁーうッ!』

「……ごめんね、後々のソフィアちゃんの為だから」

 

 うん。

 わかっているけど、やっていることは非常に合理的で効果的な修行方法だから、いつかソフィアちゃんも無駄では無かったって思える日が来るから……

 

 そして私は、白ちゃんがソフィアちゃんを糸で縛り操り人形にしているのから目を逸らした。

 

 白ちゃんとは蜘蛛子ちゃんのことで、この白という名前はアリエルさんが蜘蛛子ちゃんにつけたあだ名のようなものであり、蜘蛛子ちゃん自身も別に好きでも嫌いでもない心底面倒臭そうなといった感じだったけれど、その呼び方が私たちの中で定着したので私もそう呼ぶようになった。

 アリエルさんから呼ばれると微妙に嫌そうなのに、私からだと平気そうなのは少し不思議かな? 

 

 ついでにソフィアちゃんの呼び方も、さんからちゃん付けに変えていた。

 親しみを込めてのちゃん付けなのに、子供扱いするな!とソフィアちゃんは怒っているけど。

 まあ幼児の身で怒っても可愛いだけだし、ちょっとその反応が面白く感じてすらいるから、悪いけど無視しようと思っていた。

 

 

 隣で繰り広げられる女児虐待の数々と助けを求める絶望した瞳を無視しながら、私は腕に抱えた生まれたばかりのコケダマに優しく頬ずりをした。

 喧嘩のときに見るも無残にボロボロになったツギハギだらけの侍女服と私の頬に挟まれた小さなコケダマはクネクネと暴れるけれど、それはもっと抱きしめて欲しいという意思の表れだった。

 

 この子は新たに生まれてきたコケダマたちの最初の子で、今は眷属支配のパスが繋がっているけれど、少し前までは私との繋がりもなく魂の定着しきっていない卵でしかなかった。

 私は新たな生命のこの子に祝福をと、「メント」と名前をつけてあげた。

 ほかにも身体を包む苔を私自身の苔から分けてあげたり等、ちょっと過剰にお祝いをプレゼントしすぎたのか、生まれたばかりなのにスキルなどがやたら充実しているコケダマが誕生してしまったけれど。

 

「メントは普通に育ってね……、えっ? アレでもいいの? 本当に?」

 

 なぜか、あの拷問的修行法をやりたいと言っているメントに驚きを隠せずに何度も確認するけれど、その度に返ってくる答えは同じで決意は堅そうだった。

 試しにダメージを最小限に押さえた魔法を、うっかりで殺してしまう事がないように気をつけながら慎重に当ててみるけど、もっとと言わんばかりに頑張って耐えていた。

 

 ……本当、無理はしないでね。

 

 私は修行している面々に対して僅かでもダメージが入ったら回復を掛けてあげながら、私たちはサリエーラ国の首都へと向かっていた。

 

 目的は、まだ身の振り方を決めかねているソフィアちゃんとメラゾフィスさんが、何を選んでもいいように、とりあえず首都に向かってそこからどうするか決めるというものだった。

 ついでに生活必需品なども買い揃えるために、規模が大きい首都に向かうという理由もあった。

 

 

 そして食事で休憩となり、長時間幼児の身で歩き通しだったソフィアちゃんが糸から解放され、顔面蒼白で気絶し倒れ込もうとしているので、地面に激突する前にそっと念力で受け止めた。

 

 空中に不自然な体勢で浮かんでいるソフィアさんは、泡を吹いて意識が飛んでピクリともしないけれど、一応生命反応はしっかりしているので死ぬことは無い、……と思いたいなぁ。

 

 メラゾフィスさんが気絶したソフィアさんを介抱していると、白ちゃんは料理の準備を始めていて、手早く糸で小枝を集めると元々発火しやすい性質である糸ごと火を着けて燃やすことで簡単に焚き火を作り上げると、空納からフライパンや魔物肉などを取り出して豪快にお肉を焼いては調味料をぶっ掛けるだけの、あまりにも女子力の欠片もない料理を作っていた。

 

 いやまあ、旅の空だから凝ったものは作れないにしても、それは無いでしょ。

 

 毒持ちの魔物肉を焼き上げて適当に調味料を掛けただけの、白ちゃんの料理とも言えないナニカがソフィアちゃんとメラゾフィスさんに振る舞われると、今度は自分用の普通のお肉を焼き始めていた。

 

 気絶から復活したソフィアちゃんは、手元にある毒々しい色のお肉と今焼いている赤色のお肉を見比べて、羨ましそうな悲しそうな表情で視線を行ったり来たりしていた。

 

『……ねえ、これ食べなきゃダメなの?』

「毒耐性や悪食の称号のためにも、食べたほうがいいから……」

 

 毒耐性などは私もレベル上げのサポートが出来るけれど、悪食に付属する腐食耐性は先に獲得しておかないと即死の危険性が常に付きまとうし耐性上げも出来ないから、無理してでも頑張ってほしい。

 そういった修行内容に関しては白ちゃんから何をするつもりなのか聞き出して、それを私から2人に説明していたのだけれど、メラゾフィスさんには不服だったらしい。

 

「白様、お嬢様にもまともな食事を出してはいただけませんか?」

 

 自分のためではなくソフィアちゃんのために、白ちゃんに意見するメラゾフィスさん。

 けれど声を掛けられた白ちゃんは、これまで一緒に過ごしてきた経験から、内心テンパっているのが予想できるので、背を伸ばしてメラゾフィスさんの肩を叩く。

 

 白ちゃんから私に視線が移ったメラゾフィスに、ソフィアちゃんから念話が飛んできて窘められる。

 

『メラゾフィス、これも必要な事よ。かまわないわ』

 

 そう言って死んだ目で黙々と、毒入りステーキを食べ続けるソフィアちゃん。

 その姿に何も言えなくなったのか、メラゾフィス自身も諦めて毒々しいお肉を食べ始めた。

 しかしその顔には処理しきれない感情が煮詰まって、暗くて険しい表情をしていた。

 

「ほい、コケちゃん」

 

 白ちゃんは焼き上げた普通のお肉をパンと野菜で挟むと、それを私とアリエルさんに手渡してくれた。

 私は焼き立てで熱を持ったそれを両手で受け取った。

 

「ありがとう、白ちゃん」

 

 軽く微笑んで感謝を告げると、白ちゃんも笑い返してくれた。

 アリエルさんにも同じ様にパンを配ってお礼を言われるけれど、白ちゃんはそれを素っ気なくスルーして、自分の分のパンに齧りついた。

 ……うーん、この対応でも白ちゃんとしてはマシな方だし、複雑な関係だから口を挟みづらい。

 

 いまだに蟠りが残る白ちゃんとアリエルさんの関係性だけど、下手に掻き回して大惨事になるよりは時間が解決させてくれるのを待つほうがいいと思った。

 もし2人が喧嘩でもした場合、被害が以前の比では済まされず、どさくさに紛れて今度こそお互いに確実に殺そうと動きかねない危うさが感じられたから。

 

 そんなどこかギスギスした空気が流れる息が詰まるような休息の時間にて、私は気になっていた話を聞くためにアリエルさんに質問をした。

 

「ねえアリエルさん、ポティマスの正体、その真実を教えてくれませんか」

「クズ野郎」

「そういうのではなく」

「……むぅぅ」

 

 一瞬で嫌悪感がありありと浮かんだ表情になったアリエルさんが反射的に答えるけれど、そういったはぐらかした答えが知りたい訳ではないので再度質問するけれど、アリエルさんはどう答えるべきか、迷っているような思案顔だった。

 

「はぁ、みんな気になっているみたいだし、話しておくべき事なんだけど……」

 

 盛大に溜息を吐いたアリエルさんは、一拍おいてから告げた。

 

「ただし、これを聞いたら後戻りは出来ない。あいつはただの悪党なんかじゃないし、私が言うのもなんだけど世界の敵みたいな奴だ。ポティマスの正体を全部知ったら、もう平穏に暮らすことは出来なくなる。……イヤ、出来るけれど、きっとしこりとなって心の奥底に残り続けると思う。

 当たり障りの無いことは前にも言ったけれど、聞きたいのはそんなのじゃ無いでしょ? それでも全部を知りたいなら、その覚悟を決めてから聞いて欲しい。特にソフィアちゃんとメラゾフィスくんにはまだ引き返せるチャンスがある、それを充分に考えてから決めて。

 ……私はちょっと席を外すから」

 

 そう言ってパンを持ったまま、森の中へ消えていくアリエルさん。

 その背中には深い哀愁と怒りが滲んでいて、彼女にとっても簡単に説明できないような重さが感じられた。

 

 残された私たち4人は顔を見合わせると、輪になって話し始めた。

 

『ポティマスって、あいつのことよね? あの機械の身体以上にヤバイ秘密があるの?』

「そうだね、まず前提知識として、私が禁忌のレベルが10になったときに知った事を教えるよ」

 

 私は禁忌の情報の中から、機械技術とこの世界の成り立ちに関係する話を抜粋して2人に説明した。

 

 禁忌で知った内容は大雑把で最低限必要な情報しか載っていなかったけれど、それでもヒントとなる出来事と原因は説明されていたから。

 

 この世界は遥か昔に、地球よりも進んだ技術で発展していた世界だったこと。

 そのときに開発された技術で人々は取り返しのつかないことをし、崩壊への道を辿ったこと。

 その技術が星を破壊して滅びに向かっていた時、この星にいた女神を生贄にして今の世界に繋がり、こんなステータスなどがある世界が出来上がったこと。

 

 そして、この星を滅ぼした技術に繋がる機械技術は徹底的に排除されて姿を消していったのだろうと、私自身の解釈も含めながら説明をしていった。

 そんな異端とも言える機械技術を今でも手にしているエルフについては、様々な解釈が出来そうだけれど、確かに言えることは一つだった。

 

「あれは、本来あってはならないモノなのは確実だと思う」

「……あーあ、そこまで喋っちゃうと私が黙っていても意味無いじゃん」

 

 振り返ると、頭を掻き毟りながら複雑そうな表情で私たちを見つめるアリエルさんの姿があった。

 

「改めて聞くけど、本当にいいんだね? 聞いたら戻れないよ?」

 

 最後の念押しで警告をするけど、私たちの意思は纏まっていた。

 

「教えて下さい」

『私からもお願いするわ』

「……私からもお願いいたします」

「……」

 

 私たちの顔を見渡して覚悟のほどを感じ取ったアリエルさんは、一度深く目を閉じると語りだした。

 

「ポティマス・ハァイフェナス、それがあいつの名前。でもってエルフの族長……まずは基本的なことから説明しようか」

 

 そして、まず最初に普遍的なエルフについての基礎知識から始めると、次に機械技術について詳しくないメラゾフィスさんのために機械とはなにかを簡単に説明して、それをエルフは唯一有して維持していることを説明した。

 そしてその技術を利用して、この世界の裏で暗躍しているのがエルフで、その技術はこの星を滅ぼしたものと同じ技術で成り立っていることを語ったのであった。

 

「……と言ったところさ。つまりこの世界は遥か昔、地球より発展していて、けど過ちを犯し滅びの道を辿った。そのときに技術は失われ、エルフ以外は衰退の一途を辿った。けれど技術を維持したエルフは今でも星を滅ぼした技術を持っていて、今もなお星に負担をかける禁忌を握っているって訳さ」

 

 肩をすくめて脱力するアリエルさんは、自嘲のような笑みを浮かべる。

 そんな彼女に私は、核心に迫る質問をした。

 

「その技術とポティマス、その関係性はもしかして……」

 

 その質問に笑みを深くすると、前髪をかき上げながら凄絶な笑みを浮かべた。

 

「……その技術を生み出したのが、ポティマス・ハァイフェナス。あいつが全ての元凶だよ」

 

 瞳の奥にドロドロとした宿怨を湛えたアリエルさんが、この世界の真実の一端をここに語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『スキルを取るぞー!』

『ここからここまで、全部だ! 全部のスキルちょうだい!』

『イヤ、全部はムリだって』

『魔法はコケちゃんからコピったから、余裕があるね』

『ここにポイントがあるじゃろ? それを、こうじゃ!』

『うーん、この』

『スキルポイントは犠牲になったのだ……犠牲の犠牲にな』

『どうすんのさ、この微妙なスキルの数々』

『知らん!』

『これもうわかんねぇな』

『駄目だこいつら、早くなんとかしないと……』

 

 ︙




コケちゃんからみんなへ
白     友達、親愛
魔王    畏敬、同情
ソフィア  仲間、哀れみ
メラ    敬意、心配
人形蜘蛛  愛情、可愛い
コケダマ  慈愛、守護らねば

ポ     殺
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